終わらない紡ぎ唄









真っ直ぐ、突き刺そうとした、刀の切っ先。
それは子供の喉に届かないまま、何故か止まっていた。


真っ直ぐ見つめてくる瞳が、後一歩前に進んで手を伸ばしたら届く位置にあった。

きらきら光る、綺麗な瞳は、一杯に開かれると零れるような気がしたりもした。
大地色のふわふわした髪はまるで動物の尻尾みたいで、走ると本当にそんな風に揺れる。




初めて、真っ直ぐ自分を見てくれた、きらきら光るきれいな瞳。







嫌だ
嫌だよ

嫌だよ……






何処かで悲鳴を上げている自分がいる。
今こうして、子供に突きつける刃を退けと言う自分がいる。

父の為に動いていた筈の筋肉は、まるで動くことを忘れてしまったかのように止まっていた。







いやだよ

やだよ


いやだ







先に目を逸らしたのは自分の方なのに。
捕まえるくせに、応えようとしなかったくせに。

なのに、そんなふうに真っ直ぐ見つめてくる、瞳。








「那托」







この声に、呼んでもらうのが好きだ。
この声を、聞いているのが好きだ。

だけど自分は、呼ぶ名前を持っていない。


応えられない、自分が嫌だ。



駆け寄ろうとする、二人の大人。
彼等も何か言っていたけれど、那托の耳には届かなかった。


だって、この声だけで良いんだ。










「オレの名前さ」









名前。
お前の、名前。

そうだ。
そうだよ。
もうあるんだろ。


なぁ、教えてくれよ。
俺は教えてやったじゃん。

なぁ。
ずるいよ。




教えてよ。












「悟空ってんだ」













よろしくな、と。
笑う顔は、初めて会った時に見せた笑顔と同じもの。


初めて会って、笑いあって、またなって約束して。













「………………………う」












いつか。
連れて行ってやると約束した。

誰も知らない隠れ家とか。
木苺が沢山生ってるトコとか。
空が全部見える木の天辺とか。


約束した。






笑ってくれた。
約束してくれた。

そうだ、怒ってくれたんだよな。



ごめんな。
ごめんな。

酷いことした。


ごめんな。



何回謝っても、足りない。
だけど、他に言葉が見付からない。
声に出来ないのは出ないからじゃなくて、陳腐な言葉じゃ括れないから。

言いたい事はもっとあって、やりたい事はもっとあって。
もっともっと、ずっとずっと、話したい事だってあって、教えてやりたい事もあって。







はじめて、ひかりをくれたのに。


































































































































































大好きだよ。
大好きだよ。



生まれて初めて、誰かを好きになったんだ。
だけど俺、お前に酷いことしたからさ。
お前は俺を嫌いになってなかったけど、だけど酷い事したからさ。

ごめんな、今の俺じゃ言えないよ。
言いたいけど、言えないよ。



なぁ、ごめんな。


お前は俺に、いっぱいいっぱいくれたのに。
俺、お前になんにもしてないままだよな。
色んなトコ連れてってやるって約束したのにな。

なぁ、その約束、今でもまだ生きてるかな。
生きてたら、少しだけそれに縋ってもいいかな。


だってお前に嫌われたら、俺ホントになんにもないから。



だから。
だから。

いつか。


いつか、もう一度会えたなら。
その時、ちゃんと言うからさ。
“俺”がちゃんと言うからさ。

ごめんな。
ごめんな。

今は、これで精一杯。






なぁ。

大好きだよ。









誰より何より、



大好きだよ。










































ただひとつ 願いが かなうのなら

時を越えて届けたい



変わらない想いがあるのならば





いつか桜の下で

























大切な 祈りが 届くように

今日も歌い続けてゆく









探してた 答えは きっとあると










そっと教えてくれた…………





























FIN.




後書き