よりにもよって、こんな場所で。こんな時に。

「ああ、かあさん」
「やめ、やめなさい、利哉」


 強い力で抱きしめられているから、その声が熱いのか。それとも。

「やめないよ。かあさんと今、ここでしたい」
「隣の部屋には、おじさんたちも、いるのよ?」

 酔いを含んだ喧騒が、確かに襖一枚隔てた場所から。しかし、乳房や腹肉をまさぐる手のひらは、ためらうそぶりさえ見せず、そのまま。

 
 
「関係、ない。かあさんとしたい。おじさんたちが邪魔したって、僕は、するよ」
「ああ、そんなっ」


 憂いの瞳が、背後の息子にではなく、壁際に置かれたモノクロームの写真に。

「ダメよ利哉。父さんが、見てる、わ」
「見せてあげようよ。僕ら母子は、父さんが死んだあとでも、こんなに仲良しだって」


 右手が、布の上からの感触に飽き、喪服の裾を探り。突然、生々しく感じられる、体温。

「あっ、だ、め。お願いだから、みんなが帰ったら、してあげる、からっ」

 かすれる、言葉。母親が、息子に懇願する、言葉。

「我慢、できないよ。昨日もしなかったし。それまでは毎日してたのに」

 そう、毎日。突然訪れた最愛の者との別れに、恐ろしいほどの寂しさを感じた、あの日から。

「かあさんも、ほんとはしたいんでしょ?あの時は気づかなかったけど、父さんとも毎日してたもんね。僕、毎晩変な声を聞いてて、ちょっと怖かったんだよ?」

 男は女を貫き、女は男を包んだ。夫婦である以上障壁は存在せず、本能の疼きに従い幼い息子のすぐ隣でも、毎晩。

「だから、僕が父さんの代わりに、毎日してあげるんだ」

 中指と人差し指は、ショーツの中心を捉え。浮かんだほんの少しの歪みを、緩く、緩く。

「お願い、そんな事言わずに、今は、我慢してっ」

 そんな声も、熱さにまみれ、色に濡れ。息子に囁かれている事が、事実であると認めざるを得ず。

 
 
「さ、かあさん。もう、しよ?」
「ああ、利哉っ」


 軽めに押された女の躰は、茶卓に縋り。戸惑い潤んだ視線で振り返ると、支配者然と直立する、若々しく逞しい男のシルエット。

「後ろからが好きだからね。かあさんは」
「利哉、だ、めっ」
「いやだ、する」


 伸びてくる腕。抗う母の姿を楽しむような、口元に浮かぶ小さな笑み。

「あ、あっ!」

 左足を掴む息子の手。自分でも驚くほどの不意の大きな声に慌てて口をつぐむ母と、そのまま白い脚を差し上げる息子。男。

「ああ、かあさんのにおいだ。かあさんが感じ始めてる、におい。ふふふっ」

 紅潮する頬。淫らな自分をあからさまにする、まだ高いトーンの声。

 
 
「ほら、やっぱり。ぬ・れ・て・る・よ?」

 中心をつつく、指先。そこが、言われたとおり濡れていると知っているからこそ、母の心の疼きは。

「あっ、いっ」

 感じてはいけない、声を出してはいけないという葛藤より、もどかしさを感じ始めた、下半身。

「じゃあ、脱がすよ」
「だ、めぇ、とし、やっ」


 しかし脚をこわばらせるでもなく、蹴り返すわけでもなく、ショーツが形を失いながら太ももを通過するのに任せて。

「あ、あ、あっ」

 触れた空気が冷たく感じるのは、やはりそこが潤っていたから。

「ふふふっ。かあさん、きれいだよ」

 恥らう顔か。染まり始めた肌か。上ずる声か。それとも、目標とすべき場所が、きれいなのか。

「そんなこと、いわないで」
「褒めてるんだよ。父さんが毎晩したがってたわけだね」


 無理やりに思い出させるような、口ぶり。
 
 毎晩、した。狂ったように、愛し合った。しかし突然、夫は逝った。
 病室のベッドの上で静かに眠った夫に縋り、号泣し、神を呪った。
 慌ただしい数日間。しかし悲しみから逃れる事はできなかった。
 そんな日々が過ぎ、ふと感じた、疼き。
 誰かに満たされたい。しかし、満たされない。刹那、そこには母と子二人しかいなかった。
 面影に惑ってしまったのか。母は、子を、抱き、吸い、包み、締め、啜った。
 それは、ただ一度の罪であるはずだったのだ。

 
 
 しかし。しかし。

「触らなくても、準備ができてるんだ。かあさんって、いんらん、だね」
「あ、ああっ!」


 嘲り?確かめる間も与えられない母の瞳に映る、息子の手の動き。
 明るい部屋で、隣室に一周忌を悼む親戚が集うこの場所で、露わになる息子の、もの。

「ああ、利哉ぁ」

 母の、吐息。それ、に溺れて罪を繰り返したという、実感。

「いれるよ。いいでしょ?」
「ああっ、とし、やぁっ」


 抗う事も、せずに。尻に背後から迫る息子の逞しいものを、見つめ、待ちわびて。

「あ、あ、ひ、いっ」

 触れた。

「ふふふっ。声、出すの?」
「ん、んくっ」


 漏れる声を隠すように必死に唇をつぐむ。しかし、息子はますます存在感を増し、その固い唇も、紅く染まって。

 
 
「ああっ、いいよ。かあさんの中、いついれても、最高だ」
「くうっ、とし、やっ。あふ、んふっ」

 粘膜を、こすり上げながら進む、もの。閉じた唇は、すぐに。

「ほら、やっぱり気持ちいいんでしょ?僕のちんちん、気持ちいいんだよね?」
「あ、い、やっ。だめ、あふっ、あ、い、いいっ」


 漏れる声は言葉を紡げずに。しかし、それこそが、母の心を如実に。

「ほおら、はいった。かあさんの大好きな、ちんちん」
「……とし、やっ」


 うずまり切った感覚を味わう男。その男を、窮屈な首の曲げ方で見つめる、女。
 合図。

「ひ、いんっ!」

 声は、しっかりと響き。隣室の者たちが素面なら、その声は間違いなくそこに。

「ああっ。動かすと、最高。あったかくて、締め付けて。だから、もっと動くよ」
「ひっ、くっ、あ、ふうんっ!」


 対して息子は、上ずっていても決して大きくはない声。イニシアチブのありかがはっきりと分かる、余裕の口調。

「ねえ、かあさん」
「あ、ひ、あいっ」


 激しく。

「父さんの最後の言葉、知ってる?」
「ひい、ひい、んっ」


 強く。

「『お前が、かあさんを、慰めてやるんだぞ』だったんだ」
「んは、ああ、あひいっ」


 熱く。

「それにまだ、続きがあってね」
「あひっ、んひい、いいっ」


 鋭く。

「『お前で手が足りないようなら、みんなと一緒に』って、ね」
「あ、ひひっ、いいいっんっ!」

 
 

 限界。声は、ついに。

 襖の開く音。喧騒。静寂。再びの喧騒。

『ふふふっ』

 息子の笑い声。いや、もしかしたら、夫の、笑い声。



終わり

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