ただ一人の君に贈る
スコール誕生日記念(2017)


『23日って休み?』


 弟と同じく、家族同然に思っている少年から、そんなメールが届いたのは、一週間前のこと。
前置きもなく、タイトルなしのメールで届けられたその意図を、レオンは直ぐに理解した。

 8月23日────それは、レオンが溺愛している弟の誕生日である。
年に一度の大切な日だから、その日は毎年、誕生日ケーキとプレゼントを用意して、細やかながら心からの誕生祝を催していた。
最近のスコールはそれを恥ずかしがっているようだが、プレゼントを渡した時はいつも瞳を輝かせているので、どうやら嫌ではないらしい。
ならば今年も遠慮する必要はあるまいと、来る日に向けて、準備は怠る訳にはいかない。

 しかし、レオンはSEEDである。
気持ちでは家族を優先した区とも、任務は待ってくれない。
休暇の申請も中々タイミングが難しいもので、上手く都合を合わせられない事は、儘ある話であった。

 今年のレオンは、残念ながら、23日に休みを取る事が出来なかった。
前々日からドールでの警護任務が入っており、23日の正午までは解放されない。
仕方がないので、当日中に帰れるだけでも良しとするとして───問題は、準備の方だ。


『23日は、午前中は仕事だ。トラブルがなければ、ではあるが、午後には帰れる。夕飯は俺が作るよ』
『レオンのご飯!久しぶりっス!ケーキは俺が買いに行こうか?』
『いや、それも俺が買って帰るよ。いつものバラム駅前のケーキ屋で良いか?』
『あそこのケーキ、美味しいから好き。そうそう、エル姉から俺の家の方に、スコール宛ての小包が届いてるんだけど、これってやっぱりスコールの誕生日の奴かな?』
『多分そうだな。エルから先にメールは届いてないか?』
『あっ、そう言えば来てた。完全に忘れてた〜。んじゃ、スコールのお祝いする時に、俺が持って行っとくね』
『宜しく頼む。俺も出来るだけ早く帰れるようにするよ』


 それまでスコールを宜しく、と追記すると、任せとけ!と元気の良い返事があった。
これが、一週間前の事。

 任務の為にドールの地へと来たレオンであったが、任務自体は比較的緩いものであった。
8月の下旬に行われると言うドール市長選挙に向け、現市長と立候補者があちこちで街頭演説を行い、その警備の補充人員として喚ばれたと言うもの。
重要度が高かろうと低かろうと、任務は任務であるので、手を抜くつもりはないが、常に過激派テロリストが潜んでいる可能性があるガルバディアや、戦争中であるが故に緊張が常に付きまとうイヴァリースでの任務、狂暴な魔物と対峙する討伐任務に比べれば、平和なものである。

 お陰で任務による拘束時間も長くはなく、休息時間も十分に取る事が出来る。
SEED班の全体指揮を任されている為、他のメンバーに比べると自由な時間は少ないが、ガルバディアでの任務を思えばのんびりとしたものだ。

 その自由時間を使って、レオンはドールの街を散策していた。
バラムと同じく海沿いに建つドールの街は、港であればレオンも慣れ親しんだ潮の匂いがする。
湾岸付近には宿泊施設も多く立ち並んでおり、観光客向けの店が多く展開していた。
こうした点は、バラムと少々似ているかも知れない。
しかし街の中心へと移動すると、此方はバラムの街とは違い、工業的な鉄の匂いと、デリングシティと似たアンダーグラウンドの気配が漂っていた。
その気配の下となるのは、ドールの街の中心部に据えられた巨大なカジノと、その支部のようにあちこちに点在するカジノバーである。
カジノが発展している区域程、富裕層が多く住んでいるとされているが、其処でも貧富の差は激しい。
現在の市長は芸術文化の発展にも力を入れていると言われており、実際にドール出身の芸術家は少なくはないが、それも当たればと言うもの。
一攫千金を夢見るような気持ちで、カジノに、或いは芸術に身を窶す者は少なくなかった。

