<第一話>

夏に少し早い季節の心地よい風が、木立の中に伸びる遊歩道に優しく吹いている。お気に入りの自転車のハンドルを持って、ゆっくりと押しながら歩いている少女の長い黒髪が、柔らかな風に美しくなびくのを、数歩後ろを歩く男はただぼんやりと眺めていた。

「ねえ、先生」

「……」

「先生ってば」

「……ん?」

「あーっ、またぼんやりしてましたね!」

「ゴメンゴメン」

「ダメだなぁ、いつもぼんやりするのは、先生の悪いクセですよ」

「ゴメン、本当にゴメン」

 振り返った少女の笑顔。周囲の美しい光景がぼやけてしまうほど、その笑顔は美しかった。

「でも、本当にいい風ですよね。この季節に別荘に来て、よかった」

 目を細め、その優しい風に身を任す。輝く黒髪、レースを縁にあしらった真白のワンピース、ここに来てからずっと履いている淡いピンクのスニーカー。身に纏っているものだけではなく、周囲の木々や足元に転がる小石さえ、その少女のために存在しているかのようだった。

「真奈美、ちゃん……」

「……うん?」

「あ、いや、何でもない」

「……ヘンな先生」

 少女はそんな男に無邪気な微笑を投げ掛けて、また再び前を向いて自転車を押し始める。

 

 

別荘は少女 坂上真奈美の両親が所有するものだ。まだ真夏には早い初夏、両親は真奈美を一人その別荘に連れて来て、すぐに東京へと戻った。事業のためである。そのため真奈美はこの別荘で、二日間一人で過ごさなければいけないはずだった。しかし現実には、別荘には真奈美ともう一人、春日学という男がいた。両親が二日別荘を空けることを知った真奈美が、学を電話で呼んだのである。

 

 

キテ、クレマスヨネ?

 

 

 先ほどの他愛ない会話を交わしてから、どれくらい時間が過ぎただろうか。風景は相変わらず美しい緑の並木道と、小石のしかれた遊歩道が続いていた。

 ふと学は、少女の足どりが先ほどまでと少し違うように見えた。歩幅は縮まり、さらによく見れば、何故か小刻みに震えているようだった。

「真奈美ちゃん、どうかしたの……?」

 学が問うと、真奈美はゆっくり後ろを振り返った。先ほどまでとはうって変わり、不安に支配された表情を学に向けて。

「先生……別荘まであと、どれくらいですか……?」

「え、えっと……十分ぐらいかな」

「十分……」

 真奈美の異変は明らかだった。学は真奈美に駆け寄り、暗い表情を心配そうに覗き込む。

「どうしたの真奈美ちゃん、どこか悪いの……?」

「……」

「気分が悪くなっちゃったとか……大丈夫かい?」

「……っこ」

 か細い声。学は聞き取れなかった。

「え、何……?」

 真奈美の顔が紅潮していく。

「……おしっこ、したい」

 学はようやく気づいた。顔の紅潮は、恥ずかしさから来るものだった。

「そういうことなんだ……でも、弱ったなあ。ここら辺には公衆トイレなんてないし。あと十分、我慢できないかい?」

 問いに、真奈美は無言で首を振る。どうやら、本当に我慢できないようだ。

「うーん……どうしたら……」

 学は腕を組んで真剣に考える。十二歳の女の子が恥ずかしくない状態でおしっこをさせる方法……。

「あ……ねえ真奈美ちゃん。確かこの林の奥に、水の綺麗な小川があったはずだよ。車で来る時にちらっと見えたから。そこで、いいかい?」

 学の提案に、真奈美は無言でうなずいた。もうそうするより仕方がないようだ。学は力の抜けた真奈美の体に肩を貸し、林の奥へと進んだ。

 

 

チャント、ミテイテクダサイネ……

 

 

 小川の土手でスニーカーとソックスを脱ぎ、真奈美はワンピースの裾をまくり上げた。学の目に真っ白な肌の脚が飛び込んで来る。それだけで学は、体の芯に鈍い熱を感じなければならない。

「先生。誰も来ないか、ちゃんと見ていて下さいね」

「ああ、分かってる」

 場所を見つけて少し安心したのか、真奈美の声は少し張りが戻っていた。土手に座る学には、少女の言葉どおり周囲をきょろきょろと見回す他はない。「僕なら見てていいの?」と、尋ねる勇気も、学にはない。

