『露わ・露わ・露わ』第1弾

魔法の靴
<第3話>


 ボーザを伴い、誰もいなくなった部屋に入ったあの女性は、迷うことなく部屋の隅へと歩み寄った。そしてカーテンをゆっくりと開ける。天井から伸びる、ロープに視線が固定した。

「ああ……」

 きっと、リューズと靴職人はこの上の隠し部屋にいるのだろう。目の前のひもを引けば、すぐにそれが分かるのに、なぜか躊躇われてならない。それもこれも、今胸に去来しているこの言いようのない悪寒のせいだ。

「……ボーザ、わたしについて来なさい。そして、何か異変が起こったならばすぐに城の者を呼んでくるのです。いいですね?」

 不安に彩られたその声に、ボーザはしっかりとうなずいた。

 手が震える。しかし、リューズのためには、このひもを引くしかなかった。

「う、んっ、ん……?」

 少女の閉じられていた瞼が、開こうとしていた。何者かに、躰を揺さぶられている。それも、外部からではなく躰の内側から。今までに感じたことのない動きに、まだどんよりと霞む頭を振って、リューズはゆっくりと目を開けた。

 月明かりの塔の隠し部屋、その天井。その間に、黒い人物。自分の躰の上で、小刻みに運動している、その男。しばらくして目が慣れると、その影があの靴職人であることが分かった。

「おや。お目覚めになられましたか、リューズ様」

 そう呼びかける、靴職人。よく見れば、男は裸だった。普段なら、気丈なリューズならばこの異常な状態に、すぐに上に乗る男を突き飛ばしていただろう。しかし、どこをどうやっても躰に力が入らない。全身が、どうしようもなく痺れているのだ。

「あ……っ」

 小さな叫びが、リューズの喉奥から洩れた。その時初めて、自分が男と同じように、裸であることに気がつく。

「い、やっ……」

 口から出る言葉にさえ、自分の意志がこもらない。暗闇の中ゆっくりと浮かび上がってくる光景。窓から入る夜風が、自分の肌に直に当たるのに、リューズが気づく。自分も、裸なのだ。

 ほんの少しだけ、躰が動いた。しかしすぐに、今まで感じたことのなかった感覚によって、動きはすぐに封じられた。脚と脚の間に、恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない場所に、何かが、入っている……!

「……リューズ様、お気に召しませんか?先ほどのマッサージと同じように、こうすると……」

 マジノが、気高き少女の体内に埋まる自分の分身をグッと押した。

「あう……っ!」

 小さな火花が全身で弾けて回った。未だ室内に漂う媚薬の効用に気づかぬままのリューズは、もはやその火花に翻弄されるしかなかった。

「ほおら、お気に召したでしょう。わたしのモノが姫様の中にある限り、このような素晴らしい感覚が味わえるのでございますよ……」

 男の口から発せられる呪文が、美しくもか弱き少女の肉体を惑わせていく。男が動くたびに、弾ける火花は大きくなる。自分がどんな場所で、どんな状態に置かれているのか、どんなふうに辱められているのか……リューズはまるで理解できてはいなかった。

「な、なにが……どう、して?あく、うっ!」

 強引に揺り動かされる躰。もつれる唇。全てが、リューズの経験したことのないものだ。そして何より、自分の躰に捩じ込まれている異物から沸き出でてくる奇妙な感覚が、あの弾け続ける火花が、世俗知らずの美王女の思考を際限なくかき乱していた。

「あう、やめ……やめ、なさ……いっ!」

 かすかに搾り出された抵抗の声も、男が繰り出す凶悪な躍動によってすぐに潰える。男に蹂躙されていることだけは、やっと分かってきた。しかし、逃れられないのだ。男に対する非難とは全く違う、躰が浮き上がっていくような、感覚。

「もうすぐでございます、リューズ様。もうすぐ、リューズ様の全てのサイズが分かる……」

 自分の意識とは裏腹に、体内に埋没する男の異物を蠢動する粘膜が柔らかく締め上げる。その度にリューズの頭の中は、真っ白な闇に埋もれていくのだ。

「あっ、こんな……っ、こんな、あっ!ひ……いいーっ!」

 もはや自分の唇がどんな声を発しているのか、無垢な姫様には分からなかった。今はただ切なげに首を振り、男の突きに耐え忍ぶだけだった。

「あ、く……うっ、あっ、あっ、あ……は、あんっ!」

 美しい喉元が、真っ白な肌を強調させて最大限に反り返った。瞬間、マジノの猛った兇器に、熱い淫汁が浴びせ掛けられる。リューズはまた、禍々しいペニスによって、絶頂したのだ。

