神様からの贈り物










特別な日だ、なんか願い事あるか?








突然やってきた偉そうな女の人がそう言った

あんた誰って聞いたけど、「んな事はどうでもいい」だって
知らない人に付いていく名とは言われているから
逃げようと思ったら、足引っ掛けられて派手に転んだ

あれ、反対側に立ってなかったっけ?


そんな事考えながら、地面に転んだままで見上げたら
なんだか女の人は、すっごく楽しそうな、嬉しそうな顔してて










なんでも叶えてやるよ
俺様が直々にかなえてやるんだ、こんな有難い事ねぇぞ




さぁ、何が欲しい?



























































珍しく、一番早くに目が覚めた。

自分の寝起きが悪いとは思っていない。
それでも、昨晩は随分遅くまで起きていたから。


煙草の匂いもなく、部屋は白煙に巻かれておらず。
宿の人が開けたのか、窓が心持程度に開いていて。
其処から流れ込む風が、寝起きの頭に心地良かった。

流れ込む風によって、カーテンが揺れた。
窓の向こう側は、まだ朝日が昇り始めた程度だった。


こんな早くに目覚めても、腹が減るだけだ。
もう少し寝ようかと思って、目を閉じてみたが。
既に覚醒は済まされており、睡魔も逃げてしまっていた。

仕方がないから起きておくとしよう。
でも、一人で起きているというのはなんとも退屈だ。



悟浄を起こそう。
そう決めて、ベッドを降りた。

端っこのベッドに寝ていた。
だから、降りて立ち上がれば、他のベッド全てが見える。
隣に金色、その向こうに焦茶、反対端に紅。











昨日、眠った時と同じ景色。



………では、なかった。












しばし、自分の中の全ての機能が停止した。
すぐに復帰を果たして、目元を何度も擦った。
寝惚けた自分の錯覚ではないかと思ったのだ。

けれど何度目を擦ってみても、目の前の光景は変わらず。
ひょっとしてこれは夢なのではないかと思う。



………そうだ、夢だ。
それが一番しっくり来るではないか。

早く起きろ、早く起きろと頭を叩いたりしてみるが。
思いの他、自分で叩いた部分が痛くなって止めた。


そうだ、触ってみればきっと判る。
誰かが「それでどうやって判断するんだ」と言った気がしたが。
自分以外に目覚めている者なのどいないので、当然空耳。



恐る恐る、隣のベッドに近付いて。
其処に眠る人物を起こさないよう、ゆっくりベッドに乗る。

そろそろと手を伸ばす。
光る金糸は、昨晩最後に見たのと全く同じもの。
触ってみればやはり、自分の良く知るものと同じだった。





これは、起こした方がいいんだろうか……





そう思ったが、なんとなく起こせない。
現状維持を望んでいる訳でもないけれど、なんとなく。


誰か助けてと思いつつも。
この静かな空間の中、不思議と違和感を覚えれず。
また金糸を弄っていると、それが僅かに身動ぎした。

慌てて手を引っ込めると、金糸がまた動いて。
その持ち主がゆっくり顔をこちらに向け。




やっぱり、違う顔。
いや、同じ顔。
いや、でも、やっぱり違う。




錯乱状態に陥った頭は、また活動を停止した。



紫闇がゆっくり煌いて、こちらを見上げた。
不機嫌そうに眉根を寄せられて、ますますパニックになる。

この金糸を持つ人物は、彼以外にない。
少なくとも自分が知っている限りでは。
という事は、この人物は必然的に彼という事になり。


それでも、自分が見下ろしている人物は。
長年見つめてきた、青年ではなくて。


















「え――――――――っ!!!!??」




















殊のほか自分の発した声は室内に響き渡り。
目の前の人物が青筋を立ててハリセンを振り下ろした。

すぱぁんと小気味の良い音がして。
ああ、やっぱり彼なんだと認識させられてしまい。
やっぱり頭の中は錯乱している。



と。

目の前の人物の動きが止まった。


