くのいちハガネ忍法帖特別編 女忍者無残

第四話「汚し」

 小屋の中で絡み合う男女の痴態を覗き見たあの日から、また幾日か経った。屋敷の部屋で目を覚まし、あの男が運んでくる食事を食べ、窓の外の風景を眺め、眠る。その繰り返しの毎日だった。食事を運ぶ際、男は娘の様子を心配そうに見つめているが、娘はあれ以来何の言葉も喋ろうとはしない。
 少女は何かを考えようとしているのか、それとも逆に何も考えないようにしているのか。戦場で敵の心を読むことにかけてはずば抜けた才能のあるこの男にも、今の娘の心を覗く事はできなかった。
 今日もまた、そんな何の収穫もない一日が始まろうとしていた。男は、食事を無言で食べ続ける娘を、こちらも無言で眺めている。 娘が箸を静かに置いた。そのまま、窓のほうに視線を向ける。その様子を見て、男は小さなため息をついた。仕方なく、娘の食べ終えた膳を持ち立ち去ろうとした。

「……あの」  

 小さな声だった。普通の人間なら聞き逃していたかもしれない。しかし、男は厳しい訓練によって聴覚も鍛え抜いていた。すぐに娘のほうを振り返る。  
 娘は、こちらをはっきりと見ていた。その瞳には、切なげな光が灯っているように、男には感じられた。

「……どうした?何か、言いたい事があるのか?」
「……わたしを、この里に置いていて下さいませ」
「それは、構わぬ。お前が嫌になるまではここに居るがいい」
「いえ……そうではございませぬ。わたしを、わたしを忍びにして下さい、と申しておるのです」
「……何と」  

 予想外の言葉だった。

「もちろん、簡単にこのような事を申しているわけではありませぬ。しかし、里に降りれば、どこにいようともあの憎き父親の事を思い出してしまいそうなのです」  

 娘の瞳に、静かだが強い光が宿り始めていた。

「確かに、父の事は忘れ難き事であろう。しかし、この里に残るという事、忍びになるという事は易しいものではない……お前も見たであろう。女の忍びが、どのように育てられているかを……」  

 その言葉を聞き、娘は一瞬息を呑んだ。しかし、すぐに再び顔を上げた。

「覚悟の……覚悟の上でございます」
「……」  

 こちらを見つめ続けている少女は、その強い決心に対して自らの躰を震わせている。  
 この何日かの間に、どのような葛藤があったのであろう。あの小屋にいた色くのいちのようになる事を覚悟させるほど、父を憎んでいるのであろうか?父に汚されそうになった事よりも、誰か知らぬ者に汚される事を選んだのだろうか?もしそうなら、あまりにも悲しい選択ではないだろうか。この娘が思っているほど、くのいちになることは甘い事ではない。間違いなく、娘が父親にされたことの何倍も、自身の躰は辱められることであろう。弄られ、嬲られ、嫐られ続けるのだ。そして、果てには誰にも省みられぬまま死んで行く。

「……娘」
「はい」
「名は、何と言う……?」
「……ありませぬ」
「無い、と?」
「言いたく、ありません」
「なぜだ?」
「……あの男が、付けた名前だからです」  

 男はしばしの沈黙ののち、また言う。

「それは、困る」
「なぜ……?」
「お前を訓練するのに、名が無くては困る」  

 男は自分の選択が正しいのかどうなのか、自信が無かった。周囲の者から、いかなる謗りを受けるかも知れない。しかし、目の前の少女を見ていると、そうするしかないと思えたのだ。  
 男は、この娘を他のくのいちとは違う、男の忍びのように育てることにしたのだ。都のほうでは、いくつもの有力武将たちが覇を争い、さらに戦火は増している。女の姿をして、男の忍びのように戦える者がいてもいいのではないか?  
 もちろん、それは後から取って付けた理由かも知れない。しかし男は、自分が情けをかけたと素直に認められるほど、お人好しでもなかった。

