biorhythms crazy








深い深い森を走り抜けて、どれ程の時間が経っただろうか。

走るといっても悟空は下肢を薄布の布団で覆った格好のまま、獣に抱えられていたのだけれど。
金糸の獣は息を乱す事無く森の中を走り抜けて、つい十分前には橋の無い谷川の上を跳んでやり過ごしていた。
その時でさえ悟空は、直ぐ間近にある金糸の煌きに心を奪われていた。


もっと触れたいと思っていた躯は、いつも冷たい鉄格子に阻まれていた。
殆どなかった筈の距離を遠いと思っていたのは、きっとその所為。
鉄格子なんか取り去って、こうやって抱かれたいと思ったのは何度もあった。

だから今、悟空の頭の中は金糸の獣の事だけで一杯で、今までに無いほどに満たされているのを感じていた。
父や兄達の心配がまるでなくなった訳ではなかったけれど、それさえも今にも消えてしまいそうで。



(……最低、だよ………)



何度も何度も思ったこと。
今一度、戻りたいと獣に伝えようかとも考えた。

けれど、見上げた先にある端整な顔立ちに、全ての思考が奪われる。
走る振動も、抱きかかえる腕も、真っ直ぐに前を見る瞳も、何もかもが悟空を囚えて離そうとしない。
しっかりとした胸板に頭を預ければ、伝わってくる鼓動と温もりに、悟空は心地良さに酔ってしまう。


時折気紛れのように獣は立ち止まって、辺りを見回す。
追っ手を警戒してか、それとも場所の確認か。
悟空にはよく判らなかったが、不思議に思って見上げていると、次に獣は悟空を見下ろすのだ。

間近で交わる視線が恥ずかしくて、でも嬉しくて。
深い口付けを交わせば、金糸の獣は面白そうに楽しそうに、悟空の舌を捕まえて貪った。


それから、また走る。




それを繰り返して、人の気配は勿論、動物の気配さえも無い森深い場所で、獣は立ち止まった。




「……?」



もう走らないのかと思って見上げれば、また視線がぶつかった。
かっと顔に血が上るのを感じて、同時に収まっていた下肢がまた昂ぶり始めた。
羞恥に狩られてそれに気付かれたくなくて、悟空はそろそろと視線を外す。

すると、悟空がそうやって視線を逸らしたのが気に入らなかったのだろうか。
獣は一つ舌打ちすると、それまで大事そうに抱いていた悟空の躯を地面に投げ出した。



「った!!」
「テメェが悪い」
「なんでだよ!」



抗議のように痛みを訴えて、返された言葉に、反射のように言い返す。
しかし見上げた先にあった獣の表情に、悟空はぎくりとして硬直した。


不機嫌を通り越して、無表情ではないかとさえ思うような顔。
無言で見下ろす紫闇が映し出しているのは、明らかに不快であるというものであった。

あの暗い地下でも、この顔は見た。
一番新しいのは一週間前のあの日、耳につけたイヤリングを気に入らないと言った時のこと。
自身を戒められたまま揺さぶられ、なかなかイかされなかった事を思い出し、悟空は俯いて紅くなった。


耳まで赤くなっているのを獣が見つけ、見られていないのを良い事に、妖しく笑む。



「おい」
「……っな、に……」



言い返した時の勢いは何処へやら、途端に悟空の声は萎れたように小さなものになった。
ふるふると震える躯が何を欲しているか、獣も十分判っていた。

が、その前に言及すべき事があるのだと金糸の獣は、悟空の片足首を掴んで持ち上げた。




「─────っあ!!」





薄布に覆われて隠されたままだった下肢が、獣の目の前に晒される。
其処がどんな状態になっていたのか、本人はよくよく判っていた。

城で最初の爆発が起きるほんの数十分前までしていた、初めての自慰行為。
激しい情交に慣らされた躯は、やはり自慰でも激しさを欲し、穴は未だに濡れそぼったままだった。
収縮しているのは獣の前に晒された羞恥からか、それとも興奮からだろうか。


