- analias -T














Take my hand right now


Just slowly open your eyes









Remenber me from way before?









On and on we go


Until we find what we’ve been searchin’ for ...

































































今日も今日とてご苦労なことだと。
うんざりしたように溜息をついたのは、悟浄だった。

以前は西からの刺客ばかりだったのだが。
近頃はその辺の雑魚妖怪も襲いってくるようになり。
お陰で退屈しないで済むのは、良いのだが。
歯応えがないので、なんとも詰まらない。


退屈な日々を続けるのと。
退屈はしないが、詰まらない戦闘ばかり続けるのと。
どちらが良いかと問われれば、どちらの御免である。

それでも、今日は少しだけ、詰まらなくなかった。
紅咳児達と比べれば、蚊ほどにもないのだが。
今日の刺客は少しばかり強敵だった。



邪魔する者を片っ端から蹴散らして。
駆け回る悟空は、無邪気に楽しんでいるように見える。

否、実際に楽しんでいるのだ。
今年18になるとは、とてもじゃないが思えない程。
まるでスポーツでもしているかのように。








負けないという確固たる自信。

そして、戒め。





――――――足手まといにはなりたくない。





















「楽しそうじゃねぇか、悟空」



数秒足を止めて呼吸を整えていると。
背中に軽い重みがあたり、聞こえた声。

肩越しに見上げてみれば、其処には紅。



「だって最近雑魚ばっかだったじゃん」
「ま、そいつらよりゃ楽しめるよな」



悟浄が錫杖を薙ぐと、鎌が妖怪達を引き裂く。

三蔵達はどうしているだろうと思った悟空だったが。
聞こえる銃声に、心配無用と判った。
八戒の気孔だろう閃光も、時折視界にちらつく。



数匹の妖怪が飛び掛ってきたのを見て。
悟空と悟浄は、それぞれ別方向へ跳ぶ。

悟空が地面に着地すると、待機していた妖怪が動き出す。
しかし鋭い爪や刃は、悟空の体を掠めることもなく。
反対に伸びた如意棒によって、地に叩き伏せられた。


少し離れた場所では、悟浄が妖怪を片付けている。
ちょっと一服、とばかりに煙草を咥えていた。

余裕綽々、と言わんばかりだ。


悟空はしばらく、意味もなく悟浄を眺めていたが。
背後から切りかかってきた妖怪の攻撃をよけると。
腹減ったな、などと暢気に考えた。


そういえば、町はもう近いと言っていた。
腹も減っているし、そろそろ終わらせよう。

これだけ運動したから、食事はさぞ美味いだろう。
八戒の作った食事だったら尚更。
ご当地ものの食事も楽しみだ。




「ねー、三蔵!」




妖怪を殴り飛ばして、名前を呼ぶと。
不機嫌な紫闇がこちらに向けられた。



「こんだけ運動したからさ、飯一杯食っていい?」
「……残りテメェが片付けたら考えてやる」
「よっしゃ! 三蔵、約束な!」



三蔵の言葉に悟空が嬉々として駆け出すと。
三蔵の隣に、自分の担当区分を片付けた二人が立つ。



「お前、こんな時までサボるなよ」
「よっぽどお腹空いてるんですね、悟空」



次々に妖怪をなぎ倒していく悟空を遠めに見る二人。
三蔵は懐から煙草を取り出した。

後は放って置いて問題ないだろう。
いつもより手応えがあると言っても、露ほどのものだ。
多数相手でも危惧する必要性は薄い。


悟浄や八戒としても、手間が省けて助かっている。
そろそろ面倒だし疲れたと思っていた頃だった。
残り全て悟空が片付けてくれるなら、任せるとしよう。

妖怪を片付けて、すぐに先へ進めば。
おそらく、夕刻までには町へ辿り着けるだろう。

今日の夕飯は奮発せねばなるまい。
三蔵も悟空と約束してしまったし。
約束を反故すると、悟空は直ぐに拗ねてしまう。



「安いモンにしとけよ。カード止められるぜ」
「高くても安くても、悟空にとっては一緒ですよ」
「誰があんな猿に無駄な金使うか」



自分たちで作れば、恐らく一番安く済む。
しかし、まともに家事が出来るのは八戒だけで。
彼も休みたいだろうから、その選択肢は今日はなし。

八戒の手料理でも悟空は喜ぶだろうが。
今日は大衆食堂にでも行って済ませよう。



「おーおー、早いねー。あとちょっとだな」



気付けば、残りの妖怪はほんの数匹。



「もう少しかかるかと思ったんですけどね」
「飯がかかってるからな」



数を気にしていたのだろう八戒の台詞に。
三蔵の呆れ口調の返事。
悟浄と八戒は、違いないと顔を合わせて笑った。

