- analias -U










If you could just believe




in you and me to see




There’s no need for you to hide







Cry alone anymore ’cause I will




share my life with you











This world can be too tough when you’re alon ....










But you seem to be so far ... oh tell me
































































酷く冷たい空間にいるのは、初めてじゃなかった。
一人ぼっちでいるのも、初めてじゃなかった。

それでも、二度と味わいたいと思った事はない。
冷たい場所も、一人ぼっちでいるのも。
あの日を境に、絶対に感じたくないものだった。


連れ出してくれた人の後を追い駆けて。
呼べる名前を押してくれた人についていって。
傍にいてくれると約束してくれた人の傍にいて。

ふざけ合える人と出会えて。
甘えられる人と出会えて。



絶対に離れたくないと思うから。
絶対に失いたくないと思うから。


絶対に。













繋いだ手を、離したくない。

















































がんがんと、頭から鈍い痛みが響いて。
体中が重くて、酷くだるかった。

それでも、意識はゆっくりと浮上して行く。
もう少し眠っていたいとも思うけれど。
本能の方が意識の覚醒を促している。


瞳を開けると、黒く細い線が数本見えた。
その細い線の合間から差し込む光が、瞳を射抜く。
けれど、眩しいと思うことはなかった。

だって自分は知っている。
もっともっと、目映い綺麗な光を。


此処は何処なのだろう。
思いながら、悟空は自分が横になっている事に気付いた。
別に眠っていたつもりなどないのに。

だるさを訴える体を叱りながら、起き上がる。
目を擦ればクリアに見えるようになってきた。





その時、はっきりと“あの音”が鼓膜を揺らした。











金属のぶつかり合う音。
ずっと聞いてきた、あの音。

冷たくて暗い場所にいた頃に。
一人ぼっちでいた頃に。
唯一、傍にあった、あの音。












(――――――嘘っ!?)




跳ね起きると、また聞こえる金属音。

腕を持ち上げて見ると、其処には鈍光を放つ枷。
其処から連なる、黒光りする鎖。


それは右腕に、左腕につけられており。
同じ枷が両足も戒めていた。

枷の長さは、立ち上がるには申し分ない。
両手の枷は繋がっている訳ではなかった。
だから今まで気付かず、起き上がる事が出来たのだ。


岩牢にいた時と、よく似ている。
動き回るのにも、なんの問題もなかった枷。
重くも痛くもなかったけれど、邪魔だった枷。

違うのは、鎖は途中で途切れていなくて。
真っ暗な空間に解けて消えていると言う事。



一瞬、全て夢だったのかと思った。
けれど、自分の服装はあの頃のものではなく。
長かっただろう髪は、首の辺りまでしかなくて。

あの出来事は、夢でも幻でもない。
彼等と出逢って、過ごした日々も。




「三蔵っ……!」




今は、呼べる名前がある。
自分以外の名前をちゃんと持っている。

呼べばちゃんと聞こえていると知っている。
呼べば答えてくれると知っている。
呼べば来てくれると、知っている。



痛みを訴える胸に手を当てて。
覚えている限りの事を思い出す。

どうしてこうなったのか、どうして此処にいるのか。


いつものように妖怪達と遭遇して戦闘になって。
残りを片付けたら、夕飯は奮発すると約束して。
当然、そうなれば張り切らない訳がない。

そうして、残るはあと一体となった所で。
急に、意識が遠くなったのだ。






そうして目覚めたら、この空間にいた。






(……ドジやったんだ、オレ……)



術か何かの類だったのだろう。
どうにも自分は、そう言ったものに弱いらしい。


それにしても、何故自分は生きているのだろう。
捕らわれているのだとしたら、どうして。

普通はやはり、殺されるものではないのか。
だからと言って、死んでいたい訳ではないが。
なんだか不自然に思えて仕方がない。



(やばいなぁ……三蔵に怒られるなぁ…)



そう思って、真っ暗な空間を見上げる。
ぽっかりと口を開けた黒に、溜息を吐く。

いや、怒られるならまだ良い方だ。
置いて行かれたりしたらどうしよう。
一人にしないと、いつだったか言われたけど。



(……此処から出なきゃ…!)



帰らなければいけない。
自分のいる場所へ。


立ち上がると、金属音が鼓膜を揺らす。
眼前にある格子に向かって走り出した。
しかし、其処まで辿り着くことなく、足を引っ張られる。

後ろに引っ張られ、後頭部を床にぶつけてしまう。
格子まで、あと五歩程度の位置。
どうやら、動ける範囲は此処までらしい。


盛大に打ち付けた所が、鈍い痛みを発している。
両手でその箇所を押さえて蹲った。



(くっそー……そうだ、壁は?)



