忘我/
先端がそこを嬲るたび、全てを投げ捨てたくなる。指先は緩み、四肢は甘い痺れに包まれる。潤い切った女壺はやがて開き、再び猛り尽くした肉樹はそこに至る。肉体を持った雌と牡にとって自然極まりない営み。
「おね、がい……ッ、とおる、もうッ」
「母さん、かあ、さん……ッ」
強い力に上半身と四肢をを拘束され、美希子の躰で動いているのは柔らかく白い腰回りだけ。汗と汗以外の汁で塗れた熟れ肌のそこだけが、濡れた洞穴を持ったそこだけが、駄々っ子が嫌々をするようにくねくねと暗い部屋の狭いベッドの上で揺らめいている。構って、構ってと、見える。
「……あッ」
「……ッ」
極めて人間的な葛藤とは裏腹に、その瞬間はあっさりとやって来た。女はひどく間抜けで短い喘ぎを上げてしまう。ずぼり、と嵌った息子のモノ。何物にも隔てられていない男のペニス。理性的な言葉など、もう紡げはしない。
「あ、あ、おッ……お、お、ンッ」
「……かあ、さん」
常識的に考えれば、先程の行為よりはきっと柔く充実もしていないはず。なのに女の中をゆっくりと進む息子のそれは、人生の中で異様なまでの存在感を纏っている。生で、というならば昼間のリビングもそうだったが、あの時はゆかりの目前という異様な空間でひたすら荒々しさが印象に残った。
だが今は違う。自分の中で様々な言い訳を盾にしたが、結局の所「息子とセックスをするために部屋へとやって来た実の母親」。だからこそ、粘膜同士が直接接触してしまう禁忌が、どうしようもなく衝撃的なのだ。
「あ、アッ……ダメ、よぉ、とお、る……ッ」
名前と、否定。微かに揺り戻した理性がそれを告げたが、響きはひたすら甘く濡れていた。聞こえる声はもう拒否ではなく、大いに感じてしまう自分の姿を予期して惑う女の声。息子の名を呼ぶ最中も、進み行く熱い肉柱の存在感に掠れて潤む。
「母さん、ああッ……」
対して生物的オスの目的を果たした若い男は、静かに歓喜の呻きを漏らす。薄い膜に隔てられてない粘膜の感触を、昼間に続き改めて味わっている。いやきっと昼のキッチンより、ひどく熱くぬかるんだ母親の、中を。
「やめ、てッ」
「やめる、もんか」
内容とは裏腹に、母の声は甘く揺れ、息子の声は歓びを纏う。まだ先端が埋まっただけの状況にも、シングルベッド上の母子はその先の禁じられた光景を思い描いてしまっているのだ。
もう、立ち止まらなければいけない場所は過ぎてしまった。美希子がすべきは、息子が犯す罪を軽くする事のみ。
「あッ、や……うう、ンッ!」
汗に塗れた白い躰を必死に揺り動かしながら、侵入したモノを追い出してしまわなければならなかった。してはいけないこの先の妄想では、徹はきっと遠慮なく母の奥深くに放出するだろう。深夜の暗い息子の部屋に忍んで向かった母親が、その息子の生の精を膣奥に受ける……どう形容してもそれがこれから起きようとしている現実。昼間不意に果たされてしまったその最後の段階だけは、息子にとっても自分にとってももう二度と避けなければならない。
「あン……う、うンッ」
だから肉づいた半身を息子の戒めの中で抗わせてみる。でも先端はまるで動いてくれず、むしろそこから湧くひどく悩ましい感覚に細やかな悶えを上げてしまう。ずれてしまったた体勢で表情も見えなくなった息子 徹が、この母を穿ったモノをどうするのか、どうしたいのか……美希子はどんどん袋小路に嵌ってゆく。
「……ひい、ンッ!」
「ああ、母さん……ッ」
鋭い突きと、優しい囁き。母親を横から抱く体勢になっていた徹は、何に予兆もなしにその母親を攻めた。作りの良いシングルベッドがギシッ、と鳴るほど強く鋭く。
再びの粘膜への侵入を果たし、その感動をしっかえり味わった若い獣は、もう何の遠慮もなく母が忌避しようとする場所へ遮二無二到達しようとし始めた。
柔らかくも緊張する母の肩口を強い力で抱く。
顔を添わせ絶えず熱い吐息を浴びせかける。
鍛えられた黒い両足を白い脚に複雑に絡ませる。
汗だくの背中と若い胸板を密着させ濡音を発する。
そして。
もう残しておく必要のない体力を、全て腰に向ける。
「や、やッ、はあッ……!とお、るッ、ダメ、ひ、ひッ、ひイッ!」
された方はたまらない。躰中滾った男に抱き締められ、唯一揺らめかせる余裕があるのは、肉を纏った下半身だけ。逃れようと焦れば焦るほど、乱れれば乱れるほど美希子は哀れ「若い男の腕の中で腰を揺さぶる淫乱な女」と化す。美希子が恐れている以上に、今の母と子は、それが現実なのだ。
「うあッ、母さん……母、さんッ」
母の尻の乱れに同調するように、徹の攻めもますます鋭くなってゆく。勘違いであっても、母親を自らのスペルマでたっぷり満たしたい牡にとってはありがたい母の動き。だからますます、美希子の肉体は戦慄いてしまう。
「ん、アッ……ん、ひイッ、んんンッ……ん、ひッ、とおる、うッ」
「母さん、ああ母、さんッ……うッ、あッ」
あれほど気を遣っていた漏れ声も、ベッドが軋む雑音も、耐えてさえいれば抑えられる程度を超えてしまった。世に蔓延る秘め事とさして違わない音が、母と子が睦む子供部屋に連続的に響く。若い男女同士の無責任なセックスや様々な男女のラブアフェアよりもずっとずっと禁じられた、血の繋がった実母子の行為であるはずなのに。
ダメ、なの。このままじゃ……絶対に、このままじゃ。ああァ……ッ!
