埋もれた声
単独行動をしていたスコールと、同行していたフリオニール達と逸れたクラウドが合流したのは、全くの偶然であった。
互いに空間の歪みに巻き込まれて、あちこち飛ばされた後の事だ。
場所は雪原に近い山の中で、其処にも同じ雲は届いており、雪原同様に大きな雪の結晶が降る場所だった。
北方の山岳部の出身であったクラウドにとって、寒さと言うものは然程苦になるものではない。
加えて───皮肉な事ではあるが───体内に埋め込まれたジェノバ細胞のお陰で、クラウドの身体は普通の人間に比べて遥かに頑丈である。
無論、氷柱の中だのマグマの中だのに放り込まれれば命はないし、空の彼方から地上に落ちれば、潰れた肉塊になるだろう。
それに比べれば、雪や風と言ったものは、比較的可愛らしいものの部類に入る。
しかし、スコールにとってはそうではないらしい。
普段は開けたままのジャケットの前を占めて、自分の身体を抱えるようにして両腕を抱いている。
「大丈夫か、スコール」
先行するクラウドの後ろをついて歩くスコールは、常の不機嫌になり勝ちの表情を、更に不機嫌なものに歪めていた。
それでいて、クラウドの問いかけに対しては頑固なもので、
「……問題、ない」
返って来た言葉に、ない訳がないだろう、とクラウドは胸中で溜息を吐いた。
彼の表情を見れば、やせ我慢すらまともに出来ていないのは明らかである。
しかし、それを口にした所で、クラウドがスコールにしてやれる事は何もない。
ウォーリアやフリオニールのようにマントがあれば貸してやる事も出来たのだが、生憎、クラウドの服にそうした羽織れるものはない。
そもそもからして、肩から先の腕を剥き出しにしているし、丈が短いとは言え、ジャケットを着ているスコールの方が厚着をしている。
結局、クラウドが出来る事と言ったら、一刻も早くこの寒帯域を抜ける道を探す事だけ。
此処から一番近いテレポストーンの場所は大方把握していたから、其方に向かってスコールを誘導しながら進んでいるのだが、その進みは遅々としている。
(負ぶってやるって言ってるのにな)
凍えの所為か、スコールの筋肉は委縮し切ってしまっているようで、どうしても歩幅が狭まってしまう。
それでは目的地に到着するのも遅れてしまう=スコールが益々凍えてしまうので、クラウドは辛くなったら言えとスコールに言いつけてある。
背負うなり抱えるなり、腕力に自信のあるクラウドには苦ではない。
だと言うのにスコールは、一向にクラウドに頼ろうとはしなかった。
頭の良いスコールであるから、凍えた自分が遅々と歩くよりも、クラウドに背負われた方が楽だし、進みが捗る事も判っているだろう。
だから、スコールのこの行動は、単純に彼のプライドの問題であった。
(バッツあたりなら、問答無用で背負うんだろうが……)
生憎、クラウドはそれが出来る程、スコールに対して遠慮のない態度は取れない。
バッツやジタンは、スコールに対する接し方は少し強引なくらいが良い、と言うのだが、それが出来る人間と出来ない人間がいるのだ。
クラウドはその後者である。
そして、スコールの方もクラウドがそういう人間だと認識しているから、頼る事は良しとはしなくとも、共に並ぶ事には抵抗を感じないのだろう。
お陰で、仲間にすら毛を逆立てた猫のように睨むスコールが、クラウドに対しては心なしか気を許している所があった。
びゅう、と強い風が吹いて、スコールが足を止める。
腕を抱く手に強い力が篭って、震える歯の根を堪えているのがクラウドにも判った。
「スコール、無理するな」
「……してない」
睨むようにクラウドを見返して言ったスコールに、クラウドは今度は目に見えるように溜息を吐いた。
その意味をどう受け取ったか───良い方向に受け取らないのは、スコールの性格を鑑みればすぐ判った───、眉間の皺を深くするスコールに、クラウドは歩み寄る。
