欲しい形の探し方


 縺れるようにしてベッドに雪崩れ込むのが、お決まりになりつつある。
サイファーとしては、もっとロマンチックな雰囲気にして、甘く蕩けるように柔らかく真綿に包むように愛してやりたい、と思う。
けれども、そう言う雰囲気に持って行くには、どちらも素直になれない時間が長過ぎた。
半ば強引にこうした事を始めなければならなかった位には、その時間は二人の間に染み付き過ぎていて、今更どうにもならない所まで来ている。
序に、今更それをどうにかしたいのかと言われると、別に、と言う言葉がどちらともから出て来るので、やはり二人の間の空気は、映画にあるようなラブロマンスとは遠く果てしないのであった。

 それでも初めて体を重ねてから、三度目の褥を迎えている。
なんだかんだと噛み付いて来る、可愛くない恋人をベッドシーツに押し倒して、首元に柔く噛み付くのが合図。
いやいやと子供のような駄々を繰り返していても、進めて行けば段々とその瞳は熱に溺れて行く。
どうにも理性が強い性格である事や、触れ合う事への恐怖感が消えない所為だろう、中々彼はサイファーに身を委ねてくれない。
それでも、理性が飛ぶ所まで蕩けさせてやると、やっと少しだけ素直になってくれる。
其処まで行くと、至るまでのあれやこれやはどうでもよくなって、サイファーは一心不乱で彼の中を掻き回してやった。
慣れない快感と痛みで、彼はいつも泣くけれど、縋る腕の力は緩まない。
奥に穿って其処に劣情を吐き出して、やっと縋る腕の力が失われるのだ。

 今夜も、また。


「…っは…く……っ!」
「あ、あ……んんんっ!」


 ぎり、とサイファーが歯を噛んだ後、どくん、とスコールの中で雄が脈を打つ。
その直後、サイファーはスコールの中へと熱い迸りを注ぎ込んだ。
スコールは赤らんだ四肢をビクッビクッと弾ませながら、サイファーの欲望を受け止める。

 射精を終えたサイファーがゆっくりと腰を引くと、擦られた内肉が小刻みに痙攣しながら、出て行こうとする雄を締め付ける。
引き留めるような我儘な動きをする媚壁に、サイファーの果てたばかりの熱がまた昇ってくる───が、流石に今日は疲れている。
やはり、任務から帰還したその日の内と言うのは、欲望よりも疲労の方が色濃くなる。

 雄を咥え込んでいた穴が解放されると、中に注がれていたものが、とぷりと溢れ出した。
その感触にふるりとスコールの体が震え、甘い吐息が零れる。


「んぁ…っは……あ……っ…」


 溢れる場所からじわじわと、滲むような感覚が上って来るのを嫌って、スコールが体を捩る。
シーツの波の中で、悩ましげに踊るその肢体が、まだ覆い被さっている男を煽っている事を、彼は未だに知らない。

 サイファーは重い体をベッドから起こすと、キッチンへ向かった。
汗でセットの乱れた髪を掻き上げつつ、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルを取って寝室へ戻る。
スコールはまだベッドの上で荒い息を整えている最中で、指一本と動かす事も出来ないようだった。


「おい、起きれるか」
「……うー……」


 サイファーに声を掛けられ、スコールは唸りながら眉間に皺を寄せる。
投げ出していた腕を持ち上げて、サイファーに向けて差し出した。
起こせ、と言う命令に、サイファーはやれやれと溜息を吐きつつ、その腕を握り、肩を掴んで、抱き起こしてやる。
上半身を起こしてやると、サイファーは枕を背凭れにして、スコールを寄り掛からせた。


「飲んどけ」
「……ん……」


 見せたペットボトルを、スコールは視線を向ける事もなく、受け取る。
一挙手一投足が面倒臭いと言わんばかりの緩慢な動きで、スコールはペットボトルの蓋を開けた。
二人の唾液で濡れた痕の残る唇が、ペットボトルの飲み口を食んで、こくこくと喉が鳴る。
喘ぐばかりで乾いた喉を一頻り潤した後で、スコールは残りをサイファーへと渡す。


