祈りの輝石
レオン誕生日記念(2016)


「誕生日、か」


 零れたその言葉は、誰に向けた訳でもなく、独り言だった。
それを独り言でなくしたのは、偶然、その場を通りかかった鍵の勇者だ。


「誕生日?クラウド、誕生日なの?」


 特に自分の事を気にする事もなく、その後ろを通り過ぎようとした事を忘れて、ソラは完全に足を止めた。
クラウドも彼が通りが買っていた事には早い内から気付いていたが、声をかけられなければ特に会話がいる相手でもない為、特に気に留めずにいた。
が、こうして声をかけられれば、無視する訳にもいくまい。

 クラウドは川の上にかけられた、橋の欄干に寄り掛からせていた体を反転させて、橋の真ん中に立っている少年に言った。


「俺の誕生日は、もう終わった」
「じゃあ、誰かの誕生日?」
「ああ。レオンだ」


 誰の、と続けて聞かれるのが予想できたので、先に答えを投げてやる。
それを聞いた少年の目が、驚きとともに、きらきらと輝いた。


「レオン、誕生日なの?」
「明日な。あいつはそんな事覚えちゃいないようだが」


 呆れた風に言ったクラウドだが、実を言うとつい先程まで、自分も彼の誕生日を思い出していなかった。
闇の力を使い、異世界を不規則に渡り歩いているクラウドである。
一年前に比べれば、その足も多少落ち着いてはいるが、まだ調べていない場所があるかも知れないと、折々に足を運ぶ事は多い。
そんな生活をしているので、クラウドはよく日付感覚が曖昧になる。
お陰で、自分の誕生日もうっかり思い出さないままに過ごしかけていたし、他人の誕生日、それも20歳を過ぎた年上の男の事となると、尚更思い出し難いものがあった。

 そんなクラウドが、明日と言う日を思い出したのは、ユフィのお陰だ。

 昨日からレオンの家に滞在していたクラウドは、今朝、レオンに引っ張られて再建委員会の本部へと連行された。
未だに絶えないハートレスを退治する為、この手の人手はいつでも歓迎される。
クラウドは面倒と言う気持ちは否めなかったが、昨晩はレオンのお陰で美味い晩飯と数日振りの風呂、暖かい寝床(ソファだが)を貰えた訳で、宿泊代と思えば安いものだろう。
クラウドにとって、ハートレスは然程問題のある相手ではない。
それを適当に蹴散らしてやれば、今夜も美味い飯に在り付けるのだから、手を貸すのは決して吝かではなかった。

 ハートレスの被害が特に多い場所、近頃はダスクと呼ばれる白い影の被害報告も増えている為、其方にも人員を割かなければならない。
レオン、ユフィ、クラウドでそれぞれ担当地区を割り振った後、レオンは直ぐに仕事へ向かった。
クラウドもそれに続こうとしたが、直前、ユフィがエアリスに「準備できてる?」と言った。
聞き留めたそれに、「なんの準備だ」とクラウドが訊ねると、ユフィは悪戯っぽく笑って、「明日の準備!」と言った。
だから何の準備、とクラウドは訊ねようとしたが、エアリスが笑顔でカレンダーを指差していた。
日捲りのカレンダーを見れば、今日は8月22日────明日は8月23日、レオンの誕生日であると、クラウドは其処でようやく思い出したのである。

 誕生日前日に準備とくれば、間違いなく、レオンの誕生日を祝う準備だろう。
派手にパーティにするのか、ひっそりと厳かにするのかはクラウドは知らないが、取り敢えず、ユフィは祝う気満々のようだった。
エアリスもそんな彼女の期待に応えて、レオン達がハートレス退治をしている間に、飾り付けやら料理の出前やらと段取りを整えている。
シドは、好きにやりゃあいいと思うぜ、といつもの放任主義だ。


「───で、ユフィの奴に、俺も何か用意しろと言われて、考えていた」
「何かって……あ、誕生日プレゼント?」
「だろうな」


 家事全般が出来ないクラウドに料理なんて任される訳がないし、再建委員会に参加していない(最近、非常勤のような扱いをされている気もするが)クラウドは、委員会のメンバー程、街の住人に明るくない。
何を調達するにしても、そう言う事はユフィかエアリスが行った方が、話が早いだろう。
少々拗れる話があるなら、シドが出張って行けば良い。
準備全般に関して、クラウドが今更手伝う必要はなかった。