 目の前の真奈美が、裾をウエストのところでまとめ、素足でパチャパチャと小川の方へ入っていく。そして、二メートルほど先で立ち止まり、ちらっと学の方を見る。その瞬間、また真奈美の顔が真っ赤になる。

「こっち、見ないで……」

「……ああ」

 どうしようもなくて、学は視線を横にそらす。きっと今、真奈美ちゃんは、朝着けていた淡いブルーのショーツに手をかけて、下げて、しゃがんで、しゃがんで……。日差しにきらめく水面を眺めていても、学の妄想にはその水面にしゃがんで用を足す真奈美しか浮かんでこない。

「ふう」

 真奈美の小さな吐息が聞こえたが、まだ『こっちを見ていい』という許しを得ていない。学は熱を持ったままの全身を持て余しながら、真奈美から数メートル下の流れを見続けるしかなかった。

「ん……ふふっ」

 小さな笑い声と共に、パシャパシャと水の弾ける音が聞こえる。何を笑っているのか。もしかしたら、僕をずっと惑わせるあの幼くも挑発的な笑顔で、身じろぎできない僕のほうを見ているのかもしれない。学の心は掻き乱されるばかりだ。

「せーんせ」

 真奈美が、呼んだ。学は顔を向ける。そこには、小川に美しい両脚を浸して、こっちを見ている美少女がいた。初夏の日差しが反射する水面。裾の濡れた白いワンピース、薄地のそのワンピースにかすかに浮かぶ発育途上の曲線、真白い首筋、真奈美特有の小悪魔的微笑を形作るピンクの唇、黒目がちで少し端の上がった大きな瞳、見事な黒髪の、そこからはねた幾本かの後れ毛さえ、衝撃的なまでの美しさとなって学に直撃してきた。

「水がとっても冷たくて、すごく気持ちがいいですよ!」

「ああ、そう」

「ほら、先生もこっち来て。ほら、ほらっ!」

 真奈美が両手で水をすくい、学のほうに何度も浴びせ掛けてくる。冷たい水が、学の顔や首筋にかかる。

「……こらあっ」

「キャッ!」

 学が流水をかけ返したことで、二人は激しく水を掛け合い始める。両てのひらですくい、その冷たい水が互いの間を飛び交う。学のTシャツ、そして真奈美の真白いワンピースはすぐにびしょ濡れになっていく。

「あはは、それっ!」

「もう、やったなーっ!」

 互いの嬌声が、そう五分ほど続いただろうか。

学は、手を動かすのを止めた。相変わらず真奈美は学に水をかけ続けているが、学は、動かなかった。動けなかった。

白いワンピースは水に濡れ、しなやかに躍動し続ける躰にぴったりと張り付いている。透ける肌。ふくらむ肌。くねる肌。『小鹿のような』なんて形容詞、古臭いだろうか?

「ほら、先生っ!……どうしたんですか、ほら、ほらっ!」

 薄い生地は仕方がない。夏だ。暑いんだ。だからきっと……。

 でも、なんで、なんで……。

「……ま、な、み、ちゃ、ん……っ」

「……え?」

 真奈美も、手を止めた。

「どうして……」

「ん?」

「どうして……、いや、あの」

「なんですか先生、急に」

 小首を傾げた無邪気な笑顔。学はひとつ、唾を呑む。

「真奈美ちゃん……どうして、ノーブラ、なの?」

 目の前の美しくてたまらない少女の胸は、しっかりとびしょ濡れのブラウスの下で露わになっていた。ふくらみ、曲線、薄桃の突起。

 あんなに薄いワンピースの下、彼女はずっとノーブラだったのだろうか。朝別荘を出てから今まで、観光客の多い目抜き通りを散策した。気づかない自分も自分だが、彼女はずっと、その魅力的な乳房を無防備にさらしていたのだ。

「やだ、先生……エッチ!」

「いや、だから、その……」

「先生は、知ってるはずですよ……わたしまだ、ブラ着けたこと、ないし」

 真奈美が、八重歯を覗かせてにっこり微笑んだ。

 

 

センセイモ、シッテルハズデスヨ……

 

 