「っは……はあ……ふぅ……」


 口端から伝う水滴を拭いながら、スコールは膝を立てて、膝の上に頬を置いた。
くぐもった呼気は、隣に座ったサイファーが水を飲んでいる間、静かに続いていた。

 サイファーの喉が潤され、散々掻いた汗が肌に張り付いたまま、ひんやりとした気配を帯びて来る。
自分よりも汗だくになっていたスコールも同様だろうと、サイファーは雪崩れ込んだ時に蹴り落していた(蹴ったのはスコールだ)上掛けを拾う。
ベッドから落ちていたお陰で、それは染みやら何やらとは無縁で済んでいる。
どうせなら風呂に入った方が良いのだろうが、任務帰りと、その直後の昂ぶりのお陰で、もう体は限界だ。
どうせ明日は昼まで出なくて良いのだから、風呂は起きた時に入れば良い、と明日の予定を立てていると、


「……納得行かない」


 ぽつりと隣で呟かれた言葉に、またか、とサイファーは思った。
思った通りに、その言葉は口をついて音になる。


「またかよ」
「納得行かない」
「しつけえな」


 同じ言葉を繰り返したスコールに、サイファーは溜息を吐く。
その音を聞いて、スコールがじろりと此方を睨んだ。


「あんたばっかりずるい」
「何回目だ、その話」
「何回だってしてやる」


 面倒臭いと言う表情を隠さないサイファーに対し、スコールは射殺さんばかりの眼力で睨み続ける。
今すぐにでも噛み付きそうな雰囲気であったが、疲労の蓄積で体が動かないのだろう、睨むばかりでそれ以上の事はしなかった。
その分、お喋りな瞳から放たれる抗議のオーラは鋭く重く、負けず嫌いと相俟って、サイファーにとって非常に厄介な空気になっている。


「どうしていつも俺が下なんだ」


 スコールは鬱々とした表情で言った。
背中を睨む気配を感じながら、サイファーはきっぱりと返す。


「言っただろ。俺がお前を抱きたいからだ」
「逆でも良いだろ。俺にだってその権利はある」


 言い返すスコールに、サイファーはまた溜息が漏れた。
この遣り取りも、もう何度目になるだろう。
本当に諦めの悪い奴だと、判りきってはいたが、こうした場面では改めて面倒臭い性格の恋人に、苦い表情も出ると言うものだ。


「最初に訊いただろ。お前は俺を抱きたいのかって。お前、 真面に答えなかったじゃねえか」
「…その時は、そうだったけど。今は────」
「抱きたいのか?俺を?お前が?」
「………」


 詰め寄る形でサイファーが問いを投げると、スコールは押し黙ってしまった。
ちらりとサイファーがスコールの顔を覗くと、蒼灰色は真剣な色をして足元を見詰めている。


(正直な奴)


 この質問を投げて、スコールが即答した事はない。
短くても数秒間は考え込み、なんとも複雑そうな顔をするのが常だった。
嘘でも「サイファーを抱きたい」と言えない所が、ある意味では彼の本心を指していると言っても良いのだが、それはそれとして、自分が女役ばかりをする事については得心していないのも確か。
そもそも精神的な繋がりから肉体的な繋がりも持つに至る時、自分の気持ちや覚悟が碌に固まっていないまま、半ば一方的な勢いで上下が決まってしまった事も、スコールには未だ燻る所があるのだろう。

 魔女戦争が終わり、サイファーがバラムガーデンに戻って来てから、諸所あって二人の関係は今に至る。
肉体関係を持つようになったのは、ここ一ヵ月の話で、それを促したのはサイファーだった。
スコールは元々、物理的な繋がりと言うものに極端に不安思考が働く所があるからか、精神的な繋がりだけで満足しているようだったが、サイファーはそうではない。
子供が真似をしているだけの、飯事のような色恋などサイファーは望んでいなかったし、好きなら手に入れて愛して蕩けさせてやりたい、と思う。
戦場で刃を手に相対していた時とは違う、腕の中に閉じ込めて自分だけのものにしたいと言う欲求を、サイファーは隠さなかった。

