堺のほうとも、萩のほうとも聞くが、とにかく西の栄えた港での話だという。
 そこに、人足出しで財を成した橋本某という男がいた。港の近くに蔵を三つほど建てたという。元々当人が人足だったというから、大した出世だ。
 橋本某には、妻がいた。しげという名の色の白い女。夫ががむしゃらに働いていた若い頃、そのそばでその白い肌を真っ黒に焼いて同じように働いていたと聞く。
 月日がたち、立派な屋敷を構えご大成となった頃。二人の間に子が生まれた。富介という男の子だ。
 しかしまだ商いは忙しく、父はほとんど家に帰っては来なかった。
 代わりに、すでに外の仕事を止め屋敷に戻っていた母 しげが父の分まで富介を可愛がった。
 幼い頃の富介は、それを仕方なく思い、優しく美しい母にただひたすら甘えていた。
 ある日の事。父が久々に屋敷へと帰って来た。九州のほうへと商いへ行っていたらしい。
 そしてその父の脇には、奇妙な物が抱えられていた。子供である富介は、自分の背丈ほどあるそれに少し怯え、母の裾に縋って震えていた。

「なに、怖がる事はない。これは枕じゃ」
「枕でございますか」
「うむ。別府の腕の立つ職人に、竹で編んで貰った物。夏の暑い夜でも、これを抱いて寝れば涼しいそうな」

 なるほど良く見れば細い竹の帯で丹念に編んでいる。しかし枕と言うが、ただの筒の形ではない。
 片方の先は丸く目が細かく編まれていて、風を通すためか口くらいの穴が開いていた。
 もう片方は、柔らかく目が緩く余れていて、すっと細くなっている。
 大人がどう思うか知らぬが、富介にはそれがどう見ても、人の形に思えた。穴が開いている場所など、まさに人の口ではないか。
 やはり富介は、怖かった。その頃もう一人で寝られる歳、六つ位になっていたが、その夜は人形の姿が浮かんで眠れぬ。
 富介はしかたなく、久しぶりに父と母の寝床で一緒に寝させてもらおうとした。ところがである。

「ああ、もうっ」
「ふふふ、これにお前の匂いをつけねばならぬ。どこの商いに行っても、お前が抱けるように」
「もう、恥ずかしい」
「お前は最高の女だ。いつ何時も離したくない。だから逢える夜はこうして番い、逢えぬ夜はこの枕を抱くのだ」
「いやですわ。ああ、ひいっ」
「形もお前のようにしてもらった。さすが職人。だからこれを大事にする。さあ、こうか。こうすればよいのか」
「ひい、ひいいんっ。ああ、そうっ、いい、わぁ。あなた、あなた」
「もっと漏らしてくれ、しげ。お前の汁を浴びさせて、この枕をお前と同じ匂いにするのだ。ふふふ」
「ああっ、あなた。いいわ、もう、ああ、かんにん」

 戸の外で聞こえた、父と母の初めて聞く声。急に怖くなって、すぐに自分の寝所へと戻った。
 あの枕の怖さもだが、子供ながらに聞いてはならぬ物を聞いたと、なんとはなく分かってしまった。
 結局その夜、富介はひたすら布団を被って震えながら寝た。

 さて、しばらくしても父はますます忙しく、母はひたすら家を守り、子を育てた。
 仲の良い夫婦は、ひたすら店を大きくするために働いた。父は相変わらずあの竹の枕をどこへ行くにも持っていった。
 しかし、ある日の事。屋敷に京の者という若い女が訪ねて来て、なにやら騒がしくわめき立てた。
 「私はこの屋敷の旦那に京で囲われている女だ」と。
 芸妓崩れのその女は、病の母を持って困っていたところ商いの関わりで橋本某と知り合い、やがて援助の変わりに男女の関係となったらしい。
 調べてみると、それは事実であった。それどころか、京や近くの他の町に、同じような女が幾人かいたのだ。
 戻って来た橋本某に、しげは迫る。しかし父はあっけらかんとこう言った。「なに。もう知ってしまったか」と。
 橋本某が言うには、女たちは皆金に困った境遇で、仕方なく施してやっている。気が済まないというので相手してやっている、らしい。
 慈善のような物で、妻であるお前が気に病む話ではないと。しかししげは、合点がいかない。
 子である富介が怯えるほどの口争いが、数夜に渡って続いた。そしてある日、急に静かになった。
 父はあの枕を、遂に屋敷に置いて出た。母はそれを見て少し寂しそうに笑ったが、代わりに富介の肩をきつく抱いた。
 それからしばらく、奇妙な日々が続く。父はたまに屋敷へ帰ってくるが、母と会話もしない。
 父は食事して、一人の寝所で寝て、朝になればまたどこか遠くの商いへ出て行く。母はそれを黙って見送る。
 たまに屋敷に女絡みの苦情が来たりするが、母はそれを他の誰にも相談せずお金を遣って解決する。
 一つだけ歳を取った富介は、なるほど父と母はなんとかこうして折り合いをつけたのだな、と理解した。
 そして何より富介が嬉しかったのは、前にも増して母が自分を大事にしてくれるようになった事だった。
 一人で寝ていた寝所に、母はまた毎晩来るようになっていた。優しく富介の髪を撫でながら、抱きしめてくれるようになった。
 それどころか。
 母は富介の手を誘い乳を揉ませ、赤子のように吸わせた。乳だけでなく、尻や他の部分も満遍無く撫で摩らせ揉ませた。

