くのいちハガネ忍法帖特別編 女忍者無残

第六話「忘我」

 ぽつぽつと、気味が悪くなるくらいに、水が滴り顔に落ちる。しかしジンライは、それをもろともせずに洞窟の奥へと進んでいく。ジンライには、この洞窟の奥底に目的があるのだ。
 松明の灯りも心もとなくなるほど、深く暗い洞窟。それを、ジンライはもう半刻ほど一人で進んだろうか。地上の光はおろか、もはや生物が棲息している気配すらない。
 やがて、ジンライは足を止める。もう進む道はない。寒く暗い洞窟の末端。

「……」

 何もないように見える洞窟の奥底で、ジンライは辺りを見回す。そして、ごつごつした岩肌に近づき、松明を近づけた。

「……ゴンザ!」

 岩肌にそう呼びかける。ジンライのその声に、洞窟の岩肌は劇的な変化を遂げた。バリバリと岩や石が剥げ落ち、その中から異容を帯びた巨体が現れたのだ。

「やはりここにいたのか。いくさの前だから、お前一人で訓練しているだろうと思ったが」

 のそのそと自分の前に進み出た怪威の人物に臆することなく、まるで親しい友人のように語りかける。実際、この二人は親友と言っていい関係だ。
 ジンライとこの人物、ゴンザは同じ齢二十六。いくさ忍びとなった時期も近く、二人で数々の戦場を駆け、数多の勲功を挙げて来た。
 ジンライは動、ゴンザは静。二人のタイプはまるで違っていた。ジンライは戦場を縦横無尽に駆け巡り、敵将を白刃の元に切り捨て戦場の勝敗を一変させた。敵忍軍の陣営から、「黒装衆に迅雷あり」と恐れられていたのがジンライだ。
 一方ゴンザは、その巨体を闇に紛らせ歴史を裏から混乱させた。大雨の降る時期まで敵地に身を隠して待ち、敵の軍勢が通る道筋に土砂崩れを起こさせ、あるいは敵の本陣に夜陰に紛れ侵入し、敵将をまるで自然死のように暗殺した事もある。「名も知らぬ敵忍び」であるゴンザが恐れられた所以だ。
 無論、ジンライもゴンザのような任務を完遂させる実力を持っていたし、逆の場合も然りだ。だが他人の評価はあくまでジンライは動、ゴンザは静であった。しかし、互いの実力を認め合っているからこそ、ジンライとゴンザは他人の評価など気にせずこうして付き合っていられるのだ。ジンライが次期リーダーの実質候補者と認められた今でも、誰よりそのことを喜んだのはゴンザであった。ジンライはもちろんそれを知っている。

「……」

 ゴンザは戦友が自分を尋ねてきた理由を、鈍い光が棲む瞳で計った。ゴンザは激しく苦しい修行の末言葉を失ったため、質問で真意を問うことなどできない。


「……ああそうだ。お前にどうしても頼みたいことがあってやって来た。話を、聞いてくれるか?」

 ゴンザは肯く。ジンライの表情から、ことが重大であることを悟ったのだ。二人は互いに肯き合い、深い洞窟を出口の方へと歩み始めた。


 四日前に都に入り、笛売りから町娘へと装束を変えたウスラは、任務の地 近江国へと入った。近江国は京に近く物売りや旅人で賑わっていたが、すでにまもなく起こるであろういくさの気配を察知して、人々は皆漠然とした緊張感を漂わせている。上洛を目指すさる軍勢が、大挙してこの国を治める陣営に攻めかかろうとしているのだ。物売りも、衣服や装飾品ではなく、米や油といった軍需品を扱う者が多くなっているようだ。
 ウスラは次に自分がするべき選択に、迷っていた。黒装衆がこのいくさで功を上げるためには、甲乙どちらかの陣営内に侵入し、内部から撹乱しなければならない。それも、その撹乱を黒装衆が行ったことだと、外部に漏れてはならないのだ。この国を有する甲の陣営か、攻め上る乙の軍勢か。ウスラは城下の町を歩みながら、あてのない選択の回答を探していた。