 とは言え、サイファーは一応待ったつもりなのだ。
スコールの性格は、本人以上によく知っているから、変な刺激の仕方をして、臍を曲げれば厄介になる。
下手をすれば、スコールのトラウマとなった『大事な人との別離』を想起させ、スコールを不安定にさせてしまう可能性も理解していた。
だからサイファーは、サイファーなりに、時期を見極めていた。
恋人同士と言う関係になってから、神経質で繊細なスコールは、しばらくの間、不安定な所があった。
彼は幸福的な感覚に対し、安心よりも不安を抱く所がある。
それも幼少期の出来事が原因で、心の一番柔らかい場所に根を張ってしまった、彼なりの防衛本能なのだから仕方がない。
それが落ち着き、『サイファーと恋人同士になった』と言う事実を、スコールが空気のように受け取るようになるまで、サイファーは辛抱強く待ったのだ。
……体の関係を持つ事を促したサイファーの行動は、スコールから見ると唐突だったように見えるだろうが、事実はそうではないのである。

 だが、幾ら待ったとは言え、それはサイファーの話だ。
スコールは精神的な繋がりにようやく慣れた所で満足していた。
男同士である事、傭兵と言う職業環境もあって、それ以上の事を望む必要があると、考えもしなかったのだろう。
それを急に引っ繰り返され、あれよあれよと褥に捻じ込まれた訳だから、強行したサイファーを恨みたくなる気持ちも判る。
判るが────、


(いい加減、面倒臭ぇな)


 上下のポジションを、サイファーは譲るつもりはなかった。
元々サイファーはスコールを抱きたいと思っていたし、二回目以降もそれは変わっていない。
寧ろ、自分の手で喘ぎ乱れ果てるスコールを見る度に、もっと貪りたいと言う凶暴地味た衝動にも襲われる。
やっぱり俺がこいつを食うんだ───と、サイファーは雄の本能でその衝動を受け入れていた。

 だからサイファーにとって、現在のポジション関係は、何も問題はないのだ。
それに対してスコールが諦め悪く噛み付いて来るので、段々とあしらうのも面倒になって来る。
既にサイファーの頭の中は、スコールをどうやって宥めるかよりも、どうやって黙らせるかと言う方向へとシフトしていた。

 考え込んでいたスコールの視線が動いて、瞳がサイファーを捉える。
じい、と見つめる双眸に、サイファーは懐かない猫に観察されているような気分になりつつ、再度問いかけた。


「で、俺を抱きたいのか?」
「……だ、……抱き、たい」
「嘘付け」
「嘘じゃない!」


 詰まりながら、視線を逸らしながら答えたスコールを、サイファーは一刀両断した。
直ぐに反射のように大きな声が返って来たが、サイファーが動じる筈もなく。


「お前、もう少し上手く嘘が言えるようになってから言えよ、そう言う事は」
「嘘じゃない。勝手に嘘扱いするな」
「じゃあもう一回答えろ。俺の顔を見ながらだ」
「なん…で、そんな事」
「嘘じゃねえなら出来るだろ。おい、言ってる傍から目逸らしてんじゃねえよ」


 そわそわと視線を彷徨わせた挙句、明後日の方向に首を巡らせてしまうスコールに、こんな奴が指揮官で大丈夫なのか、とサイファーは呆れずにはいられない。
魔女戦争の終結以来、バラムガーデン擁するSeeDの代表看板として、各国で行われる催事に引っ張り出されるようになっているスコールだが、食わせ者だらけの社交界で、真面に渡って行けるのか。


(まあ、俺の前だからってのもあるか?)


 スコールが余りに素直過ぎて見えるのは、サイファーの視点だから、と言うのは大いにある。
子供の頃から見ているから、スコールの癖は全て知っているし、彼自身が知らない事も知っているし、覚えている。
そう言った複合的な情報量と、相手がスコールであるなら本能のようにその言葉の裏を読み取る事に長けたサイファーだから、スコールが隠し事をしても無駄なのだ。

 そう思うと、サイファーの機嫌は少しばかり上に向かうのだが、だからと言って駄々を捏ねる恋人に絆される訳にはいかない。
サイファーはスコールを抱きたいのだから。

 しかし、スコールは頑固だ。
負けず嫌いだし、往生際も悪い。
特に気に入らない事、自分が納得できない事に関しては、自分が納得できない限り受け入れない。
任務絡みであれば、刷り込みのように教育された意識があるので、私情は抑え込む(胸中は非常にお喋りな抗議をしているが)事が出来るのだが、褥の中ではそれは関係ない話だ。