恐らく、あと五分もしない内に終わるだろう。




しかし。
残り一匹、となった時だった。

途端に悟空が動きを止めた。




一体どうしたのかと思っている間に。
悟空は、糸が切れた操り人形のように地面に倒れる。

様子がおかしい。
何処かやられたのかも知れないと。
三人が動いた時には、既に遅かった。




「悟空!!」




妖怪がすぐ傍まで近寄ってきている。
呼べばいつも反応を返したというのに。
声にも危険にも気付いていないのか、びくともしない。

妖怪の手が悟空の首元に伸ばされる。
悟浄が錫杖を振りかぶるが、下手をしたら悟空に当たる。


このままだと、悟空は殺される。
それは絶対に、させてはならない。

龍の逆鱗に触れるような行為なのだから。








だが。

その爪が小さな体を切り裂くことはなかった。












悟浄が薙いだ錫杖はかわされ。
距離を置くつもりか、後方に跳んだ妖怪の腕の中に。
ぐったりとした小さな体。

三蔵が銃のトリガーを引くが、それもかわされる。
八戒も気孔を溜めたが、悟浄に制止される。
当たりの大きい気孔では、悟空を巻き込み兼ねない。


悟空は完全に意識を失っていた。
そうでなければ、現状で大人しくしている筈がない。

握っていた如意棒は地面に落ちている。
落ち着きない所為でいつも握り締められている手は、今は力なく解かれていた。



妖怪が自分の抱える悟空を見て、くっと笑った。



「金晴眼の子供は貰って行く」
「……なんだと……?」



妖怪の放った言葉に、三蔵が眉根を顰めた。


いつものように経文目当てだと思っていた。
行きずりの雑魚妖怪もそうだったから。

しかし、どうやら今回は違っていたようだ。
問題ないだろうと一人にしたのは失敗だったらしい。



「経文じゃなく、猿が狙いか……」
「どうして悟空なんです? 金晴眼…の、子供が」



獲物を構えたまま、悟浄がにじり寄り。
八戒も気孔を溜めながら妖怪に問う。

なんとか、隙を作らなければならない。


機動力では、相手に劣ると判断した。

悟浄の錫杖、三蔵の撃った弾を避けたのだ。
おそらく、ついて行けるのは悟空ぐらいのもの。
だが、当人は相手の手の内にある。



「この辺じゃよくある話だ。金晴眼の齎す力の事はな」
「金晴眼の齎す……力……!?」



金色の瞳が吉凶の証だとか。
災いを齎すとかいう話はよく耳にするが。
そんな話は、悟浄と八戒は初耳だった。

しかし、三蔵だけは。



「……それで、喰ってそいつの力を手に入れる気か?」
「さぁな。喰うか喰わんかは、後で決めるさ」
「決める暇をやると思うか」



銃を構え、三蔵が妖怪を射殺さんばかりに睨む。
しかし妖怪は嘲笑うようにこちらを見ているだけだ。

悟浄と八戒も、危険な状態である以外にないと判断し。
このまま放って置けば、悟空がどうなるか。
判らないほど、鈍感ではない。


八戒の気孔はすぐには放てない。
悟空をこちら側に連れ戻さない限り。

意識のない悟空にさっさと起きろと思うが。
恐らく、術の類でもかけられたのだろう。
目覚めるには時間がかかりそうだ。




「さっさとうちのペット返して貰うぜ!!」




悟浄が地を蹴り、距離を詰める。
大上段から錫杖を振り下ろすと、妖怪は左に避けた。

悟空を担いで、この身軽さ。
幾ら悟空が平均以下の体重で小柄だと行っても。
どうやら、厄介なのを残してしまったようだ。

続けざまに銃声が響き渡る。
しかし、それは妖怪の体を掠める事もしない。


「くそったれ、ちょこまかと!」


悟浄が悪態を吐くが、それで事態が変わる筈もなく。
それどころか、砂塵が妖怪を中心に舞い上がる。

舞い上がる砂塵に、三人は顔を手で覆う。
八戒が防護壁を張る暇もなかった。
一番近くにいた悟浄は、吹き飛ばされまいと踏ん張る。
























砂塵が収まった後には。

妖怪も、見知った少年の姿もどこにもなかった。




























悟浄が忌々しげに舌打ちし、錫杖を地面に突き立てる。
八戒の肩にいたジープが、不安げに辺りを見回した。


逃げられた。
しかも、悟空まで連れて行かれた。

散々おちょくられた上に、この始末。
腹立たしい事この上ない。
悟浄の苛立ちの表れは、八戒や三蔵も同じだった。



「困りましたね……これは……」



常なら、笑いながらの冗談交じりの台詞。
そうでなくとも、笑みを浮かべているのに。
今はそんなものは形を潜めていた。

悟空が簡単にやられる事はないと判っている。


しかし、相手の狙いの矛先となれば別の話。
しかも目的が“金晴眼の齎す力”となれば。



「あれは、どういう意味なんでしょうか」
「……置き換えて考えりゃすぐ判るだろ」



八戒の問いかけに、説明するのも面倒とばかりに。