「……へえ、尾張からいらしたん?そりゃ、遠いとこから難儀やねえ」

 宿の女将はそう言って、幼い身で遠旅してきたであろう少女をねぎらった。

「はい。ここでしばらく休み、母を訪ねて美作国まで行こうかと思っています」

 ウスラは笑みを返したが、ほんの少しだけ、嘘を並べていることに心が痛んだ。しかし、自分が帯びている任務を語ったところで、何の意味も為さないだろう。

「美作やその先の備中なんかでも、大きないくさが多くなってるからねえ。あんたも気いつけなさいよ」
「はい」

 市井の人たちの優しさに触れながらも、自らが生きている世界を顧みて、改めて身を正す。任務に関して、ウスラはまだ何も成してはいないのだ。

 ゆっくりと、体を横たえ畳の上に寝る。目を閉じれば、通りで戯れる子供たちの声も聞こえる。母がまだ健在だった頃、生まれ育った村で幼い時に感じていた以来の、あまりに久々でほんのささやかな、安らぎの時間だった。
 ふいに、子供たちの声がかき消された。代わりに、荒々しい馬のいななきと蹄の音が現れる。
 ウスラは体を起こし、窓から外の様子を眺めた。城の者であろう、三人の武士たちが馬を宿の前に止め、何やら騒がしく宿の者たちと話している。

「……飯炊きの者を出せと言っておるのだ。長い間と申しているのではない、このいくさの間だけじゃ」
「とんでもねえ、いくさなんて物はいつ終わるか分かんねえはずだ。飯炊きを城に連れていかれちゃ、この宿は商いできなくなっちまう!」
「安心せよ、今回のいくさは敵軍の上洛を防ぐだけでよい。この国を守る二つの堅城には、わが主君と総勢五万の精鋭が敵を迎え撃つ準備をしておるのだ」

 ウスラは二階から階下に降りて来た。侍三人と店の主人の押し問答が、まだ続いている。
 少女の思考中に、一つの方向性が浮かんだ。城に飯炊きとして潜入し、内部から撹乱する。先程まで、進軍してくる軍勢に紛れ込む方が容易だと考えていたがどうやら、向こうの方から好機が転がり込んできたようだ。「好機を読むのも、忍びの資質だ」というジンライの言葉を、ウスラは淡い感情と共に思い出しながら。


「……しかし良いのか?あんな素性も分からぬ小娘を城に入れて」
「なあに、あんな小娘だからこそ、危険が少ないに決まっておる。ましてや今は非常時じゃ。兵糧がいくら多くても、それを炊く者がおらねば長きいくさは戦えぬからな。それに……」
「それに?」
「……最近の若殿が、どのようなおなご達と遊んでおるかお主も知っておろう。奥方は見て見ぬ振りじゃが、先程の娘も良く見れば殿好みの若い娘。それを雇ったのは誰ぞ、となれば我らは、殿より褒美を賜るかも知れん」
「ほお。そこまで考えておったのか」
「そうよ。じきに若殿は飯場を視察になるだろう。その後のいい知らせを待っておろうぞ」

 ウスラを城の台所へと案内した侍たちは、そう会話しながらいずこへかと立ち去る。


 大勢の飯炊きたちがいるその台所でも、ウスラはやはり浮いている。ほとんどが城の台所を普段から任されている男の食事係だし、ウスラと同じように町より駆り出された者たちの中にも若い娘はいたが、ウスラのような幼い女はいなかった。大方の作業手順を責任者から聞きはしたが、ウスラは当然のように雑用係となる。
 その日の夕刻。ウスラは額に汗してさまざまな雑用をこなしていた。もちろん、周囲の様子を細かく観察することも忘れずに。

