くのいちハガネ忍法帖特別編 女忍者無残

第五話「刹那の愛」

 まさに文字通り道無き道を、一人の人間が駆けていた。風のように静かに、しかし獣のように力強く。歩くでも、走るでもなく。それはまさに、忍びの足取りであった。目指す場所をただひたすら目指し、その忍びは何処とも知らぬ山中を行動していたのだ。  
 忍びの世界は迂遠である。命令伝達の経路を幾重にも紡ぎ、敵側への情報漏出を防ぐためだ。今回もまた、この野を駆ける忍びは自分に与えられた任務を知るため、根拠地から遠く離れた山中に密かに建つ忍び小屋に向かっているのだ。  
 向かう忍びは、都へと急ぐ笛売りの格好をしている。向かう先の忍び小屋は、一見して猟師小屋にしか見えないようになっている、はずだ。

「……!」  

 忍びが足を止めた。夏の盛りだと言うのに、汗をほとんどかいていない。これもまた、訓練の賜物なのだ。  
 それらしき小屋を、その忍びは見つけた。慎重に辺りを見回しながら、足音を忍ばせつつ小屋へと近づく。

「……もし、もし」  

 呼びかけに、中から返答があった。

「どちらさまかな。このような山中の寂れた小屋に、いったいどのような用で参られたのか?」
「はい。わたくし尾張の国で笛売りを営んでいる者なのですが、都へ向かう途中、同行していた母親がこの先少しの所で脚に怪我を負ってしまいました。大変申し訳ないのですが、薬と、傷口を覆う何かしらの布を分けてはただけないでしょうか?」
「それは大変じゃ。このような山奥でよい薬などないが、それでも良いなら分けてあげよう。さあ、とりあえず中へ入りなされ」
「……かたじけのう存じます」  

 中からかんぬきの外される音がした。忍びはゆっくりと戸を開け、中の様子を眺める。粗末な囲炉裏端に、老人が一人座っていた。その姿を認め、戸をゆっくりと閉める。

「かんぬきは閉めておけ」
「はい」  

 言われたとおりに戸に固くかんぬきをかけた。そのまま、無言で立ち尽くす。小屋に居た男も、もちろん忍びだ。今のところ、小屋の外に現れた人間が、合言葉どおりの返答をしたので、とりあえず小屋の中に入れただけだ。だからこそ今、訪れた忍びをじっと眺め続けている。無論、本当の味方であるか、判断するためだ。  
 二人の忍びの間に無言の時が過ぎる。互いに相手を観察し合い、判断を下そうとしている。やがて、座っている忍びのほうが口を開く。

「任務のことは、知らされていないのだな?」
「……はい。ここに辿り着いたのち、知らせると」
「うむ。わしもそう聞いておった……しかし、おぬしのような者が来るとは聞いておらん」
「……」  

 その忍びの困惑も無理はない。今回の任務は、これから黒装衆という忍軍が飛躍できるかどうか、それが掛かっている重大な任務だった。そして今回の任務でもっとも重要な、敵地に侵入する役を負った忍びが、今日ここに訪れるはずなのだ。

「だが……装束も日時も合言葉も知らせどおり。おぬしがこの任務を託された者であることは間違いない」  

 立っているほうの忍びは、顔には出さないが一つ安堵した。

「では、名を聞こう」
「……ウスラ、と申します」
「ほお……おぬしが『ウスラ』か」  

 ウスラの名は、黒装衆の末端にまで知れているのだ。ジンライに渡された日から、わずか四月で他に劣らぬいくさ忍びとなったウスラを。わずか、わずか四月である。  


 すでに辺りは夜。外見からは想像もつかない重大な計画が、そのぼろ小屋で練られている。小屋に詰めていた忍び 勘治はウスラに今回の任務の詳細を語った。敵の本拠である城に侵入し、来たるべきいくさを後方から撹乱する任務。  
 甲という陣営と乙という陣営が、黒装衆が活動拠点としているこの国で戦争始めようとしている。都の戦乱によって仕えるべき主君を失っていた黒装衆は、このいくさ如何によっては滅びへの道へと向かう事になるかも知れない。  
 ウスラは勘治の話を聞き、一語一句全てを自分の頭に叩き込む。ウスラは、何が何でもこの重大な任務を無事果たさねばならなかった。自分を信頼し、任務を与えてくれたあの男のために。