 となると、他にクラウドが用意するものと言ったら、個人的に彼に渡すプレゼント位のものだろう。
しかしクラウドには、準備の手伝いよりも、これの方が難題に思えた。


「レオンの誕生日プレゼントかあ。何にしたの?」
「正直、全く何も思い浮かばん」
「えー?なんだよ、それ」


 きっぱりとしたクラウドの答えに、ソラは判り易く不満げな顔を浮かべる。
何故お前がそんな顔をするんだ、とクラウドは思ったが、無邪気な少年に悪気がないのは明らかなので、飲み込んでおく。


「考えても見ろ。ただでさえ物欲のないレオンが、欲しいものがあると思うか?」
「……う〜ん……」


 クラウドの指摘に、ソラは眉間に皺を寄せ、首を捻って唸る。
うんうんと唸る所を見るに、彼もこれといって思い付くものがないのだろう。
ほらな、とクラウドは肩を竦めた。


「……思い付かない……けど、何かあるかも知れないじゃん。美味しいものとか、面白いものとか」
「飯はエアリスが手配しているし、面白いものならユフィが何か考えていると思うぞ」
「ゲームとか」
「ゲームは俺も嫌いじゃないが、レオンは殆どやった事がないぞ。あいつは娯楽に感けるような性格じゃないし、此処の復興で頭が一杯だからな。そう言うものに触る習慣があるかどうか」
「トロンに言ったら、面白そうなゲーム作ってくれそうだけどなぁ。駄目かあ……バイクのゲームとか面白いのに」


 電子世界の友人の名を零して、ソラはまたうんうんと唸り出す。
バイクのゲームってなんだ、と思わず飛び付きかけたクラウドだが、今はとギリギリの所で踏み止まる。

 ごほん、と気持ちの切り替えに咳払いをして、クラウドは欄干に寄り掛かって言った。


「娯楽ものよりは、消費するものや、持っていて邪魔にならないものが無難だろうとは思うが、其処までだ。具体的なものが何も浮かばない」


 クラウドのその言葉の裏側には、レオン自身の物欲が少ない事もあるが、復興真っ最中のこの街では、調達できるものが限られると言う理由があった。
ソラの手によって故郷が闇から解放されて、城を拠点としていた生活を街へと移した今でも、この街では何もかもが足りていない。
建物を修復する建築材、日々の腹を満たす食品、機械を直す為の工業製品と、挙げて行けばキリがない。
市場が立つ程度に活気は取り戻されているが、ハートレスやダスクの被害と言う問題もあり、見た目の活気程に中身の成長・回復が伴っていないのが現実であった。
最近は復興とは直接関係のない、趣味趣向品が出回り始めたものの、其方も中々軌道に乗っているとは言い難い。

 はあ、とクラウドは今日何度目か判らない溜息を漏らす。
こんな調子で、彼の思考は堂々巡りを続けている。


(もっと言えば、あいつ自身が自分の誕生日を祝えるような頭を持っていないのが問題だが───それは言ってもどうしようもないな)


 クラウドの脳裏に浮かぶのは、嘗て見た、傷付き涙も忘れた少年の顔だった。
クラウドも含め、周りに年下の子供しかいなかった事もあってか、彼は存外と早い立ち直りを見せていたが、その傍ら、自分自身を赦す事も忘れたような節がある。
強くなる為に、弱かった頃の自分を切り捨てるように、呼び名を改めて欲しいと言った彼。
捨てた名前をもう一度名乗れるようになるまでは、彼は自分を甘やかす事は出来ないだろう。

 明日と言う日に、レオンが思いを巡らせるのは、もう仕方のない事だ。
それは彼が自分で心の整理を付けない限り、周りが何を言っても、ついて周る事なのだろう。
彼と共に日々を過ごしてきた少女達も、それをよく知っている。
知っているからこそ、ユフィは無邪気な貌で彼の誕生日祝いの準備をしているのだ。
エアリスやシドも同じ気持ちだから、ユフィの頼みを聞いて、レオンに秘密で色々と根回しに協力しているに違いない。

 其処へクラウドも丁度良く帰って来たから、声がかけられた。
どうして俺が、と思わないでもないが、数日前の自分の誕生日に、ユフィにせがまれてケーキを作ったのはレオンだったと言う。
あれの恩返しの意味でも、日々転がり込ませて貰っている礼も兼ねて、誕生日プレゼントを考えるのは悪くないと思った。
────此処まで悩みに悩まなければ、だが。