「……?」

 辺りが何やら騒がしい。飯釜炊きの職人たちがざわめき始めたのだ。ウスラが顔を上げると、飯場の入り口辺りに数人の侍たちが姿を現している所だった。

「若殿つきの侍たちだね……」
「気まぐれ殿さまの巡回だよ……」

 周囲のざわめきから、そんな言葉が聞こえてくる。ウスラは、なるべく目立たないように人々の後方に立ちながら、ことの推移を見守った。
 侍たちのあとに現れた男を見て、ウスラは思わず不快感を覚えた。この人物が、周囲の人たちの言う『城主』ならば、なるほど尊敬する気も起きぬであろう風貌だった。
 貴族趣味の豪華だが下品な模様の装束に包まれた体は、武将としての迫力をまったく持たぬ肥満体で、その上に烏帽子を被り載っている顔は、これまたあばただらけの皮膚をおびただしい量の白粉で塗り隠したもの。ウスラはこの一族が長い間都に近い土地を支配してきた事を、忍び小屋の老忍者に聞いていた。都における怠惰な生活が、この醜い中年男を観察していて見て取るように分かる。
 城主は侍たちに混じって飯炊き職人を眺めている。たまになにやら傍らの侍に耳打ちで指示しているようだ。

「……!」

 一瞬、ウスラと城主の目が合った。ウスラが息を呑む。正体が気取られたかもという恐怖もあったが、それ以上に恐ろしかったのは、男の表情に実父と同じような淫猥な表情が浮かんだように見えたからだ。
 城主はまた先程と同じように側近に耳打ちして、そのまますぐに飯場を後にした。周囲はまた先程までのような忙しげな雰囲気に戻った。それから、何事もなかったように幾刻が過ぎ、飯炊きたちも与えられた部屋に帰される。ウスラは、飯炊きの女たち専用の大部屋に向かった。


 疲れた者たちが、幾人か寝息を立て始める頃。ウスラは布団の上でまた思いを巡らせていた。
 まずここまでは上出来であろう、と思う。まったくの偶然ながら、この近江国を守る甲の軍勢の本拠に潜入することができた。自分の働き如何でこの陣営を内部から撹乱し、黒装衆に有利な状況を作り出すことができるのだ。しかし逆に、予想以上に安易に潜入できたからこそ、その撹乱の機を探る情報を集めることができなかった。いくさの最前線は、不確定要素が多すぎる。ウスラの胸には不安が大きく渦巻いていた。

「ジンライさま……」

 愛する男の名を、ウスラは思わず呟く。

 お前が正しいと思えば、俺が正しいと思ったのと同じだ。ジンライはそう言ってウスラを送り出した。不安になればなるほど、そのジンライの言葉がこの上なく頼もしく思える。他のいくさ忍びなら、戦場で死ぬことなど本望であろう。しかし、ウスラは生きて帰らねばならなかった。死ぬことが怖いのではない。ジンライに会えなくなるのが、何よりも怖いのだ。

 胸に立ち上がった熱い思慕の情は、廊下を歩く足音でかき乱された。何名かの人間が、この部屋に向かって来ている。ウスラは身構え、懐に隠している短刀を握り締めた。
 扉が開く。そこに居たのは侍ではなく、女官だった。女官たちは事務的に、部屋にいる女の何名かの名を呼び、自分たちについてくるよう命じた。そして、その中にはウスラの偽名もあった。


「あ、ううっ。た、助けて……っ!」

 襖一枚隣の部屋、その女の悲鳴はウスラの耳にしっかりと飛び込んできた。自分の前に幾人もの女が隣の部屋に連れて行かれ、同じように悲鳴を上げていた。悲鳴だけではない。切なそうに洩れる呻き声も一緒だ。年齢順だという理由でウスラは最後となったが、きっとすぐにも同じように名を呼ばれ、同じ責めを受ける事になるのだろう。
 ウスラはもう知っていたのだ。常人以上に訓練された聴覚が、叫びや呻きと共に聞こえて来るかすかな音を捉え、その音がぬめ溢れる女の愛液であることを。
 なんとこの世は、淫らな事象が多いことか。ウスラはわずかな憤怒と小さな自嘲を感じていた。少し前までなら汚らわしいと吐き捨ててこの場を去っていたはずだ。しかし、ジンライとのつながりに我を忘れて狂い乱れたあとの今のウスラには、性愛を全て否定することなど出来なくなっていた。ましてやウスラには今、ジンライから託された大事な任務がある。自分が抱いているジンライへの愛に報いるためには、一時の恥など耐えることができるはずだ。

