『牝奴隷は金髪美女』第一章 「INMMORAL〜不道徳」


 低いような、高いような連続する金属音に、ゆっくりと目を開ける。目の前には、薄暗い室内が見える。いや、ただの部屋ではない。飛行機の機室だ。耳にいまだ聞こえるあの金属音は、この機体を支えるジェットエンジンが翼で立てている爆音だった。恐ろしいまでの大きさのその爆音が、機内には静かな金属音に聞こえたのだ。

「Nh……」

 頭が、少し重い。初めての海外旅行に緊張して、搭乗してすぐに睡眠薬に頼り、ずっと眠っていたためだ。眠たげな瞳で、腕時計を眺める。目的地に着くまで、まだ四時間もある。
 霞がかった頭で、機内を見回してみる。窓にはほとんどカーテンがかけられ、乗客たちは毛布をかけて眠っていた。自分の席の少し先で、スチュワーデスが乱れた毛布をかいがいしく乗客にかけ替えている。そのスチュワーデスが、じっと自分を見ている乗客に気がついたようだ。美しい笑顔で、こちらに向かってくる。用もないのに気を遣わせたことに恐縮して、声をかけられる前に意思表示しようと思った。

「ノ……」

 言いかけた言葉を、一瞬考えて飲み込んで、再び声を出す。

「すみません。なにも、用はないんです」

 乗客のその言葉に、スチュワーデスは少し驚いていたが、やがてあの美しい笑顔に戻って軽い会釈をした。そのまま後ろの座席へと移動する。

「フー……」

(まだ、緊張してる……)出発前に、あれだけ心に刻み込んだはずなのに、いざとなったらやっぱり忘れてしまっている。
(しっかりしなきゃ。何で海外にいこうとしているの?先生に教わった、『美しい国』の勉強をするためでしょ?到着するまえにこんなんじゃ、先生に笑われちゃう……)

「先生……」

 ジーンズのポケットから、一枚の写真を取り出した。そこには、さわやかな笑顔をたたえた、中年の男が写っている。その小さな写真を眺めただけで、胸が少しキュンとなる。恋、なのだろうか。でも、写真の男とはまだキスさえしていない。一方的に憧れているだけかも知れない。でも、今はそれでよかった。
 講義の時に分からないことがあると、すぐに休みの時間に研究室に質問に行った。それまで忙しそうにしていても、自分のくだらない質問に、丁寧に答えてくれる。そして言うのだ

「大学の講義も大事だけど、他の国のことをよく知るためには、その国を実際自分の目で見ることが大切だよ。僕もこの国に来たからこそ、本当のよさを知ることができたんだ。キミみたいな素敵な女の子に出会えたしね」

 軽くウインクする男のしぐさに、いつも彼女はときめいていた。相手にとっては些細なことでも、恋する自分には、それは最上のうれしさだった。
 写真を胸に抱き、また目を閉じる。瞼の裏の光景は、またあの研究室だ。

「先生!私、留学することに決めました!」

 いきなり飛び込んで来た少女に、男はまたあの笑顔で迎える。

「……よかったね。両親は賛成してくれたのかい?」
「はい。だいぶ心配していたけど、『短い期間なら』って……」
「そうか。本当によかった。これで、君の研究に対する熱心さが報われる時が来たね。僕も、協力は惜しまないよ」
「先生……」
「そうだ、ホームステイ先は僕の親友の家がいいよ。向こうでやっぱり大学の教授をやっているんだけど、気のいい奴で、きっと君を厚くもてなしてくれるよ……うん、どうしたんだい?」

 目の前の少女の様子に、男は言葉を止めた。少女は、涙を流している。

「おい、どうしたんだい?」
「先生、先生……っ」

 感極まって、目の前の男の胸に飛び込んでゆく。眼鏡をかけた瞳から、とめどなく涙が溢れ出してくる。寂しいのだ。留学が現実のものになった今、大学を離れるということは、この男と離れ離れになることを意味する。たった、一ヶ月だ。たった一ヶ月なのに、その別れが永遠のように彼女には感じられる。それが寂しいのだ。

「……心配なのかい?大丈夫、大丈夫だよ。僕の祖国は、本当に心の優しい人ばかりだ。君が、本当に僕の祖国を愛してくれるのならば、きっと人々はその気持ちに応えてくれる。だから、君は胸を張って勉強してくればいい。だから、心配ないよ」

