メモリーズ


 甘い物は、小さな子供達にとって、何よりのご馳走だった。

 生活はお世辞にも豊かではない。
着るものは年上からのお古が順番に回って来て、年下の子供が新しい服を着れる事はない。
年上の子供達だって、新しい服なんて滅多に貰えるものではなくて、靴下に穴が開けば繕って、スカートやズボンの裾が解れれば繕って、シャツが破れればワッペンで補修した。
靴だって同じだ。
ぼろぼろに履き潰して擦り減った靴を、四苦八苦してママ先生とシド先生が直してくれる。
二人が夜なべして靴を直してくれている事を、子供達はこっそり見ていて、知っていた。
だから皆、本当は新しい靴が欲しくても、新しい服が欲しくても、我慢した。
直してくれた服や靴は、ママ先生とシド先生の愛情が一杯に詰まった宝物。
だから、我慢する事は苦しくなかった。

 食べ物だって同じ事だ。
石の家の周りには、海と小さな花畑があって、ママ先生は少しだけ野菜も作っていた。
けれど、土地は痩せていたから、あまり良い作物は採れなくて、週に一度、船で商人たちがやって来る事がなければ、石の家は孤児院としても機能出来ていなかっただろう。
商船は石の家に住む子供達にとっては、なくてはならない生命線で、その商戦から買える物も決して多くはなかった。
それでも、ママ先生とシド先生が、頭を捻って出来るだけ沢山の食べ物を買って、出来るだけ長く保存出来るように、そして美味しい料理が作れるように試行錯誤していた事も、子供達は知っていた。
だから、毎晩の食べ物が同じメニューが繰り返されても、冬になると少しずつメニューの品数が減っていても、我慢した。
夜中にお腹が空いて目が覚めて、お腹が空いたとママ先生に泣いたら、ママ先生とシド先生は、自分の食べる分を子供達に分けてくれる。
それを食べるとお腹は一杯になるけれど、食べる分がなくなったママ先生とシド先生が我慢しているのを見るのは、自分がお腹が空くよりも、もっともっと辛かった。
だから子供達は、精一杯我慢する事を覚えて、そんな年下の子供達を見た年上の子供達は、自分の分のご飯を半分あげる。
そんな年上達を見て、年下の子供達は、次のご飯の時に、年上の子供達に、自分のご飯を半分あげていた。

 裕福とは言い難い環境は、子供達に我慢を強いる。
同時に、子供達は、助け合うと言う心を育ませた。

 そんな子供達だけれど、譲れないもの、と言うものは、やはり存在する。
それが甘くて美味しいお菓子だ。
砂糖はいつも買える量が限られていて、だから作れるお菓子の量も決まっている。
砂糖を使う料理はお菓子だけではなくて、日々の食事にも使うから、次々とお菓子を作る訳には行かない。
でも、甘い甘いお菓子は、小さな子供達にとって、誘惑の塊だ。
ママ先生から「皆それぞれ、ちゃんと用意してあるからね」と言われても、甘くて美味しいお菓子は、一つだけでは物足りない。
あっと言う間にお菓子を食べ終わった子が、隣でまだ食べている子のお菓子を見て、もっと食べたい、と思うのも無理はない。
わがままは駄目だと判っていても、子供にとって、お菓子の魅力に勝るものは早々ない。
そして、お菓子争奪戦が始まるのだ。

 毎回のようにお菓子争奪戦が始まるものだから、ママ先生は約束を作って、破ったらもうお菓子は作りません、と言った。
ケンカはダメ、他の子が食べているお菓子を取ったらダメ。
当たり前の事だけれど、これが中々、子供達には難しい。
それでも、ママ先生が作ってくれる美味しいお菓子を食べたいから、子供達は精一杯我慢して、美味しいお菓子が食べられるのを心待ちにしていた。

