カタチニナイオクリモノ










全部持ってって





心も体も気持ちも全部






































啄ばむようなキスを繰り返して、それでも少しずつ上がっていく互いの体温に、また互いに煽られる。
溶け合うのに不要な布は既に取り払われて、直に触れ合う肌の温もりが心地良い。

未だに泣き顔と笑い顔と入り混じったままの悟空に、三蔵は苦笑を漏らす。
その笑みが常よりもはっきり表に出ていると、本人が判っているかは微妙なところ。
いずれにしても悟空には三蔵の表情の変化がよく判るから、どちらでも構わなかったけど。


陽が昇っていくばかりの時間に、全て晒して絡み合う肢体。
朝からこういうのは不謹慎なのかな、と言ったら、別にいいだろ、と返されてしまった。
実際、自ら全て捧げると言い出したのだから、今更の話であった。



窓から差し込む明かりに照らされる。


悟空の視界の中で、眩い金糸が陽光を反射してきらきらと煌いた。
朝日に照らされているのは何も金糸だけではなく、深いアメジストも同じだった。
じっと見ていると吸い込まれそうで、悟空はそれを見つめるのが好きだ。

そして三蔵の瞳の中でも、何よりも明るく世界を照らす金の瞳が優しく揺れる。
散々泣いた所為で紅くなった目尻さえ愛しくて、三蔵は零れ落ちそうな涙に口付けた。



「さんぞ……」
「…あん?」
「……カーテン……」
「却下」



締めよう、という言葉の欠片を出す前に、きっぱりと言い切られる。
なんとなく予想はしていた悟空だったから、やっぱり?と小さく呟いて笑った。


明るい場所で行為に及んだことは、まだ片手で数えて事足りる。
回数が問題と言うわけではないけれど、やはり暗い場所で及ぶよりも悟空の羞恥心は大きく膨れ上がる。

陽光に照らされる大好きな人を見上げるのは好きだ。
好きだけれど、やっぱりそれとこれとは別。
明るいと暗い場所で及ぶよりも色々見えて判ってしまうから、だから出来ればカーテンを閉めてしまいたかった。
締めたところで安宿のカーテンの厚さなど知れているのだが、まぁ気持ちの問題という事にしておこう。


そんな悟空の胸中を判らぬほど、三蔵は無神経で鈍い男ではない。
ただそれよりも、自分のしたいようにしようとする性質であるだけで。

八戒や悟浄からしたら、偶には頑として嫌なものは嫌と押し通していいものらしいけれど。



(ヤじゃ、ないんだもんな)



思いながら、手を伸ばして三蔵の両の頬を包み込む。

未だ幼い顔立ちをする悟空と違って、三蔵はすっかり大人の骨格をしている。
細いけれどそれは無駄な肉がついていないからだ。
未だに発展途上真っ只中の悟空にとっては羨ましいばかり。



「……さぁんぞ」



でもそれを言ったら、お前はこのままでいろ、と言われてしまった。
いつまでも小さいままは嫌だと思う悟空だが、三蔵に言われてしまうと弱い。
じゃあいいか…と思ってしまった時点で、もう悟空の負けだ。

けれど最近は、確かに今のままの方がいいかも、とも思うようになった。
だって抱き締められた時、この人の腕の中にすっぽり閉じ込められてしまうのが心地良くなってしまったから。




「間抜け面してんじゃねえよ」
「そんな顔してないよ」
「そうかよ。じゃあお前の普通の面ってのは間抜け面って事になるが?」
「意味判んない………むぅ…」



お喋りの時間は終わり、とでも言うような口付け。

三蔵の頬に当てていた手を外して、首に腕を絡ませる。
深くなる口付けに、悟空は脳神経が麻痺していくような気がした。


三蔵の節ばった手が悟空の胸の上を滑る。
自分よりも少し低い温度のそれが肌を撫でる感触が、くすぐったい。



「ん、ん……ふ……ふふっ…」
「何笑ってんだ」
「へへ…別に……んっ…」



ツン、と三蔵の指が悟空の胸の果実に触れた。



「硬くなってんぞ……キスしただけだろ」
「んっ…は……ぁ……」



揶揄うように、指の腹で果実を押される。
くりくりと押し潰す愛撫に、悟空の躯がぴくぴくと震える。

素直な反応を返す悟空に、三蔵は気分を良くしてまた笑う。
暗がりでない部屋ではっきりと見えたそれに、悟空は顔に血が上るのをはっきりと感じた。

────三蔵の顔が悟空に見えるとなれば、当然真っ赤になった悟空の顔は三蔵にも見える訳で。



「ひゃっん…!」



指で押さえていたのとは反対の乳首。
其処に舌を這わされて、悟空は思わず上ずった声を上げた。



「んっ…や、ぁっん……」



悟空の反応を楽しむかのように、三蔵の舌はまるで生き物のように胸の上で踊る。
果実の先端を弄られれば悟空の躯は跳ね、時に吸い上げられると硬直したように動きを止める。