金糸の持ち主は既に起き上がっており。
悟空は同じベッドの上で座って、金糸を見下ろしている。

奇妙な違和感が、悟空を包み込んだ。


悟空は不本意ながら、自分が小さいと自覚している。
座っていても立っていても、いつも見上げる恰好になる。
だから相手はいつも、自分を見下ろしているばかり。

なのに、今二人は同じ高さに座っているのに。
悟空が見下ろしていて、金糸の持ち主が見上げている。


金糸の持ち主はあたりをぐるりと見回すと。







「おい、此処は何処だ?」







笑うに笑えない状態だと、悟空はやっと判った気がした。


見上げてくる人物は、確かに彼だと思うのに。
振り下ろされたハリセンだっていつも通りのものなのに。

雰囲気が知っているものとは随分違う。
なんだか口調も何処か幼いもののように聞こえたし。
当然、声だって知っているものと違って高い音だった。



「おい、聞いてんのか?」



憮然とした態度はいつものままなのに。

この人物は、自分の以上に気付いていないのだろうか。
それとも、これはやはり夢なのか。




「あんだよ、煩ぇな……」
「騒々しいなぁ……」




寝惚けた声が聞こえて、二人同時に振り返ると。
他二つのベッドの盛り上がりがもぞもぞと動いて。
翡翠と紅がこちらを見て捕らえた。

その姿を確認し、悟空は気が遠くなるような気分を初めて味わったのだった。








まだ10歳そこそこの子供達が、そこにいた。




























































不機嫌そうにこちらを睨んでいる紫闇。
周りを不思議そうに見回している紅。
興味なさそうに俯いている翡翠。

それらと向き合って、悟空は痛む頭を抑えた。
取り敢えず、彼らの事を確認しなければならない。



「ねぇ、名前は?」
「聞くなら、先に名乗るのが礼儀だろ」



金糸と紫闇を持つ子供の言葉に。
ああ、やっぱり彼と同じような事言うんだと思いながら。
言う事は尤もなので、特に文句は言わなかった。

変な気分だな、と思いながら。
名前を告げれば、紅の子供が反芻して呟き。



「江流だ」



金糸の子供がそう行ったのを合図にしたように。



「……沙悟浄」
「猪悟能です」



告げられた名に、やっぱり、と思った。
聞かなくてもある程度の予想はついていたのだ。

金糸と紫闇を持っているのは、彼しかいないし。
紅を持つ子供の見慣れた触覚は、彼と同じ。
翡翠の子供にも、はっきり面影が見られる。


“江流”は三蔵の昔の名前だと。
旅に出てからの出来事で、悟空は知った。

“悟能”は八戒と初めて逢った時の名前。



「それで、今度はこちらが質問して良いですか?」



悟能の言葉に、悟空が頷く。



悟能は子供らしからぬ雰囲気を持っている。
人との関わりを立つように、壁を感じる。
瞳も他の二人と違って、ほとんど光を感じられない。

あんなに優しい八戒も、子供の頃は大変だったらしい。
誰も信じる事が出来ない、可愛くない子供だったと、自嘲気味に笑いながら話してくれたのを覚えている。


それでも、なるべく警戒を解いてくれるようにと。
悟空は笑みを浮かべて、悟能と向き合った。



「僕は、何故こんな所にいるんですか?」
「え………」



来るだろうと予想していた言葉ではあったが。
悟空はなんと答えて良いか判らず、詰まってしまう。

このまま黙っていたら、やはり怪しまれるだろう。
人攫いだとか、そういう類と思われるかも知れない。
けれど、なんと説明して良いかも判らない。



「俺も……帰りたいんだけど」
「それは俺もだ。理由はどうでもいいから、帰せ」



悟浄は恐る恐ると言った風に告げて。
命令形で割り込んできた江流は、不機嫌そのもの。

こういう時、言葉を知らない自分が悔しい。
大人達なら、何か適当に誤魔化せるのだろうに。
何故よりによって、こんな状況に見舞われるのか。


とにかく、これだけは言わねばなるまい。