 美味しいお菓子が食べられる日は、月に何度と決まっていた。
その時にママ先生が作ってくれるものは、クッキーやゼリーといったもの。
けれど、時々豪華なケーキも作られる。
豪華と言っても、デコレーションは派手なものではなくて、綺麗に塗られた白い生クリームの上に、ツノを立てた生クリームや、小さな苺が綺麗に並べられて、チョコレートプレートが一枚乗ったシンプルなもの。
それでも、石の家の子供達にとっては、たまにしか食べられない豪華なお菓子だった。
それが食べられるのは、勿論、石の家に住む子供達の誕生日の日だった。

 だから子供達は、毎日が誕生日だったら良いのに、と思っていた。
皆で甘くて美味しいケーキを囲んで、家族同然の子供達が歌ってくれるバースデーソングを聞きながら。

 ────けれどその記憶は、いつの間にか埋もれて薄れ、取り出せなくなって、置いてけぼりにしてしまった場所さえも、子供達は判らなくなっていた。





「あ、起きた」


 目が覚めた───と自覚する前に、聞こえて来た声。
天井を見詰めていたスコールは、それによって己の意識が眠りから覚醒へと切り替わった事を自覚した。

 真っ直ぐに天井を見詰めていた視線をずらすと、黒髪の少女がベッドの端に頬杖をついて、此方を覗き込んでいる。
蒼灰色の瞳と、黒色瑪瑙の瞳がかっちりと交じり合って、瑪瑙はにこりと笑う。


「おハロー、スコール。朝だよ」
「……ああ」


 いつの間にか、すっかり慣れてしまったリノア特有の挨拶に、スコールもいつものように短い返事を返す。

 心なしか頭痛のする頭を、ゆっくりと起こす。
くらくらと眩暈のようなものに襲われて、傷痕の残る額に手を当てて治まるのを待っていると、下からひょっこり覗き込んでくる少女の顔。


「お疲れ?大丈夫?」
「…問題ない」


 そう返事を返す頃には、頭痛も眩暈も治まっていた。
ふぅ、と息を吐いて顔を上げれば、ほっとした表情のリノアがいる。


「指揮官様は大変だね。昨日も遅くまで仕事してたんでしょ」
「やらなければならない事をやっていただけだ。……正直、面倒だけど」


 魔女戦争が終結した今でも、スコールはガーデンの指揮官に就任したままになっている。
本音を言えば、自分が人を導いて蹴るような人間とは思っていないスコールとしては、早く後任を探して任せてしまいたいのだが、学園長のシドがそれに積極的ではないし、自分から面倒を被ろうなどと言う奇特な者でもいない限り、スコールの望みはもう暫く叶えられそうにない。
更にキスティスに言わせれば、スコール以上、或いはスコールと同等の能力のある人材は、そう簡単には存在しないと言う。
バラムガーデンやSeeDの頭として代表を持つには、“伝説のSeeD”の威光は然り、スコール・レオンハートはまだまだバラムガーデン更には世界に取って必要なものとされているのだ。

 ───と、スコールの内々の望みと、各国の事情云々はさて置いておくとして。
現実問題として、スコールは実に多忙な日々を送っている。
“月の涙”による魔物の凶暴化や生態系の崩壊、それに伴うSeeDへの依頼の増加、そして浮き彫りになる人員の不足。
これらを全て補う為に、キスティスやゼル、セルフィと言った面々は勿論、指揮官となったスコールも度々現場へ出向く。
そうして不在にしている間、指揮官の認印を待つ書類は山積みになって行く為、スコールは任務地から帰った後も、碌に休む暇がない。

 昨日もそれは同じ事で、スコールはエスタでエルノーイルやモルボル等の大型魔物を駆逐した後、ラグナロクでバラムガーデンに帰還するなり、報告書のまとめと、溜まった書類に目を通しと、正に忙殺と言う言葉が見合う労働振りであった。
そして、明け方になって集中力を欠いている自分に気付き、仮眠のつもりでベッドに倒れ込んで、今の今まで熟睡していたのである。