 ドールの街全体の大きさは、デリングシティと同じ程度になる。
デリングシティ程の大きなビルはないが、代わりにドールには、大きな電波塔が建てられていた。
この電波塔は、エスタが開国し、宇宙空間からのデータ受送信技術が国際的に利用可能になるまでは、世界で最も大きな電波塔として名を馳せていた。
電波技術で言えば、現在ではローカル基地局としての役目しかなくなってしまったが、それでもカバー範囲はガルバディア大陸全域と言う広大さを持っており、現在でもガルバディア大陸で放送されているローカル番組、ラジオ番組は、この電波塔から発信されている。
老朽化が激しい為、毎日のように何処かで修理工事が行われているそうだが、現役を保っているのは大したものだろう。

 その電波塔を背にして、レオンは街を歩いていた。
石畳の商店街を、何処に行くと決める事もなく、任務に戻る時間だけを気にしながら、ふらふらと進む。
蒼の瞳は忙しなく動き、道行く先に佇む店看板を見ては、傍らのウィンドウに飾られた商品を見た。
何度かそれで立ち止まったレオンであったが、どうにもしっくりと来ない感覚に、早々にその場を立ち去る───レオンはそんな事を繰り返している。


(中々これと言うものが見付からないな)


 思いながら、通りがかった時計屋のウィンドウの前で足を止める。
ジュエリーショップも兼ねているようで、時計の他にも貴金属のアクセサリーが並べられていた。
掲示されている値段はゼロが6つと、一般人の目玉が飛び出るような数字であったが、レオンは特に気にしていない。
値段は二の次、気になるのは見ているものが弟に似合うかどうかと言う事だ。


(…デザインは悪くはないが、光の反射が強いな。純銀を使っているのなら、これ位ではあるんだろうが…)


 脳裏に浮かぶスコールの顔と、目の前にある銀色の時計を見る。
シルバーと言えばスコールの好きな類だが、あまりにもギラギラと主張の激しいものは、彼の好みとは外れるだろう。
せめてもう少し大人しめの方が良い、とレオンは店を後にした。


(そもそも、腕時計が必要かどうか。最近の子供は、携帯電話で時間を確認するのも多いようだし、不要と言えば不要か。学生なら、もっと学生らしいデザインのものが安く売られている店もあるし、そっちに行った方が無難そうだな)


 立場や場面と言うものに合わせ、形も値段も様々に使い分けなければならない大人とは違う。
何より、時計のように身に着けるものであれば、本人が遠慮なく使えるようなデザインと金額が良いだろう。
決して贅沢な暮らしをしていない、望むでもない生活をしてきた自覚があるレオンは、それに準じて成長したスコールも少なからず同じ感覚だろうと判っていた。
であれば、あの時計屋の代物は、スコールの腕には少々重く感じられるかも知れない。

 スコールは、気に入ったものは大事に使う。
その中でも特に気に入ったものになると、逆に大事にし過ぎて使えなくなる。
子供の頃は兄姉から貰ったプレゼントは肌身離さず持っていたのだが、11歳の頃だったか、姉が誕生日プレゼントに作ってくれたイラスト入りのマグカップを落として割って以来、大事なものは壊さないように仕舞って置くようになった。
手作りの物は勿論、少々値段の張る物となると尚更で、勿体なくて使えない、汚したくないから箱からも出さない、と言う傾向が増えた。
そんなスコールに、大事にしてくれるのは嬉しいけど、使ってくれるともっと嬉しいのにな、と妹ともに苦笑したのは、まだ記憶に褪せていない。

 プレゼントとして贈ったもので、スコールを困らせるのは本意ではない。
彼が喜んで受け取ってくれそうなものを、レオンはずっと探していた。


(……案外、見付からないものだな……)


 ふう、とレオンは溜息を吐いて、今まで歩いて来た道を振り返った。
電波塔へと向かって伸びる道に佇む建物は、半分ほどが店舗で、もう半分が民家だ。
中には、民家兼店舗であるものも多い。
デリングシティの大通り程ではないが、ドールの中心地では比較的店が多く並ぶエリアだったのだが、此処でもレオンがピンと来るものは見付からなかった。