男は優しく少女の髪を撫でながら、囁きかけた。そして、ゆっくりと体を離す。

「だから、もう泣いてちゃダメだ。涙でクシャクシャじゃあ、せっかくの美人がだいなしだよ……」

 男は少女のずり落ちかけた眼鏡を、人差し指で上げてやった。

「先生……」

 自分の気持ちは、伝わらなかった。でも、彼女は涙を拭いた。

「……先生、ありがとうございます。出発までに、まだ相談したいことがあると思うんで、また来ていいですか?」
「ああいいよ。僕にできることならなんでも」

 男の笑顔には、なんの翳りもなかった。切ないけれど、少女はそれを許容するしかなかった。
 それから少女は、留学の準備を進めると同時に、何度も男の研究室に通った。男は自分の祖国のことを熱心に語った。

「大事なことは、どんなにつらくても相手の言葉でしゃべろうとすることだ。人間は、違う文化に触れるとやはり警戒してしまうものなんだ。幸い君は、流暢に僕の国の言葉をしゃべることができる。あとは、しっかりとした心構えだけだ」
「君の外見で、多くの人が一瞬敬遠するのはまぬがれないだろう。でも、そんな時君は、素直に相手の言葉を聞こうとしてみるんだ。『素直・従順』が、我が国の女性の美徳なんだ。これはあまり誇れることじゃないんだけどね……」

 男の優しい語り口に、少女は肯く。そしてその言葉一つ一つを自分の心にしっかりと刻んだ。別れの前の、静かで幸せな日々だった。


「……!」

 後ろの座席の方で、静かだが、強い語気の叫び声が聞こえた。その声はすぐに止んだが、また浅い眠りに落ちようとしていた少女には、また瞳を開かせる小さなきっかけとなった。あたりの様子は先ほどとほとんど変わっていない。自分の目を覚まさせた声の主を探ろうと、少女は後ろの方を背伸びして覗き見た。しかし、そんな喧騒の様子はない。それに、つい先ほどまでにこやかな笑顔で通路を歩いていたスチュワーデスの、姿が見えない。乗務員室にでも入ったのだろうか。
 ほんの少しの尿意を感じた少女は、トイレを求めて静かに立ち上がった。場所を聞こうにも、やはりスチュワーデスの姿は見えない。しかたなく適当にあたりをつけて、スチュワーデスが行ったと思われる後ろの方に向かった。彼女の座席は後ろの方だったので、やがてすぐに乗務員室は見つかった。

「すいません……」

 一声掛けて、カーテンを開けた。しかし、誰もいない。スチュワーデスが休む席には、誰も座っていない。しかたなくまた静かにカーテンを閉めた。
 その時、すぐ後ろでかすかな声が聞こえたような気がした。女の人の声だ。振り返って見たが、もう声は聞こえなかった。目の前には、探していたトイレのドアだ。表示は、『OPEN』となっている。しかし、確かにそこから声が聞こえたような気がしたのだ。少女は、ノブに手をかけようとした。そしてその瞬間、また女の声が聞こえた。慌てて手を引っ込める。

「……っ、くっ……ふ」

 押し殺したような、苦しげなうめき声がドアの向こうから確かに聞こえた。布の擦れるような音も聞こえる。少女が想像したのは、急病にもがく先ほどのスチュワーデスの姿だった。

「んっ……くうっ……んん」

 痛々しい鳴咽はまだ続いている。躊躇はしたが、少女は勇気を振り絞って、トイレのドアノブを回した。

「……」

 床でもがく姿を想像していたので、視線は下に降りていた。しかし、そこにはスチュワーデスの姿はない。やがて少しずつ視線を上げると、少女には思いもよらない光景が広がっていた。
 最初に見えたのは、安っぽいスリッパを履いた足だった。男の足だ。そのすぐ上に、下ろされたスーツのズボンがあった。汚らしいスネ毛をまとった足が、その上に続く。そしてその上に、今度は高級そうな仕立てのストッキングを履いた脚がある。履き物は履いていない。その脚は、小刻みに揺れている。少女の視線は、さらに上へと移動する。今度は、紺色の布に包まれたボリュームのある物体が、これまた上下に揺れている。布の擦れる音はここから発生していた。睡眠薬の残った瞳には、しばらくそれがなんであるか分からなかったが、目が慣れてくるとそれが、スチュワーデスの制服をまとった女性のヒップだということが分かった。その尻が、ズボンを脱いだ男の足の上で躍動している。やっと、少女にも状況がつかめてきた。全身に、静かな戦慄が走る。