獣は口端をあげて笑うと、悟空の顔に自分の顔を近付ける。



「なんつー格好してやがんだ、テメェは……」



唇が触れ合うまで、あと数ミリと言う距離。
足は胸につくんじゃないかと思うほどに持ち上げられて、悟空の躯はくの字に曲げられている。



「誘ってんのか……?」
「ち、違……あ……!」



足を抱えるのとは逆の手が、悟空の服の下に入り込んで這い回る。



「もう国境は越えたからな、早々追っちゃ来れねぇだろ…」
「あっ、あ…っは、ん…あ……!」



獣の手が悟空の胸の果実に触れると、くりくりと捏ねては転がされる。
一週間ぶりに触れられて、教え込まれた躯が興奮を覚えない訳がなかった。

胸の果実はあっという間に硬くなり、引っ張れて爪を立てられ、悟空は声を上げる。



「ダ、メェ…!っや、あんっ!あっあぁっ!い、たいっ!」
「痛いのが好きなんだろうが。ほら」
「ひぁあんっ!だめ、だめぇえ!!」



服をたくし上げられ、右側を舌で、左側を指で刺激される。
自分でするよりも何倍も感じられるその刺激に、悟空はビクビクと躯を跳ねさせる。

そしてそれ以上に、悟空の下肢が正直な反応を見せていた。
触れられる以前から勃ち上がっていた雄の先端は先走りが漏れ、穴は収縮を繰り返して誘っている。
自分で触っていた時は中々こうまで行かなかったのに、獣に触れられていると思うだけで、こんなにも過敏になる。


胸を弄っていた舌がゆっくりと降りていって、悟空の臍の近くを舐めた。
悟空はびくっと躯を仰け反らせ、地面の上で弓なりに背を逸らせた。

露になった喉に食いつかれることはなかったが、代わりに獣の手が悟空の喉にかけられる。
爪を立てて喉を引っかかれて、悟空は痛みに顔を顰めたが、離してくれと言う事はなかった。
それどころか爪が離れた後のズクズクとした痛みが不思議と心地良く、悟空の呼吸にまた艶が篭る。



「あっあ…ああ…だめ、だめぇ……ソコ…ソコ見ないでぇえ……」
「やだね」
「は、あん!」



金糸は悟空の股間に顔を埋めると、しげしげとソコを眺めていた。



「こっちは久しぶりだってぇのにな……」
「っは、っは、ぁ……はふっ……あ……」
「あいつ等にでも遊んで貰ってたのか?」



獣の言う“あいつら”が誰であるかなど、あの状況では他にいないだろう。



「ち、が……違う……ケン兄ちゃん達は……」



彼らは明日に備えての警護をしていただけで、それだって部屋の外にいて。
下肢が濡れているのは自慰の所為で、彼らは何も関係ないのだ。

けれど、この状態で、あの状況で、そう思われても無理はなかった。
増して金糸の獣に開発された悟空の躯が、熱を与えられるずにいて平気であった訳が無いのだと獣は言う。
確かにそれは間違っていなくて、だから悟空はあの時一人で初めて自慰をしたのだ。


だが悟空の口からそれが出てくる事はなかった。
獣を思って自慰をしたなんて、恥ずかしくてまだ幾らか理性の残る悟空に言える筈もない。




それを判っていて、獣は問うて。
悟空は、それに気付けなくて。








「お仕置きしてやるよ」









言った直後、悟空の濡れそぼった穴に荒ぶる雄が埋め込まれた。




「あっあああああぁああんっ!!!」




一週間ぶりに与えられた、欲しくて欲しくて堪らなかった熱。
一人でシていても足りなくて、欲しくて欲しくて堪らなかった内臓まで届くほどの雄。


最奥まで一気に貫かれて、悟空の中心からも勢いよく白濁の液が飛び出した。
それは悟空の腹だけではなく、胸や顔までにも飛び散っていた。

悟空が息を整えようとする間も与えずに、獣は律動を開始した。



「あぅっあっ!あんっ、はぁんっ!だめ、だめっ、出ちゃうよぉおお!」
「早過ぎるぞ。可愛がってもらったんだろうが、我慢できねぇのか」
「だか、ら、違うっ……あぁああんっ!ソコ、ソコいやぁああ!」



弱いところを的確について来る獣に、悟空は縋り付いて頭を振り乱す。
既に濡れ、緩んでいた其処に痛みがある訳もなく、快楽だけが悟空の全身を覆いつくす。



「はひっああぁっ!!あん、あっ、あふっ、はぅ、ぁあぁああん!」
「中までドロドロにしやがって……あいつ等のモノは出したのか?」
「違っ……ひっあ、あんっ!あっ!まってぇ…だめぇええっあぁあん!」



悟空の話などまるで聞かないつもりで聞いているのだろう。
違う、話を、と止めようとするのを無視して、獣は悟空の最奥を突き上げ続ける。
口を開けば喘ぎ声に取って変えられ、収まらない射精感に悟空はあられもない声を上げるばかりだった。

一度吐き出してしまうと止まらない悟空の射精によって、悟空の躯は既に白濁の液に塗れていた。
それを一週間ぶりに見た獣の下肢も、また熱に疼く。




ぐじゅ、じゅぷ、どぷっじゅぷっ!
どぷっ、くぷ、ずぷぷっ!




