The false world




「───あっぅ……!」



果実を舌で転がすのを止めずに、焔の手が悟空の下肢へと伸びる。
胸から与えられる刺激に意識を奪われている悟空は、それに気付かない。

するすると寝巻きの短パンを脱がし、下着も一緒に引き下ろす。


ぷるん、と跳ねるように悟空の雄が飛び出して天を突く。



「あ………」
「此処もこんなに硬くして……」
「ひゃ、うっ……!」



勃ち切ったそれに、焔の手が触れた。
少し体温の低い焔の手は、熱の篭った悟空の躯には少し冷たい程だ。



「そういえば、しばらく構ってやれなかったな……」
「あっ…ん、あぅっはっ……」



指先で雄の先端を突けば、悟空の躯がふるふると小さく震える。



「いい子にしていたか?」
「んっぁ……はぅ…う、ん……」
「そうか」



頷く悟空の頬にキスを落とす。
ささやかなご褒美を貰った子供のように笑む悟空に、焔も笑みを零した。

情事には少し不似合いではないかと思うような、幼い悟空の笑顔。
淫らに劣情に流されながら、それでも抱く光が穢れることはなかった。



「っは…あ、あんっ……焔っ…あ……!」



起立する悟空の雄を、緩やかな刺激で追い上げていく。
開かせた脚はぴくぴくと小さく跳ね、悟空の表情が愉悦に染まっていくのが判った。



「もうっ……ずーっと…あっ、待ってた…んだよっ……」
「ああ。すまなかったな、遅くなって」
「ほんと……あっ!あんっ、あ、はっはぅっ…んぅっ!」



退屈だった、と悟空は言う。


焔がいなければ、直属部下である是音や紫鳶はそれについて行く事になる。
そうなると悟空は一人で残されてしまい、話し相手もいなければ暇を持て余すだけだ。

けれど、焔はそんな悟空にいつも安堵する。






悟空は、この崑崙の塔から外に出た事が無かった。
────否、正確に言えば、出た事が無い、ということになっている。

其処に自分の歪んだ愛情がある事に気付いてはいるけれど、焔はそれでも己を抑えることが出来なかったのだ。



塔から一歩も外に出た事が無い悟空の世界は、この塔の中だけで出来上がっている。

知っているのは焔が率いる天界を離反した部下達だけで、外がどんな世界であるかも悟空は判らなかった。
話相手は焔とその直属の部下である是音と紫鳶だけで、後は挨拶程度のものだ。


外を知らないから、悟空は外に出ようと思うこともない。
それに焔がひっそりと安堵を覚えていることを知っているのは、二人の直属の部下だけだ。

焔が望むのは、悟空と共に在るということ。
ようやく手に入れることが出来た存在を、取り上げられるのを嫌がる子供のように、焔は恐れた。
これだけを望むから、他はいらないから、もう離れていかないでくれと。

─────…そんな自分を、滑稽だと思わなかった事は、ない。


それでも、それも本音だ。





何処にも行かないで欲しいと、いつも思う。






いつも置いていく焔に、悟空は非難のように焔の首の後ろを引っ掻いた。
チリッとした痛みに焔は一瞬眉根を寄せたが、それを見た悟空の表情に小さく笑みが漏れる。
してやったり、と悪戯っ子のような悟空の顔に思わず絆される。


悟空が置いていかれることが嫌いなのは知っている、その理由も何もかも。
悟空が覚えていない全てを覚えているから、尚更。

判っていながら置いていく。
その理由は幾つか思い当たるけれど、それはどれも焔のエゴでしかない。
だからこれぐらいの意趣返しは当然の事だと、焔はいつも受け止める。



「可愛いな、お前は」
「……ま、た…言うっん……」
「そう思うから仕方がないだろう」



悟空の首筋に吸い付いて、痕を残す。

愛撫を与えられ続けた悟空の幼い雄からは、先走りの蜜液が漏れ始めていた。
悟空はその感覚に体を震わせ、焔の指先は白濁の液に濡れていく。



「一人で、淋しかったか?」
「あっ…!あ、んっ、はっ…!んっ、ぅんっ…!ああっ!」



喘ぎながら何度も頷く悟空。
それを見て、焔は満足そうに笑った。



「そうか」
「ひゃっ……あぁああんっ!」



それまで緩やかだった愛撫を、激しいものへと変化させていく。
起立する幼い雄を手のひらで包み込んで上下に扱き、逃げを打つ悟空の腰を片腕で抱きこんで捕まえる。
仰け反る悟空の腹に舌を這わせば、悟空はベッドシーツを強く握って身悶えた。