「ああ、富ちゃん。いいよ、母さんとってもいい」
「そこ、そこっ。富ちゃんもっと。ああ、そう、お利口さん」
「もっと、ああもっと、強く。いいっ、富ちゃん。そこをもっと揉んで」
「吸って。ひい、強い、いっ。やっ、違うの、いいの。母さんとってもいい、の」

 母が喜んでくれているようなので、富介はもちろん嫌ではなかった。もっともっとと言うので、ますます応えた。
 いつも最後に、自分の手は母の股座にあって、そこで濡れた肉をぐずぐずと弄って終わるのだが、意味は分からずとも富介はそうした。

「ああっ、ああっ。ひいいいい、富、ちゃん。そう、そうよ。ああ、ふうっ。ありがとう、ねっ」

 むしろ申し訳ないのは、自分の物が腫れ物のように熱く痛くなって、それがいつも母の太股に当たってしまう事だ。
 母は気づいているはずなのだが、何も言わぬので、富介から謝る事はなかった。
 そんな夜が、ずっと続いた。やはりというか、父が帰ってきた夜以外にだ。

 橋本某は他所に女を作るが、商売だけはちゃんとしていた。散財するでもなく、ただひたすら人助けだ、慈善だと言っていた。
 やがて富介が十を少し越えるようになって、橋本某は商いを触りから教えるようになる。
 難しい言葉など分からぬが、挨拶をしろ本を読め物を大事にしろといった事は、富介も良く分かった。
 そもそも、富介は父が嫌いなのではなく、父が好きで母が大好きなだけなのだ。
 父が港にいる間はちゃんと父の言う事を習い聞き、父が他所に出かけた夜は母の言う通りに倣いする。
 お互いを好きで、いずれは前のように仲良くなってくれればと、富介は子供ながらに思っていた。

 またそれから幾年が過ぎて。
 富介が、母との毎夜の事について少しだけ意味が分かって来た頃。自分の股の腫れ物を、何も言わぬ母にわざと強く押し付け始めた頃。
 母 しげは、梅雨が開ける頃に流行り病であっさりと逝ってしまう。三十四か五だったという。
 周りの者も、父も、そしてもちろん富介も呆れてしまうほど、あっさりとした死だった。
 葬式は、さすが橋本某だと言われるほどの大層な物だった。そして父は、全ての始末を終えたのち、部屋で一人で泣いていた。富介だけが見たのだ。
 さすが橋本某は、次の日からさっぱりと涙を捨て、「遅れた分を取り戻す」とまた何処かの国へ長い間の商いに出かけて行った。
 さあ困ったのは富介のほう。母がいない寝床は、恐ろしく寂しい物だった。
 毎晩のように、母の柔らかく温い肉に寄り添って寝ていたのだ。赤子のように寸分離れずくっつき、乳を吸ったり揉んだりしていたのだ。
 もしかしたら、と富介は思う。自分がもう少し育っておれば、母の寂しさも癒して上げられたのではないか、と。
 自分はそれもできず無念であり、それをして貰えず母は無念であったろう、と。
 しかしもはやどうにもならぬ。父のように強くない富介は、一人冷たい布団の中でしくしくと泣き続けるしかなかった。

 はたと思い出す。
 あれだ。あの枕だ。父もおらず誰もおらぬ静かな夜に、富介はあの枕を探した。
 果たして、それはあった。父の部屋の押入に、大事そうに和紙に包んで置かれていた。
 父が使わぬのなら、自分が使う。和紙を開ければ、なるほど微かに母の匂いがするようだ。
 急いで寝所へ駆け戻り、それを布団の上に寝せ、改めてまじまじと見つめた。
 なるほど、父があの夜言っていた通り、なんとなく外の丸みは母のと似ている。
 頭の部分に開けられた穴も、堪え切れず大きく笑った時の母の口にそっくりだ。
 何よりそれは、母の匂いがしっかりとした。毎晩間近で嗅いでいたのだから間違いはなかった。

