biorhythms crazy







悟空が部屋での謹慎を始めてから、六日目の夜。

聖誕祭の準備は滞りなく進み、悟空の服の採寸や式の順番の説明は全て悟空の部屋で行われた。
窓ガラスの向こう側では夜になっても準備は進み、祭りの準備は既に万端となった。


幼い頃はこんな風に祭りごとの準備が始まる度、捲簾にこっそり連れ出して貰ったりしていた。
そしてやっぱりこっそり帰って、こっそり持ち帰ったお土産を皆で分けて食べたりもして。

常であれば今年もそんな風に城下に行っていたかも知れない。
けれど謹慎を言い渡されている今、それは赦されない。
今回ばかりは悟空自身も我侭を言おうとは思わず、部屋から一歩も出ないまま、時間は過ぎていった。


部屋の外には、謹慎の見張りと警護と言う名目で、捲簾と天蓬が三時間交代で立っている。
時折部屋の中に入ってきて話をして、気を紛らわせてくれたりもした。
一人ぼっちを嫌う悟空へのこの配慮はいつもの事で、ただ時折過保護な事だと揶揄の声が聞こえる程度だ。



そして謹慎最後の夜を迎えて、部屋の外には捲簾と天蓬が揃って立っている。
聖誕祭前日に何か仕出かそうと言う輩は珍しくないから、今晩だけは二人とも不寝番を買って出た。

本当は部屋の中で守った方が良いのだけれど、悟空はそれを断わった。
明日に備えて寝なければいけないのに、二人が一緒だと甘えて夜更かししてしまいそうだから、と。
二人は悟空のその言葉に少しの寂しさの色と笑顔を沿えて、おやすみ、と言って部屋を出た。


そして部屋に残ったのは、この空間の主である悟空一人で。




「ん……ぁ……」






……静かな筈の部屋に響くのは、眠る呼吸ではなかった。






下肢を空気に晒して、悟空は己の恥部に触れていた。

最初は布越しに軽く触れ、揉みしだき、同じように胸の果実にも触れた。
ゆるゆるとしたいじらしささえ感じる触れ方から始まったそれは、時間が経つ毎に確かな熱を帯びるものになっていった。



(………オレ……サイ、テー…だ……)



胸の果実は既に硬くなり、触れると意思とは関係なく体が震えた。
纏うものをなくした己の中心部は勃ち上がり、手を沿えて支えずとも天上を突いていた。



(こんな…こんな、こと………)



一人寝を嫌がる弟を心配する二人の兄を追い出して、始めてしまった自慰。
裏切りや背徳感を感じない訳がなかった。

けれどそれよりも、体の中で暴れ出した熱を抑えることができない。


悟空は目を閉じて、ぎゅっと自分自身の雄を握った。



「あぁっ……!」



しっかりと防音効果の施された部屋の中では、どれだけ声を上げても外に漏れる事はない。
けれども部屋の直ぐ外には二人の兄がいて、もしも何かの拍子に扉を開けられたりしたら。

───それさえ、羞恥と興奮がない交ぜになって、更なる快感を齎した。



「あっ、は、ああっ……あん…う、ん……あぁ……」



ベッドの上で一人悶える悟空の姿は、酷く淫靡なものであった。
窓から差し込む月光が更にそれを引き立てて、冴え冴えとした部屋の空気にも熱が篭るよう。


きゅっと胸の果実を指先で摘むと、少しだけ引っ張る。
僅かな痛みと、それにも勝る快感に、悟空の体が跳ねた。

少しの痛みを持って、更にそれを消す快感を与えられるのは、悟空の躯が覚え込んだ事だ。
引っ張られ、詰られ、抓られ、後が着く程に強く吸い上げられたりして、それでも悟空の雄が萎える事はなかった。
そんな風に芯まで染み込ませるように仕立て上げられた躯の、なんと極上なことか。



(───足り、ない……)



胸の果実を引っ張っても、押し潰しても、足りなかった。
欲しいのはもっと強くて激しい熱だ。

そんな思考に囚われて、悟空は握っていた己の雄を扱き始めた。



「あっあっ、あん、あはっ…は、ぁ…!」



胸に添えていた手も下肢に落として、両手を使って上下に動かす。
手のひらに擦られる勃起したソレは、ヒクヒクと震えていた。
ぼんやりとした瞳でそれを見下ろす悟空は、最早周りのことなど見えてはいない。