「……リノア。悪いが、机の上の書類、取ってくれ」


 昨夜の仕事がまだ残っている事を思い出して、スコールは言った。
低血圧の所為でベッドから降りる気力はなかったが、此処でも目を通す位は出来るだろう。

 そう思ったのだが、リノアからは思いも寄らぬ言葉が返って来た。


「書類なら、ないよ」
「……何?」


 リノアの言葉に、スコールは顔を上げる。
ベッドの傍に座る彼女を見て、それから机を見遣る。
机には、立てかけられたガンブレードケースと、月刊武器、セルフィが置いて行った古いティンバー・マニアックスと言ったものしか置かれていない。
昨夜、スコールが寝る直前まで向き合っていた紙束の山は、忽然と消えていた。

 思わず目を擦る。
それでも、ないものは其処には存在しておらず、スコールは青灰色の瞳を見開いた。


「……!」


 慌ててベッドを飛び下りて、机に駆け寄る。
綺麗に整頓された机の上と、周囲の本棚やチェストまで開けて探すが、紙束の一部と思しき一枚さえも見付からない。

 まずい、とスコールは思った。
書類の山の殆どは報告書だが、来月のガーデン経営の予算に関するものも混じっているし、報告書の中にも物によっては個人情報が記されている。
紛失は勿論の事、若しも盗難に遭ったとなれば、大問題だ。
それも、指揮官たるスコールの自室で。

 蒼白になるスコールを、リノアが覗き込む。


「見付からないの?」
「………」
「じゃあ、今日はお休みだね、スコール」
「……は?」


 聞こえた言葉に、スコールは一瞬我が耳を疑った。
今何て言った、と振り返ると、その時には彼女の両腕はスコールの腕を捉まえていて、


「久しぶりの休みだねー!よっし、今日は一杯羽根伸ばそう!」
「な……ちょっと待て、あんた、何を馬鹿な事を」
「行くぞ、スコールっ!」


 高らかに右腕を挙げて宣言するなり、リノアはスコールの腕を引いて歩き出した。
ぐいぐいと男を引っ張る少女の腕は、細い見た目に反して、確りとしていて力強い。
だが、スコールが彼女の腕を振り払えなかったのは、それだけが理由ではなかった。

 何日振りかに見る、嬉しそうな彼女の表情。
それが余りにも眩しく見えて、振り払おうと言う考えさえも、忘れていた。





 魔女戦争の後、バラムガーデンは元の場所へと戻り、島国バラムで以前と同じように機能している。
替わった事と言えば、シド・クレイマー学園長に代わり、スコールがSeeD指揮官として就任している事ぐらい───と言うと語弊があるが、周囲からの認識は概ねそんなものだろう。
マスター派教師が消えた事により、教師の不足や、他にも色々な懸念・不安・トラブルはあるが、それは挙げて行けばキリがないので、適当な所でシャットダウンした方が良い。

 リノアがバラムガーデンに滞在している事は、魔女戦争の折からの事であったので、気にする者は少ない。
彼女が現代唯一の魔女である事を知るのは、彼女と共に旅をしたスコール達を除けば、クレイマー夫妻と大国エスタの大統領とその補佐官の一部、そして彼女の父親であるカーウェイ大佐のみ。
ガーデンで生活する一般の生徒達にしてみれば、リノアはスコール達の正式な客人と言う扱いで収まっていた。
ついでに、スコールとリノアの仲もそれなりに知られている───本人達は隠しているつもりのようだが、スコールはその手の話に鈍いし、リノアの方は色々と判り易いので───為、無用な口出しはするまいと言う雰囲気があった。
そもそも、バラムガーデンは校風からして生徒の自主性を重んじる傾向があり、バラムの街から生徒の家族が訊ねて来る事も頻繁であった。
リノアはガーデンに住む生徒の殆どと同じ年頃であるし、彼女自身の明るさや裏表のない性格は、直ぐに生徒達に溶け込む事が出来た。
だから、ガーデンの関係者ではないリノアがガーデンで自由に行動していても、口煩く言う者はいない。

