「おかえりー」
「あ。ただいま」
「カゼ、大丈夫だった?」
「あ、うん。平気。」
「そっか。よくなってよかったねあっちゃん」
学校から帰ってきた(フリ)の俺。いつもとおんなじ感じで迎える母さん。
「じゃあさじゃあさ。明日、2人で携帯買いにいかない?ね、いこ?」
くそー……どんな顔してしゃべっていいか分かんねえよ!浮気してんのに平気な顔の母さんとっ!
「あ、えっと……俺、行かね」
「え」
「行かね」
思いっきり不自然!単なるダダっ子じゃん俺!
「なんで?明日休みでしょー?前から携帯ほしいっていってたじゃん」
「行かねーったら行かねーの!あの……えっとそうだ、勉強だよ」
たった今思いついた。上手くいくかどうかは自分でも分からんよー?
「休んでたから、その分ヨシスケたちに勉強教えてもらうことになった……そーいうこと」
「ふうん……」
うわあ、明らかに怪しまれてるよ俺。ウソつくの苦手だかんなぁ。
「渡会さんちで、勉強……ふうん……」
なんかニヤニヤしながら俺を見下ろす母さん。くそう、完全にバレてるじゃん。
俺の知ってることこの場で全部いっちゃったら、この上位関係は変わるんだろーけど。俺チキンだし。
「ま、いいでしょ。そっかー、あっちゃんも母さんに隠しごとするようになったのかー。うふふ」
なんか楽しそうに笑いながらキッチンのほうへ歩いてく母さん。負け犬な俺ー。
だから、くやしまぎれに。
「……母さんは、隠しごとないんだろーね」
2階に上がるまぎわ、いったった。聞こえたか聞こえなかったかはノータッチ。
夕食。なんか母さんしゃべってたけど、テキトーにあいづち。
途中電話がかかってきて、父さんから。遅くなるってことらしい。
「なんかさー、あっちゃん反抗期だよ?どーするパパ!」
みたいなことを笑いながら話してた母さん。原因はアンタ!どーいう神経してんのかね?
夜中ー。トイレに降りた俺。ありゃ?居間に電気ついてるぞ。
「あ」
「あ」
母さんが、テーブルにぐたっ、ってなってる。あ、ビール飲んだわけね珍しい。
「……父さんまだ帰ってねーの」
「うん……あ、あっちゃん」
「んあ」
「ちょっと、話聞いて。母さんの話」
???
「こっちきて、ここ座って」
「なんでさ」
「いーから座る」
おいおい、酔ってんなー。パジャマ姿でビールで晩酌?ガラにもないことを……。
「なんだよまったく……はい、座ったよ」
「うーし、今日は母さんの話を聞け。ちゃんとだぞちゃんと」
「内容次第だねー」
ボケながら向かいの母さんを見る。フツー。いつもの母さん。酔ってるって所だけ違う。
「……あのさ、あっちゃん」
ぐたっ、ってなった状態で顔だけ上げて俺を見て。あーあ、目がすわっちゃってるよ。
「あっちゃんぐらいの子ってさ……その……いろいろ変わってく時期なわけ?」
「はあ?」
「あっちゃんだってさ、今日みたいに母さんに反抗したりとかウソついたりとかするし」
「ウソって!……そりゃまあ、理由はいろいろあんの。時期かどーかは分かんないけど」
いってすぐ気づいた。俺ウソついたって肯定してない?あとで弱みになったりしない?
「つい昨日まで子供だったじゃん。わたしのあと嬉しそうにちょこちょこついてきたり、わたしがいないと泣いたりさ」
話が見えん。これは帰ってきた時の態度について、俺が怒られてる状態なわけ?
「親としては、ずっとそーいうつもりで子供見てるわけじゃん。なのに勝手に大きくなって……ズルいよそんなの」
いって、横に置いてた缶ビールを飲む母さん。ずずーっ、って音。ほとんどカラじゃんよ。
「……あのさ」
いやさすがに。いわれっぱなしじゃカッコ悪いっしょ?でもまあ、フツーの意見を。
「それはしかたないでしょ?そんなの俺だけじゃないし、母さんもさぁ、今でもばあちゃんの思うそのままのイメージじゃないでしょ」
「……うん、いろんなとこオトナになったよー♪」
「……ばーか」
う、ヤバい。今ちょっとドキッとしたぞ!