「名が決まらねば、お前を育てる事はできぬ」
「……では」
「?」
「あなたの名を、先に教えて下さいませ。よく考えてみれば、わたしもあなたさまの名をうかがっておりませぬ。この先の訓練で、何とお呼びすればよいのでしょうか?」  

 娘は真剣に聞き返した。

「……それがしの名は、『迅雷』を申す」
「『ジンライ』……?」
「ああ、そうだ。よく考えれば、それがしもお前と同じように、名が無かった。忍びとして育てられる時、頭領から付けて頂いたのだ」
「では、私の名は、あなたさまが付けて下さい」
「ううむ……」  

 正直、参った、と思う。本来なら頭領が付けるべき忍びの名。この娘を預かる事は承知してもらったが、また後で報告するべき事が増えてしまった。

「では……」  

 相手としっかりと相対する時は、何も怖くないかのように強い。しかし、ひとたび女の核心に触れられようとした時、途端に弱々しくなる。まるで、蝋燭の灯火のような、強いながらも儚げな娘の、名……。

「お前の名、『薄』ではどうか……?」
「『ウスラ』……?」
「気に入らぬか?」
「……いえ」
「ならばウスラ。今すぐそれがしについて参れ」
「はい」  

 娘、いやウスラは立ち上がった。これからどのような苦難が待ち受けているのか、未だ何も分からぬままで。  


 また腕に傷を負った。一つ治る前に、また傷が増える。しかし、そのたびにウスラはその傷をぺろりと舐め、木刀を構えた。その眼差しは目の前のジンライをしっかりと見つめている。その瞳に宿る光が日を経るごとに強くなっていくのをジンライは感じていた。

「もう向かってくる元気は無いか。そんなものでは戦場に出てもあっという間に死んでしまうぞ」
「……まだまだ」  

 ウスラは木刀を振り上げ、ジンライの方に踏み込む。しかし、ウスラの太刀筋は空を切り、代わりにジンライの手刀がウスラの首筋に打ち込まれる。

「あうっ……」  

 力が抜け、また地面に膝をついてしまう。叩かれた首筋がずきずきと痛む。しかし、ウスラはすぐにジンライを睨みつけた。  
 無論、ジンライも多分に手加減をしている。本気を出せば目の前の小娘など、一瞬のうちに殺めることが出来るだろう。

「もう一度、お願いします……」
「よし」  

 ウスラは何度もジンライに踏み込み、そのたびに激痛をもって返される。ウスラがこの里に残ると決心した日から、毎日同じ事の繰り返しだ。 いくさ忍びとして育てられる男でも、このひと月を過ぎた頃の様子で後々物になるかどうか決まる。この激しく辛く無駄な訓練を侮り、冷めた気持ちのまま技を習得すれば、実際の戦場に出た瞬間萎縮することになる。敵は常に一人二人ではない。戦場では周り全て敵となる。傷つき痛みに慣れる事こそ、いくさ忍びに必要なのだ。  
 すでにジンライは、ウスラをいくさ忍びとして育てる事を頭領に伝えていた。頭領は始め渋ったが、「お前に任せる」と一言だけ言ってそれを許した。しかし、逆に頭領のお墨付きをもらった事が、周囲にほんの少しの混乱を生んだ。  
 ジンライの勲功は誰の目にも明らかなほど、この黒装衆という組織の中で際立っている。齢二六歳のジンライがいくさ場で挙げた首の数は、三十年ほど昔都周辺の動乱期に現在の頭領が挙げた首級をも上回るとの噂である。いくさ忍びとして訓練された男の忍びたちは、ジンライの名を聞くだけで震え上がるほどだった。だからこそ、今回ウスラをいくさ忍びとして育てるという計画も、『ジンライ様がやることなら間違いない』という意見が大勢を占めていた。  
 しかし、やはり組織にはそれを望まぬ一団もある。この場合は、ウスラと同じように『女』として生まれながら、ウスラとは違う全く陽の当たらない場所にいる少女たち。あの日ウスラが思いがけず覗いてしまった、あの小屋の中で生活していた色くのいちたちだ。  
 色くのいちは、敵の男たちを躰で懐柔する役目しかない。そのまま敵方に取り残され、見捨てられることもある。いや、その方が多いのかもしれない。見捨てられた彼女たちは、敵と見破られて殺されるか、生きていてもそのまま敵兵たちの慰み者となる。どちらにしても報われることなく死んでいくのだ。  
 だからこそ、自分たちと同じような境遇であるはずのウスラだけが、なぜいくさ忍びとして育てられているのかが理解できない。その感情が、激しい嫉妬に変わることは避けがたい事だった。彼女たちでも、ジンライの凄さは男たちから伝え聞いている。しかし、だからこそ、そのジンライが理由もなくウスラだけを特別扱いするのが、彼女たちには耐えられなかった。