「……では、今夜はこの辺にしておこう。あまり根を詰めれば、余裕をも失うことになろう。ではウスラ、休むがよい」
「はっ」  

 勘治に示された寝所に、ウスラは入った。勘治は小屋を守る任務を誠実に果たすため、囲炉裏端で不寝番だ。申し訳ないと感じながらも、互いに与えられた任務の重さを考え、ウスラは粗末な布団の中で目を閉じた。  
 瞼を閉じれば、今もあの夜の光景が浮かんで来る。もう幾月も経っているというのに。色くのいちたちに強力な媚薬を盛られ、抑えきれない劣情の中で生の無い木の張り形に乙女を散らされるはずだった、あの夜の事を……。  


 同じ黒装衆に属する幼い色くのいちたちに対しても、ジンライは容赦なかった。三人の色くのいちたちは、ウスラを辱めようとするあまり、多くの罪を犯してしまったのだ。ウスラへの陵辱はもちろん、ジンライの屋敷への侵入、修行の道具であった媚薬と張り形の無断使用……。それがウスラへの嫉妬が生み出したものだとしても、組織の掟を破った罪はあまりに大きかった。  
 気配を消してウスラの部屋に近づいたジンライは、手前の廊下でウスラの吐息をはっきりと聞いた。それは普段の息づかいではなく、淫らな艶を含んだ切なげな声であった。

「ほらほら、お前のびちょびちょのおま○こに、もうすぐこの張り形が入っちゃうよ……」  

 ウスラとは違う少女の声に、ジンライは確信した。ウスラが、また何者かに陵辱されようとしている、と。  
 背後で戸が開いた事など、ウスラを辱める事に熱中している三人のくのいちたちは気づかずにいた。気づいていれば、すぐに全身を恐怖させていただろう。開いた戸から、全く物音を立てずに入って来た人物は、黒装衆全ての者が最も恐れる忍びなのだ。

「フフフっ……ぶつかっちゃったね。ここを突き破れば、あんたはもう乙女じゃなくなるんだ。感謝しなよ、あんたはわたしたちのおかげで、本当の女になれるんだからね……」
「うう……っ!」

 肉洞にあるかすかな抵抗を異物によって突き破ろうと、少女は手の先に力を込めた。しかし、結局最後まで力を込め続ける事は出来なかった。張り形を握ってる両手と、力を込めようとする腕が、切れ味鋭い刃物によって永遠に切り離された事を、まだ知らずにいたのだ。

「……ひっ!」  

 自分の視界を、自分の手首から噴出す血流によって遮られた少女は、その時やっと事態を飲み込む事が出来た。敵が刀を構えている時、その手を瞬間何の痛みもなく切り落とす術を、これほど鮮やかに見舞う事の出来るのは、ジンライしかいないのだ。

「お、お助けっ!」  

 ウスラの胸に張り付いていた残りのくのいち二人は、ジンライの恐慌から逃れようと身を翻した。しかし、無駄な抵抗である事は明白だった。彼女たちが一歩進むより早く、ジンライは四歩身を進め白刃を閃かせた。二人の身体が、闇の中に倒れ込む。

「……」  

 目の前の惨劇を、ウスラはまるで幻を見るように眺めている。熱く火照った躰から見えるのは、暗闇の中で光る太刀筋と、ジンライの無表情だけだ。その姿を見るにつけ、ウスラの鼓動はさらに高まる。  
 やがて、狂騒と残虐の刹那は過ぎた。潤んだ瞳でウスラが見上げると、そこには暗闇に何事もなかったように直立するジンライの姿がある。

「ジンライ……さま」  

 ウスラのか細い声を聞き、ジンライは表情を変えた。まるで実の我が子を案じるような悲しそうな顔で、ジンライはウスラを見つめたのだ。

「ウスラ、大丈夫か」  

 ジンライは座り込み、ウスラと視線を合わせた。

「ああ……っ」  

 目の前にジンライの顔がある。ウスラの鼓動は、先ほど色くのいちに舌で愛撫された時よりもさらに早くなっていた。熱い。熱くてたまらない。

「……!」  

 ウスラの行動に、ジンライは柄にもなく戸惑った。ウスラは、ジンライに急に口づけたのだ。それも、まだ乙女を散らされていない少女とは思えぬ、舌を絡ませた熱い口吻だ。

「んん……っ」  

 無論媚薬のせいもあっただろう。しかしウスラはその効き目以上に、ジンライの舌を自分の舌でむさぼった。心の底にたゆたった何かに突き動かされるように、ウスラは全身を震わせてジンライに唇を与え続ける。  
 ジンライはウスラの肩を掴んで、少女の躰を離した。二人の口の間で、まるで少女の心を示すかのように、唾が糸引く。ウスラの瞳はジンライをまっすぐに見つめている。着ていた服は肩の所でかろうじて引っかかって、その下には二人の色くのいちに露わにされたみずみずしい乳房が息づいていた。暗闇でも、その肌の白さははっきりと見て取れる。そして、先ほど異物によって割り開かれようとしていた熱い肉裂が、裾から覗き見える。  
 手を伸ばして、ジンライはウスラの裾を直そうとした。その手を、ウスラの指先がしっかりと捉えた。熱い。手のひらさえ、まるで燃えるように熱かった。