「ひゃっあっ!ん、あうっ!や、やだぁ…あぁあっ!」



悟空の脚を抱えて押し広げれば、露になる悟空の秘所。
しばらく抱いていなかった悟空の躯は久しぶりの快楽に塗れ、穴の入り口は狭いものに戻っている。

それでも、焔の男を煽るには十分だ。
焔の雄は自分の纏う服を押し上げ、痛いほどに張り詰めている。
腕の中で痴態を曝け出す悟空の姿は、どんな媚薬よりも強い。


躊躇う事無く、焔は悟空の秘孔に舌を這わした。



「んぁっ!あぁあっ!ほ、むらぁあっ!」



ぴちゃ、ぴちゃ、と聞こえる音に、悟空は顔を真っ赤にして嬌声を上げる。



「やっ、ダメっ!其処はっ…やぁあんっ!」



全身を駆け上っていく快感に、悟空はただ声を上げるしか出来ない。
跳ね上がる躯は最早己の思い通りに動くことはなく、焔の手の中で身を躍らせるしかなかった。

秘孔を這う舌は生温かく、まるで生き物のように蠢いている。
入り口の周りを濡らしながら、時折入り口そのものを突いて侵入しようとする。
その都度悟空は躯を仰け反らせ、脚はシーツを突っ張り真っ直ぐな波を作る。



「だ、めっ…だめ、焔ぁっ……!あっ、ひゃっあ!其処、はダメぇっ!」
「何故だ?」
「や、喋る、なっ……あぁっ!」



秘部を舐めながら言葉を発せば、穴に焔の息が当たる。

悟空の秘孔はヒクヒクと伸縮を始め、天を突く雄はもう限界だと小刻みに震えている。
前を扱く手を止めずにいれば、悟空は限界を訴える。



「だめっ…離して、焔ぁっ…!!」



ベッドシーツを手繰り寄せ、悟空は下肢に顔を埋める焔に言う。
だが焔がそれを聞く訳もなく、構わず秘孔を舌先で攻め続ける。





「や、あ…!あ、っやぁああっ!!」





耐え切れずに吐き出した白濁の液が、悟空の腹の上に飛び散った。
艶のこもった呼吸を繰り返し、悟空はふるふると躯を震わせる。

血色のいい太股を撫で上げると、達したばかりで敏感な幼い躯は素直に反応を返す。
逃げようと引っ込められる脚を捕まえて、また秘孔に舌を這わせた。



「あ、あっ…!ほ、むら…やっ……!」



小さな子供がいやいやをするように、悟空は頭を振る。
そうしている内に緩んだ髪結の紐が解け、大地色の髪の毛がぱさぱらと音を鳴らした。
無精にしている内に伸びてしまった自分の髪を、悟空は縋るものを探るように掴む。



「随分濃いな……久しぶりだから無理もないか…」
「…っは…あ、あっ……や、ぁあ……!」



尚も続けられる愛撫に、悟空は身を縮めるように背を丸める。
それが怯える小動物のようで、焔は小さく笑みを漏らした。


……酷くしたい訳でも、苛めたい訳でもない。
ただ愛しくて愛しくて、自分自身だけで全てを満たしてやりたかった。
未だ発展途上の躯だと判ってはいたけれど。

他の何も知らないように、他の何もかもを忘れてしまえばいいと思う。
焔の事意外は、何もかも。




(────妬いているのは、お前だけじゃない)




