天使のたわむれ 前編

< 登場人物 少女 真奈美・調律師 学 >

 休日の午後の日差しが、坂上家のリビングに優しく射込んでいた。その日差 しの中で浮かび上がるソファーに、真奈美は無邪気に寝息を立てていた。十二歳の無垢な少女は、どんな夢を見ているのだろうか。空を飛ぶ夢か、草原を駆ける夢か、それとも……。   

 何度もチャイムを押してみたが、応答がない。ピアノ調律師 春日 学は初夏の暑さの中、いささかイライラしながら坂上家のチャイムを鳴らし続けていた。   
 ピアノの調律という、一般人から見ればいささか高尚な職業に就いている学ではあるが、自分にしてみればただ親父の職業を継いだだけだ。音楽は父の影響で小さい頃から大好きだった。しかし、調律を職業にするのには少し抵抗があった。理由は、父の裏切りであった。
 数年前、父は調律先である既婚の女性に熱烈に惚れて、学の実母と離婚してしまったのだ。結局父は同じく離婚したその女と再婚したのだが、学にとってはその事実が、『調律師』という仕事を敬遠させる原因になっていた。   
 やはり仕事の相手は、上品なお金持ちが多い。よって時間を守らないことはごくまれだ。しかし、この坂上という家は何度チャイムを鳴らしてもウンともスンとも反応しない。学は念のためもう一度時計を見直した。2時42分。  

「おかしいなぁ、確かに2時30分のはずだったんだけど……」   

 学は周りを見回してみた。白く大きいその屋敷は、周りの景色と調和して静かにたたずんでいる。見れば芝生の庭に向かう白い扉があった。学は誘われるようにその扉を開け、庭へと向かって行った。   
 敷地内に入っても、やはり人の気配はない。庭は、丁寧に手入れされているようで、日差しによって芝や草木が緑に輝いている。  
 その庭に面して、大きな窓があった。いままで何度もこんな大きい家を見てきたが、この屋敷はその窓を見て『他とは違う何か』を感じさせた。それがなんであるか、今の学には分からなかったが……。   
 白いサッシの大きな窓を、学は自然に覗いてみた。広いリビングがそこに広がっていた。整然と並んだ家具、そしておそらく今日調律するであろうグランドピアノ。  

「やっぱり、留守なのかな……ん?」   

 リビングの中央にある、ソファーの上の毛布がかすかに動いた。見つめていると、その毛布の中から女の子の顔がのぞいたのだ。  

「あ」   

 学は、勝手に庭にあがったことが、急に悪いことのように感じられ、急いでそののぞいた顔に会釈した。   
 女の子は、窓の外の学に気が付いた。何度か目をこすっていたが、こちらにむかって笑顔で挨拶をした。  
(へえ……礼儀正しい娘だなあ。可愛い顔してるし、十三歳ぐらいかな……)   

 学がそんなふうに思いを巡らせていると、その少女は玄関に回るように手振りをした。学は笑顔をかえし、それにうなずいた。   
 玄関ドアが開き、あの窓の中の少女は学の前に姿を現した。真っ白い薄手のドレスを身にまとい、ロングヘアーの黒髪をしたその女の子は、ガラス越しに見ていたよりさらに可憐に見える。  

「こんにちは、あの……」  
「ピアノの調律の先生ですね。どうぞ、お入りになってください」  
「あ、じゃあお邪魔して……」   

 学は少女に案内されて、さきほど庭から眺めた広いリビングに通された。  

「ピアノはこれです。なんだか音の調子が悪くって……あ、ごめんなさい、お茶の用意してなくて!」   

 そう言って女の子は、慌てたふうでキッチンへと小走りに去った。  
(ほんとにカワイイ子だなぁ。大きくなったらさぞかしキレイになるだろう……)少女の後ろ姿を眺めながら、学は思った。   
 しかし、今日は別に女の子を眺めに来た訳ではない。学は我に帰ると、仕事道具の入ったカバンを大きなグランドピアノの脇に置いた。その時、再びあの可愛い女の子がリビングに戻ってきた。両手にしゃれたティーセットを抱えて。  

「あ、先生。待たせた分、どうぞゆっくりなさってください。さあ、お茶を飲んで……」   

 女の子はそう言って、ソファーに座るように促した。断わるのもなんなので学はそれに従って、さっきまで少女が寝息を立てていたソファーに腰かけた。  

「どうぞ。あ、このケーキもおいしいですよ。今日先生がいらっしゃるっていうから、私が朝から焼いてみたんです……あーっ、ごめんなさい!勝手にしゃべっちゃって。名前も言わないで……私、坂上 真奈美って言います。小学校六年生です」