「もう少しだから、頑張ってくれ」
そう言って、クラウドはスコールの腕を掴む。
びく、とスコールの肩が一瞬跳ねた事には、気付かない振りをして、クラウドはスコールの手を引いて歩き出した。
おい、あんた、とスコールの呼ぶ声がしたが、クラウドは構わずに進む。
促される形で歩くスコールの歩みは、先程よりも僅かではあるが早くなっている。
これなら、想定より遅れはしても、先刻よりは早くテレポストーンの場所まで辿り着けるだろう。
運が良ければ、空が闇色になる前に秩序の聖域に帰る事も出来そうだ。
────……それが浅はかな計算であった事を、クラウドは程なく知る。
山を越え、麓に到着した所で、虚像の軍勢に襲われた。
殆どが下位イミテーションで構成されていたので、戦う事には苦労はしなかったのだが、何せ数が多かった。
広範囲を一気に攻撃できるティナやルーネスと言った、魔法を得意とするメンバーを欠いた状態で、多数を相手取るのは中々骨が折れる。
山中で散々凍えていたスコールだったが、やはり敵を前にするとスイッチは直ぐに切り替わった。
多少動きがぎこちない所はあったものの、下位イミテーションに後れを取る事はない。
…しかし、大軍勢を突破した頃には、クラウド共々疲弊し切っていた。
「……大丈夫か、スコール」
「……ああ……でも、疲れた…」
雪の積もった鬱蒼とした森の中で、二人はそれぞれ木に凭れて立っていた。
普通に立っているのも辛い程、身体が重い。
「この状態で進むのは無謀だな……」
スコールの言葉に、クラウドも頷く。
テレポストーンまではまだ随分歩かなければならなかったし、無理に進んで、またイミテーションや魔物に遭遇した場合、今度はまともに闘えるのかも怪しい。
クラウドは、ふらつく足を気力で支え、凭れていた木から背を離した。
「薪を拾ってくる。テント、張れるか?」
「……ああ」
「無理はしなくて良いからな」
「…問題ない」
木に凭れたまま、スコールはクラウドを振り返らずに言った。
そうか、とだけ言って、クラウドはその場を離れて行く。
スコールのいる場所が木々の隙間で確認できる範囲───それを移動範囲と決めて、クラウドは雪の中に落ちている枝を拾い集める。
積もった雪の水分を吸ってか、湿った枯れ木ばかりになったが、この際仕方がないだろう。
途中、針葉樹を見付けたので、幾らか切り落とさせて貰った。
両手に枯れ枝と針葉樹の枝葉を抱えて戻ると、テントはきちんと張られていた。
スコールはその傍で丸くなっている。
きっと早くテントの中で転がりたいだろうに、見張りをしなければと言う意識がそれを咎めたのだろう。
雪を踏む音に顔を上げた彼は、青灰色に棘のある光を宿していたが、其処にいるのがクラウドだと認めると、微かにその光を和らげた。
クラウドは雪の上に腰を下ろし、薪を重ねると、荷物の中からメモ帳を取り出し、炎を灯して火種にする。
火打石などの着火道具は一応持っているのだが、この寒い中で地道に努力をする気にはなれなかった。
魔力も幸い余裕があるので、これ位のズルは許されるだろう。
「さて……暖はこれで良いとして。食事はどうする?」
「……携帯用の固形食ならある」
そう言って、スコールも腰のファーの陰に隠れていたベルトポーチを探る。
取り出されたのは、掌サイズのもので、腹を満たすには物足りないが、此処でそんな文句を言うものはいない。
クッキーと同じ見た目のそれを受け取って、クラウドは胃に入れた。
スコールも直ぐに食べ終えると、ふる、と小さく身を震わせる。
クラウドはそれを、薪をくべて見ない振りをしながら、言った。
「見張りなら俺がやる。あんたは寝るといい。三時間程したら起こすから、交代してくれ」
「………ああ」
小さく頷くと、スコールは腰を上げ、テントの中に潜り込む。
ごそごそと身動ぎする音がしばらく続いた後で、気配が落ち着くのが判った。