「でもさぁ……そーいう意味じゃなくてさ……何だろ……えっと……」
また顔を下げてテーブルに。再びぐたっとなった母さん。先の動きが読めんなぁ。
「ちゃんより……子供っぽかったんだよ?その子は……」
あ?何ていった?聞こえねー。
「何て?」
「……なのにさ……その……あー、どうしよ?ね、あっちゃん?母さんどーしたらいい?」
「だから分かんないって。何がどーしたのよ」
「……このままじゃ、パパとあっちゃんが……かわいそうだよ……全部わたしのせいなのに」
うわ。うわ。うわ。うわ。気づいちゃった。母さんの話は、いつの間にか悠との話になってやがる!
「よ、酔ってんなら、もう寝るよ俺」
あわてて立ち上がって、階段に逃げる俺。こんな状況でちゃんと話できる自信ないもん俺っ!
「……どーしよー……助けてよ、あっちゃん……」
母さんの呪文みたいな声を振り払うように、俺は部屋に逃げた。カンベンしてーっ!
「ああんっ、ダメよ……あっちゃんに、気づかれちゃう」
「あははっ、大丈夫だって。だからゆーこさん……しよ?」
おいおいっ、何いってる悠!んでもって母さん、俺ここにいんだけど、見えないわけっ!?
「ゆーこさんだって、ホントはしたいんでしょ?ホテルじゃあんなにエロくしてたじゃん」
「あ、あれは悠君が……して、っていった、から……」
「ううん。カラオケの時のフェラはしてってお願いしたけど」
くい、って母さんのあごを指先で上げる悠。こらっ、馴れ馴れしいにもホドがある!
「……それからはゆーこさんが進んでしてくれたよ?お風呂でのフェラも、セックスも……」
「いやっ……そんなこと、そんなことっ」
「今だってさ、息子さんが気になるとかいって、ホントは……ほら、欲しいんでしょ?」
「ああんっ、悠、くんっ……しないで、そんなこと、しない、でぇっ……!」
うおっ!いつの間にか2人はハダカ!悠の手はあごから離れて母さんのヤバい場所に!
「ふふふっ……今日はどうして欲しいの?後ろから?それとも上に乗る?それとも……」
「ああ……っ!拒んでも、また、するのね……わたしと、セックス、するのね……っ!」
のわあっ!……あ、あ、あ、あ、あ〜あ。
朝。チュンチュン鳥が鳴いてるすがすがしい休日の朝。
俺、生涯初の夢精。あんまり激しすぎてパンツ&パジャマを突破。またシーツ汚す。
母さんと悠で出したの、これで何発目だぁ……?
土曜日。せっかくの休日の始まりはクサいパンツ&パジャマをコソコソ隠すことから始まる。
わー、母さんもう起きてるわ。トントン音してるし。あ、10時半過ぎなわけね。俺寝すぎ。昨日出しすぎ?
とりあえず洗濯機に投入。父さんの服もあるから、なるべく下のほうにー。
「あっちゃん?」
おお、キッチンから呼ばれたぞ。
「あ、あーい。俺です」
意味不明な返事だな。まあ、母さんのエロ夢で起きたわけだから、気まずくないわけもないわけでー。
父さんは10時開店のパチンコに行ったご様子。
「ねー、ほんとに勉強?携帯買いに行こうよ、ね?」
朝食の間じゅうずっとその話。俺の「行かねったら行かね」攻撃もなんのそのな母さん。
「……っていうか、どーしてそこまで携帯欲しいわけ?」
「それは……あっちゃんが前から、いってたし……」
「……勉強の準備してくる」
はああ……しどろもどろになっちゃったよ。そりゃいえないよね。「悠くんとエロ写真交換のため」とか。
ムリヤリ参考書詰め込んだカバンを持って降りてきた時にゃ、母さんもあきらめて家事してた。
んでもって、やっぱり気になるっス。当然、日記と、ちゃんちゃんこ内ポラ写真。
足音忍ばせて、寝室へ。
ドア閉めて、ちょっと動揺。昨日、ラブホ入ってくの生で見ちゃったしなー。
日記にウキウキモードで「気持ちよかった、最高♪」とか書かれてたらどーするよ?