「朝から考えているが、手詰まりだ」
「で、こんな所でぼけーっと立ってたの?」
「……まあな」


 何とも格好の悪い言われ方だったが、傍目に見ればそう言う風に映るのだろう。
クラウドは苦い顔をしつつ、素直に頷いておいた。

 ソラはうーんと腕を組んで考えた後、レオンとよく似た眉間の皺を刻みながら、


「そんなに迷うんならさ、もう本人に聞いちゃえば良いじゃん。誕生日プレゼントって事は内緒にして」
「……それはそうなんだが、聞いた所でな……なんとなく想像が付くと言うか」


 物欲のないレオンが欲しがるものと言ったら、本当に限られている。
ついでに言うと、彼の頭の大半を占めているのが何であるのかを考えると、聞くまでもなく、クラウドは返答が想像できてしまう。

 しかし、まっしぐらで素直な少年は、そうは思わなかったらしい。


「よし!俺、レオンに直接聞いて来る。レオン何処にいるんだ?」
「担当している地区は東の方だが───おい、本当に聞きに行くのか?」
「だって明日なんだろ?準備するのも、早い方が良いじゃん。大丈夫、聞いたらちゃんとクラウドにも教えるから!」


 そう言うと、ソラは善は急げとばかりに走り去って行く。
橋を下りて東へ向かって全力疾走する少年を見送って、その真っ直ぐさにクラウドは眩しさを感じていた。




 欲しいものってある?と直球で聞いたソラに、突然だな、とレオンは言った。
明日の事を思えば特に突然と言う事もないとソラは思うのだが、クラウドが「あいつはそんな事覚えちゃいないようだが」と言っていた事を思い出す。
クラウドの言う通り、どうやらレオンは、自分の誕生日の事をすっかり忘れているようだ。

 勿体ないなあ、とソラは思う。
ソラは自分の誕生日が近付くと、指折り数えて、その日に食べるケーキを想像したりして、日々を楽しんでいたものだ。
幼馴染達も一緒に祝ってくれるし、プレゼントだって貰っていた。
二人の誕生日が近付けば、今度はソラも彼等を祝う為に、プレゼントの用意に余念がなかったものだ。

 けれど、仕方がない事かも知れない。
特にレオンは、街の復興の為に毎日を忙しなく過ごしているし、彼の中の優先順位は、自分の事より街の事の方が上になっている。
ハートレスやダスクの退治に追われている彼が、自分の誕生日を祝う暇もないと思っていても可笑しくない。
必然的に、その事自体が頭から抜け落ちてしまう事も。

 ───それはともかく。
レオンはソラの質問に、直ぐに答えてくれた。
ソラの質問は、彼にとっては息抜きの雑談の一つと言う気持ちだったのだろう。
だから特に気取る事もなく答えてくれたのは良かったが、


「欲しいものに“時間”って言われたってさ〜、どうにもなんないよ」


 川の上で魔法を唱えていたハートレスに、ブリザドを当てながら、ソラは言った。
それを聞いたクラウドは「だろうな」とだけ返して、突進してきた四足のハートレスを切り捨てる。

 レオンと一緒に過ごした後、聞いたら教える、とクラウドに約束していた事を思い出して、ソラはまた橋の下まで戻って来ていた。
午前中に片付けた筈のハートレスの代わりが新たに出現しており、クラウドとソラは話をしながらそれらを退治している。


「まあ、大体予想のついた返事だ」
「そうなの?」
「あいつにとっては、早く街を復興させたいだろうし、そうなると、時間は幾らあっても足りない位だからな。…お前にそれを言ったのは、冗談だったんだろうが」


 復興作業は勿論、ハートレス退治もダスク退治も、レオンにとっては何もかも時間が惜しい仕事に違いない。
彼は一刻も早く、この街を昔のように、それ以上の街にしたいのだ。
寝食の時間も惜しいと思う程なのだから、足りない時間を補える分の余裕がある時間が欲しいと願うのも無理はない。


「あと、“労力”って言ってた」
「……それも予想の範疇ではあったな」
「クラウドが一週間くらい何処にも行かずに手伝ってくれると良いのにって」
「………」


 ピンポイントで射撃を喰らって、クラウドは閉口した。
常々言われている事ではあるが。

 目に見える場所にいるハートレスが片付いて、ソラがふう、と一息吐いて地面に座り込んだ。


「でも判る気がするな。この辺、凄くハートレスが多いんだもん」
「…この辺りは、まだセキュリティシステムも稼働していないらしくてな。かと言って、放っておけば数が増えて、居住区まで広がって来る。定期的に、地道に片付けて行くしかないそうだ」
「レオンがいたトコもそんな感じだった。大変だなあ……」


