<第2話>
突然の筋肉の緊張に、莉都子の判断力は追いつくことができなかった。強い圧力と共に、前のめりに崩れゆく体勢で莉都子が見たものは、恐ろしい形相で自分の躰を押し倒す義弟の姿だった。
「……っ!」
声を上げようにも次の刹那、自分の躰右半分は強い衝撃を伴ってキッチンのフローリングに叩きつけられた。さらにその痛みを怒りに変える間もなく、男の強い両腕によって両肩を押し付けられ、天井を否が応にも見せられる。
天井と自分の間にあるもの。黒い影。その影から、ポツリと何かが1滴落ちた。鼻のすぐそばに滴ったその液体から、濃い鉄の匂いがした。血の、匂い。
「痛えよ、義姉さん……」
呟いた言葉には、その内容とは裏腹に少しの悦びが含まれていた。男は、美しい女を自らの力で組み敷いたのだ。
そして、その男の歪んだ悦びを、惨めに組み敷かれた女は、まさに直感的に悟った。そして、その自らが置かれている恐るべき状況に、戦慄した。
「さあて……」
慄く義姉をさらに逆撫でするように、小ばかにするような声で呟き始めた、晃司。
「どうして欲しい?ヘッヘッヘ」
「なにを、言ってるの……」
両肩が痛い。だがそれ以上に、この異常な状況に激しく脈動する心臓が痛い。
「まずは、甘い口づけといこうか……」
にやけた、しかし恐ろしいまでに冷たい笑顔が自分の顔に近づいて来た。莉都子は目を固く閉じ必至に顔を背け続けたが、躰の上で主導権を握る男から逃れられるはずはなかった。
「う、うぐっ!」
凌辱者の唇が、莉都子の紅唇に触れた。いや触れたなどという生易しい物ではなく、そこに存在する全ての弾力を奪うかのように強く吸う。
そして当たり前のように、晃司の舌は義姉の口内に侵入しようとする。それが歯によって頑なに阻まれると、舌は蛇の頭のように唇裏を這いずり、唇はさらに強く唇たぶに食いつく。
「む、ふう……んっ!」
必死に閉じる口ではなく、整った鼻から洩れる息が、たまらなく乱れる。それを聞いている男には、やはりそれがたまらない。
「ヘッヘ……やっぱ他の女とは違うぜ、あんた」
口を離し、しかしやはり美貌のすぐ目の前で囁く男の顔を、莉都子はわずかに開けた瞳で見つめる。その瞳には、恐怖しか宿っていなかっただろう。そう、まだ今は……。
「おっと、顔が汚れてるぜ……」
男の舌が、また伸びる。
「ひっ……!」
その舌先は、先ほど鼻横に落ちた自らの血滴を、ゆっくりと舐めとった。ゆっくりと。
「ほうら、綺麗になったぜ。ヘッヘッヘ……」
恐怖に歪む、美女の横顔。晃司の興奮は極限に達しようとしていた。
正直、晃司は義姉をレイプするつもりだ。このまま無理矢理に着衣を剥き、欲望のままに凌辱するのが一番早い方法だろう。しかし、それでは何か物足りない。溜まった性欲も、家を失った悔しさも、兄と自分との決定的な格差さえも満たしてしまうような、何か。
「なあ、義姉さんよ……」
「っ……?」
震え青ざめる顔を、ゆっくりとこちらに向ける義姉。やべえ、こりゃあどうしようもなく上玉な女だぜ……。
「俺が今から、何をすると思うよ……?」
「……知らないわ」
「つれないねえ……決まってるじゃねえか。あんたを頂くのさ」
「!」
衝撃的な言葉に、莉都子の心臓は止まりそうになる。
「でもな、俺も兄貴の女房にそんなことするのは、さすがに気が引けてんだぜ……だからさあ、交換条件といかねえか?」
「条、件……?」
返事をしたことが、莉都子にとって正しかったのかどうか。ともかくも、女は男の次の言葉を待った。
「……あんたを、縛りてえのさ。裸のあんたを、さっきの写真の女みたいによ」
「そんなこと……」
「出来ねえか?じゃあ簡単だ……このまま服ひっぺがして、無理矢理あんたのマ○コに俺のをブチこむだけ……」
「い、いやっ」
「……じゃあ、縛らせてくれよ。その姿を目に焼き付けりゃ、俺は満足さ。それ以上のことは絶対しねぇ。な、どっちが得だよ?義姉さん」
女の動きが止まる。晃司は自分の妄想が現実になりつつあることを悟り、口の端で、笑った。
右腕はたわわな双胸のすぐ下に、左手は臍から両脚の間に。衣服を脱ぎ下着姿のみとなった莉都子は、必死に見られたくない場所を隠そうとしていた。