ふと、行為の前に悟空が物言わぬ書物に嫉妬した事を思い出した。

焔が気に入ったと称するものは、悟空にとって全て嫉妬の対象になる。
自分以外のものを焔が見るのが気に入らないから。


悟空は、そんな自分を子供染みていると思っているらしい。
だがそんな嫉妬心は誰の心にもあるもので、増して悟空のそれはまだまだ可愛いものだ。
頬を膨らませて恨めしそうに睨んでくるのだって、また可愛い反抗だと焔は思う。


そんな悟空に比べたら、自分の抱く感情は嫉妬なんて言葉では言い含められない。

悟空が誰かと話をするところを想像しただけで、焔は己の全てが渇き朽ちていく気がした。
それが信頼を置く是音や紫鳶であっても同じこと。
綺麗なこの金色の瞳に自分以外の何かが映るだけで、焔は酷く苛立った。


渦巻く感情は抑え続けた時間が長過ぎたからか、一度噴出してから抑える術など忘れてしまった。




「う、んっ…あ、や…あぁあっ!っは、あっあ…焔ぁあっ…!」




だから、こんな手段しか思いつかなかった。
こんな方法を躊躇いもなく選んでしまった。

其処に生まれるのが、偽りで塗り固められたものでしかないと判っていても。




「悟空……!」
「や、っは、あっ…!いやぁ…も、…あ、んぅっ!」
「もう、いいか……?」




閉じ込めて、何も知らないように檻の中から出ないように。
外を求めないように、何も見えないように自分だけしか見えないように。

笑う顔も、泣き顔も、怒る顔も、何もかも。
駆け回る姿も、眠る姿も、こうして痴態を曝け出すのも。
全て自分に対してだけあればいいと思ったから。


本来在るべき場所から奪い去って、記憶も其処に根付いた想いも消し去った。
ぽっかりと空いた記憶と想いの隙間は、紛い物を詰め込んで埋めた。



……滑稽な愚か者のやる事だ。




──────それでも、繋ぎ留めたかった。





「焔っ…焔ぁあっ……!!」



自分の名を呼び続ける子供の姿に、浮かび上がる昏い劣情を抑える事が出来ない。
浮かぶ笑みが純粋な愛しさからのものなのか、それとも其処から生まれた違うものなのかは判らない。


自分の下肢をくつろげれば、怒張した焔の雄が露になる。
それを目にした悟空は一瞬震えたものの、怯えて逃げようとはしなかった。

今までも悟空は一度としてこの行為から逃げたことはなく、焔の為すがままだった。
己の感情がないからではなく、純粋に焔への信頼と情があってのこと。
何をされても、焔が相手ならば構わないのだと。



「欲しいか、悟空」



悟空の片足を肩に担いで抱え上げ、悟空の顔に己の顔を近付ける。
間近で揺れる金の瞳は熱に浮かされたように朧で、目尻の涙さえ焔を煽る。

焔の短い問い掛けに、悟空は羞恥心に躯を震わせながら小さく頷いた。



「……俺も、お前の熱が欲しい」
「っ……!」



伸縮を繰り返す悟空の秘孔に熱の塊を押し付ければ、悟空から艶の篭った呼吸が漏れる。



「お、れも……オレもっ……欲しいっ……!」



しばらくの間触れる事が出来なくても、躯に教え込まれた熱が消え去ることはない。
忘れられることを忘れたように幼い躯に巣食った熱情は、幼い理性など既に置き去りにさせてしまう。
役に立たない理性など捨てて、本能のままに快楽を追うように。

教え込まれたそのままに、悟空は焔の熱を求める。
他の誰でもなく、記憶の漣に消させて見えなくなった何かでもなく。



「俺が欲しいか、悟空」
「ほしっ…もう……ぅ、んん……っ!」



何度も、まるで確かめるように焔は繰り返し問いかける。
悟空はそれの全てに応と答え、自らも脚を抱えて焔に秘部を曝け出した。





「焔が、欲しいっ……!!」




誰よりも。
目の前の男を、己を閉じ込め続ける男の熱を。

求める幼い子供の姿に、焔は笑みを浮かべて禊を打ち込んだ。