雄の先端を指の腹で擦ると、それまでよりもまた強い快楽が襲ってくる。
ぐりぐりと親指を其処に押し付けて、悟空の身体は痙攣したように幾度となく跳ねた。



「あ、ひっ!あ、あ、出る…出ちゃうぅ……!」



自分で出すことなど初めてで、悟空はこれまでに無い程に興奮するのを感じた。
熱は一向に足りないけれど、それでも襲い来る射精感は誤魔化せない。



「ひ、ああっ!!」



ぴゅうっと噴出したのは、少量だけれど酷く濃い蜜液。
それでも、悟空の手は止まらなかった。



「も、もっとぉっ……あぁっ…!もっと…欲しいよぉ…!」



びくびくと躯を震わせ、悟空は片手を離して口に含んだ。
指は既に先走りの白濁の液を掬っていたけれど、構わなかった。

つんとした青臭い匂いが鼻腔をついたけれど、悟空は厭う事無く己の指をしゃぶった。
時折舌先に苦い味を感じて、それは自分が出した精液の味だと判った。
それよりもいつであったか、舐めさせられた記憶が蘇って、悟空の表情は恍惚としたものと変わっていった。


ゆっくりと咥内から指を取り出して見てみれば、白濁と唾液で濡れそぼっていた。
いつも見せられるよりも蓋周りほど小さなその手に、悟空はぼうっと錯覚を見た。








………獣の、手だ。







其処からはまるで操り人形。


頭は殆ど正常な思考を止めて、本能のままに動く。
その手は誘われるように、当たり前のように悟空の秘部へと降りていった。

悟空は片足の膝下に手を差し込むと、大きく抱え広げた。
誰も見る者のない部屋の中で、悟空はまるで其処に誰かがいるかのように、その誰かに見せ付けるように脚を開く。
露にされて冷たい空気に晒された悟空の穴は、既に収縮を始めていた。


指先で己の穴に触れると、少しの間それは意地悪をするように擽るような触れ方を繰り返した。
掠めては離れ、離れては掠め、奥に入ろうとすれば逃げて行く。

そうして焦らすのは、機嫌が良い時の獣の触れ方で。



「は、あ…あんっ…ああぁ……!」



自分の手である筈のそれにもどかしさを感じて、悟空は腰をくねらせる。

つぷん、と人差し指が内部へと埋め込まれた。



「ふぁあんっ!」



悟空はベッドの上で躯を弓なりに逸らす。
其処でいつもは喉に食いついて来るものがあるのに、今はないのが寂しかった。

一重の寂しさを掻き消そうとするように、悟空は二本目を埋める。



「あっあん!ふ、は…あひ……」



埋め込んだ二本の指で、穴を広げる。

一週間前ならば、其処は白濁の液で潤い、指を差し込めば溢れ出していただろう。
けれども熱を与えられなかった時間が長過ぎたからか、其処はまるで枯渇したようだった。


それが、酷くもどかしくて、寂しくて、物足りなくて。



「あっはぁん!!」



抱え上げた足をそのままに、上半身を少し起こして腕を伸ばして、もう片方の手の指まで穴に埋め込んだ。
濡れていなかった指の擦れで少し痛くはあったけれど、それよりも今は刺激が欲しくて我慢できない。

けれども広げたアナルに指を差し込んだまま、悟空は動けなかった。
まるで金縛りにあったように、脚も、指も、口も動かない。
辛うじて動く頭で下肢を覗き込んでみると、悟空は其処に視線を感じた気がした。


そして、聞こえてくる幻聴。





『─────どうして欲しい?』





判っていて聞いてくる声は、今此処にはない、筈なのだけれど。
聞こえてきたそれを全て幻の所為にするには、暴れる熱が激しすぎた。

ない筈の声にさえ性感帯を刺激されたようで、悟空は己の下腹部がまた疼き始めるのを感じた。
この一週間、耐えて耐えて耐え続けた疼きの再発に、悟空はあられもない格好のままで身悶える。


こういう事をする時は、少しだけ意地悪な時。
悟空が恥ずかしがる言葉を言わせようとして、言わなかったら先に進もうとしない。
言わなければ身悶えて震える悟空を眺めて、言葉に出せば淫乱だと詰って激しい行為を再開させる。
結局悟空が何を求めているのか、何もかもを判って彼は言う。