「そんなに、見ないで」
「いいじゃねえか、今更。へえ……結構スケベな下着つけてるんだな」
「ああ……っ」
ソファに腰掛け、笑いを浮かべる義弟。その2メートル先で、ブラジャーとショーツのみの姿になった兄嫁。今身に着けている、白いブラウスで透けないための濃いチョコレートカラーの下着も、男にそう言われれば自分の白い肌とのコントラストが艶めかしく感じられてならない。
「晃司さん、これで……許して下さらないかしら」
「ああ、下着姿でってことか?」
「ええ……やっぱり、こんなこといけないわ」
「ヘヘッ」
晃司が予告なしにソファから立ち上がる。その圧力だけで、莉都子の全身がビクッとこわばる。
「なあ、分かるだろ……レイプはしねえ、裸だけ見せろ。それだけのことじゃねえか」
またゆっくりとソファに座りなおし、晃司が言う。
「ああ……従うしか、ないのね……」
観念のため息をひとつ吐き、莉都子は両腕に込めていた力を解いた。両手の面積だけ露わになっただけなのに、莉都子の全身は羞恥に煽られ火照りはじめる。
「さあどっちから脱ぐんだ。上か?下か?……なんなら、俺が脱がしてやろうか?」
「自分で……脱ぎます」
「そうこなくっちゃ」
背中に回し、ホックに触れた自分の指先がどうしようもなく震えている。しかし目の前の男は、自分がわずかでも躊躇したら、予告どおり飛び掛ってくるだろう。信用に値しない男の約束に縋り、莉都子の指先はホックを弾いた。
「……っ」
カップ数の大きいそのブラジャーでさえ窮屈であったかのように、乳房は戒めを解かれポロッと前方に落ちる。義弟の鋭い視線から逃れるように、莉都子はすぐに両手のひらでその豊かな乳房を覆い隠した。だが。
「おいっ!」
「ひ……っ!」
思わぬ怒声に、莉都子の全身は恐怖する。
「裸見せてくれって頼んでるんだ。今更セミヌードなんかじゃ満足できねえんだよ……ははあ、義姉さんもしかして、俺を焦らして無理矢理ヤラれるのを望んでんのか?」
「そんな……」
「そっかあ、なんてったって義姉さんは淫乱マゾ女だもんな。じゃあ仕方がねえ……お望み通りにしてやるか」
冷笑を浮かべながら、晃司がまたソファから立ち上がろうとした。淫乱だとかマゾだとか嘲られた怒りよりもやはり、夫の弟に強姦される恐怖のほうが、今は勝った。
「脱ぐ、から……やめて」
「ヘッ。まったく、素直じゃねえなあ……じゃあ、再開しなよ」
唇をぎゅっと噛み、莉都子は両手をゆっくりと胸から離していった。
次に聞こえた音は、躰の中から聞こえてくる自分の激しい鼓動と、義弟が吹いた下卑た口笛の音。
「すげえな……あんた、思った以上にスケベな躰してるぜ」
素晴らしい肉感の乳房、透きとおるような肌の白さ、その中央に存在する少し大きめの乳輪、頂上に息づく乳首。
晃司のように下品な物言いでなくとも、男が見れば誰でも美しいと称えるであろう、莉都子のバスト。
「もともと大きかったのか?それとも、兄貴に揉まれまくってでかくなっちまったのか?」
「そんなこと、ない……夫のことは、言わないで」
こめかみのあたりが脈動でズキズキと疼くほど、自らの胸を義弟の視線に晒す恥辱は大きかった。何度も唾を飲むが、喉の渇きはまるで治まらない。
「まあどっちでもいいさ。なんにしろ縛りがいのありそうなおっぱいってことさ……」
「ああ……やっぱり、縛るのね」
「あたりまえだろ。そうでなきゃあんたの運命決まったようなもんだからな。さあ、もう一枚残ってるぜ。どうするんだ?」
鈍い力のこもる四肢と鋭い眼光。全身から歪み切った威圧感を漂わせて、晃司は乳を露わにした兄の妻に言葉で迫る。この男は、その兄の妻に、生まれたままの姿になれと命じているのだ。
「い……っ」
嫌。そう呟きかけて、莉都子はデ・ジャヴのようにほんの少し前のやり取りを思い出した。拒否する、脅される、従う。その度に感じる恐怖に、莉都子はもう耐え切れなくなっていた。
口をつぐみ、図らずも自由になっていた両手を、意を決してショーツにかけた。新たな羞恥が襲ってきたが、莉都子はそれを振り払うかのように、今度は勢いよく引き降ろした。