「ああ、母さま」

 幼い頃あれだけ恐ろしかった竹の枕。しかし今富介にとって、月明かりに照らされたそれは母 しげ以外の何物でもない。
 優しい言葉をかけてはくれぬ。揉む乳も固く、手が誘ってくれる濡れた場所もない。
 ただ唯一、擦り付ける事はできた。
 すでに悪友から女の生理を聞いたり、あの橋本の坊ちゃんだとそこらの姦しい娘からいやらしい誘いを受けたりしていた。
 だから、富介はもう知っていた。自分も母も、最後には遠慮をしていたのだと。
 母は息子の手を使って、寂しい部分を慰めていた。自分もまた、どこに収まるのか知らぬ腫れ物を必死に白い肉に押し付けていた。
 母がもし、腫れ物を濡れた場所に誘っていたら。自分がもし、腫れ物を濡れた場所に押し付けていたら。
 しかしもはや、それは叶わぬ願いであった。
 穴も開いておらぬ竹の枕に向かって、すんすんと鼻を鳴らしながら、生え始めた毛が竹に絡むのも構わずに、みじめに腰を使った。
 母さま母さまと、誰も聞いていない事をいい事にひたすら大きく叫んで、最後には涙さえ流してしまった。しかし、まだ出せはしなかった。
 それが、しばらく続いた。

 初盆の時期。しばらく家を開けていた橋本某も、屋敷へと土産を持って帰って来る。
 竹の枕を失敬している富介は気が気でなかったが、父は気づいてはいないようだった。
 そして、夜。明日は大勢を呼んで大法要だと父が張り切っていた夜更け。

 その夜もやはり、声は出さぬが暑いのに布団を頭から被り、件の竹枕に縋って泣いていた。
 泣くだけではなく、やはり腰を少しだけ使い腫れ物をそれに押し付けていた。
 さて。
 どこからか声がする。しばらくは風の音かと、それを無視して行いに耽っていたが。
 いややはり違う。音ではなく声。それも、女の声。それも、どこかで聞いた声。

「あ」

 そう、母 しげの声。富介忘れかけていた事を悔いて、慌てて布団から飛び起きる。

「富ちゃん、ただいま」

 しかし、寝所は真暗なまま。声は確かに聞こえるが、姿はまるで見えない。

「ああ、母さま。どこに」
「いるわ、ここに。ああ残念、見えないの」
「見えませぬ、見えませぬ。ああ」

 少し富介は焦る。せっかく母の声を聞けたのに、そこに母はおらぬのだ。

「ごめんね富ちゃん、姿は見えぬのね」
「そんな母さま、ああ」
「しょうがない、わ。だって母さま、死んだもの」

 あ、そうか。富介は思う。母 しげは、一月ほど前に亡くなっていたのだ。
 だからこの部屋に聞こえる声は、死んだ母の声なのだ。
 なのに富介は、不思議と怖くない。いやむしろ、やはり母の姿が見えぬのがつらかった。

「ああどうして見えないの、母さま」
「どうしてかしらね。自分はそんなつもりはないのだけれど」
「父さまの所へは行ったの」
「いやん。それを聞くの富ちゃん」

 生きてた頃の、愛想いい笑いを含んだ声。なのに少し、響きが違う声。

「知りたい」
「もう」
「知りたいよ、母さま」
「ごめんね富ちゃん。先に父さまの所へ行ったわ。でも疲れて起きてくれなかった」
「ああ」
「だからここに来た。そしたら富ちゃん、この枕を抱いて泣いてるんですもの。うふふっ」