 ソラの呟きに、お前も似たようなものだろう、とクラウドは思う。
自分やレオンは、この街の中の事だけを考えていれば良いが、ソラはもっと大きなものを抱えている。
この街に未だ巣食う闇の原因に関しても、恐らくこの少年が文字通りの“鍵”を握っているのだろう。
まだ幼さの残る体に、本人の意思とは無関係に、様々な期待と重圧を寄せている事を、レオンが良くも悪くも酷く気にしていた事を思い出し、クラウドは全く悩みの種の尽きない奴だと溜息を零した。

 ソラは地面に座り込んだまま、握っていたキーブレードを持ち上げた。
ちゃりん、と柄尻でチャームが音を鳴らす。


「ねえ、クラウド」
「なんだ」
「俺が一杯一杯ハートレスを倒したら、レオンは喜んでくれるかな」


 ソラの言葉に、クラウドは「それは、な」と言った。
肯定の意として。

 ハートレスもダスクも、クラウド達が幾ら倒した所で、その根を絶やす事は出来ない。
セキュリティシステムが稼働すれば、かなりの安全を確保する事が出来るが、過去にはそのセキュリティシステムが闇の力に乗っ取られた事もあった。
それもソラのお陰で取り戻す事が出来、街は嘗ての美しい庭の名前を思い出す事が出来たのだが、已然として、闇は払い切れていない。
クラウド達がしている事は、あくまでも応急措置に過ぎなかった。

 だが、ソラならば絶やす事が出来る。
この街の全ての闇を一気に消し去れる訳ではないようだが、生まれた影をあるべき場所に還す事が出来るのだと言う。
実際に、“鍵”によって葬られた影は、そのまま再生する事はないようだった。
だからレオンは、ソラがこの世界に来て、手伝いを申し出てくれる事を、いつも有難く思っている。
ソラの手を借りて解放された地区は、しばらくの間ハートレスの姿を確認する事がないので、その間にセキュリティ装置を設置したり、新たな居住区を整える足掛かりになっていた。


「お前が来ると、レオンはいつも嬉しそうだ。ハートレス退治も、街の復興も進むからな。お前の相手をするのも、気晴らしになるようだし」
「本当?レオン、喜んでくれてる?」


 クラウドの呟きに、ソラは目を輝かせて問う。
素直な少年に頷いてやれば、ソラはすっかり頬を緩ませて「へへ」と照れ臭そうに笑った。


「よし。じゃあ俺、頑張ろっと!」


 ソラはすっくと立ち上がって、キーブレードを振り上げた。
やる気満々と言った様子で歩き出した少年に、クラウドも倣う形で足を動かす。


「頑張るのは良いが、旅の方は良いのか」
「うん。三日位は此処にいる予定だから。なんか、ドナルドのおじさんの店が上手く行かないみたいでさぁ。アイスの改良するから、試食とか記録とか、色々手伝って欲しいって言われて」
「アイス……ああ、あの塩っぽい味の」


 そんな店も出来ていたな、とクラウドはぼんやりと思い出す。
興味にかられたユフィのお裾分けで食べたが、中々特徴的な味だった。
昔、この街でもよく売られていたそうだが、その時分にクラウドは食べた覚えがないので、あのアイスの味があれで正しいのか否かは判らない。


「お前は手伝わないのか」
「手伝ってたんだけどー……へへへへ」


 愛想笑いをしながら頭を掻くソラに、クラウドは、彼の言わんとしている事を察した。
恐らく、意気揚々と手伝いを買ったは良いものの、早々に何かをやってしまったのだろう。
やる気が空回りしたソラは、被害が拡大しない内に暇を出されたに違いない。
呆れつつも、こいつらしいと言えばこいつらしい、とクラウドは思った。

 道を通り抜け、広めの十字路に出た所で、新たなハートレスが出現した。
気合が入ったソラが早速突進して行く。
一年前には危なっかしさばかりが目についていたソラだが、旅をしている間に随分と成長したらしく、中々良い動きをしている。
が、目の前の敵に夢中になる癖は抜けていないので、クラウドは視野を広く取って、闇の力を使いながら広範囲をカバーして行く。