「……」
今度は晃司が絶句する番だった。もちろん、莉都子の全裸の素晴らしさによって、だ。
美しさに関しては、今更確認するまでもなく前から気がついていたことだ。それに莉都子以上に美しくスタイルのいい女などモデルにならいくらでもいる。しかし晃司が見惚れてしまったのは、そんな上っ面の事ではない。人並み以上の美貌と体躯を持っている女が、生活や精神的疲れによって表れる翳りを湛えて、全裸のまま目の前に存在している現実だ。その精神的疲れは誰あろう、晃司本人が莉都子に与えてしまった物であったが、そんなことに気づく男ではなく、また気づいたとしてもそれを改めたりはしないだろう。
こっちがおかしくなりそうだぜ、この女……なあに、あとは縛っちまえばこっちのもんだ……あとは、あとは……。
「どうだ?旦那の弟にマ○コの毛を晒してる気分は」
「……」
それには莉都子は答えなかった。ただ必死に躰をこわばらせたまま晃司から視線をそらし、両手を腰の後ろで組み、乳房、肌、草叢すべてをその晃司に見せつけていた。
「まあ、答えられないだろうな……俺にマ○コの毛を見せびらかせて、マゾの悦びを感じてるなんて」
その言葉に、莉都子は義弟の顔をキッと睨んだ。しかしそんな強気な表情は、義弟の加虐心をいっそう燃え上がらせる。
「いいねぇそういう顔。もっともっと俺を憎んでくれよな……」
女を裸に剥き、それを眺める。晃司の計画は、もう次の段階に入ろうとしていた。
「さあて、義姉さん。次はお待ちかねの縛りだぜ……」
「……っ」
莉都子は怒りと恐怖が交錯した瞳で晃司を見る。しかし、静かに緊縛を宣言した晃司は、ソファに座って莉都子を見つめたまま、微動だにしない。真っ直ぐ凝視する男の飢えた視線に、莉都子はどうしようもなく裏寒くなる。
「さっきからずっと考えたんだけどさ」
突然、晃司が呟き始めた。
「ちょうどいい縄がねえんだよな。あんたを縛って眺められる縄がさ」
その言葉に、ほんの少しの希望を覚えた莉都子。淡い期待。このままこの異様な空間が過ぎ去ってくれないかという、淡い期待。
「だからさあ……」
しかし、晃司の言葉は。
「あの縄で我慢してやるよ。義姉さん、取ってきな」
あごで指し示した先は、テラス。住宅街に建つこの家の、庭に面したテラス。晴れた日には洗濯物がたくさん掛かるそのテラスにある、物干し竿に結ばれたライトグリーンの洗濯ひも。
「ほら、あそこにかかってるだろ?あれで縛ってやるから」
「そ、そんな……晃司さんが……」
「俺が取りにいってあんたに逃げられちゃ元も子もないからな。あんたが行くのが一番なんだよ」
「わたし、裸なのよ……こんな姿ご近所の人に見られたら……」
「能書きたれてるヒマはないはずだぜ。じゃあ縛られる前に、あんたをそのまんまの格好で庭で犯してやってもいい。近所のババアどもに見られようがなにしようが、俺は全然気にしねえよ」
本気の言葉に違いないと、莉都子は恐怖した。この男には、失う物などないのだ。
「さあ、いけよ。それとも兄貴が帰ってくるまでこのままか?そうだ、あんたと繋がってるところを兄貴に見せるのもいいな……」
「そんなっ」
また全身に震えが走る。そして、その姿を瞬時に想像してしまった自分に、震えた。
「……もうこれ以上何も言わねえぜ。あんたの好きなようにするがいいさ」
晃司はソファの背もたれに体を預け、ニヤニヤと笑みを浮かべながら戸惑い続ける義姉を眺めている。
「ひどい、男……っ」
下唇を噛んで、あまりの屈辱に耐える莉都子。晃司が何もしなくなった今、その屈辱を受け入れるしかなくなってしまった。
もう何度唾を飲み込んだだろうか。また同じ行為を繰り返し、莉都子は決意して庭に面した窓に走った。
「そうだ、がんばれよ義姉さん」
そう言いながら晃司は、慌てて走る全裸の後ろ姿を眺めていた。一歩進むたびに、豊かな尻肉が左右に揺れる。ほんの短い間なのに、晃司はその光景を心から愉しんだ。
いつもなにげなく開く鍵。なのに今は指先が震えてなかなか開かない。自分の裸が午後の日差しに炙られて痛い。
早く、開いて……っ!
