なぞなぞわかるかな 2


いつもなら眠くなる時間だろうに、今日はまだまだ元気らしい。
ベッドの上で、レオンへのなぞなぞを絵本の中から選ぶスコールの目は、ぱっちりと冴えている。


「料理に使うちょうちょってなーんだ」
「料理に使う……それはきっと、ちょうちょじゃないんだろう?ちょうちょは料理が出来ないからな」
「んー…うふふ」


レオンの指摘に、スコールはにこにこと笑っているばかり。
ヒントや答えを出し渋って見せる様子は、テレビのクイズ番組からの影響だろう。
正解か、不正解か、焦らしてドキドキさせる効果を演出しているつもりなのだ。

レオンは腕を組んで考える仕草をして見せた後、


「料理…ちょうちょ…ちょう、……判った、包丁だ」
「当たりー!」


ぱちぱちとスコールが嬉しそうに拍手する。

じゃあ次はね、とスコールが絵本のページを捲ろうとした時、がちゃり、と寝室のドアが開く音がした。
レオンが顔を上げると、頭を摩りながらクラウドが入ってくる。
そして、ベッドに並んで横になっている兄弟を見ると、さっさと自分もベッドに入り込み、レオンの背中にぴったりと密着する。


「……暑苦しい。離れろ」
「嫌だ。スコール、俺にもなぞなぞ」
「やっ」


ぷいっ、とそっぽを向いてしまうスコールに、レオンは背中の男ががっくりと落ち込むのを感じ取った。
スコールはいつも素直な性格だが、意外と頑固な所もあるので、一度ヘソを曲げてしまうと、中々許してくれない。

「凄いって言ってたから答えてたのに…」と、ぶつぶつと呟くクラウドに、レオンは加減をしないからだと言った。
腰に回された腕が、ぎゅうう、としがみ付いて来るのを感じて、仕様のない奴だと溜息を吐く。


「スコール。クラウドも十分反省してるようだから、そろそろ許してやれ」
「……むぅ……」


頬を膨らませ、不満そうに見つめる蒼灰色を、クラウドが縋るように見詰める。

ガラス玉のような色合いをした碧眼が、スコールは好きだ。
だから、その綺麗な瞳が悲しそうにしているのは、見たくない。
なぞなぞの事だって、クラウドは答えが判ったから答えていただけだし…と考えて、


「うん。もう怒ってない」
「よし、いい子だ。ほらクラウド、お前もちゃんと謝れ」
「悪かった、スコール」


レオンに促されて詫びたクラウドに、スコールは起き上がって、レオンの肩口から顔を覗かせているクラウドに顔を寄せる。
仲直りの印、と頬を当ててすりすりと頬擦りする小さな子供に、レオンは密着した男が至福の絶頂を迎えているのを感じていた。

クラウドがスコールの頭を撫でると、スコールはくすぐったそうに笑う。
それを見て、クラウドは安堵したようにほっと息を吐き、


「スコール。お詫びに俺からなぞなぞを出そう」
「なぞなぞ?何?どんなの?」


破顔して食い付いたスコールに、クラウドはそうだな…としばし考えて、


「男の子と女の子がピッタリくっついてある事をして、さらに終わった後に、女の子が男の子に“大きい”と一言。さて、二人は何をしていたでしょう」
「……う?」
「クラウド!!!」


首を傾げるスコールの傍らで、跳ね起きたレオンの拳が、クラウドの頭頂部をあらん限りの力で殴りつける。
特大のタンコブを作ってベッドに沈むクラウドから、レオンはスコールを庇うように背に隠した。


「お前っ、子供になんて問題出してるんだ!」
「…何言ってるんだ、レオン。これは単なるなぞなぞだぞ?」
「内容が悪いと言ってるんだ!」


頭を摩りながら起き上り、弁明するように言ったクラウドに、レオンは怒鳴る。

スコールは、珍しく声を荒げる兄の姿に、きょとんとした表情を浮かべている。
スコールには、兄がどうしてこんなにも怒っているのか、まるで理由が判らないのだ。
今のなぞなぞに何か悪い所があるのか、思い返してみても、やはり判らなくて首を傾げるばかり。
ついでに、なぞなぞの答えも判らない。


「スコールもきっとした事があるぞ。ちなみに一文字目は“せ”で、三文字目は“く”だ」
「有る訳ないだろう!」
「うー…判んない。答え、何?」
「なんだ、判らないのか」
「判らなくて良い!」
「なんで?お兄ちゃん、答え判ったの?」


レオンの叫びに、スコールはことんと反対側に首を傾げた。
それを見て、レオンはぐっと言葉を詰まらせる。

言えない。
答えも、それを言えない理由も、言える訳がない。
だってスコールはまだ小学生になったばかりで、子供で、何も知らなくて、本当に純真なのだ。
そんな弟に、この問題の答えを教える訳には──────

真っ赤な顔で言葉を失ったレオンに、兄の心中を知らない弟は、不思議そうに首を傾げるばかり。
クラウドはそんなスコールと目を合わせ、


「答えは“背比べ”だ。やった事ないか?」
「ある!……僕、女の子よりちっちゃかった…」
「そうか。じゃあ、俺の問題の出し方が悪かったな」


眉尻を下げて言ったスコールに、クラウドは慰めるようにぽんぽんと頭を撫でてやる。
それから、赤い顔で呆然としているレオンを見て、


「レオンは、答え、なんだと思ってたんだ?」


にやにやと意地の悪い笑みを滲ませて言ったクラウドに、レオンの顔が沸騰したように耳まで赤くなった。
それを見たスコールが、また不思議そうに見つめて来るから、レオンは益々恥ずかしくなる。

なんでもない、と言って二人から目を逸らした兄に、スコールはどうしたんだろう、と首を傾げる。
お兄ちゃんどうしたの、と言っても、兄もクラウドも、何も教えてはくれなかった。
誤魔化すようにクラウドに頭を撫でられて、スコールは不満げに唇を尖らせたが、


「どうだ、俺のなぞなぞ。まだ一杯あるんだが」
「一杯?」
「ああ。やるか?」
「やる!」


正に今、なぞなぞブーム真っ只中のスコールにとって、この誘惑は魅力的だった。
兄もそっぽを向いたままこっちを見てくれそうにないし、なんだか赤い顔をしているから、ひょっとしたら少し気分が悪いのかも知れない。
あんまり構って構ってと言うのも良くないだろうと思って、スコールはクラウドに飛び付いた。

─────その無邪気さが、この夜、長くに渡って兄を苦しめる事になるのだが、幼い子供には判る筈もない話であった。





2013/02/02