その辱めも何もかも、悟空は好きだった。
あの獣が晒してくれるというのなら、きっとなんだって。



「ほし、ぃ、よぉ…ナカ……中っ…ぐちゃぐちゃにしてぇ………!」



そう、ぐちゃぐちゃにして。
躯も内臓も頭の中も全部、ぐちゃぐちゃに掻き回して欲しい。

明日の聖誕祭なんかどうでも良かった。
その後にどんな日々が待っているかなんてどうでも良かった。
父や兄の事は良いとは思えなかったけれど、それでも。





「あぁああぁっ!!」




途端に動くようになった手は、けれど悟空の意思を介さずに激しく抜き差しを始めた。
じゅぷっじゅぷん、と無い筈の水音がして、悟空は僅かに喜びを感じた。



「あっ、はっはっあ…ああ!あん、あふっ、あっひゃあん!」



中に、ある。
注ぎ込まれたモノが、中に。

獣が注ぎ込んだ熱が、まだ、奥に。


その音が嬉しくて、恥ずかしいけれどもっと聞きたくて。
相反した矛盾した思いに囚われたまま、悟空の指は最奥を目指して進む。



「はぁっ、はぁっん、はあぁっ!あっ!あぅ、ん、い、たぁい、よぉ……あぁ…!!」



爪の先や擦れる内壁が痛くて訴えるように漏らしたけれど、指は止まらない。
それどころか二本目、三本目までが潜り込んで、揃って最奥を突こうとしていた。




痛い。
いたい。

きもちいい。


そればかりの繰り返し。




でも。








「もっと、もっとぉぉ!足んない、よぉおお…!────あぁああああんんっ!!!!」









吐き出しながら思うのは、綺麗な綺麗な金の光。
この躯を知り尽くした、獣の熱くて太い熱。













───────他の何より、それが欲しい。












































空々しい靴音と気配を感じ、獣は顔を上げた。
紫闇が向けられたのは格子の向こうで、其処はすっかり短くなってしまった蝋燭の灯だけに照らされていた。

そして其処にあったのは、自分と酷似した金糸と紫闇。
白を基調にされた服は、此処しばらく見かけていない子供のものと似通った形状をしていた。
身長は獣よりも少し高い程だったが、それは履いている靴の所為だろうか。


灯に照らされたのは、見慣れた子供ではなく、自分とよく似た長身の男。
まるで汚いものを見るように眉を顰めて、その男は獣を睨むように見ていた。

……それがこの国を背負う者であると、子供の話を聞いたのを思い出してようやく知った。



「国の王が、なんの用だ?」



獣の問いは、半ば冷やかしのような声を伴っていた。


獣とよく似た形をしたこの男は、獣とは正反対にこの暗く闇に閉ざされた世界に酷く不似合いであった。
せめて夜の下なら良かっただろうに、此処にはそれさえ届くことは無いのだ。
在るのは虚無や常闇のような冴え冴えとしたものだけで、蝋燭の灯さえともすればそれに飲まれてしまいそうだ。

また暗く深い情念の渦巻くこの場所に、白ほど似合わぬものは無い。

それなのにこの男は、一体なんの用で此処に来たというのか。
まぁ間違いなくあれだろうな、と思いながら獣は返答を待つ。



「……貴様の顔を、もう一度見る事になるとは思っていなかった」
「────奇遇だな、俺も同じだ。寧ろ、俺はお前の顔なんざ覚えちゃいなかったが」



男の言葉に、獣は少しの間を置いてから言う。
確かに過去に一度だけ会っていたか、と思い出してから。

そういえば何年も前に見た顔に、自分と同じ顔をしている者があった気がする。
普段あまり他人の顔を覚えようなんてしないから、思い出したその記憶も酷く朧げなものであったが。



「……とっくに死んでることを望んでたんだがな」
「世間的にはそうなんだろ」
「事実的にもそうなっていて欲しかった」



忌々しげに言う男に、獣は莫迦にしたような笑みを浮かべる。
それがま彼の神経を逆撫でしたのだろうか。
気の弱い者ならきっと射殺せるだろう眼力を持って、男は獣を睨みつけていた。