「ジンライさま……」  

 瞳は媚薬に理不尽に濡れている。しかし、決して濁ってはいなかった。

「たすけて、くださいませ……っ」  

 掴んだジンライの手を、ウスラはあの熱くてたまらない部分に導いた。ジンライの手の甲は、淫らにぬめる感触をはっきりと感じた。  
 ウスラは、ココを、ジンライに、どうにかして欲しかった。

「ウスラ……」  

 二人はまた口づけ合った。先ほどとは違いジンライから進んで、しかし先ほどと同じように情熱的に、唇と舌が絡み合う口吻だった。  


 まるで眠っているようにウスラの裸体が横たわっている。目を固く閉じ、微動だにしない。乳房に代表される健康的な肢体が、ジンライの真下で輝いている。もしかしたら、ウスラは薄目を開けているのかも知れない。しかし、その瞳は何の影も捉えてはいないだろう。少女の気持ちを、それぐらいは分かるつもりだ。  
 薬と歪んだ情熱に突き動かされながらも、いたいけな少女が自分に対して躰を投げ出している。ウスラは、父に汚されそうになった事で、全ての男を憎んできたはずだ。しかし、唯一許すことを認めた自分が、その憎き実父よりもさらに淫らな行動に彩られている事を知れば、このいたいけな少女は自分を軽蔑するだろうか?  
 敵将の本妻を寝取り、城の蓄えを大規模に散財させ、落城させた事もある。  
 敵に仕える食餉係の娘を篭絡し、城主を毒殺させた事もある。  
 それ以外にも、自分の行動に関わる女を、幾人手篭めにしてきたか分からない。落涙、出家、死罪、自害……女たちは、ジンライの身体で悲劇を演じて来た。しかし、ジンライにとって、それは全て任務のためだった。  
 過去の淫業回顧を中断し、ジンライは自分の心持ちに冷笑を浴びせる。軽蔑?ジンライともあろうものが、今さらこのような小娘に軽蔑される事を恐れているのだろうか?いくさ場で敵を殺める事数千、女を犯す事数百。その自分が、なぜにウスラ一人に軽蔑を与える事を恐れなければならないのか……?  
 ジンライは、美しく横たえられたウスラの裸体に、自分の躰を重ねさせた。今まで犯した女たちと同じように、獣のごとく激しく犯せば、ウスラの気持ちはどうあれ自分に心にわだかまっている下らぬ迷いなど断ち切れる、はずだ。

「ああ……」  

 閉じられていた紅い唇がかすかに開くと同時に、ウスラのその潤んだ瞳も、再びジンライに向けられた。

「ジンライ、さま……っ」  

 何の濁りもない、ただ自分に性の救いを求めている瞳。ジンライの心はまた乱れ、しばらくして爆ぜた。

「……ウスラ、許せ」  

 今はただ、目の前の少女を自分の躰で救うのだ。ジンライの決心は、もう揺るがなかった。一言許しの言葉をかけて、ジンライはウスラと唇を重ねる。少女の熱い舌を確認しながら、右手は健康的に張った乳房を優しく愛撫し始める。

「うんっ、うむう……」  

 塞がれた唇から、切なげな声が洩れる。乳房から発する心地よさが、処女の肉体にじんじんと広がっていく。舌は震え、男の舌をさらに淫らにむさぼる。

「んあ……っ、んん!」  

 思わず舌が外れた。ジンライの右手は乳房を離れ、腰を優しくなぞった後、へそを強めに突いたのだ。昂まりきっている躰は、たかがへそに対する愛撫でさえも敏感に感じ取る。そして離れた右手の代わりに、今度は左手があの若々しい両乳房を撫でしだく。先端に息づく薄桃色の突起は、ジンライの指の先で確かな起立を発し始めていた。

