海賊と一口に言えど、その全容は千差万別であった。
判り易くならず者の集団である事も少なくないし、そう言う輩は他船を襲う略奪行為を頻繁に行う。
そう言うタイプが悪目立ちする所為で、略奪を良しとしない善良───此処の単語については、皮肉も篭っている───な海賊船まで、海軍に追われる羽目になるのだ、と言ったのは何処の酒場の酔っ払いだったか。
ディスティニーアイランド号は、海賊船である。
しかし、他船への略奪行為は勿論の事、陸や港での乱暴な振る舞いをするのも絶対に許さない。
そもそも、この船は海賊船たるものとして海賊船になった訳ではなかった。
様々な事情から、天涯孤独の身となった者、故郷にいられなくなった者が寄り集まり、船上で生活するに当たり、身の安全を守る為に武装したのが始まりであり、その過程で略奪行為を働こうとした海賊船を返り討ちにしている内に、海賊達の間で名前が挙がるようになった。
並行してその名は海軍の耳にも入り、知らぬ間に海賊認定されてしまい、否定しようにも生活の一部として、返り討ちにした船団から金品をくすねていた事も事実であった為、結果的に海賊の仲間入りを余儀なくされてしまった。
これについて幸いだった事と言えば、尾びれ背びれ付きで広まった噂により、海賊達から略奪を狙った襲撃が激減した事だろうか。
また、海賊船として名を知られはしたものの、馴染みの港では船の実情も知られている為、下手に恐れて敬遠される事もなく、海賊船として知られた事を冗談交じりに揶揄われる程度で済んでいた。
そんなディスティニーアイランド号の生活の種は、商船や客船の護衛と言う用心棒業の他、各地に眠る財宝を発見し、売りさばく事だ。
しかし、財宝等と言うものはピンからキリまで様々で、そもそも本当に存在するかどうか曖昧なものも多い。
これは確かな情報だから、と仕入れたものさえ、行ってみたらガセであったり、盛った話であったり、先に取られた後だったりと言う具合だ。
金貨が数枚入った袋でも落ちていれば上々、と言う事も珍しくはない為、ディスティニーアイランド号は、基本的に貧乏海賊船である。
ごく小規模な人数しかいないので、なんとかやって行ける、と言う塩梅であった。
だから時には、広義で言う略奪行為も行う。
ただし、その対象は、専ら打ち棄てられた廃船である。
怪物に襲われたか、大湿気にやられたか、沈没は免れたが走行不可能となった船に忍び込み、取り残された金品を持ち返るのだ。
上がりは決して大したものではないが、極稀に、掘り出し物を見つける事もある。
何処かの国に運ばれる筈だった宝石付の装飾品や、どう考えても真っ当な商売で稼いだとは思えない金貨或は金塊の山など、キナ臭いものもあるにはあるが、深く気にするものは少ない。
余程危なそうなものは諦めるが、そうでなければ一通り浚い、次の港で売り払って生活費に回している。
今日もディスティニーアイランド号は、そんな具合で廃船に忍び込んでいた。
廃船はぎりぎりの所で沈没を免れたと言う風体で、次に湿気にあったら間違いなく沈んでしまうだろう。
幸い、今日は海の遥か向こうまで青空が見渡せる程に晴れていた。
なれば今の内にと、数人で手分けして船の中を見回った。
探検気分の足音を鳴らしながら、船内廊下を歩くのは、ディスティニーアイランド号の船長のソラである。
低めの身長と、まだ丸みの残る顔の輪郭を見れば、彼がまだ二十も数えない少年である事が判るだろう。
全くその通りで、彼は今年の誕生月に十四歳になったばかりであった。
そんな彼が船長となったのは、殆ど成り行きと、少年特有の自己主張の強さから来た我儘であったが、案外と、これで海賊団は上手く回っている。
一味で最年少ながら勇気があり、不思議と人を引きつけ、引っ張って行く力がある。
幼さ故に暴走しがちな面に関しては、年上の仲間達が諌めたり宥めたりと、面倒を見る事で惨事を回避していた。
廊下を進むソラの歩調は、うきうきと楽しげだ。
廃船の廊下は、あちこちに血飛沫が散り、ホラーさながらの景色であったが、ソラはあまりそう言うものに物怖じしない。
寧ろ、何が出るかな、とわくわくするタイプだ。
今回もそうした好奇心が働いているのは確かであったが、浮かれる足元の理由は、もっと他にある。
