夏日和






…夏だ。
真夏だ。

外は酷く暑いけれど、太陽が見えるのは嬉しい。
川の中で遊ぶと気持ちいいし、木陰は涼しくて昼寝に良い。
虫取りも色んな虫がいて、幾らやっても飽きない。


部屋の中でじっとしているのは好きではない。
暑くても外を駆け回っている方がずっと良い。

一番は、三蔵と一緒にいることだけど。



夜は湿気が増して、昼間以上に寝苦しい。
暑い暑いと言っていたら、三蔵に何度も怒られた。

けれど、そうやって怒っている傍らで。
三蔵も本当は熱さに苛々しているのだと知っている。
彼は、極端に寒いのも、暑いのも大嫌いなのだ。




炎天下で何度か外に連れ出した事がある。
山道をずっと歩いた先にある川が気持ちよかったから。
いつも缶詰状態の三蔵に、休んで欲しくて。

着いた頃には、三蔵はすっかり疲れ、ハリセンで叩かれたが。
木陰で休んでいる三蔵を見た時は、嬉しかった。




あの日の事を、彼は覚えているだろうか。
忘れてしまっても、別にいいのだけど。





あの日は、凄く嬉しかったから。

















珍しく本堂で眠っている三蔵を見つけた。

“夏の思い出”を悟浄と八戒に聞いた後。
三蔵はどうなんだろうと、帰ってからの事だ。



「……さんぞ?」



足音を立てないように、そっと歩み寄って。
感じた風に、少し驚いた後で。
扇風機の起こした風が自分に当たっているのだと、気付いた。

陽光の入って来ない、風通しの良い本堂で。
なる程、これは昼寝に丁度良い。




「……外に出ればいいのに」




呟きながらも、似合わないよな、と結論付けた。

炎天下の下、健康的に日焼けするのも。
はっきりきっぱり、この生臭坊主には似合わない。







でも。
太陽の光に煌く、金糸も。

きっときれいだと思うから。







茶と氷の入ったグラスが音を立てた。
外から聞こえる蝉の声が、少し遠く聞こえる。
扇風機の機械音が、ノイズのように時折鼓膜に届く。

悟空がすぐ傍まで来ても、三蔵は目覚めない。
彼にしては珍しいことだ。



「……疲れた?」



間違いなく、そうなのだろう。
今日も今日とて、朝から缶詰状態だった。

愚痴を零しながらも、仕事をこなしていた三蔵。
今日は一際機嫌が悪そうだったから。
仕事の妨げをしたくなくて、悟浄たちの所に行っていた。




其処で聞いた、“夏の思い出”。




色々話を聞いてみて。
人それぞれなんだなと思った後で。

思い出と聞いて、自分が一番最初に浮かぶのは。
恥ずかしいやら、食べ物の事しか出て来なかった。
それを聞いた二人は、「悟空らしい」と笑ったけど。


それでも、帰って来たら思い出した。










大好きな人と、一緒。

それが一番の、思い出。