 はっとする。
 めくれた布団に、あの竹の枕が見えている。急に恥ずかしくなり隠そうとする富介。

「あら。隠してしまうの」
「いやあの」
「嬉しかったのに。富ちゃんは忘れていないんだと。いい子ね、と」
「ああ、母さま」
「うふふ」

 母 しげの声が、耳元のすぐそばで聞こえた。姿は見えぬが、言葉と共に息が確かにかかった。
 いるのだ。母さまがいるのだと富介は嬉しくなる。そしてすぐに悲しくなる。

「ああ、なぜ見えぬのです。富介はまた母さまに抱かれたい。また母さまを抱きたいのです」
「まあ」

 笑っているような吐息がまた富介の耳にかかる。
 だから余計につらい。いるのに、いないのだ。

「ああ、それなら」
「え」
「枕、出して下さいな。富ちゃん」
「え」
「なんとなく、穴があったら器にできそうな気がするの。お願い富ちゃん」

 確かにあの竹の枕には、穴が開いてある。しかし器とはどういう事か。
 しかし富介はそれに従った。何より母 しげ当人がそう願っているのだ。

「じゃあ、これ」
「ああ、これよ。あの人が、父さまが作ってくれたもの」

 首筋に感じる母の声は、その時は少し違って感じられた。父さま、と言う時はどうやら違うようだ。

「入れそうかい」
「さあ。やってみるわ富ちゃん」

 急かすように声をかけた事を、富介は少し恥ずかしく思ってしまった。だか母はそんな事を気にしなかったらしい。
 やがて。ふっとすぐそばの気配が消えたような気がした。もしかしたらいなくなってしまったのか。富介は不安げに辺りをきょろきょろと見回す。

「富、ちゃん」
「え」

 声は下から聞こえた。布団のほう、あの枕があったほう。

「うわあ」
「もう、富ちゃんたら」

 そこに、いた。この世からいなくなる前の、優しい笑顔を湛えた母 しげが、布団の中にいた。

「かあ、さまっ」
「あれえっ」

 富介は思わずそれに飛びつく。そしてああ、と安堵する。毎晩自分を優しく抱きしめてくれた母の感触が、そこにあった。
 どんな仕組みかは知らぬが、つい先程まで竹を編んだ枕に過ぎなかった物が、まさしく母となっていた。
 黒く艶やかな髪も、大きな瞳も、赤く微笑む唇も、すらりとした首筋も、柔らかな乳房も、あの枕には無かったはずの白く伸びた両腕も、母そのものだ。

「ああ、母さま。母さまっ」
「ああ、んっ。富ちゃん、嬉しい」

 その伸びた両腕に飛び込むように富介は体を埋める。そこには豊かな乳房があった。有難い事に、裸のままの乳房だ。

「ああ、母さま。ああ、うむ、うむうっ」
「あ、んっ。富、ちゃん。そう、そう。それを吸って。母さまの乳を吸って。ああ、い、んっ」
「ああ、吸います。んちゅ。ん、んーっ。ああ、あっ、かあ、さま。んっ、んっ、ちゅっ」
「ひっ。強い、ああ、すごく強いっ。富ちゃんの口、強、いいっ。おとな、おとなみたい、よっ」
「ああ、んちゅっ。もっと強く、母さまの乳を、んっ、んっ、吸いまする。う、んっ、んーっ」
「ひい、ひいっ。ああ、先がっ。痛いくらい、ああ、強いっ。富ちゃん、もっと、よお。ああっ、嬉しい、いいっ」

 赤子の時以上に、母の豊かな乳房にしゃぶりついている富介。母が死ぬ前も、これくらいしてよかったのだと、今更思う。
 べろべろと、舌を出しては先を舐める。ちゅぱちゅぱと、唇をすぼめては強く吸う。どちらもかなり強く乳全体を揉みながら。
 母もまた、熱心な子の行いに熱い息を吹きかけながら、その柔らかい両腕で後ろ頭を包み、自らの乳房に押し付ける。

「ああ、母さま、かあ、さまっ。母さまの、乳、おいしいっ。ずっとずっと、強く舐めて、いたいっ」
「ああもうっ。素敵よ、とみ、ちゃんっ。母さまも、いいっ。おっぱいがとてもいいのっ。あ、いいっ。おっぱいいいっ。素敵っ」

 頭を包んでいる腕のどちらかが離れたのを富介は感じる。しかし、だからと言って強く吸うのを止めたりはしない。
 母 しげは、いいと言ってくれているのだ。もっとと言ってくれているのだ。素敵だと言ってくれているのだ。

「あ、ううんっ」
「あはんっ。ほら、ここも素敵っ。富ちゃん、ここも大人みたいに、なってる。母さま、嬉しいわぁ」

 生まれて初めて。あの腫れ物が自分以外の手のひらの中に包まれた。太股よりは柔らかくないが、それは多分、母の手のひらの中だった。

「ああ、そこはっ。ああ、恥ずかしい」
「恥ずかしい事、ないよ富ちゃん。ここは大人になるのが、当然。もっと早く教えてあげればよかったかね。うふふっ」

 擦っている。富介の腫れ物を、いいや富介のまらを母の指は擦っている。さわさわと、ゆるゆると。
 それも初めての経験だった。母の手に誘われ母の濡れた場所を触った事はあったが、母が自分の物を触ってくれた事は育ってからは無かった。

「ああ、富ちゃん。素敵よ、すごく素敵。ずっと、こうしたかったのよ。ああ、富ちゃんもっともっと、大きく、なって」

 富介は必死に乳を揉んで吸っているので、母の表情は見えない。耳に息が当る。もっともっとと囁いている。
 もっと大きく、とは何がだろうか。背だろうか、それとも母が指先で摩ってくれてるところだろうか。