「あんっ、ああん……んあっ!」  

 乳首が柔固くしこる事など、ウスラは全く知らないでいた。いや、もしかしたら実父の愛撫も、四人の忍びたちの愛撫も、三人の色くのいちの愛撫の時も、それは今と同じように固くなっていたのかも知れない。しかし、自分が求めてこうなった事は、間違いなく初めてだ。熱に浮かされたようになっている今でも、それははっきりと理解できる。

「……」
「んああ……んっ!」  

 ふいに、男の指が移動した。今まで腰や尻の稜線をなぞっていた右手は、ウスラのふとももとふとももの間を明らかに目指して動いていた。ウスラは、そこに何があるか知っている。ジンライが、なぜそこを触ろうとしているかも知っている。そこには、恥ずかしいほどに熱く濡れそぼっている割れ目がある。父も他の男も、色くのいちたちもウスラのそこを汚そうとして、闇に消えていった。しかしウスラは、ジンライには消えて欲しくない。このまま手の慈しみを続けて、自分の躰をどこかに浚っていって欲しかった。

「あ、くうっ!」  

 中指のほんの先が触れただけで、ウスラは喉を反らせ大きく喘いだ。ウスラの声を聞いても、ジンライは動きを止めずに、しかし優しさを込めたままでその指先を少女のぬめった内部に侵入させた。

「ああん、あふ、うんっ!」  

 ウスラの喘ぎは、男の一部が突き入れられた事で、明らかに艶を帯びた。  
 ジンライは中指だけを巧みに動かし、少女の粘膜を擦り続けている。奥から奥から溢れ出す愛液は、ジンライの指をびしょびしょに濡らしていた。

「あんっ、あんっ、は、あ……っ!」  

 普通の男なら聞いているだけでおかしくなりそうな喘ぎを、ウスラは上げ続けていた。はしたない声、体内から流れて男の指を濡らす汁、激しい鼓動、そして躰の底から湧きあがる「何か」。その全てをウスラは自覚していた。しかしそれでもなお、男の指に身を投げ出すことが、何よりも心地いい。  
 ウスラが上げる嬌声を、ジンライはじっと聞いている。このままこの少女を、指でいかせる事も出来る。だが、そうする気はもうジンライにはない。

「あっ……」  

 ジンライの指が、不意に離れた。ウスラの全身に、たまらない空虚感が溢れる。自分の躰から男が離れていく。

「ジンライ、さま……」  

 追い求める男の姿を、ウスラは暗闇の中ですぐに見つけられた。ジンライは、すぐそばにいた。寝ている自分のすぐ前で、腰をおろしている。そして、ウスラは気づく。ジンライにも、やはり父やあの男たちのように、股間には「あれ」があるのだと。

「ああ……っ」  

 吐息は、絶望や恐れを含んではいなかった。まぎれもなく同じモノのはずなのに、ジンライのそれに自分は安堵の気持ちを投げかけている。それが少しずつ自分に迫って来ていても、それはやはり、自分が求めたジンライ自身に変わりなかった。

「ウスラ、力を抜け」  

 心央まで響く低い声に、ウスラは従う。ジンライに身を任せていれば、なにか大切なものを手に入れられそうな気がした。それが、今まで恐れ蔑んできた淫らな悦びだとしても、自分は後悔しないだろうと思える。  触れた。また躰が熱くなる。

「く、うっ」  

 色くのいちたちが繰り出した木の張り形よりも、優しくしかしはっきりとした意思を持って、男の固い先端が肉の裂け目にめり込んでいく。

「あ、くう……っ!」  

 ジンライの先端は、誰も侵入した事の無い処女の粘膜をゆっくりと進んでいく。強力な媚薬に侵されているとはいえ、肉がこじ広げられる痛みは、ウスラの神経を激しく刺激した。

「ウスラ……辛いか?」  

 眉をしかめる少女の表情に、ジンライがいたわりの声をかける。

「うっ、うう……ううっ!」  

 目を固く閉じたまま、ウスラは必死で首を振った。その顔を見れば、激しい痛みを耐えているのは明らかなのに、ウスラは決して行為を否定しなかった。

「……そうか、ならばまだ突くぞ」  

 ここであらぬ情けをかけるよりも、ジンライはウスラの願いを叶える事を選んだ。淡い桃色をした唇を固く噛んで耐える美しい少女を見下ろしながら、ジンライは腰にまた力を込める。

「はあっ、ああう!」  

 格段の痛みが、ウスラを引き裂こうとする。しかし、この世の中にはもう、目の前のジンライしかすがる者はいない。敷布団を必死に掴んでいた両手が、やがて虚空を彷徨った後、ジンライの逞しい腕に辿り着いたのは当然の事だった。