「でも、もう……」

 無邪気なままの笑顔と、急速に成熟していく肉体。それを併せ持つ美少女を見つめていると、学は何も言えなくなる。「でも、もう」に続く、「そんなに大きくなっているのに」、という言葉は、混乱する思考の中に埋没した。

「もう……なに?」

「あ、いや」

 真奈美の顔と白薄地のレース張りつくピンクの乳首。それを交互に見つめながら、学は自分の鼓動が早まっていくのを感じている。

「あーあ、びしょびしょだぁ……」

 学の困惑を知っているはずなのに、真奈美は微笑みながら視線をそらした。

「うーん、ちょっと気持ち悪いかな……ね、先生。気持ち悪いでしょ?」

また学を見つめる。初恋に戸惑う少年のように、学の心は掻き乱れる。

「あーあ、やっぱり気持ち悪い……もう、脱いじゃお!」

 子供っぽい声を上げたかと思うと真奈美は、そのまま胸元のボタンをはずす。純白のワンピースはみるみるうちにちっぽけな布切れと変化していく。

「……ふう」

 吐息さえ、まるで色があるように学の目に灼きつく。無論、それ以外の光景も、それ以上に学の目を激しく困惑させるものだった。

 水滴輝く長く美しい黒髪。

 首筋。きめ細やかな肌。

 ついさっき畳み掛けられるように心乱された、瑞々しくもたまらない色香を放つ胸。

 乳首。

 幼い曲線を残しながら、どんどん大人っぽくなっていくウエストライン。

 そして、

 そして、

 小さな布。

 腰のわずかな部分だけを覆う、小さな布。

 ワンピースより薄い生地が、やはり同じように水に濡れている。

 ワンピースと同じように、肌が張りつく、薄い生地。

 そこに見える、わずかな、生毛と、

 生毛と、セイモウト、セイモウト……。

 

 

「ふふ、うふふっ」

 ほぼ、生まれたままの姿をした少女が、ゆっくりと自分に近づいて来る。学は、身動きが取れない。身動きが、取れない。

「先生も、ほら、ね?」

「……っ」

 直視できぬほど美しい半裸体が、すぐ目の前に立った。黒髪から、シャンプーの匂いが香る。それすら、強烈な媚薬となって学の思考を霞ませる。

「先生も、気持ち悪い、でしょ……?」

 ほんの少し手を動かせば、その少女の裸に触れられる。まるで恋人同士が抱き合うような距離で、少女は十歳近く離れた男に躰を寄り添わせた。か細い指先が、濡れたシャツのボタンをひとつひとつ、ゆっくりと外していく。

「ほら、シャツ脱いで……」

 シャツは、彼女の手に渡った。真奈美は美しい手をひらめかせてそれを放り、シャツは空中を舞った後、小川の岸にはらりと落下した。

「Tシャツもほら、びしょびしょ……」

 母親が幼い子供をあやすような口調で、真奈美は学のTシャツを掴む。学は、それこそ幼子のような仕草でバンザイをして、真奈美が脱がすのに従う。

「フフッ、先生の肌、きれい……」

 同年代の男たちよりは少し華奢な学の上半身を、真奈美は無邪気に称えた。白い指先が学の表面を撫でる。撫で続ける。

「あ、あっ」

「フフッ……先生、かわいい。じゃあ、下も、脱ぎます……?」

 答えられるはずもなかった。真奈美の指は学の乳首を玩びながら、男の答えを待たずにベルトのバックルを残ったほうの指先でカチャ、カチャと外し始めている。

「真奈美、ちゃん……」

 呟きは、目線のすぐ下でゆるゆると動く美しい黒髪までしか届かなかった。少女は一回り歳の違う男を、まるで手のひらで玩ぶようにしている。

 少しだけ裾を濡らして、ズボンも先ほどのシャツと同じように小川の岸に着陸する。美しき少女の先導によって、二人の男女がたった一枚薄布を身に付けた姿で相対した。

「先生……」

「……」

「ねえ、触って……」

「だ、ダメだよ……っ」

 拒否はした。しかし、真奈美が自分の手を優しく取って瑞々しい胸に導くのを、学は嫌がったりしなかった。

「……ん」

 言い表せない感触の、肉の丘がそこにあった。少女が、小さく声を出したがそれはもちろん、拒否ではなく、悦びの音だった。

「ふ……んっ、んふ……」

 自分の右手が少女の白い手によってゆっくりと動かされ、柔らかい肌を滑るさまを、学は霞みがかったような視界で眺めている。はたと、視線を上げる。少しだけ開いた紅い唇。そして、しっかりと自分を見つめる、黒い瞳……。

「先生……」

 学の手を離した真奈美が、さらにその瑞々しい肢体を密着させてきた。きめ細やかな素肌が、幼さを残した下腹の柔肉が、そしてあの美しい乳房が自分にしっかりと触れる。

 

 

ホラ、ドキドキシテルデショウ……?

