- analias -V














Why you’re crying now,




I’m standing by you side?







Tell me why your tears are blue




and how to stop then too







Tell me what you want from me




I’ll do just for you











Just becouse I wanna see you smile again































































ようやく聞こえ始めた聲に。
悟浄と八戒は、ほっとした表情を浮かべたが。
三蔵は眉根を寄せたまま、空を仰いだ。

支持するままにジープは荒野を奔る。
それ程遠い場所にいるようではなかった。


苛々として煙草を取り出し、火を点ける。
空気を燻らせた紫煙は、数秒としない内に消えた。

少々運転が荒っぽいのは、八戒の心中の表れか。
後ろが静かなのは、片割れがいないからだけなのか。
興味のない事をつらつらと考えて、止めた。



聞こえてくる聲は、相変わらず煩かった。
一度呼べば否応なく聞こえてくる聲。
どれだけ煩いと怒鳴りつけても、止まない聲。

迎えに行くまで、これは絶対に止まないのだ。
拾った頃がそうだったように。


自分が焦燥にかられていると気付いている。
らしくもない、と何度も自嘲したけれど。
どうにもあの小猿の事になると、今でも調子が狂う。

そう簡単にやられる奴ではないと判っていても。
万が一、という確率がない訳ではなくて。






それを益々助長させてくれるのは。

助けを求めているような、幼い子供のような聲。


















































辿り付いたのは、遺跡のような洞窟だった。
其処に近づく毎に、聞こえる聲ははっきりとして行き。
其処にいるのだと何よりの証明となる。

随分古い洞窟だが、人の往来の後があった。
恐らく、悟空を連れ去った妖怪の住処だろう。



「薄暗くてジメジメして……嫌な所だな、おい」
「衛生面が行き届いてませんね。体に悪いですよ、これは」



先頭を行く三蔵の一歩後ろで。
悟浄と八戒の声が、壁に反射して聞こえてくる。

地下水がしみこんで、漏れているのかだろうか。
時折水滴が天井から落ちてくる。
壁には苔が生えていて、時折妙な異臭がした。


十字路が幾つもあり、その都度、八戒が印を残した。
行きは三蔵が悟空の聲を辿れるが。
帰りはなんとも頼るものがなければ危ういのだ。

悟空を助けても、外に出られなければ意味がない。
進む度に増える分かれ道を間違わないようにせねば。



三蔵は前しか見ていない。
だから、後ろのフォローは八戒達の役目だ。

時折漂う妖気に警戒しながら。
足元に転がる人骨に顔を顰めて進んで行く。



日の光など欠片としてない変わりに。
壁にかけられた蝋燭に灯された火が灯りとなっている。

火の点いている蝋燭の下の方で。
残り数センチもない蝋が数本転がっており。
取り替えられている、住む物がいると示している。




「な、八戒」




なるべく小さい声を出したつもりだった悟浄だが。
狭い空間では、殊更反射がよく効いていて。
思った以上に、発した声は大きく聞こえた。

なんです? と目だけで言った八戒に。
悟浄は口元を隠して、八戒に耳打ちする。



「三蔵の奴、なんか焦ってねぇか?」
「そりゃそうでしょう。悟空の危機なんですから」
「けど、聲は聞こえてるんだろ」
「………だから余計に気にかかるんじゃないですか?」