「ひ、いい……あ、あ、あう……っ!」

 襖の向こうで、その高い声は長く糸引き、そして絶えた。とすんっ、と躰が崩れ落ちる音ののち、数人の女たちのひそひそ声が続く。
 耳を澄ますウスラに、重いものを引きずる音が聞こえる。おそらく気を失った女を、あの城の女官たちが何処かへ運んでゆくのだろう。

『次の者を』

 隣の部屋から、確かにそう聞こえた。すぐさまウスラは襖から離れる。やがて襖の端が開き、一人の女官がウスラの眼前にゆっくりと歩み寄ってきた。

「来るのです、さあ……」

 冷たい声。何も知らぬまま連れて来られた村の少女を演じるウスラ。心中では冷静であろうとしているウスラも、これから隣の部屋で行われようとしている責めに対し、瞬間一つ、息を呑み込んだ。


 友の依頼は、奇妙なものであった。任務に万全を期したいのならば、即刻その任に就いているくのいちを解任し、このゴンザに代わらせればよいのだ。しかし、友はその明確な理由も語らぬまま「そのくのいちを支えてやってくれ」と言った。言葉を発することが出来たならばすぐに、「馬鹿な」と友に返しただろう。
 しかし、懇願するジンライの目は真剣だった。敵将を殺める際にも、こんな興奮した様子を見せる男ではない。それはゴンザが一番よく知っていた。だからこそ、詳しく訳も聞かぬまま、依頼を承知したのである。
 ゴンザの足はすでに近江国近くへと辿り着いていた。ウスラの速度も常人離れしていたが、ゴンザはそれすらも凌駕していた。ましてやゴンザは巨体や怪威を持ったまま、人に気取られることもなく移動するのだ。
 途中、ウスラも滞在したあのつなぎ小屋にも寄った。ゴンザはそこで、友の気持ちをおぼろげながら悟った。きっかけは、小屋の主 勘治が言った言葉だ。

「あの娘、ジンライさまに惚れておるようですな」……。他の振る舞いは一流の忍びそのものなのに、夜布団の中で寝入った時だけ、小さく『ジンライさま』と何度も囁く。若い娘のことなのでそれを本人には告げず、任務についてのみ語ったが、この歳でいらぬ気を遣ったと、勘治はまるで孫の祖父のような表情でゴンザに話してくれたのだ。それを聞きゴンザはさらに戸惑った。娘のそんな態度を、あのジンライが気づかぬはずが無い。そして、気づけばすぐにその娘を傍から遠ざけるはずだ。なのに、そうしなかった。何故だ?

 ゴンザはすぐに理解した。そして苦笑した。あのジンライを惑わすとは、いかなる娘であろうか。
 無論ゴンザは、ジンライがその娘のために身を落とすようなことはないと確信している。その証拠に、ジンライはそのウスラとかいう女に危険この上ない任務を授けたではないか。その女に溺れ身も心も崩したのならば、周囲の謗りも気にせず傍に置き、淫業にふけることだろう。


「しかしゴンザ様。確かにあのウスラというくのいちは、他にはない何かを持っておりまする。芯の強さ……いや、強いて言うのなら『おなご特有の強さ』とでも言いましょうか。まあ、これは老いたるそれがしの戯言かも知れませぬが……」

 勘治はそう言ってゴンザを送り出した。
 ゴンザは興味を持った。そのウスラと言う娘がどのような女であるか、と。齢十四の美しい少女。勇ましい友の心に何かしらの影を落とす少女。

 友の頼みだからこそ、とこの得る物の少ない「一人のくのいちの監視・護衛」なる任務を受けたが、ゴンザはその湧いた興味に急かされ、近江へと向かう足をさらに速めていった。


 暗い部屋の中央の柱に、全裸のあられもない身を晒したまま、縄で縛られ吊られる。父の陰茎を噛み殺し、忍びの里に連れられて来たあの日と全く同じ屈辱の姿を、ウスラはまた衆人の前に晒していた。違うのは、荒縄ではなく麻縄であり、その周囲を取り囲む者が男ではなく女だということだけだ。

「娘……名は?」

 顔の区別もつかぬほどみな無表情の女中たちのうち、誰かがウスラに訪ねた。縛られ全てを晒す屈辱の中、半年前なら固く唇を閉じ涙を流しながら周囲を睨みつけていただろう娘は、今は『ウスラ』という名を得て愛するジンライのもと、いくさ忍びの苦しい修行に耐えて来た。

