Feeling love









本人だけが気付いちゃいない



誰もが寄せるこの感情を








なんにも知らない子供だから













周りがどんだけドンパチしてるか……
















「──次っ!!」


軽快な走りで、先陣を切る少年。
その数歩後ろで、刃を鳴らす真紅を持つ青年。


「猿、邪魔すんな!」
「邪魔してんのは悟浄だろ!」


背中合わせで立ち止まる。
ギンと鋭い視線が立ちはだかる集団に向けられる。

尖った耳と鋭い爪と。
鋭利な刃を手に持つ妖怪たち。
だがそんなものは、彼らには脅しの材料にもならなくて。



悟浄が錫杖を振ると前列にいた妖怪が霧散する。



「三蔵と八戒は?」
「後ろじゃねぇの」
「……やられたりとかは…」
「んなわけねーだろ」


呆れたような悟浄の台詞。
悟空もそれもそうか、と呟いた。



その証拠と言わんばかりに聞こえる銃声。




「三蔵はバケモン並だし、八戒は…」




人の背丈もある光球が悟浄にぶつかる。
悟空はギリギリで難を逃れたが。


怯む妖怪の群れの向こうから、一人の青年が姿を現す。
にこやかな笑顔を称えながら。

その掌には光の球が浮かんでいた。



「僕は、なんですか?」
「ナンデモゴザイマセン……」



悟空は呆然と立ち尽くす。
よろよろと立ち上がる悟浄に、八戒は目もくれない。
戦闘中ということも忘れている悟空の頭を撫でる八戒。

怪我をしてないかと、場違いな事を問う八戒。
悟空はただ呆然と八戒を見ている。



悟空と八戒の間を疾る銃弾。
それもやや八戒よりに。



「……なんですか?」



八戒が視線を向けると、其処には不機嫌な最高僧。
襲い掛かる妖怪共は、姿を識別する間もなく霧散する。


ずかずかと二人に歩み寄る三蔵。
悟浄が止めようとすると、目一杯蹴飛ばされた。


(俺ってこんな役ばっかし……)


がっくりと肩を落とす悟浄。



それに目もくれず、三蔵は二人の前で足を止める。
瞬時、飛び散る火花。

それを感じてしまったのか、妖怪がたじろぐ。
悟浄は巻き込まれるのは御免と頭を抱えた。

唯一、悟空だけが一体何事かとおろおろしていた。





「人のモンに図々しいんだよ」
「誰が誰のものなんです?」
「その猿が俺のだっつってんだ」
「初耳ですけど」






気付けば、妖怪の姿はない。


それが出来る連中が羨ましい。

悟浄は離れられない自分自身を呪った。
別に離れてしまってもいいのだ。
自分がいなくなっても、この二人は気にも止めない。

別に気に止めても欲しくない。



「これは俺のだ。俺が拾ったんだからな」



ぐい、と悟空の身体を引っ張る三蔵。
その少年の肩を八戒が掴んだ。


「随分と勝手な言い分で」


にこやかな笑顔。
悟浄には、それが見た目通りの意味では無いと判った。


悟空が悟浄の前でしゃがんだ。
心配そうに顔を覗き込んでくる。
言葉にしないながらも、「大丈夫?」と。

こうやって気に掛けてくれるから。
この綺麗な少年から、離れ難いから。
だから悟浄は、こうやって一緒に旅をしている。




「なんて事ねーよ」
「ホント?」




見上げる金瞳。
くしゃくしゃと頭を撫でてやる。




その直後に、後頭部にダブルの衝撃。






「僕らの目を盗んで、何してるんです?」







腕を組んで踏みつけてる八戒。
その笑顔には滲み出る殺気。






「図々しい事この上ないな」






悟浄の頭を踏んだまま。
小銃のセーフティロックを外す三蔵。

悟空が再びおろおろする。


踏まれたままの悟浄と。
彼を踏んだままの三蔵と八戒。

八戒の肩にいた白竜が、悟空の肩へ移る。
大丈夫と言うように頬に擦り寄る。
それに悟空も、ほっとしたようで。




「テメェら百年早ぇんだよ」
「なら百年経てばいいんですね?」
「……んだと?」
「だってどう考えても、僕は貴方より長く生きるでしょうし」
「百年だろうが千年だろうが、譲らねぇよ」


「どうでもいいけど、退いてくんない…?」




悟浄を足蹴にしたまま、口論する三蔵と八戒。

それを見た悟空は、白竜を不安げに見る。
白竜も言葉が出ないと言うばかりだ。



互いに向き合って睨む三蔵と八戒。

なんとか二人から開放された悟浄は、地べたに倒れた。
精神的に極限だったらしい……






「この際、ケリつけてやろうじゃねぇか」


なんのって、悟空の争奪戦の。





「そうですねぇ、もう我慢出来ませんし」


何時からって、出逢った三年前から。





「……俺、一抜け……」


命は惜しいのであった。






白竜はやれやれ、とばかりに溜息を吐く。
…お前は本当に科学と妖術の合成体か?

悟空は火花を散らす三蔵と八戒におろおろするばかり。
泣きそうな顔をしている事に気付いていないのか。



不意に悟空が振り返ると。




「今日こそケリを着けるぞ、孫悟空!!」




最近出番のない王子様。


「黙れ管理人っっ!!」


すいません…





悟空はきょとんとして紅孩児を見る。



「紅孩児、誰に突っ込んでんの?」
「そんな事はどうだっていい!」



やけにテンションの高い紅孩児。



「今日こそは決着つけさせて貰うからな!」
「……今そんな気分じゃないんだけど…」
「なっ!! 気分の問題でもないだろ!」
「乗らないってゆーか…力入んないってゆーか……」



肩のジープも呆れ帰っているようだ。





「それよか退屈だからさ、遊ぼ!」





常ならこの『遊ぶ』は悟空にとって戦闘の事。
初めて出逢った時も、「遊んでいけ」と飛び掛ってきた。
戦闘時もよく楽しそうに笑う。

悟空に取っては喧嘩のようなものなのだ。



「……お前、頭打ったのか?」
「違うって。ホントに今闘う気しないんだもん」
「敵と遊ぼうと誘う奴が何処にいるんだ」



そう言いつつ話をする紅孩児も、相手が敵だと判っているのか。



「ここじゃなんだし、向こう行こ!」


紅孩児の腕を引っ張る悟空。
白竜は驚いて悟空の肩から飛び立ってしまう。


紅孩児の表情は複雑なものだった。












判ってないのは本人だけ


周りでドンパチやってる事








人の事には聡いくせにさ、こう時は鈍いんだ











そんな奴に惚れた事、誰も否定しやしないけど













FIN.