GUADRDIAN 再び訪れた邂逅は 500年の悠久を越えた後 それでも───あの約束だけは……… 安堵を覚えた。 500年の時を経て、変わらぬ少年の姿に。 苛立ちを覚えた。 500年の時を経て、変わらず少年の傍にいる者たちに。 あの約束だけは守りたかった。 既に少年の記憶には無い事であったとしても。 それでも、守りたかった。 …護りたかったのだ。 あの綺麗な輝きを宿した、小さな子供を。 独りぼっちにしないと約束した。 傍にいると約束した。 他の誰より、傍にいると。 けれど今、あの子供の隣にいるのは…… 遥か昔の刻と変わらない。 あの時傍にいたのは、自分だけだったのに。 この大地に来て、幾度となく思う。 変わり続ける空を、お前と共に見れたなら。 移り行く刻を、お前と共に過ごせたら。 本当に此処は──下界は退屈しない。 人の目に止まらぬ所で、常に変わり行く。 それでもあの四人は、前世から変わらない。 不変ではない。 だが、あの四人は変わらない。 あの子供が少年になり、それでも宿す光が褪せぬように。 そして。 あの子供が今も慕うのは、金糸の男だと言う事も……… 横たわる少年に、焔は歩み寄る。 雨のお陰で、どれが涙の雫かは判らない。 また、本当に泣いているのかも。 けれどその表情は、泣き出す寸前だった。 遠い昔、子供が見せた泣き顔のまま。 少年を優しく抱き上げる。 目尻から零れ落ちた雫は、雨なのか、それとも。 幼い頃より、ずっと成長している筈なのに。 昔と変わらず、軽いままだった。 約束した。 どんな闇からも、護ってやると。 どんな孤独からも、護ってやると。 約束した。 『俺がお前を護ってやる』 目覚めた少年は、強気な目を向けた。 だがその金瞳に、翳りを隠す事は出来なかった。 慕う金糸の男と離れたからか。 敵対する存在と、相対している所為か。 多くは前者だろう。 「いじめられたか?」 雨の最中に問うた言葉をもう一度告げた。 悟空は答えようとはせず、じっと睨みつけてくる。 幼い頃は無邪気な瞳で、笑いかけていたけれど。 そんな記憶は、この少年に残されていない。 悟空の腕に嵌めた枷と、焔の枷がぶつかり合う。 それほどに距離が近かった。 「そう警戒するな」 「……るさいっ……!」 それでも瞳は不安げに揺れて。 まるで捨てられた仔犬のようだった。 「怖いのか?」 「…っオレはそんな…怖いもんなんかねぇよ!」 強気に言いながら、表情は泣きそうなまま。 焔は幼い子供を思い出す。 この目の前の少年が、独りに脅えた頃を。 そしてそれは、今も変わらない事だと。 悟空はずっと焔を睨む。 己の弱い場所を見せないようにと。 孤独に震える姿を見せまいと。 けれど焔は知っている。 悟空は幼い頃から、孤独を嫌っている事を。 独りを怖がるその心を。 悟空の唇に深く口付けた。 ガチャ、と枷が鳴る音が聞こえた。 それでもそれは一瞬で、悟空は動きを止める。 「金蝉とはもう済ませてたか?」 「な…っにが……っ…」 揶揄するような笑みを浮かべる焔と。 息苦しかったのか、呼吸の途切れる悟空。 焔の脳裏に、金糸の男が浮かんだ。 もうとっくに済ませたものだとは思っていた。 何も言わない癖に独占欲は強かったから。 それよりも、大事にしたいとでも思ったのか。 悟空は何をされたのか判らないという表情だった。 口付けも、その意味もさえ判っていない。 (甘いな……金蝉) そうしているうち、横から攫われる。 「俺と来い」 触れる直前の近い距離で、囁く。 悟空が金瞳を見開いた。 幼さの抜けない表情が覗く。 「俺の隣に来い。是音も紫鴛も、お前を拒む事は無い」 力だけが必要なのではない。 この『悟空』と言う存在が、自分には必要なのだ。 綺麗な輝きを宿す少年が。 「何もしなくていい。望むもの全てを与えてやる」 「何……言っ…て………」 少しずつ、少年の姿が、幼い頃の姿に重なる。 あの日、怖い夢を見たと泣いていた姿に。 目覚めた独りの空間が怖いと言った姿に。 約束した日の、姿に。 焔の手が、悟空に繋がれた鎖を辿る。 あの日も、こんな顔をしていた。 俯いた悟空の表情が、差し込む光で僅かに判る。 約束に頷いた時、不安と安堵をない交ぜにした表情で。 重なり合った掌は、あの頃よりも成長していて。 それでも、小さく震える姿は変わらない。 長かった髪は短くなって。 小さかった身体は成長して。 幼さを残したまま、顔立ちも変わっていった。 それでも。 この少年を覆い隠そうとする闇は変わらない。 光を知り、温もりを知り、優しさを知った。 闇を怖れ、冷たさを怖れ、孤独を怖れる。 悟空はずっと、独りに脅えている。 八戒も、悟浄も、三蔵も。 きっといつか、悟空を残して死んで行く。 そうして悟空が抱くのは、また孤独の闇だけだ。 やっと500年の長い孤独から救われたと言うのに。 今度は大地と太陽の恩恵を受け、孤独に抱かれる。 この子供が望むのは。 母鳴る大地の腕ではない。 遠くで輝く、届かぬ光ではない。 誰かから与えられる、独りでないと教えてくれる。 温もり。 ずっと昔。 遥か500年の昔、約束した。 どんな闇からも、どんな孤独からも。 『俺がお前を護ってやる』 遥か遠い昔の約束 拠り所を求めるように、護りたいと思った お前の笑顔を孤独が消してしまわないように V |