「はあ……、あっ、ふ、う……っ」

「……リューズ様、気をやられたのでございますね。そうです、心から気を解き放つことによって、躰が本来の姿に戻るのです」

「……っ」

 躰ごと浚われてしまうようなエクスタシーの余韻から、リューズの耳にはもう何も聞こえてはいない。代わりにマジノの耳には、この塔の仕掛けがまた再び動き出す音を聞いていた。

「リューズ様、抜きますよ」

「あ……っ」

 にゅるんと、未だ放出を終えていないペニスがわずかな鮮血を纏わせ抜き出された。そのペニスはいななきを続けながら、先ほどリューズと共に登ってきた梯子の方を向いた。きっと誰かが、この秘密の部屋へ上がって来る。マジノは笑む。堕落した魂は、数が多いほど価値が高い……。

 縄梯子を何段か上り、あの女性は塔の部屋を恐る恐る見回してみる。漆黒の闇に包まれた部屋に未だ目が慣れてはいない。

歩を2、3進めやがて、薄い月光の中に何かが見えてきた。足の、指……?

 首を少し上げながら、闇の先にある人物を探る。脛、膝、視線がゆっくり上がるにつれ、怖れと不安が澱のように心に蟠っていく。そして、女に目に心凍る物体が目に入った。

「ひ……っ」

 見たこともない兇器。その女性には男性経験が数人あった。そして、そのいくつかの物と比べても、いや比べる余地さえないほど、その威容は違っていた。

「これはこれは……皇后陛下もおいででいらっしゃいましたか」

 その男は、自分をすぐにこの国の王の后だと看破した。全身に震えが走る。

「皇后陛下さまも我が手に入れることが出来るとなれば、あちらに帰って箔がつくというものです……」

 この暗い塔の部屋で女、いや皇后ベリーチェははっきりと見た。男の瞳が、この自分を凝視する瞳が、暗く異様な光で輝いていたのを。その光を見ていると、どうしようもなく力が抜けていく。縄梯子の後ろに続くボーザが身体を揺り動かしても、その脱力感は回復する事は無い。

「皇后陛下、リューズ様のお姿を見なくてよろしいのですか?さあ……そのまま上へ、さあ……」

 震える手に、禍々しい力がこもる。男に言われたとおり、ベリーチェは縄梯子をゆっくりと上る。近づきたくもない、あの兇器にさらに近づく。

「ああ……っ!」

 部屋に上りきったベリーチェは、男の背後に娘の姿を見た。その娘が幼き頃、優しく抱いてあげた質素なベッドの上で、美しく育ったはずのリューズが、裸に剥かれているのを。

「ひ、ひどい……っ」

 ベリーチェの悲痛な叫びを聞き、ボーザが暗い部屋に顔を出す。そこにあったのは、裸の男と、大きな悲しみに震える皇后陛下、そしてベッドに力なく横たわる美少女の姿だった。

「……またまた客人だ。お前はリューズ様に仕えているボーザとか言ったな」

 ボーザは男が何を言おうとも、すぐに飛び掛るつもりであった。しかし、それが出来なかった。毛むくじゃらの拳を男の顔面に叩き込む寸前、男の瞳が確かに光り、そして全身が硬直してしまったのだ。そして、ベリーチェもまた同じように全身の自由を奪われてしまった。

「北にある森にずっと昔から住んでいた、猟師の一族……親は幼き頃に流行り病で死に、ずっと一人で生きてきた……そうだな?」

 なぜ、何故この男はそのような事を知っている?硬直したままの右腕の事さえ忘れるほど、ボーザは恐れおののいていた。

「さて皇后陛下……このボーザという男が、ずっと心に隠し持っている劣情があるのをご存知ですか」

 マジノの声に、ボーザはごくりと唾を呑み、ベリーチェは唯一動く眼球をボーザに向けた。

「この男は毎日毎日妄想していたのです……目の前で無邪気に振舞うある少女を、想像の中で淫らに汚すことを……そうだな。そうだろう?ボーザ」

 驚愕の中で凝視するベリーチェの視線に、ボーザは必死で首を振った。しかしその表情には、どうしようもない狼狽の色が見て取れた。

「……しかし、何度もその機会があったはずなのに、お前には実際にその罪を犯すことが出来なかった。なぜならお前は、その少女を激しく犯す術がなかったからだ。そう、コレを事故で無くしたせいでな……」