「あの……攫ってきたとかじゃ、ないからね」
「お前みたいな阿呆面に攫われるほど間抜けじゃない」



きっぱりと横から否定された。
遠慮ない物言いは、どうやらこの頃から始まっていたようだ。

悟浄だけは縮こまったようにしているけど。
不安そうにしているのはよく判ったから。
どうにか状況を説明しなければならない。


西に向かって旅をしている途中だと言うことも。
………自分たちが縮んでしまったのだと言うことも。

あまりにも馬鹿馬鹿しい話だと、自分でも思う。
果たして信じてくれるかどうかも判らなかったが。
自分なりに、悟空は必死になって話をした。
































一通り、出来る限りの説明を終えると。
江流が確かめるように「本当だな?」と言った。

信じてくれるのかと思って見つめていたら。
嘘を吐けそうではないと言われて。
事実そうなので、なんとも言えない気分になった。


だが江流はなんとか信じてくれたようで。
黙って聞いていた悟浄も、複雑そうな顔はしていたものの。
信じてくれるかと問うと、小さく頷いてくれた。

悟能だけはなんの反応もしてくれなかったが。
部屋を出て行こうとしないのを見ると、少しは信用してくれたと思っても良いのかも知れない。



けれど、これからどうしたものか。
朝食も食べていないから、胃袋もそろそろ限界だ。
しかし彼らが料理が出来るとも思えない。

三蔵のゴールドカードが何処に行ったか判らないし。
取り敢えず、服は彼ら本来の服を折り曲げて着て貰っている。


それにしても、どうしてこんな事になったのだろうか。
取り敢えず、考えられるだけ考えてみる。








其の一。
何処かで変なものを食べた。


まあ、ないだろう。
流石に。



其のニ。
夕飯に何か変なものが入っていた。


けれど、昨日の夕飯は四人揃って食べた。
それに今回の宿屋は、室内にキッチンがついている。
作ったのは八戒だから、それはない。

いつもと同じ、なんの変哲もない夕飯だった。
それが原因だとしても、何故悟空だけ平気なのかが謎になる。



其の三。
寝ている間に妖怪の襲撃があった。


有り得ると言えば有り得る話なのだが。
気配に聡い自分達が、誰も気付かなかったとは思えない。

こんな変な妖術をかけて逃げるぐらいなら、ついでとばかりに殺して経文を奪っていけばいいだろう。
あまりにも効率が悪すぎる。









思いつくのはそれ位だろうか。
しかしどれも真実味に欠ける。

自分達に気付かれずに近付いてこれる敵と言ったら。
紅孩児とか、焔とか。
だが彼らがこんな変な事をするだろうか。



ぐぅ、と腹の虫が鳴るのが聞こえて。
やっぱり頭を使うのは苦手なんだと溜息を吐いた。

取り敢えず、どうにかして腹を満たさねば。
だがゴールドカードは見当たらないし。
いつも料理を作ってくれる八戒は、あの状態だし。


そもそも、皆キッチンテーブルに手が届きそうにない。
ぎりぎり届いても、料理が出来る姿勢にはなれない。
悟空の身長の半分程度しかないのである。

小さくなってしまった大人達をじっと見て。
悟空は、よし、と決意を固めた。



一度決めれば、行動するのは早い。




「な、皆腹減ってない?」




悟空の言葉に、最初に反応したのは悟浄だった。

ベッドの隅で小さくなっているのが、なんとも頼りなさげで。
いつも見上げなければならなかったのが、今は下にある。



「腹減らない?」



返事を促すようにもう一度問うと。
言葉の代わりのように、悟浄の腹の虫が鳴った。



「……そう言えば、今は正午なのか」
「うん。昼飯の時間!」



どたばたしていて、朝が食べられなかったから。
どうやら江流も、腹を空かしていたようで。

黙っている悟能にも聞いてみるが、返事はなく。
とりあげず、あれば食べるだろうと踏んで。
悟空はとたとたとキッチンに向かっていった。



「お前、料理できるのか?」
「さぁ?」



悟空を追って来た江流の言葉に。
悟空は曖昧に答えて、誤魔化すように笑った。