「おやおや、これは……」

 真正面から、いやらしげな声が聞こえた。顔を上げると、日本人中年が、こちらをニヤニヤした顔で見つめている。少女には、ようやくトイレ内の全貌が見えた。日本人中年の腰の上に、先ほどのスチュワーデスが乗っかって腰を動かしている。スチュワーデスも日本人だ。狭いトイレの中で、二人の日本人が、セックスをしているのだ。背後に気配を感じて、スチュワーデスも振り返った。瞳が、熱に浮かされたようにトロンとしている。口には、白い布が咥えられている。布地から察するに、パンティーのようだ。くぐもった声は、これのせいだ。

「カギを閉め忘れてたようやな。ま、人に見られるのもキライやないが。なあ?」

 脂ぎった日本人中年は、自分の上で動いている女に声をかけた。スチュワーデスは真っ赤になって、少女から顔を背けた。
「……この女はな、さっきワシのズボンに熱いコーヒーをこぼしやがったんや。拭いてもらおうとトイレに入ったんやが、ワシのチ○ポはやけどしとった。だから、会社に訴える代わりに、ここでオ○ンコしてやっとるんや……って、日本語は分からんか」

 日本人中年は、ドアの所で立ちすくんでいる少女をジックリと眺めた。地味な服装に見を包んでいるが、その中に隠された肉体が素晴らしいものだということが、容易に想像できた。Tシャツを大きく押し上げる豊胸、ジーンズの腰でしっかりとくびれたウエスト、その下で息づくボリュームのあるヒップ……。今抱いている日本人スチュワーデスも素晴らしいが、目の前の少女は、日本人の肉体コンプレックスにしっかりと訴えかけるほどの肉感的なボディだった。

「……あんた、アメリカ人か?ええのう。ワシもロスやラスベガスで金髪とヤリまくったが、アンタみたいなヤラシイ躰にゃ出会えんかったわ。オッパイもデカイしケツもバッチリや……ワシのチ○ポもビンビンになるわな。おいインランスッチー、さっきよりよくなったやろ?」

 腰の上の女に囁く。女は切なげにうなずく。口のパンティーのせいで、やはり押し殺した喘ぎが洩れる。
 少女には、男の言葉は半分ぐらい理解できなかった。尊敬する先生と同じ『日本語』でしゃべっているのは分かる。しかし、その言葉の中の『ヤリまくる』『オッパイ』『チ○ポ』『インラン』……。そんな単語はまったく理解できない。スラングだというのは分かるし、自分の国にもそういう淫らなスラングはある。しかし、大学で先生に教えられた『美しい日本語』にそんなスラングが多く混じるとは、思ってもみなかった。

「……金髪のネエちゃん、そんなに興味があるんなら、こっちに来てこの女と代わらへんか?あんたのオ○ンコを、俺のチ○ポで悦ばせてみたいんや……」

 中年男の言葉が、重く頭に突き刺さる。その時初めて、少女はドアを閉めることが最良の手段だと気がついた。震える体を奮い立たせ、ドアを勢いよく閉めた。そのまま駆け足で自分の座席に戻り、毛布を頭から被った。体は、まだ震えている。気持ちを落ち着かせようと、憧れの先生の写真をしっかりと握り締めた。しかし、先生のことを思えば思うほど、先ほどの日本人中年とのギャップに戸惑う。少女には、二人の男が同じ日本人だとは思えなかった。さわやかで紳士的な先生と、下品なだけの男……。それだけではない。清楚でおしとやかだと教えられていた日本人女性へのイメージも、たった今のトイレでのスチュワーデスの乱れようで、見事に崩れ去った。これ以上、自分の愛した『日本』という国のイメージを壊したくない。少女は毛布の中で、ポシェットから愛用の睡眠薬を取り出して、水も飲まずに呑み込んだ。あと数時間で、目的地『東京』に着く。あと数時間だ。震えはいまだ止まらない。いまはただ、先ほどの恐ろしい光景を、忘れたかった。

「……間もなく当機は、成田空港に到着いたします。申しわけございませんが、乗客の皆様は客室乗務員の指示に従って、座席に深く座り、しっかりとシートベルトをお締めになりますようお願いいたします……」

 ハリのある女性の声が、少女の耳に聞こえた。目を開ければ、他の座席の乗客もあわただしい様子で、席に着いている。目的地に、もうすぐ到着するようだ。少女も、眠たげな目をこすりながら、シートベルトを締めた。
 ワシントン国際空港を離陸した日本系航空会社の旅客機は、ついに成田空港に到着した。少女は、荷物を棚から取り出し、出口に向かおうとしていた。乗客が全員出口に殺到するため、すぐに混雑が始まる。しかたなく少女は混雑する列に身を投げ出した。ギュウギュウに押されながら、少しずつ出口に向かって行く。
 彼女が違和感を感じたのは、そのしばらくあとだった。前も後ろも混雑のせいで人がしっかりとくっついている。前は明らかに観光旅行帰りの日本人中年女性だった。違和感を感じたのは後ろだ。密着しているのは分かる。しかし、ただ密着しているのではない。彼女の耳には、明らかに荒い息遣いが聞こえる。男の、息だ。