「うっ、うっ、母さま。そこ、がっ。ああ、恥ずかしい、のに。いい、いいっ。そこ、そこ、もっとっ」
「うん、うんっ。もっと、してあげるよ。富ちゃんの、素敵な、ちんぽ。もっと大きく、ね。ねっ。ねっ」

 心の底から震えるような、母の言葉。あれほど執着していた乳から思わず離れ、母の言葉と股間の快さに身を任せる。それほど、いい。
 太股に擦り付けていた時が残念に思えてしまうほど母の、女の手の愛撫は富介にとって良かった。

「あっ、ん。すごい、富ちゃん、また大きく。素敵、すて、きっ。ああ、もう、母さま嬉しいっ。ずうっとこうしてたい、わっ」
「ああ、かあ、さまっ。僕も、ぼく、も、ああ、でもっ。ん、んっ、んちゅ、ん、むうーっ」

 母 しげの言葉通り、富介も永遠にこうしていたかった。母の乳に抱かれ、母の手でゆるゆると擦って貰いたかった。
 しかしどうやら、それが無理である事も少し分かり始めていた。母の指でそうされている富介のまらは、弾ける直前であったのだ。
 まだ精の放出を知らぬ富介には、それが母との営みの終わりであるように感じられた。出してしまえば、仕舞いだと。
 体の奥から上って来る感じに、富介は戸惑った。気持ちいいのに、それで終わりが来る事が怖かった。
 だから耐えようと必死で母の乳首を吸った。ただ、限界は近い。
 ならば。

「ま、待って母さまっ」
「えっ。富ちゃん、どうした、の」

 母の声も、少し惑っているように聞こえた。もしかしたら、そのまま放たせてあげるつもりだったのかも知れぬ。
 富介は乳から顔を離し、母 しげの顔を見つめた。言いたい事、したい事を言うためだ。

「母さんにも、良くなってもらいたい、よ」
「いやん。乳を慈しんでくれたら、十分よ。富ちゃん」
「いやだ。母さまは、これまでずっと寂しがってた。だから僕の手でしてた。でも、もうっ」
「でも、でもね富ちゃん。ああ、ああっ」

 まるで猛ったように体を捩って、富介はまらを母のそこにあてがおうとした。
 母 しげは、生前毎夜ほど手では触らせていたのに、今は不思議なほどそれを拒んでいる。

「だめよ富、ちゃんっ。だってだって、ああ、つらい」
「ああどうしてかあ、さまっ。富介は、富介は、母さまの、そこをっ。あうう」

 あの場所は、父さまの物なのか。あの場所は、父さまのまらしか入れてはいけないのか。
 泣き顔になった富介が、ならば代わりと右手を必死にこじ入れた。すると。

「ああ」
「ああ」

 母子の嘆息が同じように出る。
 そこには、無いのだ。富介が母の生前あれほど癒してあげたいと願っていた、そして母も癒して欲しいと求めていた場所が。

「ごめん、ね。そこには、もう、穴が無いの。ごめんね富ちゃん」
「そんなっ。だって、だって」
「口からは入れたけれど、そこに穴があったら、私はこの枕から出てしまうものねえ。ごめんなさい、富ちゃん。本当にごめん」

 抗うような表情はいつのまにか可哀相な息子を慰める優しい母へと戻っている。
 ごめんと何度も謝るのは、やはり息子がそこを求める事が分かっていたからに違いない。

「ああ、母さま。どうして、どうしてっ。うわあん」
「ああ、泣かないで富ちゃん。富ちゃんのせいじゃないわ、私が、悪いのっ」

 自分の猛りが収まるべきだった場所に、富介は母 しげが亡くなってから気づいた。そうしてやれなかった自分を悔いた。
 なのに、せっかく母が帰って来てくれたのに富介はその母に応えられないのだ。
 父に邪険にされ、恥じらいの中で息子にも頼めず、ただ唯一息子の指先を使って、僅かな寂しさを晴らしていた、女の場所。

「だって、父さまの代わりに、僕がっ。ああ、母さま、母さまの、そこをっ。うわん、うわあんっ」
「いいの富ちゃん。母さまの事はいいのっ。ね、ねっ、ああ、可哀相な富ちゃん。ああ、どうしたら」

 覚悟し成してあげようとした事が成されない。夜更けなのに赤子のように富介は泣き始めた。
 今更乳を慈しむ事に戻っても、富介の空虚感は消える事はないだろう。
 母の姿をしていても、肉の感じがあっても、目の前の母は実は口の所にしか穴が開いていない竹枕なのだ。