(エルやティーダもそうだが、物欲がないからな。あるとすれば、やっぱりカードかアクセだと思うが……)


 スコールが子供の頃は、手作りのものをプレゼントにしている事が多かった。
生活に置いて金銭的な余裕が少なかったのもあるが、今よりも時間があった事や、クレイマー夫妻の下、孤児院にいた時から、子供達へのプレゼントの多くが夫妻の手作りであった事も理由の一旦と言えるだろう。
手作りの品と言うのは、この世でたった一つの代物だ。
それを渡した時、相手が喜んでくれたら、こんなにも嬉しい事はない。
スコールが物心がついて間もない頃、エルオーネと一緒に作った手作りのぬいぐるみは、大層彼の心を射止めたようで、スコールは肌身離さず持ち歩いていた時期もあった。
レオンはそんな弟の姿を見ているだけで、幸せを感じていたものである。

 しかし、今は昔と違い、生活に余裕があり、時間には余裕がない。
贈り物を手作りで、と言う拘りがある訳ではなかったので───昔は少し拘っていたような気もするが───、既製品の中から相手が喜んでくれそうなものを探すようになった。
しかし、これがまた難しい。

 レオンは、道を変えて、改めて探してみる事にした。
時間を確認すると、次の交代時間までは、まだ二時間の猶予がある。
もう少し歩き回る暇はあるだろう、と適当に小道を選んで場所を変えようとした時、


「おっ、レオンじゃん。こんなトコにいるの珍しいな」


 聞き覚えのある声に振り返ると、立っていたのはザックスとクラウドだ。
二人は手に揚げ物と思しき食べ物を持っており、レオンと同じく街を散策していた所だった。


「お前達か。買い物か何かか?」
「まあな。お土産探しと、適当に買い食い」
「美味いぞ。其処の角で売っていた」
「レオンも食うか?」
「いや、今は遠慮しておく。探し物をしている所でな」


 腹が減っている訳でもないし、時間が惜しい、と言うレオンに、ザックスは口の中のものを飲み込んで、


「探し物?何か落とし物でもしたのか?」
「いや。もう直ぐ、弟の誕生日だから、プレゼントに出来るものはないかと思って見ていたんだ」
「おお、めでたいな。そうか、誕生日ねえ」


 レオンが家族を愛して止まない事は、同僚の間ではよく知られている事だ。
その弟の誕生日とあれば、プレゼント選びにも気合が入ると言うものだろう。


「弟の方なら、確か高校生だよな。それ位の年なら、やっぱり流行り物とか?」
「ティーダならそれも有りなんだが、スコールだからな。あまりその手の物には興味がないんだ」
「あら、そうなの」


 若者の間で飛び交う流行り廃りは、スコールも全く気にならない訳ではないようだが、かと言ってアンテナを立てている訳でもない。
ティーダの方がその手の話題に詳しい為、自分の周りで何が流行っているかは知っているようだが、スコール自身がそれに手を出す事は滅多になかった。
話題を自分から追う方でもないので、基本的には流行物の話は傍観している程度である。

 揚げ物を食べ切ったクラウドが、包装用の紙をくしゃくしゃに握り潰して、道端のゴミ箱へと放る。
紙玉はゴミ箱の縁に当たって跳ね、上手く中へと吸い込まれて行った。
それを確認せずに、クラウドはレオンを見上げて言う。


「ゲームはどうだ。新作ラッシュだから、気になる物が一つ位はありそうだけど」
「それも、ティーダだったら考えたんだが」
「あんたの弟もやるだろ?」
「まあな。でも、うちにあるゲーム機も、基本的にはティーダが来た時にしか使っていないから」


 レオンの家には確かにゲーム機が置いてあり、それは元々ティーダの物だった。
一人でやってもつまらないから、と言う理由で、ティーダがレオンハート兄弟の家へと持ち込み、そのまま置かれているのである。
スコールも自分のゲームデータが入っているので、時々触っているが、夢中になる程のゲーマーではなかった。
今季に出るゲームについても、大して惹かれるものはないらしい。