「よし、今日はこれで終わりだ。屋敷に帰り、体を休めるがよい」  

 すでに日が暮れようとしていた。ウスラは、そのジンライの言葉にさえ応えることが出来ないほど疲れ切っていた。

「これくらいの事で声も出せぬようでは、いくさに出ればすぐ敵の刃にかかることだろう。さらに精進することだな」
「は……い……」  

 かろうじて喉の奥から声が出た。

「うむ。もう飯の支度も出来ている頃だろう。食え。食わねば明日に繋がらぬ」
「は……い」  

 ウスラが答えたのを見て、ジンライはいずこへか立ち去る。ジンライの姿が見えなくなる頃、やっとウスラは木刀を杖にしながら立ち上がり、よろよろと屋敷の方へと歩き始めた。  


 自分の部屋に、力なくぺたりと座り込んだウスラは、そのまま動かなくなった。腹は減っているが、いつものように台所に行って飯炊きのおばさんから食事をもらって来る力もない。食わなければ明日の力が出ない。それは分かっているのだが、幾日分かの疲労の蓄積なのか、今日はこのまま寝てしまうしかない、と思っていた。  
 誰かの足音と共に、食事の匂いが漂ってきたのは、その直後のことだった。食事を運んでもらったのは、この忍びの里に来て、忍びとなる決心をしたあの日以来ない。だから当然ウスラは、あれまでのようにジンライがあの優しい笑顔で食事を運んできてくれたのだと思った。

「ジンライさま!」  

 戸の前で確かに止まった足音の主に、ウスラはそう呼びかけた。声を出すことさえ億劫だったのに、その時は大きな声が出せた。しかし返事はなく、やがてしばらくして戸がゆっくりと開く。

「……ジンライさまではなくて、ごめんなさい」  

 入ってきたのは、自分と同じ年の頃の若い娘だった。その娘はそのまま黙って、食事の載った膳をウスラの前に差し出した。

「あ、すみません……この食事は?」  

 ウスラは、間違えたことに萎縮し、おずおずと尋ねた。

「いいのよ。この食事は、ジンライさまに頼まれて、あなたに持ってきたものだから。さあ、遠慮しないで食べて……」
「そう、なんですか……」  

 ジンライが、自分のために食事を用意してくれたのは、間違いないらしい。目の前の膳では、料理が美味しそうな湯気を立てている。

「どうしたの、せっかくジンライさまが用意してくれたものなのよ。はやく食べないと」
「あ、はい」  

 慌てて箸を持ち、まずは汁物から手をつけた。

「……美味しい?」
「え、ええ、とっても」
「そう、よかった。じゃあ、わたしはこれで」  

 若い娘は、そそくさとした様子で部屋を出て行った。  
 ウスラは、今出て行った娘に、少しの違和感を覚えていた。どこかで、見たことがあるような気がするのだ。少しずつ食事を口に運びながら、そのことがずっと頭に引っかかっている。  
 そして、それは突然思い出された。

「あの人……あの小屋の中で……」  

 暗い小屋の中、男と淫らに絡み合って嬌声を上げていた、あの少女だ。


「見ものね。私たちでも初めて使われた時二日間悶え狂ったもの。それより量が多いんでしょう?」
「ええ。あの女、まだ乙女だから、それはもう面白い見世物になるわよ」
「ふふっ、毒じゃなくて媚薬だなんて……陰険ね」  