「……」  

 ジンライは侵入を止めた。自分の分身は、やっと一寸五分ほど少女の内部に埋没しただけだ。これ以上突き入れることよりも、いたいけな娘に性の実感を与えてやろうとした。

「ウスラ……」
「あ……っ」  

 うっすらと開けられた瞳が、しっかりとジンライを見つめた。

「いくぞ」  

 ジンライの声に、ウスラは小さく肯く。瞳の潤みは、ジンライの姿を映しながら輝いていた。  
 やがて、ジンライは腰を少し押した。また、新たな部分に男の部分が侵入する。

「あ、く、ううっ!」  

 唇からは痛々しい呻き声が洩れる。しかしウスラは、掴んだジンライの腕に力を込め、襲い来る激しい痛みに耐えていた。ジンライもまた、そのすがる細い腕を愛しく思い、腰を引く。

「あんっ、くう……っ」  

 ジンライのモノが自分の中を逆進する。痛みは少し和らぐが、少女は違うものを今求めていた。今度腰が押される時、先端はもっと深いところに辿り着くだろう。痛みはまた増し、躰が引き裂かれそうになるだろう。でも、でもその痛みよりも、腰を引かれた時の空虚と、逞しい肉の柱に貫かれ狭い内部を満たされた時の気持ちの方が、今のウスラにとって大事なものだった。  
 自分が淫らな事を考えているなどと、ウスラは微塵も思ってはいない。逞しいものに貫かれたいなど、十四の娘には思いもよらぬことであろう。男女のまぐわいに嫌悪感を抱いていたウスラならなおさらだ。

「あ、あん……くうっ」  

 だが、ウスラは確かにそれを感じていた。痛みと共に訪れるこの上ない充実感を、ジンライのこわばりに求める。それは淫らな事でもなんでもなく、火照った躰を持て余しているウスラにとって当然の事だったのだ。

「ああ、ウスラ……っ」
「うん……っ、ふうん!」  

 ジンライほどの男が、自分の呻きに戸惑っていた。ウスラと同じ年頃の敵方くのいちを、珍棒で突き殺したことがある。相手が幼かろうと美しかろうと、ジンライは今までこのまぐわいという行為に躊躇した事はない。性の情など、忍びの任務に邪魔になるだけなのだ。  
 しかし今、どうやら自分はこの手の中の娘に、明らかに情をかけているらしい。もはや自嘲するしかない。

「あ、あん……ふあっ!」  

 ウスラの白い肌に、美しい赤みが差し始める。唇から洩れる声も、ジンライが入れた頃の呻くような声とは明らかに違う。その変化は、ウスラ自身気づいていない。ただ一人、その変化を作り出しているジンライだけが、その少女の乱れをいたわりの瞳で眺めているだけだ。

「ウスラ、ウスラ……」
「ふあん……っ、じ、ジンライさ、まぁ……」  

 互いの名を呼びながら、二人は再び視線を交わした。潤む瞳と瞳。相手の瞳の色に導かれるように、ウスラはジンライの腕にしなやかな爪を立て、ジンライは腰の抽送にさらに力を込めた。

「あん、あんっ……ジンライさま、ジンライさまぁっ!」  

 痛みはまだ確かにある。だがジンライと躰をつなげていることで、今まで感じた事のない何かが、躰の奥底から湧き上がって来るのもまた悟っていた。色くのいちたちによってもたらされた昂ぶりと同じような、しかしそれ以上に素晴らしい絶頂が、ウスラを包み込もうとしている。  
 ジンライもまた、ウスラをいたわるよりも自分のモノで気をやらせる事こそを目標としていた。腰はすでに通常の交悦時のように躍動を繰り返している。無垢な処女の膣奥に自分の樹液をほとばしらせてこそ、二人にとって最良であると考えたのだ。

「くうん、うんっ……はあっ!ジンライさま……わたし、わたし……っ!」
「おお、ウスラ……ウスラっ!」  

 真っ暗な部屋の中、齢二十六の男と齢十四の娘が、絶頂に向かって激しく躰を交わしている。傍目からどのように見られても、今二人にとってこの交歓は何よりも素晴らしいものだった。

「んんっ、あんっ、あくう……っ、うんっ!」
「……ウスラっ、おお、ウスラ!」  

 少女の白い躰から汗がしたたる。  
 男の口から嗚咽が洩れる。  
 少女の指が男の肌に爪あとをつける。  
 男の手のひらが少女の美乳を揉みしだく。  
 男と少女の間から、液のぶつかる音がする。