離れていても、聞こえてくる音のない聲。
それは、悟空の心のうちも三蔵に伝えてくる。

寂しい、だとか、悲しい、だとか。
あるがままに伝えてくるからこそ。
今の状態が芳しくないものだとしたら。



「……急いだ方がいいんじゃねぇの?」
「そうは言っても、道のりがこれですから」



真っ直ぐに直進できない道が続いている。
壊して行けるなら、どんなに楽か。

けれど、そんな事は不用意に出来ない。
下手をしたらこの洞窟全てが崩れ兼ねないのだ。
見た所、かなり古いもので、岩盤も脆いようだし。



徐々に足取りが速くなっているのは、無意識なのか。
ずっと無言のままの不機嫌な男を、二人は追い駆けた。














――――――不意に。


脳の中を鈍器で殴られたような痛みを覚え。
バランス感覚を失い、危うく倒れそうになった。


咄嗟に壁に手をついて、体を支える。
がんがんと痛みを訴える脳に舌打ちした。

後ろを歩いていた二人が、声を上げる。




「三蔵!?」
「おい、どうした!?」




支えようと差し出された八戒の手を振り払う。
悟浄も八戒を制して、三蔵が落ち着くのを待った。


脳を打ち付ける鈍い痛み。
それと相反して、聞こえなくなった聲。

それの意味するところがなんなのか。
詳しい事は知らないが、面倒な事になった。
大体の居場所は判ってはいるが……――――










聞こえなくなった。
あの、いつでも煩い聲が。


泣き叫ぶような呼び声を最後にして。










やはり、聲が聞こえても聞こえなくても。
どっちにしても、放って置く訳には行くまい。

迎えに行かなければ、また煩く呼ぶだろう。
声にならない聲で、あの頃のように。
あの手を掴んでやるまでは、ずっと。


不安の色を見せる二つの相貌には気付いていたが。
特にそれに感慨が沸いてくることもなく。
三蔵はしっかりと立つと、前に歩き出した。

それにやや遅れて、悟浄と八戒も後を追う。



「おい、どうしたんだよ、今の」
「やかましい。喋る暇があるなら歩け」
「だ、そうですよ? 悟浄」



三蔵の台詞に、悟浄は苛立ったようだったが。
此処で内輪揉めをしても意味がない。
悟浄は一つ息を吐くと、懐から煙草を取り出した。


幾つも続く分かれ道を、三蔵は迷いなく進む。
聲が聞こえなくても、気配がするのだ。

8年間、傍に置いていた見知った気配。
いつでも傍らにあることを望んだ子供の声。
暗闇の中、いつも泣いていた子供の。







突き当たった扉を、苛立つままに蹴り壊した。





























蹴り壊した扉の向こう側は。
広い殺風景な空間が其処には広がっていた。

その奥には、幾つかの牢屋らしき空間。


いの一番に動き出したのは悟浄だった。
牢屋の一つに駆け寄る。



「猿!!」



悟浄の声に、八戒が彼の隣に駆け寄る。
三蔵は周囲を見回した後、同じように牢に近寄った。

牢屋の中は暗闇を思わせる程で。
スポットのように当たった丸い光の中に。
壁に繋がれた、見知った子供の姿が合った。


やはり、意識はないのだろう。
爛々と輝く金瞳は、閉じられて見えない。

細身の両腕は長い鎖に巻き取られており。
両の手首と両足首には、黒光りする枷。
力の抜け落ちた体は、酷く頼りない印象を受ける。



「悟浄、早く格子を!」
「言われんでも!」



具現化した錫杖を、悟浄は振りかぶる。

しかし、激鉄がぶつかり合う音は聞こえず。
牢屋と三人の間に立ったのは、悟空を連れ去った妖怪。



「金晴眼の子供を渡す訳には行かない」
「……こっちとしても、そりゃあ同じなんだけどな」



錫杖を受け止めた妖怪の台詞に。
悟浄は拮抗しあったまま、薄く笑って言う。

悟浄と力で対等に渡り合う辺り。
どうやら、機動力だけが売りと言う訳ではないようだ。



「悟浄!!」



八戒の呼び声に、悟浄が動く。
腕の力を抜くと、後方へと跳んだ。

それとほぼ同時に放たれる気孔。



「バカ! 猿に当たるぞ、八戒!!」



悟浄の言葉に、八戒は苦い表情を浮かべる。
いつもはそんな事など気にしていないから。
人質がいる、という状況はなんともやり難い。

妖怪がその場を離れれば、後ろにあるのは牢屋で。
このままでは、牢の奥にいる悟空に当たってしまう。


だが放たれた気孔は、牢屋の格子に当たって霧散した。
どうやら結界が施されているらしい。