(何かあると思うんだよなー。何か)
それは、全く根拠のない自信であった。
この廃船を見付けた時から、ソラはそんな気がして堪らない。
だから、海賊船に襲われた後だと見て取れたこの廃船を調べようと言い、めぼしい物はないだろうと言う仲間達を押し切って、此処へ来たのだ。
我儘を押し通した代わりに、船を調べるのは二時間まで、それまで探しても何も見つからなければ直ぐに出発する事を約束している。
懐中時計で残り時間を確認しながら、ソラは廊下に連なる部屋を一つ一つ確認して行く。
略奪の痕跡を其処此処に残す船内は、場所によっては酷く凄惨な有様で、亡骸が折り重なっている事もあった。
目も当てられない惨状が広がる有様を、平然とした顔で通り過ぎて行く少年の様は、異常に映るかも知れない。
が、成り行きとは言え海賊と言う稼業に身を置く以上、嫌が応にも慣れなければならない事はあるのだ。
それでも、時折目に付く子供の亡骸や、赤ん坊を抱えたまま血の海に伏している母親の姿は、胸を痛くさせる。
廊下に並ぶ部屋を一通り確認したソラは、行き止まりの階段を下りて行った。
残り時間は半分となり、一緒に探索に来た仲間達は、既にめぼしい場所は調べ終えているだろう。
そしてソラはと言うと、船を見付けた時の直観はなんだったのか、とそろそろ自分の勘を疑い始めている。
それ位、船内は想像通りの有様で、これで何を見付けようと言うのか、と今更ながら疑問が沸いて来た所であった。
「うーん……もうちょっと下かなあ……」
そこそこ大きな客船であったらしい廃船の階段を、下へ下へと下りて行く。
そろそろ船底と言う所で、ソラは暗くなっている廊下を見た。
じっとりと湿気を含む廊下には、やはり血の後が残っている。
廊下を塞ぐ骸を跨ぎ避けて、ソラは奥へと進んで行った。
「こんな所まで追って来てるとか、酷いなあ」
他人事のように呟いたソラの視線の先には、開いたドアの敷居の上に倒れ込んでいる、船員と思しき男の姿があった。
背中には大きな傷が走り、それでも逃げようともがいたのだろう、部屋のカーペットを引きちぎった跡がある。
部屋を覗き込んでみると、どうやら食糧庫のようだった。
管理を放棄された所為で漂う腐臭に、ソラは顔を顰め、ドア前を通り過ぎた。
次に足を止めたのは、崩れた樽山が塞いだドアの前だ。
ソラは、むずむずとした感覚を訴える鼻を掻いた後、樽山を退かし始めた。
中身は酒か何かか、ちゃぷちゃぷと音を立てる樽を片付けると、蝶番の外れかかったドアがある。
ドアノブは鍵がかかって回せなかったので、ソラはガンガンとドアを蹴った。
みしみしと板の軋む音の後、ばきん、と蝶番が壊れて、ドアが内側へ倒れる。
もうもうとした埃が舞い上がった其処は、帆布やロープ等、船の整備に必要なものが積み上げられていた。
(そういや、補修用の帆布が少なくなってたなあ。綺麗にすれば使えそうだし、ちょっと貰って行こっと)
ソラは服の袖を捲り上げ、詰まれた帆布を漁り始めた。
山のトップとボトムは、それぞれ湿気をふんだんに吸い、特にボトムの方はカビらしきものも確認されたが、それ以外は問題ない。
所々に穴もあるが、縫えば十分使えるレベルだった。
大き目の帆布を一枚広げ、その中に残りの帆布を詰めていた時だ。
こつ、と靴の踵に何かが当たった気がして、おや、とソラは振り返る。
其処に在ったのは、人の腕だった。
「……え?」
誰もいないと思っていただけに、ソラは一瞬、それが人間の腕であると認識できなかった。
踵をゆっくりと動かして、方向転換し、暗がりの中に落ちている影の形を見て、ようやく理解に至る。
海賊の襲撃から逃げて、此処に隠れた人のものだと言う事は、直ぐに判った。
倉庫の中は、光もない為、非常に暗い。
そんな場所まで海賊達が追って来ていたのだと思うと、同じ海賊業でありつつも、違う方針を持つソラとしては、胸の居心地が悪くなる。
しかも、影の形から薄らと判る衣服が、女性のスカートであると判ったから、尚更だ。
海賊に襲われた船に乗っていた女性が、海賊に捕まった場合、どんな目に遭うのか。
海賊業として生活している中で、ソラは直接見た事はなかったが、年上達から“してはいけない事”即ち戒めとして教えられた事がある。