「あんっ、ジンライ、さまぁ……っ、な、何か……ああ、何か来る……っ!」
「ウスラ……っ、ウスラっ!」  

 自分の躰がどの時どのように動いているか、少女は気づいてはいない。痛みを越え、性の悦びを求める女となった時、ウスラのしなやかな躰は、ジンライに向かって少し揺らめいた。そうすれば、もっと素晴らしいものが手に入れられるはず。それはもはや、本能だった。

「んあっ、ジンライさまっ……あんっ、来るっ、来る……っ!」  

 あらぬ声を上げ、少女は高みに駆け上った。全身を震わせ、必死にジンライの腕にすがりつく。荒々しい痺れが全身を襲い、それが大きな波となってウスラの心を、浚った。

「おお……っ、ウスラ!」  

 ほぼ同時にジンライもまた、押し寄せた激しい衝撃によって、少女の体内に熱い溶岩をほとばしらせた。ウスラは痺れるような感覚と、中心に注ぎ込まれた液体の熱い感覚を、 霞んでいく意識の中で感じていた。  


 すやすやと寝息を立てるウスラの横顔を、ジンライは静かに眺めている。  
 全裸の少女は、寝ていても汗のしずくを白い肌に光らせていた。こんな美しい少女が、自分に何もかも投げ出したのだ。  
 少しだけ心が乱れる。今夜この少女を抱くほんの一刻ほど前に、もう一人の美しい娘を、ジンライは抱いていた。無論ウスラには何の関係もないことだが、なぜかジンライの心は、少し痛む。

「ふっ……」

 ジンライは自分に冷笑し、目を伏せる。心の中でわだかまっているものは、まるで解決していない。なぜほんの一週間ほど前に出逢ったこんな小娘に、こんなに心乱されるのか。 心の乱れを隠すため、ジンライはウスラにまた口づけた。

「あ……っ」  

 ウスラがゆっくりと目を開ける。

「ジンライ、さま……」  

 か細い声でそうささやくと、ウスラはジンライの逞しい胸板にその白い躰を寄せた。まるで淋しがり屋の幼子が、父の懐にすがるように。

「ウスラ……」  

 その娘の頭を、ジンライは優しく撫でる。ウスラは、もしかして自分に父の姿を求めているのだろうか?  
 しかし、ジンライにはその自信はない。親も子もいない世界、それがいくさ忍びの世界なのだ。そして、ジンライにはその想いに応える義務もない。しかしやはり、心が乱れる。  
 ジンライはウスラの躰を抱き、また寝具に横たえる。その荒々しい動作にも、ウスラは潤んだ瞳で応えた。

「ウスラ……もう一度、よいか?」
「……」  

 ウスラは何も応えない。しかし、かすかに、首が上下した。  
 ジンライはそのまま分身を少女の秘裂にあてがった。破瓜のしるしと愛液と、自分の放出が交じり合って濡れたままの、あの場所に。

「く……っ」  

 ウスラは瞳を閉じ、まだ残る痛みに耐えようとする。しかし、ジンライの肉体を前よりもしっかりと抱いて、結合の深さを何よりも願っていた。  


 ウスラは目覚める。見上げれば、粗末な小屋の天井。暗い部屋に、かすかに囲炉裏の炎が揺れる。

「どうした……息が荒かったようじゃが、悪い夢でも見たか?」  

 見張りをしていたあの老忍びが、ウスラを心配そうに眺めやる。

「……いえ、何でもありませぬ」  

 そう言ってウスラは、再び目を閉じた。また、あの夜の夢を見てしまったようだ。  
 四月前のあの夜、結局何度ジンライに抱かれたのか覚えていない。ただ、夜明けの頃まで激しく抱かれ、最後には声を上げ脚を絡ませるだけだったと、かすかに覚えている。今でも、顔が紅潮する。  
 あの日から、ウスラはジンライに抱かれていない。次の日から何事もなかったようにまたあの激しい訓練が始まったのだ。しかし、ウスラは前よりずっとその訓練に真剣に取り組んだ。自分のために、目の前にジンライがいる。それだけでウスラは嬉しかったのだ。だからこそ四月の訓練の間に上達し、組織から重大な任務を任せられるまでになったのだ。  
 他の忍びでさえ尻込みするような今回の任務も、ウスラはジンライのためだけに受けたと言っていい。わたしが任務に成功すれば、ジンライさまは誉めてくださる。また、愛してくださる……。

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