開いた。ガラス戸を開き、素足素肌のまま庭に飛び出す。庭を含んだ光景も、またいつもとまるで違う。前の道路から家の様子が見えないようにと作られた生垣も、自分の裸体を隠すには低すぎるように感じられる。塀越しに挨拶を交わす両隣の家々の全ての窓から誰かが、自分の恥ずかしい姿を覗いているように思える。
莉都子は必死に手を伸ばし、物干し竿にきつく結ばれた洗濯ひもを解き始めた。風のない日のはずなのに、素肌に空気が触れる。自分が全裸であるという、現実。
わずかに緩み始める結び目。しかし焦りが激しい莉都子には、わずかな遅れももどかしい。
「……!」
ひもがスルリと竿から離れた。下がる長いひもを手の中でまとめる莉都子。暑くもないのに額に汗が浮かぶ。
まとめられた洗濯ひもを抱え、莉都子は開いたガラス戸に駆け込もうとする。
「おつかれさん」
「ひ……っ」
目の前に、冷たい笑みを浮かべた晃司がいた。兄の妻が怖れに慄くのを、この上なく愉しんでいる。
「ど、いて……」
「いいじゃねえか。あんたのその姿、外の奴らにも見せてやろうぜ」
「いやっ!」
まだ晃司は、義姉を弄び続ける。
「……なんてな。よくがんばったぜ、義姉さん」
そう言うと晃司は体を少しずらし、戸と自分の間にわずかな隙間を作った。早く室内に入りたい莉都子は、その隙間を躰をかがめて通ろうとした。そう、まるで無警戒に。
その瞬間を待っていたように、義弟は義姉の肉体を上から抱きすくめた。
「そうら、捕まえたっと……!」
なめらかな肌触りの背中を捕らえた男は、その腕に力を込めた。
「痛い……っ!」
「ひょー、あんたの躰ってやっぱ最高だ。押しても押しても押し返してくるぜ」
「やめて、離してっ……いやぁ!」
「このまま縛ってやるぜ。早く縄を渡しな……そうでないと、兄貴に言い訳できないようなきつい傷がつくことになるぜ」
後ろからそう囁きかけながら、晃司は義姉の柔肌を撫でる、撫でる。その嫌悪感と再び最高潮に達した恐怖感から、莉都子は手に握っていた洗濯ひもをリビングのフローリングに落とした。
「なんだ、案外抵抗しねえんだな……じゃあ、遠慮なく」
義姉のその動きを、晃司は観念の動作と誤解した。早くこの女の緊縛姿を見たい男は、さらに強気に、乱暴になった。
「痛っ!」
前半身で倒すように、晃司は莉都子の裸身を強く押した。受身も取れず倒れこむ義姉の背後を再び素早く捕え、フローリングに落ちた洗濯ひもを拾う。うつぶせになった女の腰の上に馬乗りになった状態だ。
「まったく、なんであんたこんなにすべすべしてんだ……いくら触っても触り飽きねえな。」
ひもを持ったままの手で、晃司は女の背中の素肌をなんどもなんども往復する。
「いやっ、嫌あっ!」
「おいおい、あんまり暴れんなよ。あんたは義理の弟に上に乗られて、尻やらなんやらを晒してる格好なんだ。俺がその気になりゃ、このまま尻から突っ込む事だって出来るんだからな……」
まるでそれを予告するかのように、晃司の左手のひらはスッと後ろに回され、莉都子の肉感高い尻たぶを、ふにふにと嘲るように揉んだ。
「ひぃ……!」
はっきりと躰を揉まれたのは初めてだ。その恐怖に躰の力を抜かざるをえない。
「よおし、いい調子だ。さっそく縛らせてもらうぜ……」
相手の力が抜けたからといって、優しくなるするような晃司ではない。微かに震える義姉の両手首を後ろ手に取り、右手に握っていた洗濯ひもをゆっくりとかけ始めた。この瞬間青空の下で揺れていた洗濯ひもは、美しき美女を緊縛する淫靡な縄へと変化する。
「い、たい……っ」