 サイファーの詰問から逃げるように目を逸らしていたスコールが、うんざりした様子で苦い顔をしながら言った。


「良いだろ、一回位。変われよ。ちゃんとあんたも良くしてやるから」
「童貞が何粋がってんだ」
「どっ……!」


 呆れた顔でサイファーが言ってやれば、スコールは一気に顔を赤くする。
そんな初心な反応をする癖に、意地ばかりは折れないスコールに、サイファーはやれやれと肩を竦めた。


「……判った。じゃあ次にヤる時は、勝負しようぜ」
「勝負?」


 鸚鵡返しで首を傾げるスコールに、サイファーは「ああ」と頷いて、


「お互いに弄り合って、先にイった方が下で決まりだ」
「……それ、その後も有効か?次の時だけ?」
「毎回勝負するのも情緒がねえだろ。次だけだ。で、どっちが上か下かの話はそれで終わり」
「…あんたが下になったら、」
「その次も下になってやるよ。お前が俺をイかせられたらな」


 それが出来たらの話だが、と露骨な含みを持たせたサイファーの台詞を、スコールは正確に理解した。
むっと唇を尖らせ、眉間の皺を深くして、蒼灰色が翠を睨む。


「絶対負けないからな」
「啼かせてやるから楽しみにしとけ」


 睨むスコールと、舌を出して挑発して見せるサイファー。
サイファーの濡れた舌を見て、その舌でついさっきも果てた事を思い出して、スコールの背中にぞくりとしたものが奔る。
それを頭を振って誤魔化すスコールを、サイファーはにやにやと眺めるのだった。




 次の時は───と言う話はしたが、そのタイミングまでは少々の間があった。
サイファーは舞い込んできた大量の魔物退治に就かされ、スコールは人手不足の為に次々と任務を寄越されて、とてもゆっくり出来る状態ではない。
先に任務が終わったのはサイファーで、一週間を現地任務に費やし、往復の道程で延べ二日。
スコールは細々とした任務であったので、現地任務は一日もなく終わるのだが、ガルバディアにドールにトラビアにと、息つく暇もなく任務地の移動をしていた。
ほぼ移動に時間を費やされたスコールは、帰って来た時にはすっかり電池切れになり、自室に着くとそのままの格好でベッドに沈んだ。

 結局、二人が同じ夜を共にする事になったのは、前回から数えて十日目の夜だった。
補佐官をしているキスティスとシュウは不在であった為、代わりにニーダから明日一杯まで休みが配されている事、報告書は明後日に提出してくれれば良い、と言う旨をメールで聞かされた。
それなら幸いだと、二人はそれぞれ日中は寝倒し、夜になってスコールがサイファーの部屋を訪れた。

 サイファーがパソコン端末でキーボードを叩いている後ろで、スコールはベッドに座ってノートにペンを走らせていた。
共に書いているのは任務の報告書だ。
サイファーは書き終わればプリントアウト、スコールは部屋に帰った時に自分のパソコンに書き写すつもりだった。
スコールが自分の端末を持ってきていれば、書き写すと言う二度手間をしなくて良いのだが、今回のスコールの報告書は複数ある。
任務地の移動中、メモに残した記録を整頓しておかないと、提出用の報告書の記載が滅茶苦茶になりそうだったのだ。

 複数枚に渡った報告書用の記録に、書き間違いがないかスコールが確認していると、サイファーがパソコンを閉じた。
凝った首をコキコキと鳴らしながら解し、固まった背中を伸ばして、サイファーが席を立つ。


「あー、終わった終わった」
「……俺も」


 最後の一枚を一番下まで目を通して、スコールもノートを閉じた。

 どさり、とサイファーがベッドに腰を落とす。
体格の良い男が、自身の体重を全く気にせず落としてきた事に、ベッドがぎしりと抗議の音を立てた。


「ったく、面倒な任務だったぜ」
「あんたはマシな方だろう。動き回らなくて良かったんだから」
「お前に比べりゃそうかも知れねえが、こっちも大変だったんだよ。依頼主からの情報が間違いだらけで、振り回されたんだ。その辺も報告書には書いたから、ちゃんと目を通してくれよ、指揮官サマ」
「気が向いたらな」