ぱちぱちと音を鳴らす焚火を眺めて、クラウドは、今しがたテントに入って行った仲間の事を思う。
(……美味しいと言えば、美味しい状況だったんだろうな)
胸の奥に秘めた感情を振り返りながら、クラウドはそう考えた。
いつからであったのか、それは判然とはしなかったが、クラウドのスコールに対する感情は、“仲間”と括るには不適切なものになっていた。
自覚したのもいつであったのか、それを受け入れたのもいつであったのか、何もかもがぼんやりとして、はっきりとは判らない。
それ程、まるで自然な事のように、クラウドはスコールに対して、所謂“恋慕”と呼ばれるであろう感情を抱いていた。
男同士である事は判っている。
彼とはこの神々の闘争の世界で偶然出会った、クラウドとは違う世界に生きる人間である事も、判っている。
神々の闘争が終結すれば、自分達は元の世界に戻れるから、それきりの関係になると言う事も。
そんな人間を相手に恋情を寄せた所で、待っているのは別れしかない。
……そう判り切っている筈なのに、諦める気等と言うものは更々浮かばなかった。
寧ろ、どうにかして、ほんの一時でも良いから此方を向いてくれないか、とそればかり考えている。
(バッツとジタンもいないし。俺も一人だ)
いつもスコールの周りで賑やかにしている、二人の仲間。
騒がしさを嫌う筈のスコールだったが、彼らはそんな事はお構いなしでスコールを構い倒し、彼も二人に対しては邪険にし切れない所があった。
クラウドがそんな場面を見る時、スコールは常の仏頂面を崩して、怒鳴ったりやり返したりと、年相応な一面を見せる事がある。
その光景は、セシルやフリオニールから見れば、とても微笑ましいものだと言う。
クラウドはそう思う、そう思うのだが────胸の奥にある蟠りを誤魔化せる程、クラウドも大人にはなり切れていなかった。
(スコールに話しかけようとすると、必ずあの二人が邪魔をしてくる。いや、邪魔と言うか……まあ、邪魔は邪魔だな。落ち着いて話が出来た例がない)
クラウドも賑やかな二人が嫌いな訳ではない。
バッツの奔放さや、ジタンの前向きさは、ティーダの明るさと同じで、長い戦いの中で疲弊する仲間達の中で、一層輝いて見える。
しかし、それはそれ、と言うか。
想いを寄せる相手を前に、何か気を引ける事は出来ないかと、取り敢えず話をしてみようとすると、図ったように彼らは乱入して来るのだ。
スコールスコールと想い人の名前を繰り返し、面白いものを見付けた、晩飯何?となんでもない話でスコールを引っ張って行ってしまう。
判っていてやってるんじゃないか、とクラウドが疑ったのも、一度や二度ではない。
だから、クラウドがスコールと二人きりになれている今を置いて、チャンスはない。
気の利いた話が出来る訳ではなかったが、幸い、クラウドとスコールの世界の文明レベルはどちらも水準が高い方で、二人(とティーダ)にしか通じない話もあった。
だから、自分達にしか通用しない苦労話や愚痴だってあるのだ。
人間は、共通点を見出すと、親近感を持つ。
基本的に他者と必要以上のコミュニケーションを取らないスコールが、愚痴話なんてものに付き合ってくれるかは微妙な所だったが、ジタンやバッツには言えない話もあるだろう。
例えば、いつだったかバッツが自慢げに教えてくれた、虫の幼虫を食べる方法とか。
(あの時、スコールはかなり蒼褪めていたからな。バッツのああいう知識は、自分の経験の中で得たものだろうし、実際、野宿の時には役に立つんだが……正直、あまり想像したくはない……)
カエルを食べるのも、鶏を食べるのも、牛を食べるのも、結局は全て同じことなのだが、馴染みがないとやはり抵抗感は違う。
ましてクラウドの世界では、カエルだの虫だのを食べるとなると、大抵珍味扱いになった為、所謂“ゲテモノ”に分類される事が多かった。
抵抗感が殊更に強いのも、それが理由の一つだろう。