後方へと伸びていた鎖を辿る。
壁に繋がっているなら、そこを壊せばいい。

鎖を辿りながら、辺りを見回して。
どうやら、見える範囲は自分の立っている場所から、半径1メートル程度しかないらしい。
夜目は利く方だと思うのだが。


暗い所為で距離感も判らない。
聞こえてくるのは自分の足音と、金属音だけ。

時折過る奇妙な感覚を必死に押し留めて。
大丈夫、大丈夫と小さな声で呟いた。
此処は、あそこではないのだから。



なんとなく圧迫されている感覚に襲われて。
悟空は立ち止まって、そっと腕を伸ばす。

ほぼ限界まで伸ばした所で、手が平らなものに触れた。
見える範囲が狭く、あまり目が役に立たない代わりに。
別の“感覚”が敏感になっているようだ。



(………よし!)



決めれば直ぐに行動する。

しかし。



(………あれ?)



いつものように如意棒を握ろうとして。
何時まで経っても、具現化されない。

何度か繰り返して気を集めてみるものの。
別に自分に何か問題があるとは思えないのに。
愛用している獲物は姿を見せない。


だが、ないと判れば、それまでの事。
思い切り拳を握って、振りかぶる。

自分が人一倍力があるというのはよく知っている。
制御できない頃は、その所為で三蔵を困らせた。
今でも時折、加減を忘れて怒られる。






「うりゃぁっっ!!!」






壁がどれだけ硬いかだとか。
殴ったら自分の手が痛くなるだとか。
そんな事は考えたことはない。

思い切り殴れば、罅ぐらいは入れられる。
その後は蹴りでも入れれば、壊せるだろう。


と、思ったのだが。

襲ってきたのは、思った以上の痛み。











「いってぇ――――っっ!!」











予想もしていなかった衝撃に声を上げて。
悟空はじんじんと痛む右手を、左手で摩る。


がん、と大きな音は聞こえた。
けれど、壁が砕けるような音は少しもなかった。
ついでに言うなら、罅が入るような音も。

自慢じゃないが、壁の一つぐらい、簡単に壊せる。
如意棒を使う時より、どうしても力をセーブするが。
それでも、こんなに自分の手を痛めたのは初めてだ。



幾らか手の痛みが和らいでくれてから。
念の為、殴った壁に手を伸ばしてみるが。
幾ら押しても、叩いてみても、反応はない。

自分が思う以上に、壁が堅いのだろうか。
分厚いだとか、特殊な素材を使っているとか。


力技が通用しないとなると、身動きが出来ない。

どこかに抜け道でもないかと首を巡らせるが。
やはり、周囲は暗闇が口を開けているだけ。




溜息を吐いて、悟空はその場に座り込んだ。
耳障りな金属音が鼓膜を揺らす。

肩膝を立てて、額を膝皿に乗せて俯いた。
手足の枷が、わずかに動く度に音を鳴らす。
やはりこの音は、嫌いだ。


降ってくる沈黙の蚊帳が居心地の悪さを助長する。


もともと、一人の空間は嫌いだから。
酷く心細い気がしてならない。



心の中で、呼べる名前を繰り返しながら。
大丈夫だと、何度も自分に言い聞かせる。

あの頃とは違う。
自分の名前以外を、ちゃんと知っている。
何も知らない子供ではない。


動き回れば腹が減るし。
実際、さっきから時折、腹が鳴っている。



岩牢にいた頃は、少しも腹が減らなくて。
髪も伸びないし、背も伸びないし。
全ての時間が止まっていたけれど。


今は違う。
髪は短くなったし、背も伸びた。

優しくしてくれる人を知っている。
一緒にふざけてくれる人を知っている。
この手を掴んでくれた人がいると知っている。















―――――――それでも。

500年の暗闇は、そうそう拭えるものではなく。
ともすれば、闇に引きずり込まれそうな錯覚に陥る。













―――――ふと。
金属以外の音が、鼓膜を振るわせた。

それと同時に感じたのは、妖気。
決して強いものではなかったけれど、確かに感じた。
俯けていた顔を跳ね上げ、立ち上がる。


しばらく暗闇の向こうを睨みつけていたが。
事態が動かないのを察し、ゆっくりと歩き出す。

地面を踏む前に、一瞬、躊躇した。
まるで落ちて行きそうな錯覚に襲われて。
それでも、しっかりと地面を踏みしめる事は出来た。



進む度に、金属音が聞こえて。
煩いし、鬱陶しいし、邪魔だ。
けれど、外す事が出来ないのが悔しい。

力任せに壁にぶつければ壊れるかも知れない。
けれど、そんな簡単に開放されることはないだろう。
それで済むなら、戒めている意味がない。