 まくしたてる真奈美という女の子に、学はあっけにとられていた。  

「あ、えーと……こっちは春日 学と言います」  
「はじめまして!」  
「はじめまして……」   

 それからちょっとした、不思議な空気が流れて、二人は黙ってしまった。しかしその雰囲気がなんだかおかしくて、どちらからともなく笑い合った。  

「あはは」  
「うふふふっ」   

 しばらく、二人の笑い声がリビングに響いていたが、学は真奈美にばかり話させるのも悪いと思い、話し始めた。  

「えーと、真奈美ちゃんだっけ?真奈美ちゃんはいつからピアノを始めたの?」  
「ピアノは、三歳の時からです。もう十年近くやってるんですけどなかなかうまくならなくて……」  
「ピアノは、って他にもなにか習ってるんだ」  
「あ、えーと、他にはバイオリンとか……いやだ、先生。もう照れちゃうじゃないですか!」   

 ほんとに照れ臭そうに、真奈美は赤面して言った。ほんとに可愛い娘なんだ、と学は思った。  

「真奈美ちゃんってすごいんだね。ピアノとバイオリン両方習ってるなんて!パパやママが熱心なのかな?」  
「あ、それは……」   

 その時、真奈美の顔色が変わったのを学は見た。  

「…… 前のママが、音楽好きだったんです。今のママはそんなに好きじゃないんだけど、パパがちゃんと言ってくれてるから……」   

 真奈美は学を見て、笑顔を作った。悪いことを言ってしまった、学は直感した。急に申し訳ない気になって、黙ってしまう。  

「いいんですよ先生、気にしてませんから。私自身も音楽が好きだから、今も続けてるわけだし……ほんとに気にしないでくださいね。ごめんなさい……」  

 こっちがあやまらなければならないのに、真奈美が謝るのを聞いて学はさらに悪く感じた。  

「こっちこそゴメン!本当に、ゴメン……」   

 学は立ち上がって深々と頭を下げた。  

「そんな、ほんとにいいですって!」   

 真奈美は今度は本当の笑顔で学を見た。その顔を見て学も安心し、またソファに腰かけた。  

「さて……」   

 学はカップに残っていた紅茶を飲み干して、立ち上がった。  

「あんまりご馳走になっちゃわるいから、仕事を済ましちゃおうね」   

 学はそう言って、ピアノに行った。カバンを取りあげると、ピアノの蓋を持ち上げてとりあえず内部を眺めてみた。  

「えーっと」   

 弦が切れているとか、弦板が歪んでいるというようなことは無いようだ。  

「ちょっと弾いてみようか……」   

 学は椅子に座って鍵盤を叩いてみた。なにも変化はない。一応、全部の鍵盤を叩いてみたが、音がおかしいようには感じられない。

「あれ、おかしいなぁ……」  
「先生、どうですか?」   

 真奈美が学のそばに寄ってきた。  

「あ、真奈美ちゃん。あのね、どこも悪いようには見えな……」   

 真奈美の方を振り向いて、言葉を詰まらせた。かがみこんで鍵盤をのぞく真奈美の胸元が、白いドレスの間からはっきりと見て取れたのだ。ただでさえ白い真奈美の肌だが、胸のあたりは透き通るように白かった。もう少し覗き込めば、真奈美のノーブラの乳房の全体が見られるはずだ。学はゴクリと唾を呑込んだ。  

「……?先生、どうしたんですか?」   

 真奈美の言葉に、学は我に帰った。  

「え、あ、あの、どこも悪くないように見えるんだけど……」  
「えーっ、ほんとですか?昨日弾いていた時、なんかおかしい感じだったんですけど……」  
「じゃあ、ちょっと曲を弾いてみようか。そうすればどこが悪いかわかると思うから」  
「あ、お願いします!」   

 学は真奈美の声に嬉しくなって、腕に自信のある短い曲を何曲か弾いてみせた。  

「うわあ……先生、上手!」   

 真奈美が感嘆の声を上げた。  

「そう?そう言ってもらえるとうれしいな」  
「いやいや、ほんとですよぉ!そんなにうまい演奏を聴いたの、私初めて!」   

 おそらくお世辞だろうが、手放しに褒められて学が嬉しくないはずがなかった。  

「やっぱり、音は狂ってないみたいだよ。ちゃんと弾けるから……そうだ、今度は真奈美ちゃんが弾いてみなよ。僕が聴いてあげるから」
「えーっ、私が弾くなんて恥ずかしいなぁ……」  
「いいから弾いてみなって!」  
「そうですか、じゃあ……」  