 マジノは、これ見よがしに自分の股間で嘶き続けているペニスを指し示す。

「かわいそうになボーザ、男として最高の楽しみを失ってしまうとはな。しかもその事故というのが滑稽過ぎる。そうだな、ボーザ?」

 ボーザは唸った。目の前の男は確かに、自分一人だけしか知らないはずの、誰にも触れられたくないあの事故の事を知っているようなのだ。

「どうです皇后陛下。その話を聞いてみたいと思いになりませんか……?」

 その声のトーンには、なにやら猥褻な響きが含まれていた。ベリーチェは予感に従い首を振る。

「そうですか……どうしても聞きたいとおっしゃる。皇后陛下はこのような下賎な話題がお好きでいらっしゃるようだ」

「違う……っ!」

「それではお教えいたしましょう。ここにいるボーザが、どうして性器を失ったか……この男、深い森の中で毎日の日課としていたことがあるのです。そう、それは……飼っている牝ロバと交わること」

 したくもない想像を、ベリーチェは思わずしてしまう。すぐ後ろにいるボーザが、愚鈍な牝ロバに後ろからのしかかっている光景を……。

「生まれた時から激しい性欲を持っていたこの男は、毎日毎日その畜生を相手に性の処理を行っていたのです。しかしある日、その楽しみに思わぬ邪魔が入った……」

 ボーザは男の口から出で続ける言葉に、ただ威嚇の唸り声を上げることしかできなかった。

「その邪魔とは、誰あろうその牝ロバの番いの牡馬。愛する妻が犯され続けるのに嫉妬して、ついにこの男の性器に噛み付いた……」

 予想した以上に下品な内容だった。ベリーチェは自分の顔が紅潮していくのを感じた。

「くっくっく……やはり皇后陛下はこのような話がお好きなようだ。さて……性欲は人並み以上、しかし性器を失いそれを発散する術がない……皇后陛下、あなた方はそんな男をこのか弱きリューズ様のそばにずっと置いていたわけです。そして、この男は今も……今もその歪んだ欲望を抱き続けているのです」

 怒りと戸惑いを内封させた表情のベリーチェから視線を離し、マジノはボーザを見つめる。

「さてボーザ……わたしは同じ男として、お前がどうしようもなく不憫に思える。男が女を抱かずして、何の楽しみがあろうか。そうであろう……?だからわたしは、お前と取引がしたい」

「ぐ、ぐう……」

「お前がどうしても手に入れられないものを、わたしがお前に差し出してやろう。わたしは職人だ。商品は、最高の状態で渡すことができる……どうだ?」

「ぐ、う……」

 ただの靴職人であるはずのその男が、ゆっくりと自分に近づいて来る。ボーザは何かに縛られているように身動きが取れないまま、その男の囁きを聞き続けなければならない。

「さあ誓え。退屈この上ない今の生活を捨て、自ら想い描く最高の悦びを手に入れたいと強く願うのだ……」

 男の瞳が、また妖しく輝いた。その光を見つめているだけで、自意識や道徳が霧散していくかのようだ。

「お前は強い。美しくもか弱き少女の躰を、その逞しい肉体で淫らに抉じ開けることができるのだ。誓え……最愛の姫君が、お前のためにベッドの上で待っているぞ……」

 目の前に立った靴職人が、スッと側に体をずらして手を部屋の奥に差し出した。その手の先に、粗末なベッドに横たわるペールオレンジの少女がいた。先ほどこの靴職人が暴露したように、傍にいて空想の中で汚し尽くした、少女の裸がそこに存在しているのだ。

「ぐ、うう……っ」

 ボーザの唾を呑み込む音を聞き、ベリーチェは振り返る。そして、そこには昨日までの、いやつい先程までのボーザはいなかった。その代わりに、側に立っている男と同じ目の色で、ベッドの上のリューズを冷たく見つめる、一人の汚らしい男がいただけだった。