「……さち、と申します。尾張の国より美作の母を訪ね旅の途中でしたが、土産を忘れその金を得るため城の飯炊きに志願したのです……なぜ、なぜこんなことをなさるのですか……」

 瞳からはらはらと幾粒もの涙がこぼれ落ちる。熱くもない涙が。

『ウスラ、おぬし悲しくなくても泣けるか……?』

 ジンライが修行の途中、ウスラに尋ねたことがある。

『……試したことはありませぬが』
『そうか』

 ウスラの涙がもはや枯れ果てたと知るジンライ。思うところあって尋ねてみたが、ウスラは気に止めなかったようだ。

『何もない、気にするな』

 ジンライはウスラに背を向け、間合いを取るため数歩離れようとした。

『しかし……』
『……ん?』
『ジンライさまが、お望みなら』

 振り返ったジンライは、ウスラの表情に息を呑んだ。そこに女忍びの顔はなく、何も知らぬ無垢な村娘の泣き顔があったのだ。ジンライはすぐに落ち着きを取り戻し、ウスラに言う。

『いくさ忍びの世界に、おぬしのようなおなごは数少ない。女の涙というのは、それを見ている者たちを限りなく戸惑わせる。男の忍びには、そんな芸当はとても出来ぬ』
『はっ』
『その才を伸ばすがよい』

 ジンライはそう言った。ウスラは、悲しくなくとも涙を流すのだ。

「町へ、町へ帰して下さいませ……母が心配いたします……どうか町へ」
「お前は他の娘らと共に、この城の若殿に見初められたのだ。何が悲しくて、下々の娘を選んでお抱きになるのか……」

 また一人の女官が、少し上ずった感情を含んだ声でウスラに言った。泣き乱れる外見とは裏腹に、ウスラは冷静に分析した。
 この城の若殿、つまりあの醜く太った男が放蕩の結果、側室や女官たちでは飽き足らず町娘にまで手をつけており、それは城内に少しの反感を与えているようだ。台所の人々やこの女官たちのそぶりから、それが分かる。

「ともかく……われらは若殿が望むならその支度をせねばならない。お前のような娘たちの躰を隅々まで調べ、最上の状態で若殿に引き渡すことが、われらの仕事なのだ」

 その言葉を合図に、周囲の女官たちが梁に吊るされたウスラに近寄ってくる。ウスラは恐怖に慄く町娘として、涙を落とし続ける。

「歳はいくつじゃ……?」

 一人の女官が、ウスラの傍に立ち、その幼く健康的な全身を嘗めるように見ながら尋ねてくる。ウスラから見ても綺麗で魅力的なその女官にさえ、ウスラの若く美しい肉体は羨望と嫉妬を感じさせずにはいられない。

「……十、四です」
「十四……ふん、十四でこのようないやらしい躰なのか。憎たらしい」

 忌々しげに言葉を吐くと、その女官はウスラの瑞々しい乳房に手を宛がう。

「く、うっ」
「ふふん、何も知らぬ乙女のはずなのに、乳を責められれば声を上げるの?」

 ゆるゆるとウスラの乳房を揉みながら、女官は侮蔑の思いを目の前の美少女に向ける。華々しい生活を夢見、良家より城に来たのに、若殿の情けを満足に受けられぬままである不満が、すべてウスラに向けられていた。他の女官たちも、同様であろう。

「ほうら、お前のいやらしい乳首がわたしの手の中で固くしこっていくよ」
「あ、ううっ。や、やめて、ください……後生ですから、やめてっ」
「馬鹿だねえ。もうあんたは、自分がどうしようたって、ままならない立場なんだよ。あんたは、もうこの城のモノ、若殿のモノなんだよ!」

 乳房を揉む手に強い力がこもった。指先がきつく締められ、しこった乳首を痛めつけられる。

「ひ、いいっ!」
「ふふっ、こんなにここを固くして、そりゃあ痛いはずだよ。でも、痛がってるわりにはどんどん固くなってる。まったく、とんだ淫乱娘だね」
「いたいっ、やめてぇ……」