 

 

 自分の体温が急上昇していくのを感じるとともに、真奈美の素肌の奥にある心臓の鼓動が、はっきりと胸に感じられる。

「ほら、ドキドキしてるでしょう……?先生と抱きあっているとわたし、こんなにドキドキしてくるんですよ……」

 まるで心底から見透かすように、真奈美は自分の激しい鼓動のことを告白する。甘い囁きが頭の中で交差して、学の思考を霞みかけていく。

「ふふふっ……ねぇ、先生?」

「……っ」

 耳のすぐ下で、小悪魔の声がまた響く。

「先生の……すごい」

「……ああっ」

 なにがすごいのか、学は確認するまでもなかった。この瞬間、世界一美しいとも感じられる少女の裸に抱かれ、学は、どうしようもなく自分自身を固くさせていた。

「あ……っ」

 その固いものを真奈美が、握った。トランクスの上から、まるで羽が触れるような感触。しかし、そこから湧く鈍い痺れは神経を通じ全身を凌駕する。どうしようもない。どうしようもないほど、淫らな悦びだ。

「素敵……ほんとに、すてき」

 ゆるゆると動かしながら、真奈美は熱い吐息の混じった声で囁く。学はその少女の玩びに、なす術が無かった。こんな幼くいたいけな美少女が、自分のペニスをトランクスの上からしごき立てているのだ。

「ま、真奈美、ちゃん……っ」

 迫り来る放出感。情けない声で、学は呻いた。少女を抱きしめる力は強くなり、その結果ペニスは少女の手にさらに押し付けられる事となる。それでも少女は、離れない、離さない。

「んふふっ……せ、んせ、い」

「まな、み、ちゃん……っ」

 真奈美の指先が速度を増す。きっとトランクスの薄布は、学の透明な先洩れ液で濡れ始めているはずだ。きっと、真奈美も、それに、気がついている。

 

 

キス、シテ……

 

 

この少女は、自分に何を望んでいるのだろう。指先の動きは変わらない。このまま放出させて、その先に何をしようというのだろうか……?

「キス、して……」

 学は、ハッとした。囁きの先に、潤んだ瞳が見上げている。思考にふと浮かんだ微かな憂いなど全て吸い取ってしまうような、黒く潤んだ瞳。半開きの唇。

誘う、唇。

「……っ」

 頭を前に傾げて、真奈美の顔に触れる。触れ合う唇と唇。相手の体温がたまらなく熱いのを、互いが深く感じ合っている。

「ん、ふ……んっ」

「うんっ……ん、ちゅ……っ」

 十二歳と二十一歳の唇は、触れ合うだけでは済まなかった。舌と舌、それも少女の舌から積極的に、男の舌を絡め取る。

 頭痛に良く似た、しかし決して嫌悪を感じない重い感覚が、脳そして股間を繋いで全身に痺れを行き渡らせる。少女の柔らかい指先によって、白い樹液が噴き出すのは時間の問題だった。

 

 

「コラ君たち、何をやってるんだ!」

 百年の恋が醒めるような怒声が、学の背後に響き渡った。全ての快楽は瞬時に剥ぎ取られ、背徳を犯した罪だけが学を支配し始める。

「こんな場所で……一体何を考えているんだ!」

 ガサガサと、先ほど真奈美と二人でかき分けて来た茂みを乱暴に踏み入って来る足音。ほぼ同時に、真奈美の指先と唇が学から離れた。真奈美は凍りついた学をよそに、しっかりとした眼差しで神聖な場所への侵入者を睨みつけ始めた。