「大丈夫だって。手首までは縛ったことがあるんだよ」
確かに、これまで付き合ってきた女とSM紛いのつながりを行ってきた。しかし、目の前に組み敷いている女はそんな女どもとはまるで違う。この女を、この美しい女を、兄の妻を、醜く縛り倒したかった。そして、そのあと……。
「躰、起こせよ」
「ああ……っ」
固く縛られた手首を引かれ、莉都子は上半身を起こされた。
「今度は胸だぜ……楽しみだな、ヘッヘッヘ」
晃司は、瞳にさらに歪んだ光を湛えて、縄を女の前半身に回し始めた。
「ああっ、きつく……しないでっ」
色欲にかられた男が、勢いに任せて細い縄を締めていく。それは、緊縛師のように美しいかけ方ではない。ただ、女の肉が自分の力で歪んでいくのを見たいだけなのだ。
「ヘヘッ、今度は腹から尻だ……」
胸もとを淫らに彩らせたライトグリーンの縄は、今度は真白い腹の柔肉に食い込んでいく。腹を幾筋か結び目が這ったあと、縄の先は尻肉に辿りつこうとしていた。
「座れよ、義姉さん」
義弟の声に、莉都子はよろよろと座り直した。上半身はすでに、しっかりと緊縛されている。
「足首もしっかり縛っとかないとな……」
手首の時と同じように、自由に動かせるわけでも、全く動かせないわけでもない縛り方で、白い足首は淡い緑の細い線に縊られる。莉都子の自由は、これでほぼ奪い取られた。
「ここは当然、こうしなきゃな」
声に続けて起きた動作に、莉都子は驚愕した。晃司の手の中でひらひらと揺れていた縄の先は、ふいに尻の谷間に侵入して来たのだ。
「ひいっ!」
「なんだよ。縛りにゃ股縄って決まってんだよ」
全身を捩じらせて悶える義姉など気にせず、縄を持った指先をどんどん肉の間に侵入させていく。
「やめ、て……晃司さん、お願いっ」
指の腹が恥ずかしすぎるアヌスのすぼまりに触れるおぞましさ。しかしその感触が、この異常極まりない状況で莉都子が狂い始める発端だった。
「お……?」
あろうことか、晃司は縄の端の結び目と共に指先をその場所で停止させた。
「おいおい……あんたのケツの穴、ひくついてるぜ。そんなに股縄がうれしいのか?」
「……っ!」
襲い来る羞恥。全身が炎に直に煽られるかのように熱くなる。
ああっ、どうしてなの……こんな、こんな……っ。
「やっぱりあんたは淫乱なマゾ女なのさ。ほうら、こうすると気持ちいいだろ……?」
美しい背中に体を密着させて、晃司は女の色っぽい耳元に囁きかける。そうしながら、指先は縄の結び目をそのすぼまりに押し付けるかのようになんどもなんども往復させる。小刻みに揺れる、女の肌がたまらなくいい。
「い……やっ、やめ、てぇ……」
声が震える。か細くなる。1センチをわずかに越えたその合成繊維の結び目は、女の敏感な排泄器官を理不尽に刺激する。全身に駆け巡る悪寒は、今もまだ悪寒のままでいるのだろうか。
「ひ、あっ、駄目……もう、しないでぇ……っ」
後ろに縛られた手のひらが必死に宙をくねる。激しい抵抗にほつれたおくれ毛が艶を増す。あらぬ感覚に反らされた首筋には、美しい汗の粒が幾つも浮き上がり始めている。
恥じらいの先に進もうとしている女を、男は見逃さなかった。このまま尻穴を弄くっているのも一興だが、やはりこれ以上の乱れる姿を見てみたい。
「はあう……っ!」
結び目は、真下から前に回された。そこにあるのは、秘められるべき女の草叢とその奥の、肉裂。
「だ、め……そこは、ああっ!」
晃司は何も言わずにアヌスを弄んだ時と同じように、いや今度は先ほどのように強く押すのではなく、その固い結び目を繊毛にコツコツと軽く叩くようにして、奥の中心を刺激した。