「……?」

 違和感は、それだけではなかった。自分の薄手のジーンズに、後ろの男の体がすりよせられる。それが、おかしい。確かに混んでいる。しかし、腰の部分だけ他の部分より明らかに密着している。そして、薄手のジーンズの布地越しに、一番の違和感が発生していた。 初めはそれが何か分からなかった。しかし、やがてその違和感の元が自分のヒップに押しつけられたペニスだということが分かった。後ろの男が、自分に勃起したペニスを押しつけているのだ。全身に、嫌悪感が走る。

「……ジェーン・ジェロームちゃん。ジェーンちゃん……」

 突然、後ろの男に声をかけられた。嫌悪感は、さらに増加した。トイレの中で聞いた、あの中年の声だ。

「ジェーンちゃんか……ええ名前や。さっき、あのインランスッチーに聞いたんや」

 男が言う。見れば出口の所で、数時間前男の腰の上にいたスチュワーデスが、こちらの方を申しわけなさそうに見つめている。

「日本に、なにしに来たんや?やっぱり男漁りか?そんな躰してるんや、日本人の男はほっとかんよ……どうや、ワシと一晩つきあわんか?金なら、あるぞ……」

 下品な口調は全然変わっていない。しかし、少女は先生に教えられた通り、礼儀を踏まえて冷静に答えた。

「やめて、ください……っ」
「ほう……日本語しゃべれるんや。ほんなら話は早いわ。な、ええやろ。アンタみたいな金髪の美人、ワシは初めてや。アンタもそんな躰の持ち主や、男が欲しいんやろ?こっちじゃワシはある県のの県会議員や。金も権力もある。な、ちょっとしたアバンチュールや。旅行中、不自由させへんで……」

 荒々しい、汚らしい息が首筋にかかる。その時、出口が近づいた。彼女、ジェーン・ジェロームは、男を振りきって前の女性を押しのけて飛行機を出た。
 成田の国際線到着ラウンジは、近代的で豪華なものだった。しかし、今ジェーンはあの男から逃れるだけで精一杯だった。ラウンジには、先生の親友という人が待っているはずだ。そこまで走れば、あの下品な男から逃れられる。振り返れば、あの中年男が下品な肉体をさらに下品なスーツに包んでこちらに歩いてくる。

「……!」

 ジェーンの走る視界に、一枚の紙片が目に入った。『WELCOME!JANE JEROME!』と書かれた一枚の画用紙だ。ジェーンは慌てて立ち止まる。

「あ……」

 画用紙を持った男は、目の前に立ち止まったアメリカ人女性に気がついた。

「え、えーと、ジェーン・ジェロームさん、ですか?」

 緊張した口調で男が聞く。若い男だ。先生の話では親友の男の人は同年代の五十代のはずだったが、ジェーンが見た所、目の前の男は二十代前半の小柄な男だった。

「Yes……あ、違う。はい、私がジェーン・ジェロームです。あなたがハシモトさんですか?」

 荒い息のまま、ジェーンが質問する。横目で見れば、あの中年男が乗降通路を抜けゆっくりとこちらに向かって来ていた。あの淫猥な表情を浮かべて。

「あ、えーと、僕は橋本教授ではありません。その助手の飯塚、と言います。えーと、教授は、ちょっと用事がありまして僕が代わりに……」

 男はアメリカ人少女に分かりやすいように、ゆっくりとしゃべろうとする。しかし、今のジェーンにとってその丁寧さは、あせりを倍増させるだけだった。中年男の汚らしい息が、すぐ後ろで聞こえるような気がした。