「おい、すぐに離れたまえ!こんな場所で、なんて破廉恥な」

 中年男のヒステリックな声が、学をどんどん追い込んでいく。真奈美と学の全ては、確かに破廉恥この上ないのだ。

「……おまわりさん、どういうつもりですか?」

「……何ぃ?」

 おまわりさん、と言う単語にさらに恐怖した学。しかしそれよりも、その『おまわりさん』に強い口調で言葉を発した真奈美に、学は戸惑った。

「どういうつもりとは何だ。君みたいな若い子が、こんな所で裸で……」

「こんな所って、夏に小川で遊んでいて、何がおかしいんですか?」

「何が……裸がいけないんだ、裸が!」

「え?水に入って遊ぶのに、おまわりさんは靴や服をつけたままなんですか?」

 先ほどまで学の唇を熱く吸っていた口から、次々と正論が溢れ出す。

「……なら何だ、その男は!その男も裸で、現に今君と抱き合っていたじゃないか!」

 学はその時、真奈美の横顔をちらりと見た。真奈美の瞳も、学を見ている。その瞳には、しっかりと力が込められていた。学はその力に押され、ゆっくり振り返る。怯えを見せては、相手に悟られる。

「何でしょうか?僕らが、何かおかしい事しましたか?」

「……この変態男め、ぬけぬけと。お前は今ここで、その女の子にいやらしい事をしようとしていただろう!」

「女の子って……妹のことですか?」

「何ぃ、妹だと?嘘をつけ!」

「ウソなんかじゃありませんよ。なあ、真奈美」

「うん。わたしたちは兄弟で近くの別荘に来ていて、ここでたまたま遊んでいたんですよ。それをおまわりさんが邪魔して」

「そうですよ。もしお疑いでしたら、実家に電話で確認しでもらっても結構ですよ。そうすれば、僕らが言っていることが間違っていないって分かるはずです」

 学は、嘘をつくのは嫌いである。しかし今は、根も葉もない嘘が次から次へと沸いて来る。何がその力になっているのか、学には、自分でもよくわからない。

「ううむ……」

 いかつい顔の巡査に、初めて少しの困惑が浮かんだ。しかし、学の心臓はまさに張り裂けんばかりだった。もしこの男が、今学の言った通り実家に連絡しようとしたならば……。

「……ともかく」

「はい?」

 真奈美の返事は、しかしやはりしっかりと力がこもっている。

「誤解を受けるような行為はやめなさい。ここいらは家族連れなんかが避暑に来るとこだ。さっきみたいなことは、あまり褒められたようなことじゃないぞ。分かったね?」

 混乱を収めようと、必死に理路整然とした論調で巡査は喋る。学は、真奈美がこの場を見事に押し切った事を悟った。

「はーい、分かりました」

「分かればいいんだ」

「すみませんでした。じゃあ、もう帰ります」

「そうすることだ」

 短い言葉でお茶を濁した巡査は、足早に二人がいる水辺から立ち去った。

「……もう!」

 真奈美の口調は、少し怒気を孕んでいた。

「せっかく、いいところだったのに。ね、先生?」

「あ、ああ……」

 正直、学は疲れ切ってしまった。こんな昼間から、幼い全裸の少女ときつく抱き合い、唇を吸い合う光景など、やはり尋常ではない。もし自分が他人のそんな行為を見たならば、やはり先程の男のように怒りを覚えるだろう。

「あーあ。もう帰りましょう、先生」

 目も眩むほどの肢体を翻させて、目の前を天使のような少女が消えた。学は、その天使の姿を追う。白い肌に残る水滴も気にせぬまま、真奈美は服を身に付けていく。

 

 

日差しに煽られて、学は幻覚に囚われる。

この水を切って、少女に抱きつく。

強く抱き、唇を強引に奪う。

あらん限りの力で、胸のふくらみを揉みしだく。

純白の薄布を剥ぎ取り、若草のわずかにもやった秘裂をまさぐる。

股間に猛ったままのペニスを、その秘裂に、秘裂に、ひれつに、ヒレツニ……。

 

 

 どこかで、蝉が鳴き始めた。学は、ハッと我に帰る。

「……先生、どうしました?」

 真奈美は、もう全ての服を着け終わって、学をあの純真無垢な笑顔で見つめていた。

「あ、いや、なんでもない……」

「ヘンな先生、うふふ……っ」

 真奈美はそう言ったまま、一人で草むらを遊歩道のほうへ歩き出した。

「あ、待って……」

 なぜか学は、その後ろ姿に永遠に置いていかれるような恐怖を覚え、すぐに自分の着衣へと駆けた。

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