 自分たちの悪巧みに、幼い色くのいちたちはお互いの顔を見合う。

「あとは……夜を待つだけね」  

 三人が三人とも、同じ言葉をつぶやきながらほくそ笑んだ。嫉妬に満ちた表情で。  


 真夜中。まだ、夏には早い季節なのに、汗が全身を包み込んでいる。 躰をせわしげに動かして、布団の下で呻く。何度も唾を呑み込んでみるが、喉の渇きがおさまらない。

「くう……っ」  

 昼間のうちに、流行り病か何かにかかったか、とも思う。しかし、何よりウスラを戸惑わせたのは、躰の熱さだった。熱い。それも、あの日から自分ではなるべく触れないようにしている、あの場所がどうしようもなく、熱い。  
 まるでそこにだけ悪性の腫瘍ができたように、ずきずきと疼いている。ウスラは、仕方なくその場所にゆっくりと指先を伸ばした。触れたくない、汚らしい、あの場所に。

「ひ……いっ!」  

 刹那、ウスラの躰は生まれて二度目の絶頂に達した。ほんの少し触れただけで気をやってしまうほど、盛られた媚薬の効果は強かったのだ。しかし、全身を駆け巡る痺れがゆっくりと消えていっても、熱さも喉の渇きも疼きさえも治まらなかった。いや、それどころか、先程よりさらに増しているほどだ。

「たすけ、て……」  

 誰に向かって呼びかけたのだろうか。ウスラは真っ暗の部屋で、うつろな目のままずるずると布団から這い出した。そのまま壁にぺたんっ、ともたれて荒い息を吐く。  
 また、あの場所に手が伸びようとしていた。自分では必死に耐えようとするのだが、意識はそれを抑えることができない。

「くうんっ!」  

 今度は瞬間の絶頂はなかった。だがそのかわり、触れた指先から溢れ来る奇妙な波が、ウスラの思考をさらにかき乱す。頭の中が霞みがかったようになって、ただ指の動きだけが止まらない。かすかに生え始めた繊毛と、しっとりと滲む濡れた感触。

「あんっ、あうん……っ」  

 小屋の痴態を覗いた日と同じように、ウスラは自分の幼い淫裂を擦る。切なげな喘ぎが洩れ、指先はやがて自分自身の内部に、ほんの少しだけ侵入する。そしてまた、あのどうしようもない感覚が全身を包み込もうとしている。

「あ、くう……あん、ああんっ!」  

 このまま脚と脚の間の濡れた部分を擦り続ければ、またあの感覚が訪れる。かろうじて残った思考では、それが淫らな事だと分かっていた。あの憎んでも憎みきれない実父のように、快楽のためだけに自分が生きているような錯覚さえ覚える。しかし、指はさらに激しく動き、唇から洩れる声も次第に大きくなっていった。

「うあ……あく、うっ、あんっああん……っ!」  

 自分の手の中指が、濡れた狭洞にどれくらい入り込んでいるか、彼女は知らない。知れば、自分の淫らさをさらに恥じるだろう。媚薬の効果と少女の肉体に宿っている性の本能によって、あと一分でも深く侵入すれば、あと一擦りすれば、生まれて三度目の絶頂が訪れる、はずだった。

「……ふふっ、そう簡単に気をやらせるものですか」  

 その言葉と共に、ウスラの右手は股間から引き剥がされた。

「あうん……っ!」  

 ウスラはその瞬間、言いようの無い空虚感を覚えた。潤んだ瞳を上げると、そこには昼間見たあの少女が微笑んでいた。しかし、けして歓迎できそうもない笑みだった。

「まあ、すごいま○こ汁だこと。ジンライさまの一番弟子は、たいそう淫乱な娘だったわけね……」  

 あの少女が、掴んでいるウスラの指先を眺めながら言う。ウスラにも見えた。自分の指先が、付け根ほどまでぬらぬらと濡れているのを。恥を感じて振りほどこうにも、いまだ全身に力が入らない。

「ああ、ううっ……」  

 股の付け根がじんじんする。今まで入れられていたものが、そこにない。そのことがこんなにも切なく苦しいことだと、ウスラは初めて知った。少女に右手を捕らえられたことが何よりも空しくて、もどかしげに太腿を擦り合わせてみる。