「晃司さん……もう、やめてぇ……っ」
激しく攻撃されるよりも、それは莉都子の心を掻き乱した。恥辱と、それとは違う別の感覚が、軽く叩かれる場所から湧いてくる。
「いい顔してるぜ、義姉さん……それじゃあ、とどめだ」
素早く前に回した左手と、縄を握った右手が、組まれた。交差した場所は、女の中心。
「あ、ひいっ!」
今度は晃司も容赦しなかった。縄を強く引く左手、中心に残る右手。当然のように右手は、その熱くなり始めた場所に向けられる。
「だめっ!入れちゃ……だ、めぇっ!」
女の願いは叶わない。
「へへっ……やっぱりな。あんたのココ、濡れてるぜ」
「あ、ああっ!」
カギ形に折られた中指の第1第2関節が、女の場所に滑り込んでいく。滑り込んでいく理由、指を滑らせる潤滑液があったからだ。
「おいおい、びしょびしょじゃねえか。これじゃあ俺の指がふやけちまうぜ……」
毛を掻き分け入り口付近を弄りながら、義姉への嘲りを囁きつづける。
「ああ……そんなこと、言わないで……そんなに、掻き回すのは、やめ、て……っ」
義姉の唇から洩れる声は、次第に濡れていく。抗いたいのに、縛られた全身が、いや心の奥にある歪んだ感情がそれを行おうとしなくなっていた。
左手は独自に、腰に回されていた縄と先端を結び付けていた。これで、兄の妻を緊縛するという第1の目的を果たしたのだ。
「さあて……」
いとも簡単に、晃司は莉都子の魅力的な花園から指を抜いた。ギラギラと輝く目で縄を纏った義姉を見つめながら、ゆっくりと立ち上がる。
「義姉さん、きれいだぜ……」
思うままに縛り上げた、女の肉体。きれいに整うことのなかったその縄は、それゆえに女の肉を際立たせている。首、乳房、腰肉、尻、両脚、股。その淫らな姿は、男の劣情をさらに勢いづける。
「最高の眺めだよ……これでもうあんたは、俺になにされても逃げられなくなったわけだ」
そんなことは、もう分かりきった事だった。嘲笑の声に抵抗する気さえ起きなくなっていた莉都子は、ただただうつむいて唇を噛みながら、義弟が当初の約束を守ってくれる事を微かに願うだけ。すでにもう、この男はほんの十数秒前自分のあの場所に指を侵入させて来たのだから。
「……ちょっと、こっち来いよ」
「……っ!」
晃司が手首の縄を掴んで、莉都子の裸体を無理矢理進ませた。足取りはリビングを過ぎ、きれいに磨かれたフローリングの廊下にたどり着く。そこで晃司は、美女の躰を突き飛ばすようにした。莉都子の全身は力なく、冷たい床に倒れ込んだ。
「あんたの縄姿、ずっと見てたいからな。ちょっとカメラ買ってくるぜ」
そう言うと晃司は、まるで義姉のことなど気にしないように玄関の方へと歩き出す。
「そんな……っ!」
動きの取れない躰を必死に起こし、男に叫ぶ莉都子。
「じゃあ、ゆっくり待っててくれよな。義姉さん」
靴を履き、玄関ドアを開ける義弟。そして義弟は、そのドアを開けっ放しにした。
「……!」
見慣れた光景が、とてつもなく恐ろしい。ポーチ、タイル、その先の道路。全てが直線上に視界に入ってくる。つまり、莉都子は前の道路から丸見えなのだ。
「ドアを閉めて、お願い……こんな恥ずかしい姿で……そんなのいやっ」
哀願する義姉。しかし、そんな哀れな義姉に冷笑だけ残して、まるで晃司はスキップのような軽い足取りで玄関を出て行く。
「お願いっ!晃司さん……ひどい、こんなのって……ああっ!」
それは叫びそのものだった。しかし、義弟の姿は道路に出てからすぐに消えた。莉都子の絶望は、空しくこだまするだけだった。