ディスティニーアイランド号は、元々行き場を失った若者達の寄せ集めであった事もあり、今でも女性船員の姿がある。
彼女達は、ソラにとって姉のような存在だ。
しかし、殆どの海賊船には女性の姿はない。
女性を船に乗せる事を良しとしない風習もあるし、必然的に男の数が勝る船上生活で、生理現象と言う理由で悲惨な目に遭う事も少なくなく、或は女である事を利用して船内に不和が持ち込まれる事もあり────様々な理由で、海賊船の女性は敬遠される。
海賊船に襲われた客船、その船底近くに隠れた女性。
先の男性の骸から察するに、海賊達はこの倉庫まで追って来たに違いない。
暗がりなので女性の有様を確かめる事は出来ないが、この倉庫に海賊達が侵入して来ていたら、彼女がどんな目に遭ったのか、想像に難くなかった。
(……外に出してあげよう)
女性がどんな有様になっているのか、人目に晒す事には抵抗があったが、こんな水底よりも暗い場所で放置されているのが可哀想でならない。
ソラは帆布の一枚を広げ、女性の影を包んでやった。
ゆっくりと体を抱え起こすと、思いの外長身であった事が判った。
ソラは帆布をまとめた袋を首に吊り下げ、女性を背中に背負って立ち上がる。
───と、むにゅ、と柔らかな感触が背中を押して、ソラは思わず顔を赤くした。
(うわああああ)
何せ、十四歳───思春期真っ只中のソラである。
不謹慎と言われそうだが、不意打ちに感じた柔らかさを意識せずにはいられなかった。
ぷるぷると頭を振って気を取り直し、ソラは甲板に向かう。
結局、廃船を見付けた時の感覚の正体は判らなかったが、此処から先は本当に船底しかない。
これ以上は、流石に見る所もないだろう。
女性を背負って、一歩一歩、階段を上っていた時だった。
ふと、とくん、と鼓動が背中を打った気がして、
(……生きてる?)
階段を上る足を止めて、肩に乗せた女性の頭を見る。
傷んだ濃茶色の髪が流れ落ちて、彼女の貌を見る事は出来なかった。
よくよく意識を集中させて、背中の気配を感じ取ってみると、薄らとだが、呼吸をしているのが感じられる。
仲間達が見るに、この廃船は海賊に襲われてから然程時間は経っていないと言う事だった。
管理が放棄されている為、湿気は其処此処に溜まり、食糧も腐り始め、船も襲撃された時のものであろう破損が激しいが、船そのものはまだ傷んではいないとの事。
だから襲撃されて死んだ人々の骸が生々しく残されているのだ。
ならば、その時に運良く逃げ延びた人が、まだ生き長らえていても、可笑しくはない。
ソラは階段を上がる足を速めた。
生きているのなら、早く日の光の下に帰してやりたい。
そんな気持ちばかりが急いて、何度か躓いて転びそうになったが、背中の女性を落としてはいけないとギリギリでバランスを保つ。
甲板に飛び出すと、船内の篭った空気を一気に拭う、涼しい風が吹いた。
はあっ、とソラは深呼吸をする。
きょろきょろと辺りを見回し、仲間達の姿を探すと、
「ソラ!いい加減に時間だぞ」
頭上から降って来た声に顔を上げると、船首楼から見下ろす金糸があった。
太陽の逆光を受けて影になった貌に、ガラスに似た虹彩を宿した碧がある。
ソラの兄貴分であり、部下であり、仲間であるクラウドだ。
「クラウド!人見付けた!生きてる人!」
「何?」
ソラの言葉に、クラウドは眉根を寄せ、ソラが背負った女性を見た。
クラウドは船首楼に集まっていた仲間達を連れて、ソラのいる甲板へと下りてくる。
ソラの下へ集まって来た仲間は、クラウド、ユフィ、ティファの三人だ。
取り残された海賊、或いは錯乱状態の生き残りと遭遇しても、十分に対処できるメンバーで探索に当たっていたのである。
そんな彼等の収穫は、幾つかの金貨や金品で、探索中には骸以外に出逢う事はなかったようだ。
「生きてる人って、本当?」
「意識はあるの?」
ユフィの言葉にソラは頷き、ティファの言葉には首を横に振った。
「息してるし、心臓も動いてるみたいだから、生きてるのは本当だよ。でも、気絶してる。あ、コレ、帆布ね。見付けたから持って来た」
「ありがと」
「ソラ、こっちに来い。此処に下ろせ」
ユフィがソラの首から帆布の入った袋を解いて受け取る。
身軽になったソラは、クラウドの指示に従って、彼が広げた布の上に、背負っていた女性を下ろした。