 退治を終えて周囲が静かになると、また場所を移動する。
特に出現数の多い場所は、レオンから事前に伝えられていたので、其処をチェックポイントとして歩き回った。
朽ちた広場にやたらと数が揃っていたので、出所を探してみると、傍の水路から湧いて来ていた。
水路への入り口には鍵が施されていたが、放置されて長い鉄鍵はすっかり錆ており、クラウドが力任せに蹴ると簡単に壊す事が出来た。
「良いの?」とソラは言ったが、「ハートレス退治が優先だ」と言い切るクラウドに、それもそうかと気を取り直し、勇んで水路に飛び込んだ。

 いつかのハートレスの大軍勢程ではないが、そこそこの群れが作っていた巣を片っ端から蹴散らして行く。
その途中で、ソラはあるものを見付けた。


「あっ、あの石」


 弾んだ声にクラウドが振り返ると、ソラがハートレスの巣があった場所に駆けて行く。
しゃがんで何かを拾っている仕草を見て、


「何か気になるものでもあったのか」
「うん。これ」


 ソラがクラウドに見せたのは、ソラの掌に収まるサイズの欠けた石。
直径5センチもないそれは、クラウドも見覚えのある、魔力が宿った石の欠片だった。
これらは集めて置けば、様々な薬や道具に精製する事が出来るので、再建委員会の面々も見付ければ拾うようにしている。

 が、ソラは、それを道具の材料にする為に拾った訳ではなく、


「あのさ、これって一杯集めたら綺麗かな」
「……結晶や雫なら、それ単体でアンティーク扱いされる事もあるから、悪くはないと思うが……どうするんだ?」


 きょろきょろと他にも欠片がないか首を巡らせるソラ。
あった、と駆けて行く彼の後をついて歩きながら、クラウドが訊ねると、


「俺、レオンが欲しがるようなものって、あげられそうにないからさ。せめて綺麗なもの一杯集めて、それでプレゼント作ろうかなって思ったんだ」


 レオンが欲しいと言った“時間”は、如何に勇者と言えど、どうにかなるものでもない。
“労力”はソラがこの街へ滞在する事が出来れば良いのだが、そうそう長くはいられない。
今回も三日間のタイムリミットを持っており、それが終われば、ソラは世界を渡る船に乗って、この街を出て行くだろう。
そうしなければ、彼の旅はいつまでも終わらないし、レオンが望んでいる、闇の気配からの解放も臨めないのだから。

 限られた時間の中で、ソラはレオンの誕生日を精一杯祝いたかった。
掌の中の小さな欠片は、ひらひらと柔らかな淡い光を帯びている。
様々な力が内包された欠片たちは、それ単体では大した力を持たず、数を揃えなければ無価値も同然であった。
それでも、宿した光は穢れなく、美しい。
これを沢山集めて、ビーズアクセサリーのように繋いで行けば、きっと綺麗なものが作れる筈だと、ソラは確信していた。


「あった!」


 早速三つ目の欠片を見付けて、ソラは走った。
三つ目の欠片は、先に拾ったものとは色が違う。
宿した力の種類によって、この光の色は変わるから、全てを集められたとしたら、かなりの種類の宝石を手に入れる事が出来るだろう。

 きょろきょろと辺りを見回し、湧いてくるハートレスやダスクを退治して、きらりと光るものを見付けると、一目散に走って行くソラ。
あった、と飛び跳ねてはしゃいだり、ガラスの破片を見付けてしょんぼりと萎れたり。
まるで宝探しでもしているようだ、とクラウドは思った。


(……だが、あいつが一番喜びそうなのも、確かだな)


 レオンがビーズアクセサリーの類が好きとは思わないが、少年の無邪気さが、あの堅物気味の青年にはきっと心地良い事だろう。


(…俺にあれは出来ないな)


 ユフィやエアリスのような女子ならともかく、自分には不向きな事だ、とクラウドは思った。
しかし、打算も計算もなく、迷いもなく、レオンの誕生日を祝う事を決めているソラを見ていると、やはり自分も何か考えた方が良いか、と言う気分になって来る。
明日の主役が、その日を迎える事に複雑な気持ちを抱いている事を理由にして、何もしなくても良いか、と済ませるのは些か気が引ける。


「うわっ、ハートレス!退けよ、良いの見つけたんだから!」


 宝探しに夢中になりながら、ソラは影を蹴散らして行く。
クラウドも剣を構えて、取り敢えずはこれが自分の仕事、と翼を広げた。