夏日和











暑さ寒さも


彼岸まで







もう少し

このままで
















ねぇ、こんな時ぐらいはわがまま聞いてよ





















蝉の泣き声が煩い。
けれどそれよりも、暑い。

暑くて仕事なんでやってられない。
それも、誰がやっても出来るような下らないものばかり。
やり甲斐がどうのこうのとは言わないけれど。
それでも、やる気が起きないものはおきないのだ。



取り合えず周囲から文句を言われないために。
面倒と思いつつも、適当に仕事をこなした後。
比較的風が入り込みやすい場所を探した。

意外と早く仕事が済んだ事をほっとしつつ、何故かと。
疑問の持った直後、ああ、子供がいないのだと気付いた。




成る程、仕事が捗る訳である。
春夏秋冬関係なく纏わりついてくる子供がいない。
それはつまり、仕事の妨げとなる者がいないのと言う事だ。


隣で一緒に遊んでくれ、外に行こうと騒いだり。
静かにすると言った癖に、十分も持たなかったり。

仕舞いにくっつかれたりすると、この時期、暑くて仕方ない。
ただでさえ熱い子供体温。
低体温の三蔵には、耐えられないものがある。







今日は何処へ行っているのやら。

このクソ暑いのに、よくもまぁそんあ余力があるものだ。








片手に団扇を持って、法衣の上を脱いで。
なるべく日の当たる廊下を選ばないように。

ついでに、あまり人目につかない場所がいい。
急な執務というのは、こういう時に限って舞い込んでくる。
こんな暑い日に、そんなものに付き合いたくはない。




擦れ違う修行僧が避けて通っていく。
どうやら、自分は随分不機嫌な顔をしているらしい。
予想はしていたが。

じっとしているだけで熱が蓄積されるこの季節。
眉間に皺が寄ってしまうのは、ごく自然な事だった。



不機嫌な三蔵に近付く人物は、数えられる程度しかいない。
面の皮が厚い狸爺の僧正と、どうも自分が嫌いらしい中年僧。

それから。
いつも付き纏って離れない、今日だけは見かけていない。
5年前に拾った、金色の瞳を抱いた小さな動物。





ああ、そうだ、動物。
あれがいれば、涼しい場所を知っているかも知れない。


けれど代わりに、煩く付き纏われるだろう。
今は一人で涼みたいのだ。
体温の高いあれを傍に置くのは遠慮する。

ついでに言えば、知ってると言って連れて行かれる場所が。
山道を散々歩いた先の川だとか。
あながち、外れていないだろう。




……あれは、そういう動物だ。




しばらくウロついて、汗で前髪が額に張り付いて。
これなら、自室にいた方が楽だったかと思う。

けれど、自室にいればいたで。
間違いなく、帰ってきた子供が煩いだろうし。
仕事を持って来られるのも間違いない。





そんな事を考えていたら。
広い本堂が目に付いた。


なんとなく足が向いたので、其処に入ってみる。





参拝客が来ていたのか、隅に小さな扇風機があった。
ついでに、古びた書が数冊。
後で片付けるつもりだったのだろう。

見れば本堂の中は、比較的涼しげなものだった。
出入り口が広く吹き抜けとなっている為、風が入り易い。
太陽が真上にあるからか、影も出来ていない。




「おい」




擦れ違った若い僧侶を呼び止める。
緊張した面持ちで、僧侶は振り返った。







「後で茶持って来い。氷入れてな」








それだけ言って、三蔵は本堂に腰を下ろした。












夏だ。
真夏だ。

蝉の声は煩いし、太陽の熱は鬱陶しいし。
湿気が多くてジメジメして、不快感を煽る。
ついでに、先刻まで缶詰だったのも腹が立つ。


外を出歩くのは好きではない。
けれども、こんな時に缶詰にされるのは御免だった。

涼しい所で一人でいるのが一番いい。




心頭滅却火もまた涼し。
そんな言葉は、嘘だと思う。

日頃、暑い寝苦しいと騒いでいるのは養い子で。
煩いから我慢しろと言った事は何度もあるが。
その実、己も寝苦しさに腹が立っていたものだ。



なんでこんなに暑いんだと、いつだったか子供の前で呟いて。
何故だか、子供は暑いのも嫌いじゃない、と言った。

理由は単純、冷たい物を幾ら食べても怒られないから。
幾ら食べても、と言っても限度を超えると流石に止める。
食料を食い尽くされては溜まらないし、甘いアイスを延々と目の前で食い続けられると、見てるこっちが胸焼けする。




四季のある国だ。
正直、仕方のない事かもしれない。






それでも、この暑さは我慢ならない。