 スコールを自室から連れ出したリノアは、ガーデン二階にあるテラスへと向かった。
以前は幼年クラスの事故防止の為、分厚く固い扉で封鎖されていたテラスだったが、ガーデンが要塞としての機能で動き始めた頃から、扉は解放された。
海の上を飛行している時、テラスからは空を渡る海鳥や、大海を泳ぐ大型海洋生物を望む事が出来、生徒達の憩いの場になっていた。
ガーデンがバラム島に戻ってからも、扉は(ガルバディアガーデンとの抗争の際、侵入した軍の兵器によって破壊された事もあり)開かれたままになっており、今も生徒達に利用されている。

 うきうきと、判り易く楽しそうな足取りで進むリノア。
そんな彼女に手を引かれて、スコールは眉間に深い皺を刻み、静かな廊下で声を潜めてリノアに言った。


「リノア、手を離せ」
「どうして?良いじゃん、誰も見てないし」
「…そう言う問題じゃない」


 ガーデン二階の通路には、スコールとリノアしかいない。
リノアの言う通り、今の自分達を見る者は誰もいない。
それはスコールにとってこの上なく幸いな事であったが、スコールが言いたい事はそれではなく。


「仕事がまだ残ってるんだ。悪いが、あんたに付き合っている時間は───」
「でも、書類が見付からないんでしょ」
「部屋になかっただけだ。サイファーが勝手に持って行ったのかも知れない。指揮官室に行けば、多分」
「じゃあ、後はサイファーに任せちゃおうよ」
「指揮官の俺が見て、判を押さないといけないものがあるんだ」
「指揮官代理って出来ないの?」
「出来ない事はないが、それもちゃんと手続きが───」
「着いたー!」


 スコールの言葉を最後まで待たず、リノアははしゃいだ声を上げた。
扉のない壁が、リノアとスコールの到着を待っていたかのように、ぽっかりと穴を開けている。

 行こう、とリノアがスコールの手を引いた。
人の話を聞けよ、と胸中で愚痴るスコールであったが、リノアは気にしていない。
テラスに出たリノアは、吹き抜ける風を受けて、まるで飛び立とうとしているかのように両手を広げる。


「んーっ、やっぱり此処って気持ち良い!」


 文字通り、羽根を伸ばすように目一杯身体を伸ばすリノアの姿に、スコールはやれやれ、と溜息を漏らすしかない。
こうなっては、彼女を強引に連れ戻す事は叶うまい。
昨日まで仕事続きで、リノアとまともに顔を合わせる事もなく、キスティスやセルフィからは「リノアが淋しがってる」と言われていた事を思い出しながら、今日は諦めて彼女に付き合おう、と腹を括る事にした。

 時期が夏休みの只中とあってか、テラスには他の生徒の姿はない。
スコールも指揮官職など任されていなければ、他の生徒と同じようにガーデン寮や食堂で過ごし、教室のある二階になど来る事はなかっただろう。
お陰で今、人目を気にする必要はない。


「ほらほら、スコール。こっちこっち」


 早く来て、と手を振るリノアに、スコールは一歩を踏み出した。
通路とテラスの敷居を跨ぐと、遠くに潮の香りを孕んだ風がスコールの頬を撫でて行く。


「気持ち良いでしょ」
「……」


 リノアの言葉に、スコールは返事をしなかった。
瑪瑙がちらりと此方を見たが、彼女は直ぐに笑みを零す。
其処に在るスコールの横顔を見るだけで、リノアは十分、彼の心が零れている事が判ったからだ。

 二人で並んで、何をするでもなく、ただぼんやりと過ごしている。
それがどれ程、久しぶりの事だっただろう。

 スコールは、退屈は苦手だった。
持て余した時間の中で、考えなくても良い事が延々と頭の中を支配し、周り続けるからだ。
するべき事が一つでもあれば、それに手を付け、頭の中を埋める事が出来る。
その思考は、時間が惜しいと言う生真面目な思考が元であると言うよりも、思い、悩み、終わらない思考に押し潰される事が嫌で、逃げてきた結果だった。