スコールの世界は、電気機械類は勿論、飲食物についてもかなり発達していたと言うから、抵抗感も一入ではないだろうか。
所属していたと言う傭兵育成学校も、寮も教室も食堂も、全て清潔に保たれていたようなので、実質、彼は温室育ちであるとも言える。
足りない栄養はサプリメント等の補助食品で賄っていたようだし、訓練でサバイバルも経験してはいたようだが、それはあくまで“学生の授業の一環”だったから、最低限の持ち物───食べ物、飲み物、またはそれらを確保する為の道具───は用意されていたらしい。
着の身着のまま放り出され、自然の中に生息する生き物を素手で捕らえ、食べられるように調理する……と言う所まではいかなかったようだ。
クラウドも似たようなものである。
……こういう点から、共通項を繋げれば、もう少しスコールと距離を近付けられると思ったのだが、
「…………」
テントの中の配を見遣って、クラウドはひっそりと溜息を吐いた。
クラウドがどれほど距離を縮めたいと思っても、相手はそうではないらしい。
比較的懐いてくれている方ではあると思うが、それはあくまで、彼が引いた境界線をクラウドが認識し、それ以上は踏み込まれる事はないとスコールが思っているからだ。
此処をクラウドが無理に踏み越えようとすれば、彼は忽ち警戒心を露わにするに違いない。
ウォーリアを相手にしている時のスコールの態度が、まさにその例と言える。
一定の距離を保っている限り、スコールはクラウドに対して、警戒心を見せる事はないだろう。
だが、現状を続けている限り、クラウドのスコールへの想いは報われないし、伝わる事もない。
(…諦めるか、忘れられれば、一番良かったんだろうな)
持て余す感情に、何度目かの溜息を吐きながら、思う。
きっと遠い日に別れは来るのだから、その時の侘しさを思えば、叶えてしまいたいと思うのは自分の独りよがりでしかない。
伝えて、その先が如何な結果であるにしろ、少なくとも自分は満足するだろう。
だが、スコールにとっては、仲間である筈の“男”からそんな感情を寄せられていると知った時点で、混乱させるものでしかないだろう。
スコールを想うなればこそ、諦めるのが一番の正解であると、理屈ではクラウドも判っている。
だが、人間の感情と言うのは面倒な物で、頭と心は別物なのだ。
伝えたい、叶えたい。
手に入れたい。
凛と背を伸ばす傍らで、時折子供のように丸くなって眠る彼の、心を。
「………────?」
何気なく見詰めていたテントの中で、影が動いた。
寝返りかと思ってそのまま眺めていると、影────スコールが起き上り、そのまま動かなくなってしまう。
座ったままで停止したスコールに、クラウドは眉を潜め、そっとテントの口を開けた。
「スコール、どうした?」
「!」
気配で判りそうなものなのに、声をかけたクラウドに、スコールはあからさまに肩を跳ねさせた。
そろそろと振り返って此方を伺う様は、まるで叱られる事に怯える子供のようだ。
スコールらしからぬ表情を見て、クラウドは益々眉を顰めた。
「何かあったか?」
「い、や。何も」
だったら何故どもるんだ、とクラウドは思う。
時々クラウドは思う。
スコールは、彼自身や仲間の多くが思っている程、ポーカーフェイスが得意ではない。
想定した出来事の中でなら冷静でいられるのだろうが、平時───気を抜いている時と言った方が正しいか───の不意の出来事には直ぐに対処できないのだ。
その時ばかりは常の鉄面皮も崩れ、心の動揺が目に見えて判る程、顕著に露見する。
「何か感じたか」
「いや、……違う。なんでもない。なんでもないから」
気にしないでくれ、と請うように言われて、クラウドは首を傾げた。
スコールは、見詰める碧眼から逃れるように、背中を向けて顔を伏せる。
布団代わりに被っていたのだろうジャケットを、腰元で丸めた状態で握り締めて。
────……まさか。
いや、ない。