「ボ、ボーザ……」

 ベリーチェはボーザを押し止めようと、動かぬ身体で唯一動く瞳で訴えようとした。しかしもはや、その主君の訴えは、獣欲に取りつかれた男には届かなかった。

「う、う……」

 先程まで全く動かなかった身体に、確かに力がこもった。ボーザはその力をいかがわしい侵入者には向けず、リューズが待つ粗末なベッドへと歩む足に込めた。

「いいぞボーザ、その調子だ。ほら、もう少し。お前の花嫁様までもう少しだ……」

「やめなさい、ボーザっ!」

 ベリーチェの悲痛な叫びが狭く暗い部屋に響き渡る。が、ボーザはそれに反応することなく、ついにベッドの側で、処女を喪失したばかりのリューズを見下ろせる場所まで来た。

 ボーザは、また一つ息を呑んだ。妄想の中の姿より、現実のリューズの裸体は艶やかで美しかった。

 いつもなら綺麗に束ねられている金髪は、激しい運動によって乱れ額の汗に張りついていた。いつも側で眺めていた透き通るように真っ白な肌は、血の巡りによってほのかに赤く染まっている。そして、いつもなら絶対に眺めることの許されない少女の花園は、侵入者によって純潔を散らされ、無残に割り裂かれていた。しかしボーザには、その様子が何よりも、美しく思えた。清楚で可憐で気高い少女が、男によって荒々しく犯し汚されている。ボーザがこの姫に仕えてからずっと妄想し、しかし心の奥底にひた隠しにして来た淫らな光景が、現実に目の前に広がっているのだ。

「ボーザ、リューズに触れることは許しません!ボーザ、やめなさいボーザっ!」

「……」

 自分の声に耳も貸さず、ボーザの頭が娘の脚と脚のあいだに下りていくのを、ベリーチェは絶望の瞳で眺めるしかなかった。ボーザは、リューズのあの部分を、舐める気なのだ。全身を襲う悪寒は、さらに増大する。

「さあ舐めろボーザ、吸えボーザ……!姫様のいやらしい花園が、お前の舌を今か今かと待ちわびているぞ」

 ボーザはその言葉に従った。もちろん、その言葉がなくてもボーザはそうしただろう。

「ふ……んっ」

 醜猥な男の舌が触れた瞬間、リューズの唇から小さな吐息が一つ洩れた。喘ぎというには遠い声だったが、しかしボーザはそれに心の中で狂喜し、ベリーチェは恐怖した。

「皇后陛下、お聞きになりましたか。姫君リューズ様は幼いながらも醜きボーザの舌によって、淫らな喘ぎを洩らしましたよ。たった今、このモノで処女を散らして差し上げたばかりなのに……もしかして王様の血縁は、好色な方々揃いなのではございませんか?リューズ様しかり、バレッタ様しかり……」

「バ、バレッタ!?」

「くくっ……バレッタ様も同じように、わたしの靴だけでなく、コレもいたく気に入って頂いたようで。最後には毎夜寝室で、バレッタ様はコレにむしゃぶりついておられました……」

「お、おのれ……っ」

 キッとした怒りの表情をべリーチェは男に向ける。

「さあて、皇后陛下はどうなのですか……?バレッタ様やリューズ様のように、肉の悦びに躰を乱れさせる淫乱な女性なのですか?」

「バカなっ!」

 ベリーチェは王と婚姻した際『王国の紅玉』と民より称えられた美貌を凶悪な陵辱者に向けた。無論男はそれに怯むことなく、逆にいまだ力の入らぬまま立ち尽くすベリーチェのほうへとゆっくり歩み寄って来る。

「……っ!」

 心の底から寒くなるような冷笑を浮かべた男の唇が、自分へと近づいて来た。ベリーチェはそれから逃れるため必死に顔を背け続けたが、男はその美貌をしっかりと手で掴み、紅に縁取られた唇を強引に奪った。ちゅくちゅくと強く吸われ、ベリーチェの全身は嫌悪感で一杯に満たされた。