やがて見えてきたのは、縦に伸びる黒い線―――格子。
その隙間に見えたのは、意識を失う直前に見た顔。

恐らく。
自分に術をかけた妖怪。
此処に連れ去り、戒めをかけた妖怪。






「お目覚めのようで……金晴眼の御子」






嫌みったらしいその物言いに、悟空は顔を顰めた。


鎖の限界の、一歩手前で立ち止まる。

格子の向こう側から差し込む光のお陰なのか。
この距離だけは、仄かに石床が姿を見せていた。



「手荒な事をしてしまい、申し訳ありません」



演技がかった言動が鼻についた。
届けばブン殴るのに、と思いながら拳を握る。



「あれが手荒なら、これは無礼って言うんじゃねぇの?」
「ですが、そうでもしなければ、逃げてしまうでしょう」
「当ったり前だ、バカ。外せ!!」



言って外されるものではないと思うが。
攻撃が届かないのだから、口先ぐらいしか武器はない。
それも、自分ではなんとも頼りないものである。

距離を縮められないのがもどかしい。
鎖を引っ張りながら、半歩前に出た。



「そう憤らないで頂きたい。あなたは何か勘違いしている」
「何がだよ! こんなことまでしといて!」



見つめる尖った相貌を睨みつけると。
妖怪は格子に手を触れ、悟空の全身を見渡した。

まるで嘗め回されているように見られて。
気色悪くなって、悟空は悪寒が走った。


一体こいつは何を考えているのか。


悟空があからさまに顔を顰めていると。
妖怪は、まるで嘲笑うように笑った。



「私は御子の力が欲しいのです」



その言葉に、悟空は眉根を寄せた。

自分の力なんて欲しがってどうするというのか。
そもそも、そんなものを手にしてどうするのか。






「御子……貴方は、大地から生まれた唯一無二の存在。
秘めたる力は、貴方が思っている以上のものがある。

喰うなどという無礼な真似は致しません。
その力、どうぞ我らにお貸し頂きたい。
我ら妖怪の居場所を奪った人間どもに報復する為に。

……我らの住まう場所を取り戻す為に」






言葉の終わりの時には、妖怪は肩膝を地面について。
まるで僕のように、悟空に頭を下げた。

悟空は格子越しにそれを見ているだけ。
妖怪の言いたいことはなんとなく判ったけれど。
それを受け入れるつもりなど全くない。











妖怪が人間から迫害を受けている事は知っている。
自分も、寺院にいた頃、そうだったから。

けれど、だからと言って妖怪に加担するつもりはない。


妖怪も人間も、悟空には関係ない。
どう足掻いても分かり合えない人はいる。
種族など、関係なく。

妖怪の暴走から、人間が彼らを恐れ、迫害し。
関係のない自我を保った妖怪までも身を追われ。
謂れのない仕打ちに、復讐を思う者もいるだろう。



けれど、人間誰もが妖怪を嫌っている訳ではない。
西への旅を続けながら、色んな人を見てきた。


確かに、妖怪を嫌う人は多かったけれど。
そんな中で、妖怪の恋人を待つ女性もいた。
妖怪を嫌いだと言った少女は、別れ際、弁当をくれた。

他にも、沢山の人を見てきたから。
優しい人もいると、知っている。





それに。
今此処で、首を縦に振ったら。

あの人を裏切ることになる。








「オレは、お前らなんかの仲間にはならない」








連れ出してくれた、あの光の傍に。
ずっといると、決めたから。

愛するあの人を守り抜くと決めたから。



繋いだ手は、絶対に離したくないから。










悟空がはっきりと言い切った後で。
妖怪はしばらく、跪いたままだったが。
やがて顔を俯けたまま、ゆっくりと立ち上がる。

悟空は立ち尽くし、その様をじっと見ていた。


この妖怪は、自分なりに必死なのだろう。
追われた場所を、自分がいた場所を取り戻したいと。

それでも、悟空は手を貸すつもりはなかった。



「そうですか………」



発せられた声音は、酷く低くて静かだった。



「どうしても、お力を貸して頂けないのですか?」
「何回も言われたって、絶対オレは絶対に嫌だ」



別段、妖怪を憎む理由ははない。
確かに、旅の間に沢山の妖怪を葬ってきたけれど。
それらは敵として対峙したのだから、仕方がない。

人間を憎む理由もない。
寺院にいる時、僧に酷い目に合わされた事はあるけど。
大好きな人が傍にいてくれるから、平気だった。



「ならば………」



俯けていた顔を持ち上げた妖怪は。
感情を全て取り去ったような表情をしていた。

警戒の鐘が、悟空の中で鳴り響く。