「……はやく、はやく来てください!」

 ジェーンは、いても立ってもいられなくなって、若い男の腕を掴み、駆け出した。

「ちょ、ちょっと……」
「この空港の出口はドコですか?はやく、私をそこへ連れて行ってください!」

 眼鏡をかけた地味めのアメリカ人少女と、相手の様子を聞いていた飯塚は、激しい口調で自分を引っ張る女をあっけにとられて眺めている。
(……おいおい、いきなりなんだよこの女は。おとなしいガリ勉アメリカ娘じゃなかったのか?それらしいのは眼鏡かけてるってところだけじゃねえか。それに、歳は十七歳だろ?躰はどう見ても、熟れ熟れのナイスボディじゃねえか……)引っ張られている飯塚には、前を走る肉感的な女の全身が見える。上半身はTシャツの上に薄手の淡い色のシャツ。シャツの下から時々見えるそのTシャツは、ブラジャーでも押さえ切れないほどの豊かな双胸ではっきりと押し上げられている。さらに飯塚を惹きつけたのは薄いソフトジーンズに包まれた下半身だ。一所懸命走っているため、その大きなヒップは激しく上下左右に揺れている。外国人特有の、ボリュームがあるのに形の整った尻が、それはもう扇情的に飯塚の目を奪った。
 飯塚は、彼女と別れたばかりだった。散々金を使わせた挙げ句に、「セックスの相性がよくない」などといってその女は飯塚の前から消えた。そんな女の躰に溺れていた自分がアホらしかった。
(あの女は自分の躰をナイスボディだって威張っていたが、なにがだ。目の前のアメリカ女に比べれば、月とスッポンじゃないか……)いまだいやらしく揺れる尻を見ながら、飯塚は思わずニヤニヤとした顔になっていた。

「イイヅカさん!車、どこですか?それとも、タクシーですか?」

 ジェーンの声に、飯塚はハッとする。いつのまにかジェーンは、自力で空港玄関を見つけ、すでに外に出ていた。

「あ……あ、あの、駐車場に僕の車があります。行きましょうか?」
「お願いします!」

 ジェーンは、しきりに後ろを気にしながら、飯塚について行った。やがて、空港駐車場に到着する。飯塚の車はオープンツーシーターの日本車だ。

「急いでるみたいですね。さ、はやく乗って」
「ハイ!」

 ようやく、会話の主導権が飯塚に移った。ジェーンも、車が動き出した途端に緊張の糸が切れ、大きなため息をついた。飯塚の車は、やがて首都高速に乗った。

「……ようこそ、日本へ!って、もう遅いかな」

 飯塚が、黙りこくっているジェーンにわざと大きな声をかけた。ジェーンは、躰をビクッと震わせた。

「……すいません」
「いや、謝ることはないよ。君のその様子じゃ、なにかあったみたいだね」
「……はい」

 ジェーンの口調が弱々しい。

「来たばっかりなのに、何かあったの?」
「はい、えーと……あの……」

 適当な言葉があったはずだと、ジェーンは一所懸命に日本語の単語を探す。そして、さらに弱々しい口調で、飯塚に向かってつぶやいた。

「チカン、です……」
「痴漢!」

 飯塚がすっとんきょうな声を上げると、ジェーンは恥ずかしそうにうつむき、小さくうなずいた。

「あれあれ、いきなり大変な目にあっちゃったんだね。ホントにゴメンね」
「いえ、イイヅカさんが謝るのは……」
「いやいや、どうせ相手は日本人だろ?分かるよ、そんなことするのは世界中に日本人しかいないよ……だから、僕が代わりに謝ってるんだ」
「……優しいんですね」
「いやいや……それほどでも」

 外面は優しく誠実な日本人を装っている。そんな飯塚も、心の中ではあの中年とあまり代わりはなかった。優しい言葉を投げかけながら、飯塚は横に座るジェーンの肉体を横目でちらちらと観察していた。前から見れば、さらに性欲をそそる。バストはCか、あるいはDか……ともかく、飯塚がアダルトビデオ以外ではお目にかかったことがない大きさだった。それに、ただ大きいだけの不気味なオッパイではない。十七歳という若さに支えられた、張りのある形のよいオッパイだ。
(これなら、誰でも痴漢したくもなるわな……これが十七歳だぜ、犯罪だよな。今や日本で十七歳といやあ、腐った頭と真っ黒い肌のアホバカ女子高生しかいねえ。アメリカ人はどの女もヤリまくってると思ってたけど、どうやらこの娘さっきの様子じゃ……)一通り考えを巡らせていると、飯塚の頭に一つの悪戯が思い浮かんだ。あれこれ想像していると、思わず股間に血が回っていく。
 予定では、このアメリカ人少女を橋本教授の家に連れて行き、そのままお手伝いさんに引き渡し、自分はそのまま帰るはずだった。でも、こんなセクシー美少女を放っておくことなど、いまの飯塚にはできそうもなかった。

「……ジェーン、僕らはこれから大学の橋本教授の研究室に向かうことになる。教授が、君の到着を心から待っているんだ」

 嘘だ。たった今思いついた嘘だ。橋本教授は、大学の教授会の集会で今日一日大学には戻ってこない。教授の研究室には、助手である飯塚の部屋もある。そこに連れ込めば、この世間知らずのアメリカ娘をどうとでもできる。そんな気がしたのだ。

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