「スコールが進んで遊ぶものと言ったら、カードゲームか」
「ああ。トリプル・トライアドとか、好きなんだってな。じゃあカードパックとかは?」
「今出ているカードはコンプリートしたと言っていたから、次の拡張が出るまでは要らないだろうな」


 仮に拡張が近い内にあったとしても、レオンはこれをプレゼントにとは思わなかっただろう。
スコールはお気に入りのカードゲームに関しては、カードの収集も楽しみにしているらしく、出来れば自力で揃えたいと思っている。
限定生産で手に入れ損なったレアカードでもあれば、仕事で作った伝手を頼ってどうにか奮闘する事も考えられたが、今は其処までして手に入れたいと思う程のカードはあるまい。


「うーん……なんて言うか、お前ん家って、皆物欲なさそうだよなあ」
「確かに、そうだな。あれが欲しいこれが欲しいって言う事は、余り言われた事がない。スコールなんかは特に、生活に不要なものなら、別に必要ないと思っている所もある。例外があるとすれば、それこそカードか、シルバーアクセ位だな」
「アクセなら良い奴が探せばあるんじゃないか。ドールはジュエリー類の店も多いからな」
「俺もそれを当てにしていた所があったんだが、デザインが中々。この辺りの富裕層向けの物が多くて、学生向けって言うのは少ないようなんだ」


 そう言ったレオンの脳裏には、つい先程、足を止めて見ていた銀色の腕時計が浮かんでいた。
あれがもう少しシンプルなデザインなら、光の反射が抑えられていれば、スコールの好みに合ったかも知れないのに。
惜しかったな、とレオンは小さく溜息を零す。

 うーん、レオンとザックスの唸る声が重なる。
その横で、クラウドが脇道に置かれている菓子店の看板を見付け、


「食べ物は駄目なのか」
「食べ物?」
「少し珍しい菓子でも、なんでも。邪魔にもならないし」
「……うーん……」


 提案してくれる同僚の言葉は嬉しいが、レオンの表情は鈍いものだった。

 食べ物に執着のある人物であれば、地方毎、国毎にしか売られていない菓子も良いだろう。
残る事が前提となる身に着ける物や、使い心地に拘りの出そうな物よりも、消費される事が前提として贈るので、クラウドの言う通り、後々の邪魔になる事もない。

 しかし、此処でもまた、スコールの趣向と言うものが引っ掛かる。
子供の頃はチョコレートやケーキと言った甘い菓子が好きだったスコールだが、最近は殊更に甘い物は避けるようになった。
成長に伴い、味覚が変化して来たのだろう。
菓子を渡されて喜ぶような事もないので、やはりこの線は難しい。

 反応の鈍いレオンに、クラウドは駄目か、と呟く。
悪いな、と詫びるレオンに、クラウドは気にしていないと首を横に振った。


「最近、スコールが何か欲しそうにしてたとかってないのか?」
「見ている限りは、ないな。一応、聞いてみたりもしてるんだが、特にこれと言ったものは浮かばないようだし」


 プレゼントを探し始めてから、ピンと来るものが見付からず、本人に欲しいものはないかと尋ねた事もある。
しかし、スコールは「今は別に……」と答えるのみで、何かを我慢しようとしている様子もなかった。
強いて上げるのであれば、毎月買っている雑誌であったり、日々消耗する日用品であったりと言った具合で、とてもではないがプレゼントとするには足りない気がした。

 手詰まりとなったレオンの表情に、ザックスも同調したようで、引き出しを穿るように眉間に皺を寄せて頭を掻いている。
その傍らに佇んでいるクラウドも、この手の話題に自分は鈍いと自覚しつつ、辺りを見回しては目ぼしそうな物を探してくれている。
当事者でもないのに此処まで一緒に悩んでくれる友人に、レオンは申し訳なさと同時に、有難いものだな、と感じていた。


「悩むもんだなあ。今までもこんな感じで考えてたのか?」
「そうだな、最近はこう言う事も多いか。子供の頃は、菓子が好きだったし、ぬいぐるみとかキーホルダーでスコールの好きな形を手作りして渡したりしていたんだが、流石にいつまでもそう言う物で喜んでくれる程、子供ではなくなったから」
「嬉しいやら寂しいやらって?」
「まあな」