「ああ、んっ。こんなになってるのに、果たせない、可哀相なとみ、ちゃんっ」

 しげの声が、富介のまらに向かってかけられる。

「だから、咥えてあげる。しゃぶってあげる。それなら、ね。ねっ。富ちゃんは気にせず、母さまのお口に出して。出してっ」
「あっ。あ」

 指先が這い、体がずれたすぐ後。富介のまらは母 しげの口内に飲み込まれた。
 先程まで異性に触れられた事さえなかったそこは、確かに素晴らしい感じを覚えていた。柔らかく熱い母の口の中。

「あっ、かあさま、ああ、これ、はぁ」
「ん、んっ、んっ、んんっ。ん、んー」

 自分の股の間から、母の呻きが聞こえる。まらを唸りながら舐めている。しゃぶっている。
 元は竹であるはずなのに、そもそも実の体さえないはずなのに、母の舌は富介のまらに絡んでくる。
 飲み込んですぐは愛おしむように優しくしゃぶっていたが、すぐに熱心に幼き子を吸い、激しくしゃぶる。

「あ、あっ。かあさまっ。あう、あうっ」

 自分でするよりずっと、母の口愛は心地よい。身を任せていると腰から下がどろどろに溶けてしまいそうになる。
 だから富介は必死に丹田に力をこめてこらえている。心地よければ、遠慮せず放ってしまえばよいのに、だ。

「んんっ、ん。んっ、んっ、んんーっ」
「ああ、嫌、だっ。かあ、さま。これでは、嫌っ」

 精を放つすばらしい機会を放棄してまで、富介は自分の股間に縋る母の頭を突き離した。
 もちろんひどく乱暴ではない。しかし、母しげが明らかに困った顔をするほどではあった。

「ああ。富ちゃん、どうして。どうして口に出さしてくれんの」
「かあさま、口に出すのは、嫌っ。僕は、僕はっ」

 口に出してしまっては、終いだ。母が死を経、涙に暮れ母を思い続けて身悶えていた夜から、ずっと考えていた。
 だから富介は、乱暴に事を起こした。

「ああっ、嫌っ」

 富介の腕の先が、しげの股間に強く這った。這っただけでなく、そこを指先で力を込める。
 そこには毛が茂っている。茂っているが、穴はない。だから富介は、穿とうとしたのだ。

「やめて富ちゃん、そこには、穴はないの。嫌、いやっ」
「母さまっ、ここが、ここがっ。ああ、くうっ」

 母は身を捩り子の指から逃れようとする。しかし富介は、そうするしかないかのようにそこを強くまさぐり、穴を穿とうとする。
 ただの編んだ竹であるはずのそれは、茂った細かい毛の奥の肉も感じられる。富介からしたら、ないのは穴だけなのだ。

「ああ、そんなっ。嫌よ富ちゃん。お口でするから、ね。ね。ねっ」
「嫌、だっ。母さまの、穴で、したい。出したい。よっ」
「ああ、ああ、んっ。穴は、あな、は、駄目、なの」

 富介は、とにかく母の股の間の穴に出して果てたい。生前寂しさのあまり子の手を誘って慰めていた、毛の中の穴だ。
 そこに男が入れ、女は喜ぶ。それを知った今は、ただひたすら、そこに入れ、出したいと願っている。
 その母が例えただの竹編みであっても、富介はそうしたい。だからこそ、強く指で穿っているのだ。

「ひいっ。とみ、ちゃん。駄目なの、駄目。そこに穴を開けては、駄目っ」

 なのに母は、駄目だと叫んでいる。あれほど息子の指で激しく擦って果てていたはずなのに、今は駄目だと叫ぶ。
 父への操なのかもしれない。富介は悔しくなって、指の先をいっそう強く、押し突いた。

「あ、あ、あっ」
「あああっ。あ、開いたっ」

 手の先に細い竹組みが、幾つか弾ける感じがした。先は確かに、そこを穿った。
 不思議な事だが、そこは急に濡れた泉に変わった。繊毛に覆われた女の穴に変わった。

「ああ、もうっ。開いて、しまったわ」
「母さん、かあ、さんっ。あ、ああっ、やっと」

 ぬるぬるの感触は、かつて毎夜寂しく喘いでいた母のそれと同じだった。いや、その頃以上に潤み濡れている。
 母に抗われたが、遂に女の穴は開いた。富介はすぐに体をそこに、母の足と足の間にこじ入れる。