男の言うとおり、本来ならば事実的にも獣の体はとっくに骨になっていても可笑しくない筈だった。
獣が此処に連れて来られ強固な結界を持って封じられたのは、もう何年も昔の話だったのだから。

けれども、獣は生き続けた。
もとより普通の人間よりも寿命は長く、生命力は群を抜いていたから、栄養失調で一時の不調はあってもそれ止まり。
時間を以って行われる筈の死刑執行は結局果たされる事無く、今日まで獣は生き長らえた。



「死なせたかったんなら、最初に殺せば良かっただろうが」
「大人しく殺される気があったか?」



男の台詞には応えなかったが、言うなれば勿論、“否”。
捕らえられたあの日に即殺そうとしていれば、間違いなく獣はその場にいたもの全てを葬っていただろう。

だから歯痒くても時間が獣に刑を執行するのを待つしかなかった。



「残念だったな」



獣は言ったが、男はそれに対して眉一つ動かそうとはしなかった。
こんな会話などただの戯言の繋がりで、本題であるなどどちらも思ってはいないのだ。

だから余計に、目の前の男は苛立っているのだろう。



「で、さっさと本題に入ったらどうだ。どうせテメェも俺の面なんか見たかねぇんだろうが」
「当たり前だ」



面倒臭いからさっさと済ませろ、とばかりの獣の台詞に、男は言うと、右手を突き出した。
其処に集まる光の渦が攻撃系の術法であると気付かぬほど、獣は鈍くは無い。

どうやら男の怒りは、あの見慣れた子供が予想していた以上のものであったらしい。
予想以上のことをあの子供が考えられなかったのは、こういう一面を恐らく知らないからだ。
だから自分が酷く叱られる事はあっても、それ以上を思うことが無かった。



やっぱりガキだな。



思いながら、獣は渦巻く光の螺旋と、それを持つ男を眺めていた。
それがどうした、とでも言うように。



「……俺の息子が、此処に立ち入った。此処には近付くなとあれ程言っていたのに」



子供が禁忌を犯したのは自らの事で、其処に獣は関与してはいない。
恐らく、だけれど。

時折感じた不可思議な気配の事を口にする事無く、獣は男の言葉を聞く。



「何処まで行ったのかと、あいつの辿った“氣”を探って進んでみれば、辿り着いたのが此処と来た」



吐き出すような男の台詞に、獣は笑う。


自分の息子が此処に入り込んだと気付いた時、此処までやって来たと気付いた時。
この男はどれほどの怒りと戸惑いを覚えたのか、そんな事はまるで関係ないと獣は思った。

最初に此処に入り込んで来たのは子供の方で、獣は何もしていなかった。
近頃になって「呼ばれた気がした」と子供が言う者だから、“何も”していないのかは最近曖昧ではあるが、
何事か手段を使った覚えはないし、それ以後も勝手に子供の方が此処に入り浸ったのだ。

けれど、目の前の男にそれは関係ないのだろう。


禁忌を破った息子が、一度ならず先日まで何度も此処に来たのは、獣が此処にいたからだ。

半ば八つ当たりにも似た言い分だが、間違ってはいなかった。
獣が此処にいなければ、あの子供は確かに、今も穢れを知らずにいられたのだろうに。



「あいつは、ただのガキだ」
「確かに、ただのガキだな。疑うこともしねぇ」
「……そんな風に育てたのは、確かに親である俺の責任だ。だが」



今問題にしているのは其処ではないのだと、向けられる金糸は、まるで子を守らんとする動物のよう。
結局人間と言うものも、対して優れた存在ではないのだと獣は思う。

子を傷付けられて怒り狂うのは、野生の動物と同じ。
傷付けた相手を殺してやろうと思うのも、当たり前の事だろう。
ただ人間の場合、其処に道徳だのなんだのとお綺麗事を並べ立てたりするだけの違いだ。






「聞きたいのは、一つだけだ……─────貴様、悟空に何をした?」





直球の言葉で問われるなら、刃に絹着せる必要もないだろう。


獣はぺろり、とそれこそ餌を前にした動物のように唇を舐めた。
それだけである程度のことを察することは出来ただろう。

それでも、敢えて言葉に乗せてやった。












「いい声で啼いて善がったぜ、お前のガキは」








「──────殺す!!!!」