 スコールの返しに、おい、とサイファーが睨む。
構わずスコールはサイドボードにノートを置いて、くるりと体ごと向き直り、


「そんな事より。あんた、忘れてないだろうな」
「何が」
「今日、俺があんたを先にイかせたら、今後はあんたが下になるって話だ」


 惚けるな、忘れたなんて言わせない。
蒼灰色の瞳が、そんな圧力を滲ませながら近付いて来るのを、サイファーはいつもと変わらない顔で眺めていた。


「忘れてねえよ。俺がお前をイかせたら、お前はもう文句を言わねえって事もな」


 しっかりと釘を刺しに返すサイファーの言葉に、スコールは眉間の皺を深くする。

 じゃあ始めるか───とサイファーが合図を切る前に、スコールが服を脱ぎ始めた。
いつもベッドに入るまでなんだかんだと抵抗をしているスコールだったが、今日は恥ずかしがる事も、サイファーの手を借りる事もなく、自分から裸になって行く。
ぽいぽいと脱ぎ捨てて行く姿に、サイファーは雰囲気はねえなと思いつつも、積極的なのは結構な事だと自分も服に手をかける。

 全てを晒した格好になると、二人とも既に勃ち上がっていた。
任務で長期間に渡って緊張状態が続き、処理などする暇もなく過ごしていたのだから、溜まっているのは当然だ。
となれば、少しの刺激でも出てしまうかも知れない。
これは、相手をどう攻めるかよりも、自分が何処まで耐えられるかが肝かも知れないな、と二人の思考は一致していた。


「───で、どっちからどうする?お前、先にしてみるか?」
「……する」


 サイファーが促してみると、スコールは乗った。
普段はサイファーの方が先手を取って来るから、今日は自分が先手を取りたい、と言った所だろうか。

 サイファーが壁に背を預けて胡坐を掻くと、勃起した雄が堂々と主張された。
一目見て判る程の膨らみ様に、スコールは喉の奥を鳴らしつつ、恐る恐る手を伸ばす。
弱い力で竿を握ると、ぴくり、と竿の天辺にある頭が少し震えたのが判った。


(大きい……)


 握ってみると尚更、サイファーの大きさと言うものが感じられる。
いつもこんなものが自分の中に入っているのか、と思うと、怖いような不思議なような気がした。

 手の中のものを、緩く握ったまま、まじまじと観察しているスコール。
サイファーはその様子を眺めながら、じわじわとした熱が下腹部に溜まるのを感じていた。


(そういや、俺のをこいつが触るのは初めてだな)


 何度か体を重ねている内、スコールの体もごく僅かずつではあるが、サイファーを受け入れる事を覚えつつある。
しかし、スコールの心の方はと言うと、まだまだ初心であった。
元々性的経験もなかったし、サイファーとの肉体関係も、あれよあれよと始まったようなものだ。
どうしてもスコール自身にセックスへの積極性は育たず、行為が始まると決まって初めは抵抗するので、スコールからサイファーに対し何かをする、と言うのはこれが初めての事だった。

 性的経験の少ないスコールだが、自慰行為の経験は人並程度にある。
相手が男なら、自分を慰める時と同じようにすれば、刺激になるだろう。
そう思って、スコールはサイファーの雄を手で扱き始めた。
握ったものの状態を観察するように、じっと見つめながら、手を上下に動かしてサイファーを昂らせようとする。
手の中でドクン、ドクン、と脈を打つ感触が妙に生々しくて、スコールは零れそうになる吐息を隠す為、唇に力を入れて噤んでいた。


(…段々、大きくなってる、気がする……)


 竿の上半分を集中的に扱いている内に、雄は更に膨らみを増して行き、頭はすっかり起き上がった。
頭と竿の境目を指先で擦ってみると、ぴく、とサイファーの肩が揺れる。
スコールがちらりと男の顔を見遣れば、まだまだ余裕、と言う表情があった。
が、対の傷がある額にじわりと汗が滲んでいるのを見て、スコールの気分が判り易く上向く。


「あんた、感じただろ」
「そりゃあな」


 其処はそう言う場所だから、とサイファーはスコールの挑発に対して返す。
その余裕顔を崩してやる、とスコールは竿を扱く手を速めた。

 サイファーの崩れないペースが、スコールに火を点けた。
片手だけでは刺激が足りないんだと、左手で雄の下半分を握る。
揉むように力を抜き入れしながら、上の方を擦った。
さっき反応があった所は、と思い出しながら、頭と竿の境目を指の腹で強めに撫で往復させると、腹筋の浮いたサイファーの腹が戦慄くのが見えた。