「……ふうむ」

 十何秒の歪んだ口づけの後、マジノはベリーチェの唇から離れた。

「さすが皇后陛下……そこにいる愚かなボーザのように、心の底をすぐに読ませてはくれませぬな。しかし……」

「……」

「確かにあなたにも、心の底に押し隠した、猥褻な妄想があるようだ……」

「何も……何もありませんっ」

 ベリーチェは、怖れに震えた声で男に抗った。

「……まあいい。いずれそれも分かることでしょう。あなたと淫らな時間を共有することで、心の奥底の素晴らしい妄想を、わたしが現実に変えてご覧に入れましょう……」

「そ、そんなこと……できるものですかっ」

「くくくっ……まだわたしの力が理解できていないとおっしゃる。いいでしょう、皇后陛下に、素晴らしいものをお見せいたしましょう」

 男はまたあの冷たい微笑を浮かべた。そのまま、ベッドの上で淫猥な単純作業に没頭しているボーザの側に歩み寄った。

「ん、ぐう……ん、んむう……」

「ん、ふ……んふ、んっ」

 醜い舌を目一杯に伸ばし、美姫の処女血や愛蜜を口の中に残らず吸い取ろうとしているボーザ。未だ淫夢に支配され、誰が花園を唾液で汚しているかなど及びもつかないであろうリューズ。美しいものと醜いものが、舌の先と肉の襞口だけで繋がっている。

「よーしボーザ、お前の裏切りはわたしにも皇后陛下にとっても喜ばしいことになるだろう……そんなお前に、わたしから褒美をやろう。さっき言ったろう?『商品は、最高の状態で渡すことができる』とな……」

 果たして、マジノの声はボーザに届いていただろうか。醜猥な男は変わらず憧れの少女の幼き淫裂を舐め続けている。

「それでいい、それでいい……」

 マジノはその光景にほくそ笑んだ。そして、ベリーチェのほうを見つめ、懐からあの小さなナイフを取り出した。その鈍い輝きは、身動き取れぬベリーチェの心を奥底から寒からしめる。

 ナイフの切っ先は、舌先愛撫に熱中するボーザへと向けられた。刹那、漆黒の闇に刃が煌き、グッと力を込められた刃先はボーザの股間に差し込まれた。

「ひっ!」

「グ……っ!」

「あ……っ」

 ベリーチェの低い悲鳴が響く中、その痛みにボーザは思わず立ち上がった。舌が離れたのを霞みの中で感じ、リューズが溜息を洩らした。

 幸せを断ち切られ、その上股間の裂傷の痛みを感じ、ボーザは怒りに満ちた視線をマジノに向けた。

「ふふん、いい目だ。さてボーザ……何も変わったことは、ないか?」

 マジノは自信一杯の表情で、仁王立ちのボーザに問いかける。ボーザは、顧みた。ナイフによって裂かれた傷。鼓動のたびに流れ出る血と共に感じる疝痛とは別に、躰の奥底から沸いてくるような奇妙な感覚がある。それは次第に強くなり、ついには痛みを凌駕して強烈な衝撃となって股間を震わせていた。

「ボーザ、リューズ様を犯すためにお前には何が足りない?分かるな……わたしは主君を裏切ったお前の勇気に感動して、褒美にお前に足りないものを与えてやろうというのだ」

 言うが早いか、ボーザはおぞましい咆哮を部屋中にこだまさせた。ベリーチェは耳を塞ごうとしたが、手を動かすこと叶わず代わりに、叫びと共にボーザの肉体に起こった変化を否が応にも見ることとなった。

「ひっ……!」

 ベリーチェはゾッとした。肉の裂け目から、蠢きながら不気味な生物が顔を出すように現れたからだ。その首先が猛った男性器の先端だと気づいても、べリーチェの恐怖が収まるわけがなかった。

 自らの血液にまみれ、それはそこに甦った。ボーザが自らの性欲のせいで失い、それから何よりも欲しいと願いつづけたものが、今再び自分の股間で激しく嘶いているのだ。

「どうだ、気に入ったか?それがあれば、リューズ様の美しい肉体を思う存分貪ることができるだろう……さあ犯れ、お前が望む通り強く、激しく犯してやるがいい……!」

 ボーザの瞳は、完全に獣のそれに変わっていた。再びリューズの眠るベッドに近寄ると、今度は本物の幸せを噛みしめるようにゆっくりとした動作で、リューズの真白い両脚をもち、拡げる。

「ボーザっ……!ああ、リューズっ!」

 必死に叫び続けるベリーチェ。何度叫んでも無駄だと分かっていても、国の母として、そしてリューズの母として叫ばずにはいられなかった。

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