ただ人質にするには、丁重過ぎる扱い。
金晴眼の子供の力が目当てというのは、本気だったか。
しかし、其処までされているなら帰って助かる。

巻き込まないで済むのだから。









戦いは押して退いての繰り返しだった。

肉弾戦だけなら、こちらに分がある。
戦闘力が欠けているのは確かではあるが。
それは常に比べての事なので問題はない。


厄介なのは妖怪の使う術だった。
主として幻術の類が得意なのだろう。

攻撃の合間を縫って使われる幻術で、悟浄の出足が鈍る。
妖怪が何人にも増えて見えたり、その程度のものだが。
相手を特定出来ないというのは、面倒な事この上ない。



「くそったれ、面倒な術ばっか……!」
「下がってください、悟浄! まとめて吹き飛ばします!」



等身大の気孔を放てば、偽者は消えるが。
残った本体は、未だ傷一つ負っていない。

姿を見せた妖怪に向け、三蔵が引き金を引く。
しかし、それは今の所当たっていない。
おちょくられているようで腹が立つ。



物理的な攻撃を仕掛けてこないのがまた苛立ちを煽る。
真面目にやれと叫ぶ悟浄に、妖怪は笑うだけだ。

機動力ではあちらが数段勝る。
悟浄も動きは素早いが、負い付く事が出来ない。
当然、三蔵と八戒の攻撃も間に合わない。


魔界天浄ならば効くと思うのだが。
その間に何かして来ないとも限らない。
あの機動力で仕掛けられたら、避け切れない。

消耗戦になっていると判っている。
どちらの体力が長く続くか。



「三蔵、どうにかしろよ!」
「煩ぇ! 黙って働け、バカ河童!」
「働いてるだろーが、立派に!」
「そこで揉めないで下さい!」



妖怪をそっちの気で剣呑な空気の二人。
八戒は気孔を放ちながら、三蔵と悟浄に怒鳴る。


苛々しているのは、三人とも同じ事。
事態は良くも悪くも鳴っていない。
相手は嘲笑うかのように逃げるばかり。

これで苛立つなという方が無理な話だったのだ。


その上、悟空は捕らわれたままだ。
目覚める様子もない。



全てが三人にとって、苛立ちの材料になる。



「ああもう、面倒臭ぇ!」
「チッ……てめぇら、そいつの相手しとけ!」



このままの現状をいつまでも続ける訳には行かない。
三蔵は牢へと銃口を向けた。

放たれた弾丸は、格子を部分を境に兆弾した。
三蔵は無言のままに撃ち続ける。


弾かれた弾が悟浄たちを襲うが、文句は聞こえない。
時折掠ったのか悟浄の叫びが聞こえてくるものの。
一発や二発で死ぬ人物でもないのだ。



「結界を壊そうとでも言うのか? 無駄な足掻きを!」
「るっせぇ! テメェはこっち集中してやがれ!」



大上段から振り下ろされた錫杖を避けると。
妖怪は三蔵の方へ駆け出し、爪を向ける。

しかし間に入った八戒により、阻止され。
挙句に真正面から気孔をぶつけられる羽目となり。
吹き飛ばされた妖怪を、錫杖の鎖が巻き取った。


妖怪はそれを力任せに引き千切った。
悟浄は舌打ちすると、錫杖を投げ捨て。
距離を詰めると、わき腹を蹴り飛ばす。

次の瞬間、幾人もの同じ顔の妖怪が現れたが。
八戒の放った気孔により、殆どが無に還る。



「随分、うちの猿に執着してやがんだな!」
「貴様らには判らんのだな、金晴眼の力の強大さを!」
「悪ぃけど、そういう話にゃ興味ないんでね!」



愚かな、と妖怪が呟くが。
三蔵は馬鹿馬鹿しい、と鼻で笑うだけ。

悟空の力がどれほどの物なのか、知らない訳ではない。
だが、それを使ってどうしようとは思わない。
自分達に取って、あの子供はただの無邪気な子供なのだ。









妖怪が、悟空の力を使ってどうするか。
悟空の力をどう思っているかなど関係ない。

拾った時から、悟空は悟空でしかない。
力があろうとなかろうと、同じだっただろう。
自分の後ろをついて歩いていただろう。



何時まで経っても煩い子供。
起きていても寝ていても、いつも呼ぶ子供。

いつの間にか、それが傍にあるのが当たり前になり。
背中越しに当たる温もりに嫌悪を忘れ。
一人でいる事を怖がり、くっついていたがる子供。


拾ってから8年経つのに、何も変わらない。
背は伸びて、髪も切ったのに、それだけで。



秘めた力は、確かに並大抵ではないが。
そんなものが必要だと思った事はない。

己を守るだけの力は必要だろう。
だが、それ以上の力を望んだ事はない。
生き抜けるだけの力があれば、それでいい。