ないと言うか、想像できない。
クラウドは、脳裏を過った可能性を、直ぐに否定した。
否定した後で、いや、でもな……と考える。
「……………おい……見張りはどうしたんだ、あんた」
一向にテントを閉めようとしない、見張りの仕事に戻ろうとしないクラウドを、スコールが肩越しに睨む。
その時、丁度焚火が風に煽られて大きく揺らめき、クラウドの影になっていた少年の頬を、一瞬、明るく照らし出す。
青灰色は確かにクラウドを睨んでいたが、その瞳にはいつもの獣を思わせる覇気はない。
どちらかと言えば、やはり先に感じた通り、叱られる事に怯える小さな子供のような気配が見え隠れしていた。
加えて頬が心なしか赤らんで、頼むから早くあっち行ってくれ、と声なく訴えているのが判る。
クラウドはテントの中に入ると、スコールに近付いた。
するとスコールは、ずりずりと逃げるように這って後退する。
クラウドは、引き摺られるジャケットの袖端を徐に掴むと、ぐっと力任せに引っ張った。
まさか強奪されるとは思っていなかったのだろう、思いの外あっさりと、ジャケットは取り上げる事が出来た。
「っ返せ!」
クラウドのズボンの端を掴んで抗議するスコールだったが、それ以上の行動は起こさない。
いや、起こせないのだろう。
スコールの足の狭間で、厚手のズボンの前が張り詰めている。
スコールは真っ赤になって、腰のストールでそれを隠した。
多分、恐らく、きっと────スコールは、夢精してしまったのだ。
「……スコール、」
別に恥ずかしがる事じゃないだろう───と言いかけて、クラウドは言葉を飲み込んだ。
現在の生活環境を思えば、生理現象として当然の事ではあるが、此処にいる大人びた少年は、17歳と言う、人生に置いて複雑怪奇且つ非常に繊細な年頃である。
感受性も人一倍強く、羞恥心に対する嫌悪感も強い時期だ。
元々プライドの高いスコールならば、尚の事そうだろう。
青灰色の隅に、薄らと雫が滲んでいるのは、絶対に羞恥心と屈辱感の所為だ。
確かに、クラウドもこんな場面を人に見られたくはない。
まさかと言う疑心から、確かめようとした末の行動であったが、今更ながらジャケットを掴む手に罪悪感を覚えた。
立ち尽くすクラウドの手から、スコールが乱暴にジャケットを掴んで奪う。
最悪だ、と呟くのが聞こえた。
(……しまったな)
ジャケットで下肢を隠すスコールを見下ろして、クラウドは胸中で呟く。
此処で謝りでもしたら、反って嫌われるに違いない。
かと言って、このまま彼を放って置くのもクラウドには難しかった。
若い身体は、溜り溜まった欲を吐き出そうと求めているようだったが、現状でスコールが熱に溺れる事は出来まい。
クラウドがテントを出たとしても、布一枚の隔たりに何のプライバシー保護が出来ようか。
人一倍、他者の目を気にするスコールが、こんな状況で自慰行為に没頭するなど、出来る訳がなかった。
けれど、眠る事も出来ない。
切迫した環境の中で蓄積された熱は、零れてしまった所為で、ストッパーが緩んでしまっている。
これをもう一度堪えろと言うのは、中々酷なものであった。
羞恥心と、暴れる熱に挟まれて、眉根を寄せるスコールの横顔に、クラウドは唾を飲む。
整った面を赤らめ、薄い肩を小さく震わせている姿は、常の大人びた表情とは違って、随分と幼く見える。
淡く色付いた唇から零れる吐息には、微かに艶が篭っていて、先の幼さの印象とは正反対に、悩ましげな色さえ滲んでいて。
「……辛いか?スコール」
「…見て判るだろ。あんた、早く見張りに戻れよ」
明らかな棘を含んだ声だったが、クラウドは構わなかった。
頭の中は、まるでスコールが持て余す熱が伝染したかのように────いや、それによって触発されたように、熱い色の欲望で攫われる。
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