布は砲台を風雨から守る為に被せていたもので、すっかり汚れていたが、板の上に直接寝かせるよりはマシだろう。
「よっ…しょ……」
クラウドとティファの手を借りながら、ソラは女性を甲板に寝かせた。
力の入っていない首がかくんと傾いて、彼女の貌を隠していた濃茶色の髪がさらりと流れる。
女性は整った貌をしていたが、船が襲われてから長らく気を失ったままなのか、頬はこけ、栄養が足りていない事が明らかだった。
更にソラ達の目を引いたのは、開いた前髪の下に在った、大きな傷痕である。
ナイフか何か、鋭利なもので切り裂かれたと判る傷が、歪に皮膚を繋ぎ合わせる形で残っていた。
此方は古傷なのか、血が出たような痕跡はなく、打ち付けたかと思われる痣が薄らと浮いている程度だ。
クラウドが彼女の首に手を当て、口元に耳を寄せて呼吸を確かめる。
ティファも彼女の胸に耳を当てて、鼓動の音を確認していた。
「どう?」
「……うん、生きてる」
「しかし衰弱も激しいな。ティファ、外傷はどうだ?」
「ぱっと見た感じは見当たらないかな。腕に切り傷がある位。ちょっと化膿してる……でも、ちゃんと手当すれば治る範囲よ」
ティファの言葉に、ソラはほっと胸を撫で下ろした。
しかし、クラウド達の表情は厳しいもので、二人は数瞬目を合わせると、
「クラウド、彼女を船に運んでくれる?」
「ああ」
厳しい顔付のまま、クラウドは女性を横抱きにして立ち上がった。
自分が出来なかった事をいとも簡単に熟すクラウドに、ソラは頬を膨らませる。
それを見たユフィに「何してんの?」と聞かれたが、ソラは「なんでも!」とそっぽを向いた。
クラウドが一足先にディスティニーアイランド号へと帰還するのを見送って、ティファがソラとユフィを振り返る。
「それで、ソラ。貴方が言ってた“何か良いもの”は見付かったの?」
廃船を調べる事を提案した時、ソラは“良いものが見付かる気がする”と言った。
ユフィはそれを信じて、金目のものを求めて船のあちこちを駆け回ったが、収穫はささやかなもの。
後はソラが何を見付けて来るか、と話していた所で、彼はあの女性を抱えて船室から上がって来た。
結局、ソラの収穫と言ったら、女性を除けば帆布のみだ。
へら、と愛想笑いを浮かべて頭を掻くソラに、ティファは眉尻を下げて苦笑し、ユフィはやれやれと溜息を吐いた。
ディスティニーアイランド号で船医役を与っているのは、エアリスだ。
人数の少ない船の中では二番目の年長───と言っても、一番上は40代の男が一人いるだけなのだが───で、一同にとっても姉的存在と言える。
廃船の中で見付けた女性をクラウドから預けられたエアリスは、呼吸や脈拍に異常がないこと、目立った外傷がないことを確かめた後、彼女の衣服を全て脱がせた。
確かめたのは、彼女の躯に性的暴行の痕がないかと言うこと。
あの廃船は、元々は大型の客船で、海賊による略奪行為の末に打ち捨てられたものと見られた。
略奪行為は単純な金品の強奪に留まらず、乗組員、乗船客を皆殺しにしたり、女性を───時には男性に対しても───力づくで暴く輩もいる。
酷い時には複数の男に寄って集って押さえ付けられる女性もいた。
幸い、女性にそうした痕跡は見られなかった。
無論、痕跡がなかったからといって、乱暴された証拠になる訳ではないが、エアリスは一先ず安堵していた。
後は、彼女が目が覚めた時、落ち付かせてから聞いてみれば良い。
幾つかの外傷の手当を施し、調合した栄養剤を注射した後、服を着せなおそうとして、エアリスははたと服の有様に気付いた。
元々は上等な代物であっただろうドレスは、埃は勿論、血の痕を生々しく残し、裾や袖は破れて穴が開いている。
見付けた時の状況を思えば仕様のないことだが、これをこのまま着せ直すのは、同じ女として少し気が引けた。
ユフィかティファに頼んで服を借して貰おう、と思った所で、部屋のドアがノックされる。
「誰?」
「あたしー」
「入って良いよ」
軽く明るい声はユフィのものだ。
許可を貰ったユフィは、入って来ると手に持っていたものを差し出した。
「これ、ティファの服。着替えさせてあげてって」
「ありがとう。丁度、借りに行こうと思ってたの」
気の利く仲間に感謝しつつ、エアリスはユフィの手から服を受け取った。