“金晴眼の子供”の力など、別にどうでも良かった。










傍にある事を許したのは、


“悟空”という名の無邪気に笑う太陽。

















耳障りな音を立てて、結界が崩れ去る。
破られるとは思っていなかったのだろうか。
動きを止めた妖怪を、八戒の気孔が捉えた。

悟浄は錫杖を拾うと、牢屋の格子を叩き壊す。




「おのれぇえええっ!!!!」




妖怪が飛び掛ってきたのを、悟浄が迎え撃った。

三蔵はそちらを見向きもせずに、牢内に足を踏み入れる。
足元も判らない程の暗闇に躊躇する事はなかった。


見える限り、特に警戒すべき点はない。
何か罠が仕掛けてあったなら、その時の事。



ゆっくりと近付けば、悟空の顔がはっきりと見え。
細身の腕に巻きついた鎖は、腕を締め付けており。
日焼けした肌には、赤い鬱血の後が浮かんでいる。

意識のある間に暴れたのだろうか。
枷が嵌められた手首から薄らと血がに滲んでいる。


半開きの口からはか細い呼吸が繰り返されている。
頼りない呼吸ではあったが、確かに息づいていた。

目の前に膝を折り、そっと頬に触れる。
血の気の引いた肌をしていたが、温もりはあった。








目じりに浮かんだ透明な雫に、気付く。







「ったく………」



零れそうなそれを指先で拭き取ってやると。
ふる、と瞼が震え、ゆっくりと持ち上げられる。

ぼんやりとくすんだ金色。
見上げてきた瞳は、いつものものと随分違っている。
意思の強さは、深遠に沈んでいて見られなかった。


それなのに、涙だけは浮かんでいる。

この子供は、いつでもそうなのだ。
無意識のまま怯えて、泣いて、煩く呼んで。



「いい加減に、ガキを卒業しろよ」



大地色の髪を撫ぜて、口付ける。

細身の腕を束縛する鎖が音を立てると。
悟空の小さな体が、確かに震えた。


沈黙と、暗闇と、枷。
それは悟空を拾う前、常に子供の傍にあったもの。

子供の苛む、それ。
常に怯えさせる、心に巣食うもの。
孤独を嫌う子供を未だに縛り付ける、痛み。








一人にしないと約束した子供の。







呼吸を奪ったまま、銃の引き金を引いた。
悟空の腕を戒めていた枷が外れると。
自由になった悟空の腕は、力なく床に向けて下ろされる。

続け様に両足の枷も打ち壊した。


見上げて来る金瞳は、未だに虚ろで。
恐らく、術をかけられたのだろうが。
症状の方がどれだけ深刻かは、まだ判らない。

一先ず、八戒に見せるべきだろう。
だが、その前に。



暗闇だけが口を開けている周囲を見渡して。
地面に落ちた鎖と枷を見やる。

全て、悟空がタブーとするものだ。
術にかけられていないとしても、精神的に異常を来していても可笑しくないだろう。


こんな所に、この子供を拘束したあの妖怪。
それを考えるだけで、腸が煮え繰り返る。




「………すぐ戻る、いいな?」




抱き寄せて、囁いてやる。
返事はなかったが、この際仕方がない。

妖怪の始末なんて、二人に任せてもいいのだが。
この子供を此処まで追い込んだ奴を。
他人の手で片付けても、自分の苛立ちは収まらない。






自分の手で殺さない限り。






牢屋から出れば、妖怪は悟浄の錫杖に拘束され。
八戒はそれを遠巻きに見ているだけだった。



「お、ご立腹みてぇだな」
「命の覚悟は出来てます?」



他人事のように笑って言う二人に対し。
妖怪は射殺さんばかりに三蔵を睨みつける。

しかし、三蔵はそれを意に介す様子もなく。
装填の終わった銃口を、妖怪に向ける。
一発で死なせてやるつもりはなかった。




「悟浄、そのままだ」




三蔵の命令口調に、了解、とだけ答える悟浄。
苦々しげに、妖怪は三人を見回して。

















銃声と断末魔が、殆ど同時に響き渡った。



















































どうして泣いているの?





私はここに居るのに









教えて なぜ その涙は 青くて 止めることができないの?









私は 何をしてあげられるの?





何でもするよ、だから 全て 語って















あなたの 笑った顔を もう一度 みたいから
















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