「ま○こにずっぽり悠のち○ぽ」とか「フェラしながらピース♪」とか「ぶっかけ佑子」とかポラに写ってたらどーよ?
ま、でも。やっぱり読んじゃうんだろうし、見ちゃうんだろうけど。もう、正直止められんー。
タンス開けて、薬箱どけて……あ、日記と写真同時だともっとエロいかね?胃が痛いかね?てなことでちゃんちゃんこも椅子から取って、と。
「あっちゃん、ちょっとー」
げっ!げげげっ!近くで聞こえる母さんの声っ!最悪!
「あっちゃーん、いないのー?」
いや、いますけど……ちょっとストップ、こっちに気づくなこっちに来るなぁ!
片づけろ俺!しかし静かにだ俺!のわっ!タンスの戸の磁石の音があんがい大きいぜっ!あとちゃんちゃんこしわくちゃ!
「……あっちゃん?」
おし、片づけたっ!でも状況あまり変化なしっ!でも、部屋でなきゃしょうがない!
「あっちゃ……きゃっ!」
ドア開けたら、すぐ前に母さんの顔。対する俺は……どんな顔してるよ?
「あ、あっちゃん……なんで、母さんたちの、部屋に……」
「あ、えっと、お、俺……もう行くから」
ムリヤリすり抜けようとする俺の耳に、イヤーな音。ずずずずずずっ。ちゃんちゃんこがずり落ちる音。
「……あっちゃん」
その後のことは知らん。すぐ逃げるようにカバン持って靴はいて、家を飛び出した。
うわー、さすがにムカムカする。あわてて走ったせいもあるけど、胃がねぇ……。
あれはさすがに、バレたかなー?バレたわなー。
よりによってあのちゃんちゃんこだし。エロポラ13枚入りちゃんちゃんこ。
今のうちいいわけ考えとかないと。「カゼが治ってなくて」……今さらムリあり過ぎ。
「消しゴムがコロコロと転がって、よりによってこの部屋に!」……俺ってバカ?
「夫婦の部屋特有の微妙にいやらしい匂いに思わず誘われて」……いいわけにならん!って言うかある意味正解だし。
……混乱してる時はちゃんと思いつかないもんだね。とりあえず胃痛を抑えるために、コンビニに退避。
すみません店長さん。入るなりトイレ使っちゃって。まあ、ジュースくらいは買いますか。
あ、ジャンプ最近買ってねーなー。ふんふん……あ、エロ本コーナー。最近封つき責任者出て来い。
へえ……今まで気づかなかったけど人妻扱ってるマンガとか多いのねー。
「熟れ熟れ奥さん」「人妻だい好き」「人妻のナマ下着」……へえ、ふうん……。
すみません店長さん。もいっかいトイレ借ります。いろいろ思い出しちゃってもっかい吐きます。
はあ……。吐いたのも事実だけど、ちょっと興奮したのはナイショだ。
「……はーん。ってことは、ケータイ作戦はダメなんだね」
うわ、デザートのほうの奴うるせえ。コンビニの中で大声でしゃべんなよ。
「しょうがないか、ふーん……じゃあ、もういいや。明日の予定、ナシにしよ?」
軽い口調でしゃべりやがって。俺がこんなに重い問題に悩んでいるというのに!
「あー?何いってんのさ。俺明日までここにいないし……あはは、そんなのムリー」
あー、マジうるせえ。男のクセに高けー声で……あ、れ?
「えー、ゆーこさんサカりすぎ!ダメダメ、昨日のファミレスとかナシだよー」
ちょ、ちょっと待て。え?え?え?
「……しょーがないね、そんなにいうなら。そのかわり、サービスしてよ?」
ウソ、だろ……なんで、あいつが、ここにっ?