 真奈美は学と入れ替わり、椅子に座った。はーっと小さな息を吐いて、華奢な指で鍵盤を叩き始めた。ヨーロッパの楽曲だ。   
 何気ない気持ちで真奈美を座らせたのだが、思いがけないことが学を喜ばせた。さきほど手に届きそうだったあの白く可憐な真奈美のバストが、背後から見ると丸見えなのだ。学の所から発達途中のふくらみ、そしてピンク色の小さな小さな乳首まで覗くことができた。  

「……!」   

 いけない、と思いつつ学は湧き上がる劣情を抑えることができなかった。体中の血液が頭と股間に流れ込んだ。それにともなって、さまざまな想像が頭を駆け巡る。  

「どうでした?私の曲?」   

 また、少女の声で思考が中断された。いつの間にか曲は終わっていたのだ。  

「あーっ、よかった、よかったよ!真奈美ちゃん、うまいねーっ!」   

 わざと高い声を出して学が言う。想像を振り払うためだ。  

「ほんとですか!?うれしいな、先生にそんなに褒めていただいて……」   

 真奈美は立ち上がった。学の目を楽しませていた真奈美の胸は、学の視界から離れた。  

「確かに、どこもおかしくないですね。おっかしいなあ……でもいいか、どこも悪くないってことはいいことだし」  
「そうだね、それじゃあ……」   

 学は道具の入ったカバンを持った。正直なところ後ろ髪ひかれるが、仕事が終わった以上帰らなければならない。それにこれ以上ここにいれば、目の前の少女になにをするか自分でも分からないからだ。  

「もう、帰っちゃうんですか?」
「うん、もう仕事終わっちゃったしね」  
「そうですか……」   

 真奈美が本当に残念そうな表情で言う。  

「先生、今日はどうもありがとうございました。あっ、お金渡さないといけませんね!」   

 真奈美はそう言ってどこかへと走っていった。別れの余韻に浸っていた学は謝礼のことなどすっかり忘れていた。  
(危ない危ない……お金を受け取り損ねたりしたら、親父になに言われるか……)学は冷汗を拭きながら、真奈美が戻って来るのを待った。しかし、なかなか真奈美は戻ってこない。つっ立っているのもなんなので、学は真奈美が走っていった方へいってみた。   
 廊下を二つほど行った部屋に、真奈美はいた。部屋のタンスを開けて、なにかを一所懸命に探している。  

「どうしたの、真奈美ちゃん?」  
「あっ、先生!」   

 真奈美は慌てた表情で学を見た。  

「あの……お金が、お金が無いんです。確かママがここに入れてくれてたはずなんですけど……」   

 今にも泣きそうな声で、真奈美は言った。学はそんな表情さえもこの上なく可愛く思えた。  

「いいよいいよ。今すぐじゃなくっても、またいつか届けてくれればいいから。銀行振込って手段もあるんだし……」  
「ダメですよ!今日の仕事の分は今日払ってしまわないと。えーっと……あ、先生、ママはきっと五時頃に帰ってきますから、それまで待っていただけますか?不都合なら、私が先生のお家にお金を持って伺いますけど……」  
「いや、いいよ。ここで待ってあげる。別に用事はないし、僕の家はここからじゃかなり遠いよ」   

 それは事実だったし、やはり一番の理由はまだこの可憐な少女と同じ時間を過ごしたかったからだ。  

「じゃ、リビングでくつろいでいてください。ゴメンなさい、ほんとに」   

 またつぶらな瞳で謝ってきた。学はそんな真奈美に心ときめいてしまう。  

「そうさせてもらうよ。真奈美ちゃんもいることだし、退屈しないよ」  
「え、あ、ごめんなさい」  
「ん?どうしたの?」  
「私、ちょっとシャワーを浴びたいんです。今日はいつもより暑かったし、汗をいっぱいかいちゃったから……」   

 真奈美が言う。見れば確かに、真奈美の白い肌に点々と汗の滴が張り付いて  いる。十二歳の少女には似つかわしくない色気が、その汗から発生していた。また学はその色気に下半身を充血させた。  