 溺愛している弟の成長は、兄として純粋に嬉しい。
彼が生まれた日の事を、レオンは今でも覚えている。
あの日からずっと、小さな手を引いて歩いていた幼子は、いつの間にかレオンの手がなくても前へと進めるようになった。
一時でも家族と離れ離れになる事を嫌がっていた日が嘘のように、家事を一人で熟し、一人暮らし同然の生活でも問題なく過ごせている。
時々干渉を嫌って冷たい態度を取られるのは、思春期なのだから仕方のない。
それ位に元気に育ってくれたのだと思えば、レオンにとって幸せな事であった。

 ───が、それはそれとして、目の前のレオンの悩みである。


「…確かさ、レオンの弟って、いつも家の事とか全部やってるんだろ?」
「ああ。エルも留学でトラビアガーデンにいるから、実家にいるのはスコールだけだし」
「家事とか代わりにやるのは?ほら、お母さんの誕生日だから今日はゆっくりしてて〜みたいなさ」
「出来る事ならそうしてやりたいが、今回の任務の所為で、当日は午後にならないと帰れないんだ」
「……あらま。ご愁傷様」
「全くだ。夕飯は俺が代わりに作ろうと思っているけどな。ケーキも買って帰らないと」
「ケーキか。ザックス、俺も食いたい」
「帰ったら俺達もケーキ屋寄って帰るかぁ」


 久しぶりに甘い物が食べたい、と言う親友に、ザックスも乗る形で同意した。


「ケーキ、ケーキかあ。小さい子供なら、それだけでも喜ぶだろうけど、高校生じゃそう言う訳にもいかないよな」
「まあな。甘いものが好きなら、それも有ったかも知れないけど」


 ザックスは改めて考え始め、腕を組んでしばらく唸った後、


「弟が欲しがってる物はないんだよな?」
「特には」
「じゃあ、いっその事、ただの記念品ってのは?」
「……?」


 ザックスの提案に、どういう事だ、とレオンは首を傾げる。


「何も欲しがってる物がないなら、それに拘らなくても良いんじゃないかと思ってさ。実用性とかナシで。例えば、写真立てに何か記念になりそうな写真とか絵とか入れて贈る、みたいな」
「ザックスが去年のエアリスの誕生日にやった奴だな」
「だってさ〜、何か欲しい物ないか?って聞いたら、なんでも良いよって言うんだよ。何をくれるのか楽しみにしてる、って言われたから、色々考えてさ……」


 恋人の可愛らしい無茶ぶりに、ザックスは一所懸命に考えたのだろう。
苦労した表情で溜息を吐きつつも、愚痴を零す表情は何処か楽しそうだ。

 その傍らで、レオンは成程、と考えていた。
ついつい実用性や本人の好みを重視してプレゼントを考えていたが、確かにそれに縛られる必要もないのだ。
思えば、幼い頃に弟に渡したプレゼントは、ぬいぐるみやキーホルダー等、実用性とは全く関係のないものばかりである。
また、幼い頃にスコールが兄姉の誕生日に用意したプレゼントと言うのも、肩叩き券と言ったものもあれば、海辺で拾った綺麗な貝殻、公園で見付けた綺麗な石と言ったものもあり、それこそ“記念品”と言って良さそうな物が多い。
そんなスコールからのプレゼントは、今もレオンの宝物として、ひっそりと残してある物も多い。
幼かったスコール自身が忘れてしまっているとしても、その時にプレゼントを貰った思い出は、レオンの記憶から褪せる事はなかった。


「ふむ。中々参考になった、ありがとう」
「お、そう?良かった良かった」
「それじゃあ、俺は行く。二人とも、交代の時間には遅れないようにしろよ」
「ん」
「りょうかーい」


 ついつい買い物や遊びに夢中になっては、遅刻ギリギリに交代時間に滑り込んでくる二人に釘を差し、レオンは踵を返した。
何か興味のそそる物を見付けたのか、あそこ行こうぜ、と駆けていく二人の声を背中に聞きつつ、レオンは通り過ぎて来た道を改めて戻って行った。