「どうしたの?もしかして、男の味も知らないくせにま○こが疼いてるの?あらあら、こんな姿をジンライさまが見たらさぞ驚きになるでしょうね」  

 自分が盛った媚薬の効き目を、ウスラの態度から悟った少女は、サディスティックな言葉を遠慮なく投げつける。ウスラは顔を紅くして顔を背けたが、荒い息は未だ治まってはいない。

「……気をやりたいんでしょ?『わたしはジンライさまに仕えるのもおこがましい淫乱な女です』って言ったらこの手、離してあげてもいいわよ」  

 その問いに、ウスラはしばし沈黙した。しかし、やがて静かに首を振る。自尊心からではない。女がことさらジンライの名を語るのが、かろうじて残った意識では腹立たしかったのだ。しかし、ウスラはまた一つ心に傷を負った。嘘。少女が言うように、ウスラは気をやりたかったのだ。一刻も早く。

「ふうん、意外と強情ね。下の口はだらしなく広げているのに、上の口は固いわけね……いいわ。それじゃあもっと辱めてあげる。みんな、手伝って」  

 敵の気配をすばやく悟れ。ジンライはウスラにそう教えていた。しかし、強力な媚薬に侵されたウスラには、部屋にまだ二人の少女が隠れていたことなど悟りようがなかった。部屋の隅にいた二人は、素早く着物のはだけたウスラの躰に取り付き、両手両脚の自由を奪う。

「自分でよーく見ることね。自分のホトがどんなふうになっているか……さあ、見せてあげましょう」  

 声を合図に、ウスラの両脚が上に抱えられる。二人の少女が、ウスラの股間を晒そうとしていた。

「い、いや……」
「いや、じゃないんだよ。今から三人でお前のおま○こいじってやるっていうんだから、喜んでもらいたいぐらいさ」  

 ウスラの抗いは、何も為さなかった。みずみずしい両脚は暗い部屋の中で、見事なV字型を見せている。リーダー格であろうあの少女がゆっくりと歩を進めて、ウスラの股間に近づいた。

「ふーん……ここからでも、よーく見えるよ。お前のいやらしいおま○こが。ふふふっ」  

 相手の吐息が自分の太腿にかかるのを感じ、ウスラは少女があの部分に顔を近づけている事を知る。父親を殺めたあの夜も、四人の男たちにいたぶられた夜も、そこに顔を近づけられたことはなかった。

「んあ、んーっ!」  

 ウスラが今まで以上に大きく喘いだ。その声と同時に、今夜二度目の絶頂に至る。少女の紅い舌が、ウスラの幼い淫裂に這ったからだ。

「あらあら……ひと舐めしただけで気をやっちゃった。今から、何度いくことになるんだろうね?」
「あんまり気持ちよすぎて、気を失ってしまうんじゃないかしら」
「気を失うだけならいいけど、気をやったまま死んじゃったりして……ふふふっ」  

 ウスラの躰に取りつく三人の娘たちは、口々にウスラを罵った。媚薬を盛られたことさえ知らないウスラは、その言葉一つ一つに打ちのめされる。しかし、躰はさらに少女の舌の愛撫に昂ぶらされ、心と裏腹に身悶えるしかなかった。  
 少女の舌は的確にウスラの思考を破壊していった。伸ばされた舌先は、桃色の肉ひだを這っていたかと思えば、熱くぬめった洞内に差し込まれる。