 手の中で脈打つ雄の熱を感じながら、スコールは手淫を続けて行く。
じっとりとした汗の感触が掌に滲んで来ると、スコールの鼻から漏れる呼気が荒くなっていった。
サイファーが興奮している、昂っている、と言う事実が、スコールの熱も煽って行く。

 しかし、サイファーの雄がそれ以上の反応を見せる事はなかった。
スコールの与える刺激により、ピク、ピク、と竿が震える様子はあり、鈴口からもじわりとしたものが滲んでいたが、射精には至らない。
思うようにはいかない他人の反応に、こんなに難しいのか、とスコールは唇を尖らせていた。
自分がサイファーに触られている時はもっと───と過ぎる記憶に、自身の下部がふつふつと膨らんでしまう。
その感覚に対抗するように、もっと何とか出来ないか、と考えようとしたスコールだったが、


「そろそろだな。替われよ、スコール」
「まだ」
「残念、時間切れだ」
「そんなの設定してないだろ」
「いつまでもお前がやってちゃフェアにならねえだろうが」


 自身を握っていたスコールの手を、サイファーの手が掴み、やんわりと離させる。
スコールは納得の行かない顔でサイファーを睨んでいたが、渋々と言う様子で従った。

 今度はサイファーがスコールに触れる番だ。
スコールはサイファーの隣に移動して、壁に背を預けて座った。
サイファーが壁から離れ、スコールの前に座る。
先とは真逆のポジションだ。
いつもの形と言えば確かにそうで、サイファーが口角を上げてスコールの顔を覗き込んでやれば、スコールはきゅっと唇を噛んで判り易く構えていた。


「おら、足開け」
「!」


 サイファーは立てられていたスコールの膝を掴むと、ぐいっと強引に股座を開かせる。
足で隠されていた局部が晒されると、勃起した雄が顔を出す。
今日はまだ一度も触れられていないのに、汗を掻いているスコールのそれを見て、サイファーの目がにやりと笑う。


「お前も気分は良さそうだな?」
「んっ……!」


 きゅ、とサイファーの手がスコールの雄を握る。
ビクッと震えるスコールの顔を眺めながら、サイファーは先端を爪先でくりくりと弄り始めた。
柔らかく痺れるような電流が腰全体を覆う感覚に、スコールの噤んだ口から、甘い音が漏れる。


「ん、ん……っ、ふ……っ!」


 何度かスコールを抱いているサイファーは、スコールの弱点と言うものを理解している。
先端をくすぐり、其方に意識が持って行かれている間に、中指で竿と頭の境目を擦る。
不意打ちになって与えられた重なる刺激に、スコールはふるふると体を震わせながら耐えた。


「ふ、く……ん……っ」
「お前はこの辺が好きなんだよ」
「……っ…!」


 挑発するように囁くサイファーに、スコールは赤らんだ顔でじろりと睨む。
それを崩してやろうと、サイファーが鈴口をぐりっと穿ってやれば、「んぅっ!」とスコールの体が跳ねる。

 サイファーの手の中で、スコールの中心部は痛いほどに膨らんでいた。
それを包み込んで竿の根本から天辺までを満遍なく扱いてやると、スコールは迫る感覚に耐えようと、ベッドシーツを強く握り締める。
開かれた足の爪先が、サイファーの後ろで滑らかなシーツの波を蹴る音が聞こえた。

 弱点を捉える事、攻める事に慣れているサイファーの手に、スコールは既に翻弄されていた。
少し伸びて尖った爪先が、局部の薄い皮膚を撫でるように引っ掻くだけで、スコールの背中にぞくぞくとしたものが這う。
スコールは精一杯唇を噤んで、なんでこんなに、と困惑していた。
一週間以上の緊張状態での禁欲生活を強いられていたから、と言えば確かだが、それはサイファーも同じことだ。
サイファーはけろりとした顔をしていたのに自分は───と快感に反応する事を覚えさせられた自分の有様に、スコールは悔しくなる。
だが、そんな思考も、サイファーの指が鈴口をくりゅっと苛めただけで、


