第六話 企みは、やがて



 私が生まれる5年ほど前、父は大佐待遇でインドにいた。本国から送られて来る資金と、現地で調達する資材の監査役としてだ。見た目は優男だった父だが、生来の清廉さを持って陛下に報いようとその職務に邁進した。そして、軍内のある不正に行き着いたのだ。それは、父の直属の上司であった大物軍人の資金着服の実態。国の威信をかけて行われていたインド植民地化、そこに投入される莫大な戦時資金を、その上司は私的に着服・流用していた。司令官に限りなく近い立場のその男が金を掠め取る事で、戦場で尊い命が奪われて行く事を、父は許せなかったのだ。しかし当事者が確固として君臨する戦場において、国に訴え出ても揉み消されるのが目に見えていたし、何より任期が終わりかけていた父は、帰国して証拠固めに入る事を選んだ。信頼する軍内の部下であるピートリー少佐らと共に。若く美しい母と結婚したのも、そんな時期だ。

 その頃、ハロッドは屋敷を追い出され復讐の機会を狙っていたらしい。潜り込んだロンドンの裏売春宿、その主人の座を得たハロッドは、数年で裏社会で顔が利くようになったという。復讐への暗い情熱が才覚を目覚めさせたというのなら、空恐ろしい限りだ。

 そして、二つの明暗分かれた情熱は、不意に結合した。ピートリーが裏切り、不正当事者である軍人に告発計画の詳細を報告したのだ。父の崇高な勇気は、矮小な保身欲によって先行きを絶たれた。大物軍人は父を恨み、陥れようとする。だが、父がどこまで証拠を握っているかピートリーの報告だけでは判断がつかず、躊躇していた。そこに、ハロッドがやって来るのである。女の斡旋やアヘン密売、それから生まれる裏金の威力で軍部の中枢にも顔が利くようになっていたハロッドは、大物軍人の悩みを偶然知る。それが憎きノースミッド家に関係する事だと分かった時、ハロッドは暗くおぞましい計画を大物軍人に持ちかけたのだ。

 ピートリーが『ある場所で、不正の証拠となる取引が行われる』という偽の情報を流し、父をロンドンに誘い出す。そこでハロッドの手下どもに拉致された父は、あの売春宿に監禁され、アヘンを無理矢理吸わされる事になる。やがて、母と私を悲劇のどん底へと叩き落とした父の急死の報がブライトンの屋敷に入るのである。

 

「ああっ……バ、バーデマーさま、逞しいペニスを挿れて頂いて……私の、私の淫乱な中の肉も、た、大変喜んでおります……はあっ……わたし、も、自ら進んで動きますのでっ……バーデマーさまの、激しいお情けを、お与え、ください、ませ……っ!」

 白く艶やかな母のヒップの肉が、柔らかく揺れた。それはまさに、母が自ら腰を振るった瞬間だった。淫ら極まりない誘いの口上と共に。

「上出来、ですな……それっ!」

「あ、ひいいいっ……い、やぁっ、あ、ひっ……だめ、だめっ、ハロッド……っ!」

 それまでとは明らかに違う、声と動き。母はハロッドの名を含めながら叫び、ハロッドは尻肉を震わせて鋭く早く動く。

「クククッ……いい感じですな。さあ、もっともっと狂いなさい。いつもよりも激しく、バーデマーを妖しく誘うように、全ての男を狂わせるように……それ、それっ!」

ハロッドは、明らかに私を挑発しながら、母を突く。唇の端でニヤリと笑いながら、幼い私に母の痴態を見せ付ける。恨む女をただ辱めるだけで飽き足らず、その子までも辱めの道具にしようとしていたに違いない。

目を逸らせばよかったのだ。しかし。

しかし、母の、姿は。

「あ、いいっ……ハロッ……いや、バーデマー、さまっ……も、もっと、私の肉を、突き上げて、下さいませっ……淫らに、ヒップを振る、私の肉、をっ……はあっ、あはあっ!」

 そう。母は、自ら進んでヒップを振っていた。凌辱者の激しい突きに合わせるように、豊かな肉を揺らめかせて、何度も何度も。もちろんそれが、ハロッドが『訓練』とか『奉仕』などと評する物である事は分かっていた。しかし、しかし、テーブルの下から間近に覗く母の表情は、少なくとも脅迫や強制のみから湧く表情ではなかった。

 初めて見る、母の女の顔だったのだ。




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