「手伝おっか?」
「うん。私が起こすから、支えてあげて」
「了解〜」
エアリスがゆっくりと女性を抱き起こし、ユフィがその肩を持って、彼女の体が倒れないように支える。
女性のたわわな胸がたゆん、と揺れたのを見て、ユフィがおお、と目を丸くした。
エアリスが手際良く女性の着替えを済ませ、もう一度彼女をベッドに横たえた所で、部屋のドアがノックなしに開かれる。
「エアリスー。あの人起きた?」
躊躇もなく入って来たのは、ソラであった。
賑やかな声を上げてエアリスに訊ねるソラに、エアリスは眉尻を下げ、ユフィは攣り上げてソラを睨む。
「ソーラ。女の子の部屋に張る時はちゃんとノックしろて言ったじゃんか」
「あ、そっか。じゃあもう一回」
ユフィの注意に、ソラは忘れてたと踵を返し、部屋を出てドアを閉める。
トントン、とノックの音が鳴って「入って良い?」と言う質問。
ユフィは溜息を吐いて、エアリスはくすくすと笑い、どうぞ、と改めてソラの入室を促した。
もう一度部屋に入ったソラは、ベッドに横たわる女性を見付け、
「起きた?」
「まだだよ。当分は無理かな」
「近くに行って良い?」
「うん」
ドア前に立ったまま、遠巻きにベッドを見ていたソラだったが、船医の赦しを貰うと小走りでベッドに近付いた。
「怪我とか大丈夫だった?」
「見た限りはね。大きな怪我もなさそうだったし」
「飯食えそう?」
「それこそ起きてみないとねー」
「いつ起きるかな?」
「判らないね。ずっと気を失ってたみたいだし」
そわそわとした様子で、ベッド端に乗り出すソラ。
ユフィはそんなソラの様子に、にんまりと意地の悪い笑顔を浮かべる。
「どーしたのさ。随分気にしてるじゃん」
「だって俺が見付けたんだし」
「そうだけど。あ、ひょっとしてソラが言ってた“良いもの”ってこの人のこと?運命の人みたいな?」
「へ?」
ユフィの言葉に、ソラはきょとんと目を丸くした。
その隣で、エアリスが「あぁー…」と納得したような声を零している。
「すっごい勢いだったもんねー、調べに行く時とか。あたし達が船の中を一通り見た後も、中々甲板に戻って来なくてさ。この人を見付けたのって船底の方でしょ?おまけに樽で出入り口が塞がれてる所。わざわざそんなトコまで行って見付けて来るなんて、相当だよね〜」
「なっ、何が?相当って何だよ!?」
廃船に近付くまでの経緯から、船の中で女性を見付けるまでの自分の道程を改めて解説されて、ソラは何故だか無性に恥ずかしくなった。
到底見付けることがないであろう場所にいた女性を、わざわざ見付けに行った、と言うユフィに、反論らしい反論が出来ない。
ただの偶然と言えば良いのだが、先に“運命の人”等と言われた所為で、ソラはベッドに寝ている人物の存在が、無性に気になるものになってしまっていた。
「べ、別に俺は、」
「え〜?どうかな〜?わざわざこっちまで様子見に来たりしてさ〜」
「二人とも、声が大きいよ。遊ぶんだったら、外に出てね」
「はーい」
「あっ!逃げるなよ!」
エアリスの注意を受けて、ユフィがそそくさと部屋を出て行く。
ソラも急いでその後を追って行った。
一転して静かになった室内で、エアリスはベッドで眠る女性を見た。
椅子を寄せてベッドの隣に腰を下ろし、女性の目許にかかる前髪を指先で退けてやる。
皮膚の盛り上がりを残す傷は、古傷と言えど、それ程歴史を重ねたものではなさそうだった。
薄らとカサブタも残っているので、完治したのは割と最近のようだ。
エアリスは、じっと女性の貌を観察していた。
疲労の滲む顔色は、決して良くはなく、栄養失調も相俟って青白くなっている。
起きたら精のつくものを食べさせてやるべきだろうが、廃船と発見時の状況を鑑みるに、きっと胃は空っぽだろう。
ティファに頼んで、先ずは消化の良いものを作って貰わなければなるまい。
───と、此処までは、ディスティニーアイランド号で船医役を務める者としての感想だ。
一通りの検分を済ませると、エアリスの思考は個人的な感覚へと向かう。
(……この人、見たことある、かな?)
微かな寝息を零す貌を見つめながら、エアリスは首を傾げた。
誰得な海賊パロディです。世界観としては、中世〜近世ヨーロッパ。某海賊映画のような感じ。
将来的にソラ×レオンになります。