「え?いいよ、どこにも来なくても。ははっ、佑子さんは、待ってればいいから。じゃね」
紺地に赤ラインの上下のジャージ。携帯たたみつつポケットに入れながらコンビニを出てく男。
茶髪で。女みたいな顔して。背もそんなにおっきくない、悠。写真の中で母さんとエロいことしてた、悠。
なんであいつが、昨日の尾行作戦の前線基地だったこのコンビニにっ!?
『え?いいよ、どこにも来なくても。ははっ、ゆーこさんは、待ってればいいから。じゃね』
……ってことは、うわあ、うわあっ!
正直どーしていいか分からんまま、コンビニの外を歩いてく悠を眺めるだけの俺。
うわー、どうする?どうしたらいい?飯田佑子35歳の実の息子な俺!
おわあっ!その横断歩道を渡るな、そっちは……俺の家だぁ!
追いかけて、止めたほうが……で、でもなんていって止めるよ?
「俺の母さんに手を出すな!」って1発殴って……ゴメン、俺それムリなキャラー。
ああ……悠が道の向こうに消えたよ?俺の家に続く道に。あ、ヤバイ……足ガクガクしてきた。
悠が、俺んちに、母さんに、会いに……ひょえー。何するつもりだよ二人は。
あははは。マジ?もうそんな状態ですか35歳女と14歳男は。あはははー。
コンビニを出た。向かう先は!……ゲーセン。ヘタレな俺の選択。帰っても、ヤバイとこ見ちゃうだけでしょ?
はいはい。浮気でもなんでもすればいいじゃん。自分の家であはんあはんしたらいいですよ母さん。
俺とか父さんが普通に暮らしてる家の中でさ、フェラチオとかせっくすとかしたらいいじゃん。はいOK−。
ゲーセンについた。1000円両替、即いつもやる筐体に着座。あ、まだ足が震えてるよ俺。
のども渇くなー……あー、集中集中。あ、ミス。うわ、やべっ。ソッコーでGAMEOVER。
気にならないわけ、ねーじゃん。帰る、べきか……?
うー。まずは落ち着こう。ゲーセンの表にある自動販売機でペプシ購入。
買ってちょっと口つけて、すぐにもう一回格ゲの筐体へ。スタートボタン連打。
あー指も震えちゃってるよ。こんなんじゃ……ええいクソっ、やっぱりすぐ敗退ー。
コーラ持って席を立って、一口飲もうとする。あわわわわ、唇もひくひく。
ゲーセン出て、一気に飲み干した。勢いつけて空カンをゴミ箱にシュート。
帰る。こんなんじゃ、どーしよーもない。もっとムカムカするかも知れんけど、帰る。
しかし……さっきのコンビニから30分近く時間かかってる。びみょーな時間。
足取りは当然重いよなぁ、我ながら。しかし、たいした距離じゃないのですぐに家の近くに。
悠がもし母さんを迎えに来ただけだったら、とりあえずはセーフかも。追っかける手段もねえし。
とりあえずは、鍵がかかってるか確認しよう。んでもってかかってたら、中に人がいる気配があるかどうか。
到着。いつもとなんの変わりもない、我が家ー。
こそこそ近づいてって、玄関ドアに。なんで自分ちなのに、こんなにコソコソしなきゃなんねーのよ?
くいっ、とノブ回し。んで少し引く……鍵、かかってる。中からかけた?外からかけた?佑子さん。
はて……これから、どーするよ?いるかいないかだけど……このまま鍵あけて入るわけにはいかんし。
うし、裏に回ろう。台所の窓からリビングまで見えるし。いきなり寝室は怖いし。
狭い庭、ごそごそと。父さんが最近手入れしてないなー。パチンコ行ってるヒマないっつの。
たまの休みパチンコ行ってるスキに、あんたの奥さんは14歳と浮気しちゃうんですよー?
う。忘れてた胃痛がっ!そーなんだよ、父さんの奥さんでもあり、俺の母さんでもあるわけだ、飯田佑子は。