一層激しくなった律動に、悟空は最早羞恥も何もあったものではない。



「あっああっ…!お、っきぃぃ…!っふぁあ!」
「……好き、だろ……これが……!」
「出ちゃう…出ちゃうよぉっ!止まんないよぉぉお!ふぁああッ!」
「あいつらにもそういう顔見せたんだろ?こんな風にされて…」
「しな、いよぉっ!あぅ、あひっ…は、ひぁ、やぁっ!其処、其処ぉぉぉっ!」



びくびくと躯を跳ねさせ、悟空は誘い込むように腰を動かせる。
獣の突き上げに合わせて、奥へ奥へと。



「はっひゃ…はひっ、はっ……そこっ、ソコダメなのぉっ!止まんないぃ…!!」
「良いじゃねえか……このまま全部出るまでヤってやる。勿論、俺が出し切るまでな…」
「そ、んなっ、ムリだよぉ…あひっぅあぁんっ!」



今でさえ射精を耐えられず、既に何度となく吐き出している悟空に対し、獣は一度も達していない。
昂ぶる雄は更に怒張し、今にも吐き出しそうにしているけれど、獣の果てはまだまだ先の話だ。
悟空の体力が尽きてもまだ止めない、と言う獣は、一週間ぶりの極上の獲物を自分が満足行くまで堪能するつもりだ。

そして悟空も無理だ駄目だと言いながら、やはり本気で獣を拒む事は出来なかった。
中を抉るように突き上げてくる太いそれを与えられえるのが、嬉しくて仕方がなくて。





「あっああっ!あんっ、はっ、はぅっ!」



ぐちゅ、ぐちゅ、どぷっ、ずぷっ



「や、あん、やぁあっ!あっん!」



ぴちゃ、びちゃっ、ぐちゅっ



「はぅうっん!あ、ああん!ふぁっひ…いやあああっ!」



ずぐっ、ずぷっ、どぴゅううっ!




何度吐き出しても、何度締め付けても、金糸の獣はまだ達さない。
甘い地獄の責め苦に、悟空の理性はもう残っていなかった。



殆どマグロ状態で犯される悟空に、金糸の獣はくくっと喉で笑った。


悟空があの二人とシていないなんて当然判っているし、悟空が否定しようとするのも判っていた。
それでも久しぶりに見たその顔を苛めてやりたくて、どうしてもサディスト地味た部分が疼いた。

今まで一度も自慰というものをした事がなかったのだろうに。
自分に覚え込まされた熱を思い出して、この穴の中を自分の手で掻き混ぜたのだろう。
今度は是非とも目の前でやらせてみたいものだと獣は思った。


そして何よりも今一番喜ばしいことは、邪魔な鉄格子がない事だ。
何をするにもどうにも邪魔で面倒だった鉄格子がなく、幾らでも好きに出来るこの躯。
鉄格子がある状態では、悟空の上に圧し掛かることも出来なかった。

腕の中に完全に閉じ込めてしまえば、満たされていく征服欲。
この淫らな少年の痴態を知るのは自分だけなのだという、優越感。



「も、もう…!もう、だめぇええ…!」
「馬鹿言え、気絶なんかさせてやらねえぞ」



休む暇など与えない。
そう言って瞼の上をゆったりと舐めれば、きゅうっと悟空の内部の壁が獣の雄を締め付けた。



「っつ……てめぇっ!」
「あ、あぅっ!」
「食い千切る気かって前も言ったの、忘れたか……?」
「あ、は、はひゃっ…ごめ、なさ……あぁっ!」



地面に押し付けていた躯を抱き寄せ、膝の上に乗せる。
脚を限界まで開いたまま、雄を食んだままでそんな事をされれば、更に深く繋がることになる。

膝上に乗せた悟空の両膝の下に腕を差し込むと、獣は小さな躯を持ち上げ、自分の動きに合わせて上下左右に揺さぶった。



「あっあっあっ!あん、あん、あうっ、はうっ!や、あん!ああぁっ!」



前後不覚の状態に陥りながら、悟空は腕を伸ばす。
まだ子供らしさを残した細身の腕は、獣の首に絡められ、悟空はそのまま縋るようにしがみ付いた。



「……なんだ、おねだりか……?」
「ひゃぁ、んっ!あんっ、あふっ…あ、あ…!」



すぐ耳元で低い声音で囁かれて、悟空はぞくぞくと躯を仰け反らせる。

その時開いた視界のすぐ近くに金糸を見つけ、知らぬ間に悟空はほんのりとした笑みを浮かべていた。
その笑みは常時であれば些細な幸せを見つけた小さな子供のものと変わりなかったけれど、
今は激しい常時の最中で、けれど不似合いな笑みのそれは獣の欲望をまた煽る。