途端に江流の眉間に皺が寄る。
あれは子供の頃からの癖だったのか。
関係無いことを考えて、少し噴出してしまった。


江流の後ろから、悟浄も歩いてきて。
見上げてくる紅の瞳は、随分幼さを映している。



「飯、作るのか?」
「うん。大したモン作れないと思うけど」



八戒の手伝いをちょっとした事があるぐらいだから。
実際の料理経験は皆無と言っても良いだろう。



「…喰えるもん作れよ」



それだけ言うと、江流は寝室に戻り。
テーブルに放置されていた新聞を取った。
暇潰しにしては随分子供らしくないなと悟空は思った。

悟浄の方は壁に背を預けてこちらを見ている。



「お前………」
「ん?」



聞こえた悟浄の言葉に振り向いてみると。
悟浄はこちらを見ていたが、しばらくして俯いて。



「…………なんでもねぇ」



それと同じ言葉を、今まで何度も聞いていた。
何かあったり、言ったりした後で。
誤魔化したり揶揄うようにして言っていたから。

けれど、今の声音はそんなものではなくて。
なんだか酷く頼りないもののように聞こえた。



悟空は立ち尽くしていたキッチンから移動して。
下を向いてしまった悟浄の顔を覗く。


いつもは見上げれば、直ぐ其処にあったのに。
俯かれていても、すぐ見えたのに。
だって見上げる位置に、自然とあったのだから。

それなのに今は、しゃがまないと見えない。


けれども悟浄は、今度は明後日の方向を向いてしまう。
どうやら、悟空と顔を合わせたくないようだ。

無理矢理聞き出すのは良くない。
大体にして、悟浄は隠し事が多くて、話をしてくれないから。
本人が切り出すのを待つのが一番懸命だ。



「すぐ作るから、待っててな」
「…………うん」



うん、だって。
いつもなら聞かない言葉に、悟空は笑った。


八戒に怒られている時でさえ、返事は「はい」だ。
自分たちの中でそんな言葉を使うのは、悟空だけだった。

それでも、子供の頃は普通に使っていたのだろう。








やっぱり小さくなっちゃったんだ、と。
なんだか今の状況が楽しく思えてきた。

此処は、そんな自分を叱っておくべきだろうか。

































出来上がった食事は、そう酷いものではなかった。

見た目は焦げていたり、一部炭になっていたりしたけど。
食べてみれば、味付けはそう変な物ではなかった。


悟浄は意外と素直に食べた。
江流は眉根を寄せたが、なんとか食べてくれた。
悟能は文句をつらつら並べてくれたが、結局全部食べた。

悟能が文句を言うと、横から江流が割って入った。
文句を言うなら喰わなきゃいい、と。

一瞬剣呑な空気になったのには緊張したが。
悟能はそんな江流を少し睨んだだけで、江流は気に止めず。
悟浄は気付いているのかいないのか、食事に熱中。


なんとか無事に食事を終えると、食器の片付け。
落とさないように気をつけたが、やっぱり落とした。

派手な音に驚いたのか、悟浄がキッチンに顔を出した。
なんかでかい音したけど、と小さい声で言われて。
皿の破片を片手に、「なんでもない!」と笑って誤魔化した。






三人がもとに戻ったら、八戒に料理を教えて貰おう。

って言うか、もとに戻ってくれるんだろうか……










































何が欲しいって言われても
別に今のまんまで満足だし、別に浮かんで来なくて
それを言ったら







それじゃ俺が詰まらんから、なんでもいいから言え







なんて言われて、しょうがないから考える事にした

どうでもいいけど、早く帰りたいな
っつーか、此処って何処なんだろう
まぁいいや、早く終わらせて皆のとこ帰らなきゃ


あ、そうだ

ねぇ、本当になんでもいいの?













そう言ったら、もの凄く楽しそうに頷かれた


























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