「あうっ、あうう……ああんっ!」  

 舌が蠢くたびに、ウスラは小さな波に浚われ喘ぎ声を上げる。何度も『気をやった』のに、躰の熱さや鈍い痺れは大きくなっている。

「……ねえ、自分でここをいじったこと、あるの……?」  

 自分の下腹部から聞こえる声に、ウスラは必死に首を振る。小屋を覗いた日も、つい今しがた触れさせた指も、自分が意識してやったことではない。

「ふうん……じゃあ、ここに何があるか知らないんだ……」
「……?」  

 ウスラが問い返そうとした瞬間、その事実を嫌というほど知ることとなった。少女の舌は、薄皮から覗いた肉の球を一気に舐め上げたのだ。

「あ、あくう……っ!」  

 また、イった。今までにない感覚。自分のどこを舐められたことさえ分からぬまま、ウスラは再び忘我の世界を彷徨う。

「ああん、もうびしょびしょ……顔中があんたのおま○こ汁だらけだわ」  

 その蔑みの言葉さえ、空気中を振動となってウスラの全身に痺れを与える。少女の舌はそれからさらに巧みになり、そのたびにウスラは激しく悶える。  
 また新たに性の感覚が加わる。着物の胸元がはだけられ、二つの乳両方に誰かの舌が這ったのだ。それを誰かと探ることさえ出来ずに、ウスラは躰を揺らめかせてしまう。両脚を戒めていた二人の少女が脚を離れ、胸を愛撫しているのだ。それが最後の抵抗の機会だったのかもしれない。しかし、ウスラは今、例え三人の少女が体を離れても、逃げ出すことは出来なかっただろう。ウスラの肉体に宿る女の本能は、さらなる昂ぶりを求めていたのである。  


 自分の屋敷に戻るのが遅れたことを、ジンライは少し悔やんでいた。今まで以上に疲れ果てた昼のウスラを見、様子だけでも早く見ておきたかったのだ。しかし、頭領に呼ばれての饗宴では、断ることは出来なかった。無論頭領は宴よりも、自分の娘とジンライの同席の方を重要視していたのである。
「……!」  

 酒が入っていても、ジンライの感覚が鈍ることはない。そう訓練されているからだ。普通の人間なら聞き逃してしまいそうなかすかな声を、ジンライは確かに聞いた。自分の屋敷の方からだ。ジンライは、歩を早めた。


「もう、そろそろいいかもね……さあ、あれを用意して」  

 それと同時に、少女の舌が淫裂から離れた。ウスラはその瞬間、あろうことか、恐ろしいほどの空虚感を覚えてしまった。

「フフっ、わたしたち知っているの。あなたが四人の男に侵されそうになったことをね……あの時の生き残りが、わたしたちの教育係の一人だったの。可哀想に、あれ以来すっかり萎えきっちゃって、色くのいちの教育を外されちゃった」  

 三人の少女は、あらぬ姿となったウスラを立って見下ろしている。手元には、何か棒のようなもの。

「つまり、あなたはまだ男を知らないってこと。残念だったわねえ、愛しい父親に貫いてもらえなくって」
「……!」  

 悪夢のような夜が、ウスラの脳裏に蘇る。

「……とにかく今夜は、わたしたちがあなたの初めての相手になってあげることにしたの。ほら、これでね……」  

 うつろに開いたウスラの瞳にも、それはあまりに衝撃的だった。少女が手に持っていた物、それは木を削って作られた、太い張り型だったのだ。

「あら、気に入ったみたいね。フフっ」  

 少女はそう言って、再びウスラの股間にしゃがみこむ。他の二人も同じように座り、好奇の瞳をウスラの秘所と張り型に向けた。

「この張り型はね、色くのいちの最後の訓練に使う物なの。わたしたちも使ったことないから、乙女で、それも薬が効いてるあんたはどうなるかしら……」  

 木の先端が、自分の濡れた秘裂に触れるのを感じた。

「ああっ、ジンライさま……っ!」  

 ウスラは、喉の奥からかすかに出た声で、ジンライの名を呼んだ。この里に知った者がジンライだけだからなのか、それとも別の感情からなのか、ウスラには分からなかった。

「残念ね。ジンライさまは今夜、頭領さまのお屋敷にお泊りになるはずよ。あんたがどんなにジンライさまを呼ぼうと、ジンライさまは今ごろカスミお嬢さまと……」  

 また、圧力が増した。先端が自分の体内にめり込むの感じ、ウスラは眉を反らせた。身を裂くような痛みが、全身を恐怖させる。乙女を無機質の木棒に汚されるのも、時間の問題だった。

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