「あ、ああ、いいよ。リビングでお茶でも飲んで待っているから、ゆっくりシャワーを浴びてきなよ」  
「そうですか、じゃあ……」   

 真奈美は二の腕で額の汗をぬぐって部屋を飛び出し、すぐとなりのバスルームに駆け込んだ。脱衣室のドアを閉めた音もせず、パサパサと服が滑り落ちる音だけが聞こえる。今学がその扉の前に立てば、真奈美の裸体をこの目で眺めることができるのだ。  
(十二歳の女の子って、こんなに無防備なのかなぁ……躰はもう充分オトナなのに……)学は先ほど覗き見た真奈美の美しいバストを思い出す。  
(いけないいけない、あんな可愛い女の子で欲情しちゃあ……でも、ほんとにカワイイんだよなぁ……)完全に準備完了となっている自分の分身を、学はなだめすかしながらリビングに向かった。   
 ティーセットは相変わらず机の上にある。学はソファーに腰掛け、少し冷たくなった紅茶をカップに注ぎ飲んだ。  

「ふうっ……」   

 一息ついた学であったが、やはり一度湧き上がった淫らな想像はいかんともしがたく、紅茶の冷たさなどそれを抑えるのには何の役にも立たなかった。耳  をすませば、かすかにシャワーの水音が聞こえて来る。学の頭の中では、真奈美の白い裸をシャワーの水流が滑り落ちてゆくさまを想像していた。  

「こりゃあかん。なんとかせねば……!」   

 ついに学は、高まりきった欲望を処理することを決心した。学は周りを見回し、テレビの側にあったティシュペーパーの箱を掴むと、先ほどのタンスの部屋に急いだ。   
 部屋に入ると、隣のシャワールームの音がはっきりと聞こえる。先ほどの想像はさらに確かなものになっていった。学は急いでジーンズを脱ぎ去り、トランクスからいきり立ったペニスを取り出し、目を閉じてしごき始めた。  

「うはあ……っ!」   

 何度もチャンスを逸してきた学のペニスは、かなり敏感になっていた。自分の指の動きに、分身はすぐに反応しさらに大きくなっていった。   
 しかし、目を開けるとただの薄暗いタンスのある部屋でしかない。なにか一抹の寂しさを感じた学は、少し考えた。ほんの少し勇気を出せば、バスルームに近づけばもっと確かなイメージが手に入れられるのだ。   
 学はペニスをしっかりと握ったまま、バスルームの前に向かった。見ると脱衣室の扉は開いたままだが、さすがにバスルームのドアはしっかりと閉じられている。学は少しがっかりしたが、しかし半透明のバスルームのドアからは、真奈美の若くみずみずしい裸体が見て取れる。学の性感は格段に高まった。  
(よし、イイぞ!)学はそのドアが見える脱衣室の前に座り込んで、再びいきり立った怒張をしごき立て始めた。やはり、格段に感じが違う。  

「うわっ、イイっ!」   

 学は思わず大きな声を上げた。一瞬『ヤバイ』と思ったが、バスルーム内の真奈美の態度に変化はない。学は一息ついて、また怒張を握った。   
 もう、遠慮はなかった。下半身から湧いて来る快感は、いつものオナニーとは明らかに違っていた。だから、とりあえず声だけは抑えて学は勢いよく分身をしごいた。熱い激流が突き上げてくると、学はまた目を閉じた。すでにしっかりと真奈美の裸体を焼き付けた学には、いまさらの映像は意味がなかった。   
 とにかく、早く放出したかった。真奈美がいつ出て来るか分からないためだ。しかし快感が高まって来るにつれ、そんな心配などどこかへ飛んで行ってしまった。学の全感覚が、快感達成のために作動していた。   
 あと少しだった。その瞬間、バスルームのドアが開いた。生まれたままの姿の真奈美が、そこにいた。  

「あ……」  
「……!」   

 学は放出寸前のペニスを握ったまま、真奈美を見上げていた。目の前にある少女の裸体が望んでいた物であったにもかかわらず、今の状況ではそれを喜べる訳はなかった。  

「あ、あの……」   

 学はなんとか取り繕おうと口を動かすのだが、言葉はなにも出てこない。真奈美もまっ裸のまま微動だにしない。  

「え、えーと、あのね……」  
「……それが、女の人の中に入るんですか?」  
「……え?」   

 学は聞き返した。  

「それが、私の中に入るんですね?」   

 確かに、目の前の少女はそう言った。  

「……それ、本気で言ってる?」   

 学は慎重に、慎重に質問した。  

「……はい」   

 真奈美は、恥ずかしそうにうなずいた。   
 学の思考が、停止した。

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