「富ちゃん、ああっ、駄目だったのに。そこに穴があっては、駄目、なのにっ」
「穴は、僕が塞ぐ、よっ」

 富介のまらが、母しげのほとに近づき、当った。

「ああ、もうっ。富ちゃん、富ちゃんの、ちんぽ。すごい、ああっ、駄目なの、にっ」
「母、さまっ。母、さまっ。ああ、うう、んんっ」
「あ、と、とみ、ちゃんっ。富ちゃんの、ちん、ぽっ。ああ、穴に、入る、ううっ」

 盆の夜。暗い寝所で、息子と母の姿をした竹編みが、まらとほとで繋がる。
 まらはしっかりと、生々しく、温く、濡れた、狭い肉の洞を進んでいった。まだあまり毛も生えてもいない股に、母の毛が痛い。

「ああもう、知らない。富ちゃんが、遂に入れて、しまったわ。駄目な母のまんこにっ、ちんぽ、をっ。ああ、ひいっ」
「いいっ。こうしたかった、ずっと母さまと、こうしたかった。ちんぽを母さまのまんこにっ。ああ、でも、入った。入った、あっ」

 しげは眉を顰め上を向いている。富介は目を閉じ感じ入って下を向いている。
 幼い男と竹編み枕ではあるが、その時確かに、実の母と息子は肉と肉で繋がった。

「ああ、母さま。母さまっ。温い、ちんぽが温、いっ。愛しております、かあ、さまっ」
「富ちゃん、愛しい富ちゃん。母さまも好き、よっ。ひい、いいっ。富ちゃんの、ちんぽ。熱い、愛しいっ」
「嬉しい、嬉しい母さまっ。ああ、ちんぽが良い。入れただけなのに、まんこが、愛しいっ」
「ああっ、富ちゃん駄目なのに、愛しい、愛してる。もう、もうっ」

 ただひたすら母の中に帰った喜びに浸る富介に、母は僅かな助け舟を出す。
 つい先程まで、抗うために振るわれていた両の手のひらを、子の腰にそっとあてがったのだ。
 そして、それを、くいと押す。

「こうよ、こうして。もっと、母さまの奥を、こうして、突いて。そうして欲しいの、富ちゃん」
「あ、うう。母さま、こうかい」
「あっ、あっ。そうよ。そんなふうに、ちんぽを、もっと。い、ひいっ、いいわ富ちゃん。もっと、もっと。ね」
「こう、こうだね。あう、母さま、まんこの奥突くの、いい。ああ、また、温いっ。かあ、さまっ。好きっ」
「富ちゃんいいわっ。ちんぽ、もっと奥、強く、うっ。母さまのまんこのもっと奥、富ちゃんの熱いちんぽ、でっ」

 箍の外れたように、しげの動きが大きくなる。息子の腰にある手のひらは、ひたすら自らのほうへと押されている。
 閉じられていた眼も、今はしっかりと息子の懸命な顔を捉え見つめる。
 母のそのような態度に、富介も素直に従う。言う通りにすれば自ずと気持ちよいし、母もどうやら気持ちよいらしいのだ。

「すごい。ああすごいよ母さまの、まんこの奥っ。ちんぽで突くと、動く、締まる。ひいっ、ひああっ」
「そうよもっと、富ちゃんもっと。母さまのまんこ、ちんぽで突いて。ああそう、もっと腰を。そう、そう、よっ」
「ああひいっ、母さま、もっ。腰が動くのっ、ひいっ。ちんぽがいいっ。まんこがひどく動いて。かあ、さまっ。好き、好きいっ」
「そう、そうっ。愛しい富ちゃん。はしたないけど、母さまも腰を振るわっ。そうしたいのっ、富ちゃんのちんぽ好きなの」
「あう、はうっ、はっ。まんこが、またいいっ。母さま、愛してますっ。まんこ、ああっ、いい、いい、ちんぽがいいっ」
「愛して富ちゃん。好きよ、もっとまんこの奥愛してっ。はひっ、いいいっ、ちんぽ好き。愛しい富ちゃんの、ちんぽおっ」

 隙のないほど抱き締め合って、富介と母しげは互いに腰をぶつけている。
 母の穴からは絶えず汁が溢れ、子の肉をしとどに濡らしている。それがぐちゅぐちゅと奇妙な音を部屋中に立てている。
 教えどおり富介は、若さに任せた突きをしげの奥に繰り出している。
 しげもまたそれに喜び、もっともっとと迎え入れるように豊かな尻を振りたくっている。
 実の肉体があるかないかなどあまり意味を持たぬようだ。互いに心から愛する母と子が、その愛を叫びながらまぐわっているのだ。