三蔵は煙草に火をつけながら、苛々として告げる。



「生憎だけど、俺今そんな事まで頭回んねぇな」



明確な説明を要求しているのだろう。
悟浄がじろりと三蔵を睨む。
いつもなら間に入る八戒だったが、今回は傍観する。

じっと睨むように見つめる二つの相貌。
仕舞いには白竜までじっと三蔵を見ていた。


三蔵は溜息と一緒に紫煙を吐き出す。



「徳の高い坊主を喰えば、寿命が延びる。それと同じだ」



妖怪の中での噂話だ。

だが、実際その噂を信じて僧侶を食う輩はいる。
本当にそれらの寿命が延びているかは知らないが。


今回はそれと似たような類なのだろう。
金晴眼を持つものは絶大なる力を持っている。
悟空も金鈷で封印されているが、秘められた力は並の妖怪―――それどころか、三蔵たちでさえ適うかどうか。

力に焦がれる者は、当然そんな力を欲するだろう。
何者にも劣ることのない、強大な力を。



三蔵達自身は、馬鹿馬鹿しい事だと思うが。
そう思わない輩も当然、多くいるのだ。



喰らえば力が手に入る。
なんとも安っぽい方法だと思う。
だが形振りを構わない者など山ほどいる。

そしてあながち嘘とも言い切れないのが厄介である。
その者の血肉を浴びれば、妖力が強くなる。
妖怪の血を浴びて、妖怪に転生した者すらいるのだ。
否定しきれる事柄ではないだろう。


悟空を連れ去ったあの妖怪が何を考えているか。
それは自分たちの知った所ではないことだが。




「って事はあの馬鹿猿、喰われたりするのか?」
「かもな。だが、それより手っ取り早い方法がある」



気を失った悟空を喰おうというなら。
それなりの度胸と、己自身の力が必要になるだろう。

幾ら子供に見えても、悟空は危険に敏い。
切り刻まれようとされても、跳ね起きるだろう。
かけられた術の強さにもよるだろうが。



「喰うより手っ取り早い方法?」
「仲間に引き込む、とか、そういうのですか?」
「まぁ似たようなもんだが……」



襲い掛かってくる妖怪の中に。
仲間になれば命を助けてやるという連中がいた。
そんな輩は即効であの世行きになったが。

悟空だってそんなものを相手にした事はない。
悟空は三蔵と一緒にいたいと思っているから。


だが。






「暗示の類だ」






三蔵の言葉に、二人は納得してしまう。

戦闘面では強くても、悟空の中身はまだ幼い。
増して、孤独や不安に弱い悟空。
其処を突かれたら、案外と脆いのだ。



孤独を恐れる、それにつけ込まれたりしたら。
幾ら悟空でも、屈してしまうかも知れない。

一人でいる事に、未だに慣れていないから。



「あいつ単純だからな……」
「暗示ってのは相手の心の隙間に入り込むようなもの。そうなりゃ後は言いなり同然、物事の判別能力が弱くなってるからな」
「敵対する、という可能性もあると?」
「実際、どっかのバカも暗示で俺達を殺しやがったしな」
「…その節は悪ぅ御座いましたね」



いつだったか、幻術を得意とする敵と遭遇して。
悟浄はものの見事にハメられてしまい。
幻の中で二人を殺してしまったことがある。

何気なく根にもたれているらしい。
睨んでくる三蔵に御座なりな謝罪をした。



「とにかく、厄介なことになったのは確かだ」



戦力も減ったし、と付け足しのように呟く三蔵に。
悟浄と八戒は目を合わせて笑うしかない。

全く、素直じゃない男だ。
先刻から煙草の減りが随分と早いのは無意識か。
心配で仕方がないのだと。


最も、素直になられても怖いもので。
こうされている方が、こちらとしても安心する。

当たられたりしては溜まったものじゃない。



一先ず、あの妖怪の後を追わなければならない。
何処に行ったかなど、見当もつかないが。



「三蔵、見当だけでもつきませんか」
「……無理だな、今は」
「では取り合えず、次の町に向かいましょう」
「あいつが起きりゃ良いんだけどな」



白竜がジープへと姿を変え。
それに乗り込みながら悟浄が言えば。
三蔵は溜息を吐いただけだった。

聲が聞こえないのだろう。
どうやら意識化まで眠ってしまっているようだ。
それでも、きっと。







「呼んでりゃその内起きるだろ」






いつも煩い奴だから。





















そして一人が欠けたまま、ジープは走り出す。







































さあ 私の手を取って








ゆっくりと目を開けてみて









覚えている? ずっと前から……




















長い道のりを行く 探しているもの 見つけるために
























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