悟空の躯は、三蔵によって仕立て上げられた。
与えられる快楽に従順に、熱を煽られれば欲しがるように。
触れる手のひら、それだけでも感じるように。

三蔵によって作られた。




「っは、あ、はぁっ…あぁ…だめぇ……」
「駄目じゃねえよ」
「やん…くすぐ、ったい……」



乳首を舌で撫でられる合間に喋られれば、硬く張った其処に三蔵の吐息がかかる。
悟空は恥らうように、その擽りから逃れようと身をよじる。

当然、逃げられる訳もない。
それどころか三蔵は逃げる悟空を捕まえる上に、更に追い詰めようとちゅ、と乳首を強く吸い上げた。
緩やかな愛撫とは一線を隔したそれに、悟空はベッドシーツを強く握る。



「やっや…さんぞっふぁっ…!」



ぴちゃ、とわざとらしく水音を立てて這う舌。
指で押し潰していた方の乳首も、親指と人差し指で摘んで転がす。


三蔵から与えられる愛撫は、決して悟空にとって嫌なものではない。
寧ろ普段接触嫌悪の三蔵が此処まで触れてくれるのだから、最初の頃は死ぬかと思うぐらい嬉しかった。
同時に、やっぱり羞恥で死ぬと思うぐらいには恥ずかしくもあったのだけれど。

触れられる事は何よりも嬉しい。
けれど理性が残っている間は、どうしてもそれだけでは済まされなかった。



「だめ…だめぇ…っあ、あっ……!あんっ…!」



音を立てて、唾液を塗りつけるように舌を這わされて。
硬くなった果実はそれでも更なる快楽を欲している。

今この時だけは心と躯が別物のようだった。



「理性なんかさっさと放り出せよ、悟空」
「んなっ、こと……あっ!」
「気持ちいいんだろうが……」



爪先でコリコリと乳首を刺激され、悟空の呼吸はすっかり艶のあるものに変わっていた。
それでもベッドシーツを握る小さな手が、なけなしの理性である事を示す。

ぴちゃぴちゃと立つ音が、三蔵の舌の所為ではなくて、なんだか自分の乳首から鳴っているような気がした。
女でもないのに胸から出る訳もないから、それはぐらぐらになった頭の思い込みなのだけれど、
それによる羞恥で悟空の躯はまた疼く。


震える悟空の躯の熱が、中心部に集まる。
それが覆い被さる三蔵の腹に押し当たって、悟空ははっと目を見開いた。



「……元気だな」
「あっぅ……」



悟空のソレを見て笑う三蔵に、悟空は顔を紅くした。
恥ずかしさから見られたくないと思っても、開いた脚の間に三蔵の躯がある。
隠そうとして動かした手は簡単に捕まえられて、ベッドに縫い止められてしまった。

今更と言われても、やはりあらぬ場所を晒す事に感じる羞恥は並大抵のものではない。
挙句しっかりと起立してしまっているソレは、悟空の躯が今どんな状態であるのか、本人以上に語ってくれて。



「心配すんな、こっちもちゃんと可愛がってやるよ」



言うなり、三蔵の手が悟空の秘所へと伸ばされる。
常の乱暴な態度とは打って変わって、やんわりとした手付きで三蔵は悟空の雄を扱く。

三蔵の手の中に収まった悟空の雄は、未だ使われたことがない事を示すように鮮やかな色をしている。
窓から差し込む光に照らされるその色を見ていられず、悟空はぎゅっと目を閉じた。
けれどそうすると、刺激を与える三蔵の手の形や熱をまざまざと感じてしまう。



「あっはっ…、だめっ…さんぞっ……は、はひっ…」



扱く三蔵の手の動きが少しずつ早くなり、悟空を追い上げる。



「だ、め、だよぉっ…さんぞぉ……!」
「何が駄目なんだ」
「だって、あぁっん!は、はずかし、よぉお……!」






いつもの暗がりの中ではない。
暗闇の中ならば、ある程度夜目にが利くとは言ってもやはり限界がある。

けれど、今は一日の半分も終わっていない時間。
世間は朝食を取っている頃で、外は昇り行く太陽によって照らされていく。
その陽光は窓辺から部屋の中に差し込んで、決して広いとは言えない室内をはっきりと照らし出してくれた。
…いつもなら嬉しいはずの晴れた空が、今この時ばかりは恨めしい悟空だ。


だって、何もかもが見えてしまう。
顔を上げれば真っ赤になっているのが、刺激を与えられて硬くなった紅い実が、
触れられるずっと前から疼いて疼いて、欲しがっていた自分自身の秘部が、全部。

浅ましささえ感じられる自分自身の躯。
例えそれを仕立て上げたのが目の前の人物であったとしても、やはり見られると恥ずかしい。

────否、だからこそ余計に恥ずかしいのだ。


それに。
安宿の防音なんてたかが知れているから、大きな声を出せば当然外に聞こえてしまう。
此処の隣室は悟空の一人部屋であるから今は無人であるが、廊下に聞こえてしまったらどうにもならない。

万が一部屋の外を誰かが通ったりしたら────……そう思うと、悟空の羞恥は止まらない。
悟浄や八戒だって様子を見に来ることがあるだろうし。




でもきっと、三蔵は悟空がそうやって恥ずかしがるのを知っていて。

ちっとも構いやしないのだ。
悟空の全部を、何もかもを暴き出してしまうに決まっている。