取り繕おうと思えば思うほど、美希子の道徳的思考は激しい牡の動きにかき乱される。若い男の精力を、そして何より息子 徹の美希子への暗い情愛を見誤ってしまった。ほんの少し前に放出を受け止めたコンドームは捨てられる事もされずに、きっと美希子の肉の下でシーツを微かに汚しているだろう。避けて耐えて、身を狂わせる事だけを防ごうと身を捩った結果、狭いベッドにうつ伏せに押し付けられ、ひたすら無防備に責められ続ける体勢に陥ってしまった。
「あう、あぐッ、んんンッ……ひ、ぐ、うッ、とお……あひ、いンッ!
「母さん、母さんッ……ああ、うあッ、はあッ!かあ、さん……ッ!」
抑えの効かなくなった吠え哭き。。軋みや布ずれで不協和音を奏でるベッド。聴かされたくない濡れた汁音。そして、いやらしくくねり合う熟れ牝と青獣……この部屋に向かう前美希子が一番恐れていた妄想の光景が、今まさに現出している。
今この部屋で揺れているのは、徹の腰と、それを受け妖しく揺れる美希子の尻肉と、乱れた髪先と、色を纏って淀む部屋の空気だけ。誰にも許されない関係の男女が、いや牡と牝が、更に罪深い人間の母と子が、あらぬどこかへ突き進んでいた。
「とお、るッ、うッ、んあッ……あひッ、いひ、いイッ……い、あ、いイイ……ッ!」
「あ、うう……ッ、母さん、ああッ母さん……うあ、く、あッ」
シーツに強く押し付けられていても、すでに開きっぱなしになってしまった唇は息子の名を必死に紡ぐ。囁かれた息子はそんな母の美しい首筋に甘ったるい吐息と舌先のキスを降らせ、ますます深く愛し合う男女の姿を成そうとする。常識という断崖上を彷徨う大人の女を、吐息と舌先で堕とすのは容易なように見えた。
また美希子の思考は揺れる。これまでの人生で、男にこのように抱かれた事はないはず。ひたすら低く強く圧迫され、表情でも指先でも相手への意思表示ができない体位。ベッドの上で動かせれるのは柔らかいヒップの肉だけ。母親であり大人の女である美希子には屈辱的であり、それを止める方法も叫べば終わりと簡単だが、もう美希子にはそれを選択できない。息子に背後からひたすら奥突かれ尻肉を揺らす寝バックの体位が、屈辱的過ぎてどうしようもなく、気持ちがいい。今その紅い唇を意を決して開いても、きっと溢れ出る叫びは夫を呼ぶ声とは違うもののはずだ。
「……母さんッ、ああ、うんッ」
耳に空気の揺れと共に届く、徹の上ずった声。耳から全身に震えが走るほど美希子は感じ入っている。もう、そのトーンの僅かな揺らぎなどまるで気づけないでいた。息子の意図に気づいたなら、もしかしたら。
「ああ、あアッ!徹、とおるゥッ……あくッ、あひッ、いひ、イイン……ッ!」
階下で10数分前のように夫が目覚めたなら、その声は微かに届いただろう美希子の喘ぎ。ただし、息子のAV鑑賞の失敗だと苦笑いを浮かべるかもしれない。妻の声とは程遠い、濡れ乱れたセクシー女優のような悶え。自分の咆哮を恥じ入る余裕が僅かでもあったなら、もしかしたら。
「あひいッ、とおるッ!もう、ああッ!いひッ、いいいイイッ!だ、ダメ、えええ……ッ!」
何がダメだったのか思い出せれば、もしかしたら。
「……母さんッ」
「……ッ!?」
前触れを悟る事もできずに、美希子はそれを自分の肉の一番奥で知る。叩いてはいけない場所を叩く、熱い迸り。何度も、何度も。
電流のような激しいものではなく、緩く寄せて来るようなエクスタシーが、徹のその連続する噴出に合わせて美希子を包む。男の射精によってもたらされた、女の快感。息子に精を出され悦ぶ、実母……今の美希子は、言い訳など必要がないくらいあからさまだった。
「あ、あ、あ、アッ……ッ」
「かあ……さん」
なんて事をしてくれたの。そう呟ければ、体裁は保てたかもしれない。しかし美希子は、母を呼ぶ青い種付け男に向かい窮屈に首を曲げ、優しく口づけた。口づけて、しまった。
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