「母さまっ。母さまっ。ひいい、ちんぽがおかしいっ。出ます、ああっ、来ますっ。ああ、愛する母、さまあっ」

 母をしっかり布団に組み敷き、その肉の奥の奥を激しく突く富介が、額に汗した顔でそう告げる。

「ああ来るのねとみ、ちゃんっ。精が来るのね。まんこの奥に、富ちゃんの精が、あひいっ。ひいいんっ」

 しげも子に突かれるたびに体をくねらせ、中を締め、奥へと誘う。艶かしい目の色で、子の富介を見ている。

「出して、いいよ。でも、富ちゃん。ああひい、ひいっ。奥に、母さまのまんこの奥に、出して、いいのかえ」

 妙な口調であった。荒く乱れてはいるが、その言葉は嫌に富介の耳に響いた。
 しかしもうなにがどうあろうと、出す事は留められない。

「ああ、出すっ。母さまのまんこの奥に、出す、出すっ。ああ、くううっ、愛してます、母さまっ。まんこが、いいいいいっ」
「そう、出すのねっ。終いだけど、母のまんこの奥に、富ちゃんの精、たくさん出すのねっ。ああ、そうっ。そうっ」
「出すっ。出すっ。まんこにちんぽの精をたくさんっ。かあ、さまっ。かあ、さまっ」
「ほんとに、出すのね。ああ、富ちゃん。出しても、いいけど、知らんよっ。ああ、ちんぽの精、来るっ。来てっ」
「母、さまっ。出すけど、またするよっ。そうでしょう。愛してます、母さまっ。母さまの、まんこっ。ああ、精が来る、来るっ」

 ぴたりと、母の声が止む。荒い息遣いと肉の奮いは激しかったが、声は止んだ。どうしてか。

「ああっ。来る。出す。ああ、かあ、さまっ。ちんぽから、精が、まんこの奥に、出ま、すっ。あううううううっ」

 そして。
 それは、大量に流れ出た。柔らかい母の体をしっかりと抱き締め、奥の奥に子種を流し込んだ。
 流し込んだ、はずであった。

「ああ、出たっ。かあ、さまっ。精が、たくさん、出ましたっ。ああ、ふううっ」
「富ちゃん」
「え」

 汗まみれの自らの体。それを預けているのは、先程までの温い女の肉ではなかった。
 ただの竹編みであった。

「ごめんね富ちゃん。でも、富ちゃんが股に穴を開けてしまったから」
「なに。どうして」
「穴が二つ開いたら、魂が抜けてしまうんよ。口だけなら、もうしばらく一緒におれたんだけど」
「そんな、母さまっ」

 夜の始まりと同じように、暗い部屋の中に母の声だけが響いている。たった今まで、その体を強く抱いていたのにだ。

「知らんかったから、ああ母さま。戻って。また、愛してっ。嫌だ、そんな、そんなっ」
「ごめんね、富ちゃん。ごめんねえ」

 声も次第に小さくなっていく。さまざまな音や匂いがしたはずの部屋は、ただの寝苦しい静かな暗い部屋へと戻ってゆく。

「嫌だ。嫌だあっ。母さま、かあ、さまっ。戻って、ねえ戻ってよおっ。そんな、そんなっ」
「富ちゃん。ごめんね」

 母しげの声は、泣くような響きを残してすうっと消えた。富介も、わんわんと泣いた。

「泣くな、おい」
「え」

 気がつけば、泣きじゃくる自らのそばに、父が座っていた。

「父さまっ」
「何も言うな。お前の声がして、ずっと外で聞いていた。何も言うな」
「でも、母さまが」
「いい。それもいい。盆の季節だ、愛する子の元に戻っても、仕方がない」
「ああ、父さまっ」

 父は優しく肩を抱き、泣き続ける子を慰めてやった。富介もそれに寄りかかり、しばらくわんわんと泣き続けた。
 父はずっと聞いていたという。もしかしたら見ていたかもしれない。しかし、何も言わなかった。何も聞かなかった。
 ただ最後に一言。

「わしも、会いたかった。もう一度」

 そう小さくつぶやいた。
 二人の間に残ったのは、頭と下に穴が二つ開いた、ただの竹編み枕だった。

 橋本某の店は更に身上を大きくしていったそうな。富介も歳を重ねて、父のように働くようになった。
 やがて父の言いつけで、ある日九州へと品物の買い付けに行った。
 その際どこかの店で、あの枕と同じような竹編みを見つけたらしい。
 職人が編んだ、しっかりとした品。まるで女の体を思わせるような、曲がり具合。
 そしてやはり、頭と思しきあたりに、一つ穴が開けてあった。

 しかし。
 富介がそれを買ったかどうかは、分からぬ。
 富介は明くる年、嫁を迎える段取りとなっていたそうな。




大林圭支「幽山仙 巻の二」より



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