格子が外れて、妖怪が闇の中に足を踏み入れる。
悟空は僅かに後ずさりすると、身構えた。




「是が非でも、力になって貰う」




先程までとは打って変わった口調。
その方が、悟空にとっても楽だった。

変に畏まられては、調子が狂う。
敵なら敵と分別された方がよほどやりやすい。


両手両足の枷が邪魔だったけれど。
鎖が長いお陰で、動くには申し分ない。
動き回る距離は限られるが、問題ないと判断した。

如意棒を具現化しようとしたが、やはりそれは掴まれず。
何か牢内に細工がしてあるのだろうと推測する。



(やっぱりなんか変な術かけてんだな……)



先刻、壁を壊そうとして出来なかったことを思い出す。
力を制御する何かでもかけているのだろう。

けれど、牢全体に術が施されているのなら。
妖怪も最大値まで力を出せないだろう。



「それはどうかな?」



まるで心の中を読んだかのようなタイミングで言われ。
悟空が瞬きをした一瞬後には。
目の前に、妖怪の姿があった。


咄嗟に動こうとしたものの、鎖に足を引っ掛け。
無様にも後ろに倒れこんでしまった。

背中を強かに打ちつけ、一瞬呼吸が止まった。
それでも、このままでいられる筈もなく。
すぐさま起き上がろうとして。

金鈷の上から額を掴まれ、床に押さえつけられる。
仰向けの状態で、馬乗りにされ、腹を圧迫された。


どうにか振りほどこうともがくものの。
いつもなら、きっと容易く跳ね除けられるのに。
妖怪の体はびくともしない。



「術は牢全体にかけてあるが、特殊な術なんでな」



かけた本人には発動しないんだ、と言って。
そんな都合良いのはずるいだろうと思いながら。
命を張った戦闘には、卑怯も何もないのだ。

悟空の力は、本来のものの半分も出ない。
片腕を掴まれると、爪が食い込んで皮膚を食い破った。



「お前を喰ってもいいんだが……」



妖怪の言葉に、冗談じゃない、と小さく呟く。



「それでお前の力が手に入るとも限らないからな」



手に入ったところで、制御できるかどうか。
金晴眼の力は並大抵ではないからな、と。

そういう妖怪は、残忍な笑みを浮かべている。




狂っている。
まるで楽しんでいる。




悟空が必死にもがいているのを見て。
睨みつける金瞳を見つめて、恍惚と笑う。

掴まれた腕に、紅いものがゆったりと流れ出た。



「お前が術にかかり易いのは、正直言って助かった」
「っく……は…なせ……っ!」



自由な方の腕で、額を押えつける腕を掴む。
足をばたつかせても、効果はなく。
掴まれた腕を振り解こうにも、益々爪が突き刺さり。

馬乗りされている所為で、腹を圧迫され。
息苦しくなって、悟空はうめいた。





「まず……その記憶、消させて貰うぞ」





言って妖怪は、額から手をずらして。
金色の瞳を、その手で覆い隠した。

途端に視界が暗黒に染まり。
判っていながら、悟空は身を固めてしまう。
やはり暗闇にだけは、慣れる事ができない。






















こんな所で、屈する訳には行かない。
それでも、無闇に動けば、金属音が耳に響いて。

聞きたくない音と、暗闇。
途端にフラッシュバックする映像に、必死で首を振る。
それでも、次第に抵抗は弱くなる。


しぶといな、と舌打ちと共に聞こえた声。
けれど、悟空の意識は確実に薄れていた。

それでも、必死になって現実に意識を留め。
がんがんと内側から響く鈍痛に耐える。
それぐらいしか、抵抗する術はなかった。




自分では暴れているつもりでも、体から力は抜け落ちて。
力なく投げ出された四肢は、脳からの伝達に答えない。

襲い来る暗闇に身を任せる気はない。
徐々に泥沼と化す自分の思考回路を叱咤しながら。
何も怖い事はないんだと言い聞かせる。










だって、今は。




呼べる名前が、あるから。















届く事を願いながら、彼の名前を呼んだ。





































あなたが自分を信じてさえくれれば 分かるはず





一人で隠れたり 泣いたりすることの 無意味さを







生きることは 分かちあうこと











この世界で一人じゃ、一人なのは つらすぎるから














でも あなたは 遠くをみている……















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