「んふぅっ!」


 ビクンッ、とスコールの体が判り易く跳ねた。
ふっ、ふっ、と漏れる呼吸を必死で堪えているスコールの目に、にやりと笑うサイファーの顔が映った。


「イったか?」
「……って、ない……っ」
「そりゃ残念」


 少しも残念には思っていない声で、サイファーは言った。
ぐりぐりと頭全体を掌全体撫で回すように刺激され、スコールは目一杯の力でシーツを握り締める。

 全身に力を入れていないと、直ぐに果ててしまいそうだった。
それを天井を仰ぎながら耐えるスコールの姿に、サイファーの悪戯心がむくむくと膨らんで行く。
サイファーはそろりと体を前に傾け、スコールの胸元に顔を近付けた。
其処には色付いた果実があり、心なしか蕾のように固くなっている。
それに軽く歯を当てて噛んでやれば、気配に気付いていなかったスコールは思わず「ひんっ!?」と高い声を上げた。


「あっ、な…っ!」
「ん」
「ふくぅ……っ!」


 眼を白黒とさせているスコールの胸を、ちゅう、と吸ってやれば、スコールは背筋を反らして悶えた。


「んっ、うっ……!ちょ……っ、サイ、ファー……っ」
「なんだよ」


 返事の為に一度口を離した後、またサイファーは吸い付いた。
ぷっくりと膨らんでいるそれを舌で転がしてやると、スコールはいやいやと頭を振る。


「そんな、とこ……んっ、触るなんて、聞いてない……っ!」
「駄目なんて話はしてねえだろ」
「そこで…あっ、喋る、なぁ……っ!」


 胸元に唇を寄せたままサイファーが喋るものだから、吐息がかる度、スコールは反応してしまう。
ずるい、と青灰色の瞳が抗議に睨んだが、乳首を食まれ、竿をゴシゴシと扱かれると、直ぐに蕩けてしまった。


「ふっ、ふっ、あ……っ!んんぅう……っ!」


 スコールは手が白むほどシーツを強く握り締め、仕切りに体を捩って、与えられる快感を逃がそうとする。
体は刺激そのものから逃げたがっていたが、背中は壁にぴったりとくっついていて、これ以上逃げ場がない。
スコールはサイファーの手で与えられる快感に、只管耐えなければならなかった。

 攻守交替してから、どれ程時間が経ったか。
サイファーがちらりとデスク上の時計を見遣ると、十分が過ぎていた。
先にスコールが攻めていた時と凡そ同じ程度の時間は流れた筈だが、乳首を食まれたスコールはその事に気付いていない。
スコールは眼を閉じ、必死に口を噤み、其処が最後の砦のように守り、耐え続けている。
しかしスコールの中心部は、サイファーの手の中でビクビクと震えており、後少し刺激を与えてやれば上り詰めてしまうだろう。
それまでサイファーが攻め続けても良かったが、フェア云々を一度でも言った手前、このまま続けていれば後でまた煩いだろうとサイファーは察していた。


「ふ、う……う……っ?」


 生暖かい感触に包まれていた胸を開放されて、スコールは刺激の変化に眉根を寄せて、閉じていた目を開ける。
雄を包んでいたサイファーの手も離れると、温もりがなくなった其処が外気に晒されて、切ない感覚がスコールを襲った。


「サ、イ…ファー……?」


 息を切らしながら恋人の名を呼んで、スコールの首がことんと傾く。
なんで、と言いたげな眦には、薄らと雫が浮かんでいる。

 サイファーはスコールの汗が滲んだ手を、スコールの薄い腹に当てた。
それだけでビクッと反応してしまうスコールに、むくむくと欲望が膨らむ。
早く挿れたい、と欲望が鎌首を擡げるが、今後の為にも、今日は強引に事を進める訳にもいかない。


「交代だぜ、スコール」
「……あ……」
「このままイきたきゃ、イかせても良いけどな?」
「……っ」


 したり顔のサイファーの台詞に、スコールは顔を赤くして睨む。
負けない、と意地っ張りの負けず嫌いの表情に、サイファーはくつくつと笑った。

 しかし、スコールは動く事が出来なかった。
サイファーによって高められたスコールの体は、痛いほどに張り詰めていて、壁に押し付けた背を動かす事も出来ない。
もういっそ出してしまった方が楽になる、と言う所まで来ていた。
しかし、それをすれば今日もスコールは下になり、今後はもう文句を言えない。
納得した訳じゃないのに、と半ば意地のようにもなった矜持が、スコールを内側から苛んで行く。