 今でも退屈は苦手だし、身体を動かして戦う事のみに思考を埋め尽くしている時間が、一番楽だと思う。
だが、何もせずにぼんやりとしている時間と言うものを、以前ほど忌避する事はなくなった。
それは、恐らく───いや、間違いなく。


「ね、スコール。この後どうしよっか」
「……どうしようって、何が?」
「今日はお休みでしょ。スコールの行きたい所、何処でも行けるんだよ。私はそのお付きなの」
「妙に大袈裟だな」
「良いの良いの。それで、スコール様はどちらへ行くのがご希望ですか?」


 楽しそうに笑い、まるで偉人を迎えるように言うリノアに、スコールの口元も緩む。
前にも、こんな風に誘い出された事があったな、と思い出して。

 何処か行きたい所ある?と訊ねるリノアに、スコールは首を横に振った。


「あんたの希望に沿えなくて悪いが、俺は特に行きたい所はない」
「そう?」
「ああ。だから今日は、あんたの好きにすれば良い」


 スコールの言葉に、リノアはむぅと唇を尖らせる。
眉尻を下げ、困っていますと言う表情を浮かべて、リノアは言った。


「それじゃ意味ないよ」
「…何がだ?」
「うー……とにかく、私はスコールの希望を叶えたいの。スコールが行きたい所とか、見たいものとか、あと、うーんと…とにかく、スコールがあれしたいなーこれしたいなって言う事を、私が叶えてあげたいの」


 だから何か希望して、と言うリノアに、話が滅茶苦茶だな、とスコールは胸中で呟く。
だが、彼女の言葉は、彼女自身の心を精一杯素直に表現しているものだ。

 以前のスコールなら、あんたの希望を勝手に押し付けるな、と言ってリノアを撥ね付けただろう。
しかし、魔女戦争の旅路の中で、スコールもリノアも少しずつ変わった。
殊更に他者を忌避していたスコールの態度は軟化し、リノアもスコールが何を思い、何を感じて、今の“スコール”が形成されたのかを知っている。
それでも時折擦れ違いは起きるけれど、初めて出逢った頃のような、互いの考え方を真正面から否定し合うような口論はなくなった。

 沈黙したスコールの返事を、リノアはうずうずとした表情で待っていた。
初めて出逢った頃から、クライアントと雇われた者と言う立場を含め、リノアの希望を叶えて来たのはスコールだ。
魔女の力を継承した後も、スコールはリノアの為に走り、リノアを守ると言ってくれた。
魔女になって、全ての人に、スコールに嫌われてしまう前にいなくなろうとしたリノアを、スコールは「魔女でもいい」と抱き締めてくれた。
魔女になった自分を否定せず、ありのままを受け入れてくれた彼の言葉が、リノアは嬉しくて堪らなかった。
自分の願いを、わがままを、スコールは何度も何度も叶えてくれる。
だから今日は、自分がスコールの願いを叶えるのだと、リノアは意気込んでいた。

 しかし、そんな彼女の思いを察してやれる程、スコール・レオンハートと言う少年は、他人の心の機微に聡くはない。


「もう一度言うが、俺には特に行きたい所はない」
「……そうなの?」
「ああ。だから、リノアの好きにすればいい。リノアがやりたい事、行きたい所、今日一日はずっと付き合う。それが俺の希望だって事にしておいてくれ」


 それは、お互いを想い合っているけれど、気軽に同じ時間を過ごす事が出来ない大切な少女への、スコールからの気遣いだった。
一緒にいたいと思っているのに、仕事に追われるスコールは、朝晩の挨拶すらリノアと交わせない。
リノアはそれが仕方がない事だと判ってはいるけれど、真っ直ぐに愛情を欲しがる彼女には、その現実は寂しいばかりだった。

 だから、降って沸いた今日の休みは、リノアの為に。
その言葉に、リノアは顔を真っ赤にして、恋人の名前を呼んで抱き着いた。