「上手いもんだな……っ」
「あっ……!あぁあああんっ、あひっ、あ、あふぅぅっ…!」



ギリギリまで引き抜かれ、一気に最奥を突かれて。
同時に強い締め付けに、金糸の獣も悟空の最奥に己の熱を叩き付けた。



「あ、あぁあっ!あっひゃぁ、あふ、はふぅんっ!は、入ってるぅぅぅ…!!」
「ああ……どうだ、欲しかっただろ…?」
「ん、うんっ…あひぁ…っ!あつぃい……!」



中への長い射精に、悟空は身悶えて金糸の獣に縋りついた。



繋がったまま震える悟空の躯を獣が抱いてやれば、ふと不思議そうな瞳が獣へと向けられた。
最初はそれに眉を潜めた獣だったが、思い返せば無理も無かったか、と行き着いた。

鉄格子が邪魔で、こんなに近くで触れ合うことは無かった。
何度繋がりあっても間にある鉄格子の所為で躯が密着しあうことはなかったからだ。


また悟空の表情がはんなりとした笑みに彩られる。
そのまま口付けてきた悟空のそれに答え、角度を変えながら深く貪る。

離した時には名残の銀糸が引いて、また下半身が疼いた。



「っん……ね、あの、ね……」
「……なんだ」
「っう、んっ!」



また律動を始めた獣だったが、先ほどまでに比べれば今度は緩やかだった。

言葉を遮る程ではないその律動。
悟空はそんなささやかな優しさに笑むと、ぎゅ、と金糸の獣の首に強く縋りついた。





「あ、んね………名前…教え、て……?」




いつであったか聞いた時は、結局教えて貰えなかった。
その時一緒に教えた自分の名前も、悟空は呼んで貰った事は無かった。

………ほんの数時間前まで。



「さっき、ね…あっ…ん……呼んで、くれ、た、でしょ……っ…?」
「……ああ、あれか」
「オレ、ね……っは……すご…うれし、かっ……」



だから、自分も呼びたい。
途切れ途切れに言う悟空に、金糸の獣は微笑んだ。



「そうだな……」
「っは…あ、あっ、あんっ…あうっ…!」
「これから一生テメェを飼ってやるってのに、呼び名もねぇと不便だしな」



ぐちゅ、と下部に音を立てさせながら、獣は囁くように悟空に告げた。
悟空は突き上げる快楽に喘ぎ声を上げながら、獣の言葉を待つ。

獣はこのまま焦らしてやろうか、とも思ったが、小さく笑うと悟空の後頭部を手で押さえる。
更に間近になった顔は唾液と精液とで塗れ、瞳にはもう理性も無い。
獣によって開発された躯はやはり快楽に従順で、素直で、何度貫いても飽きなかった。



「三蔵、だ」
「……ん、ぞ……?」
「ああ」



荒い呼吸の中で繰り返した悟空に頷いて、獣───三蔵は最奥を一気に突いた。





「あ、ん、さ、んぞぉぉっ!」




またしても激しくなった律動に揺さぶられながら、悟空は繰り返し名を呼ぶ。



「さんぞ、さんぞぉおっ…!あっは、あんっ、三蔵ぅぅっ!」
「ああ……気持ちいいか?悟空……」
「い、いっ…気持ちいぃ……三蔵ぉぉ……!」



意趣返しのように三蔵が悟空の名を呼べば、悟空は嬉しそうに笑う。
情事の最中の無邪気な笑みに、三蔵もつられたように笑みが漏れた。

鉄格子越しではなく、直ぐ目の前にある温もりと笑みに、悟空は酷く嬉しくなった。
何故か相手も同じなのだと確信もなく感じて、それがまた悟空の心を暖かくさせる。









「まだ終わらねぇからな?悟空……」








だから、そういう男の熱を、拒む事は一生無いだろう。































目の前で全てが壊れる音を聞いていた


目の前の全てが崩れる音を聞いていた









その傍らで笑うお前












手放すことはないだろう














FIN.




後書き