 美しい眉が歪み、喉奥から悲痛なうめきが洩れる。これまでの陵辱の際に感じてきた激しいだけの痛みとは違う、針の先で幾度も突かれるようなきつい痛みだった。ウスラには耐えることが出来る。しかし、女は的確に痛みを感じさせながら女の核心を疼かせている。自分を張型でこじ開けようとした3人の色くのいち候補たちとは明らかに違う、女官の指先だった。

「ふうん、じゃあ私も若殿のために、この淫乱娘の躰を調べてみるとするわ……」

 また、美しい女官が一人、ウスラの前に歩み出た。

「ああ……っ」
「本当に、憎たらしいくらい綺麗な躰ね。灼けた肌、灼けきれていない白い肌……町にいる時もさぞかし男たちを誘惑してたんだろうね」

 女はゆっくりウスラの周囲を回りながらその躰を眺め、やがてウスラの背後に辿り着く。

「……で、今度はこの城で若殿を誘惑した。この……泥棒猫っ!」
「く、ひいいっ!」

 女の指が突然、ウスラの肉豆をひねった。これにはウスラも全身を震わせ苦痛に叫んだ。その女官は一瞬で、吊られた少女の隠された肉の球を探り当てて見せたのだ。

「あらあら、こんなことで叫んでいるようじゃすぐに気をやってしまうわよ……」

 女官は剥かれた濡豆から指先を離し、今度は違うほうの手の指を二本、ぬめり始めた淫裂に添わせ始める。

「んん、くふう……っ」

 眉はさらに歪み、瞳は固く閉じられ、全身から汗が滲み出る。ウスラは、かき乱される思考に戸惑っていた。女官たちの指の攻撃に、躰を任せたほうがよいのか。それともやはり、無垢な町娘を装ったほうがよいのか。
 だがその選択肢さえも、肉体の奥底から白く霧のように湧き上がってくる感覚に霞んでいく。

「ほら、お前のいやらしい汁だよ。自分で始末しな、ほら!」

 先程肉豆を弄くっていた左手の指先を、女官はこれ見よがしにウスラの眼前に差し出した。そのまま右手でウスラの淫泉を愛撫しながら、濡れた左手を強引に唇に突っ込む。

「う、ぐぐう、うっ!」
「舐めろ、ほら!早く舐めないと、お前のこのかわいらしい口を指で引き裂いてやるよ!」
「ぐ、ん、んむ、う……んっ」

 口内で癇癪をおこす女官の指を、その指を湿らせた自分の淫汁を、ウスラは舐めるしかなかった。ホトから洩れた自分の汁など、ウスラは味わったことがない。女官の爪が掻き裂いた口の中の傷、そこから出でた血の味とともに、ウスラは自分の淫液を舌先で舐め取った。

「あらまあ、凄まじいなめ方だこと。男のモノと勘違いしてるんじゃないのかい?」

 女官は手のひらを尖らせ、残りの指もウスラの小さな口に侵入させた。

「あ、ぐ、あう……っ!」

 ウスラの呻きにも、女官は躊躇などしない。その手先をまるで口淫に浸る男根のように、前へ後ろへ激しく動かす

「ぐあ……っ、あぐうっ!」


 手による口への陵辱は、ウスラにまた口淫の恐怖を甦らせる。ごく潰しの父親が、あの夜股間のモノを怒らせて、ウスラの口に捩じ込ませた。忍びの里に連れて来られたあの日、下忍たちの汚れた何本もの怒張で口を犯された。
 
男たちはウスラの喉奥に、無秩序に汚らしい樹液を撒き散らし、歪んだ欲求をさらに奮い立たせた。女官の指先は、そんな恐怖をウスラに呼び起こさせた。くぐもった喘ぎとともに、ウスラはふと考える。ジンライさまのものなら、自分はどうするだろうか、と。

「あぐっ、うふ……んぐ、んっ!」

 脳裏に浮かんだジンライの幻が、ウスラの判断を遅れさせる。口に手を差し入れている女官とは別に、三人の女官がウスラの躰に張りついて来たのだ。一人は胸、一人は尻、そしてもう一人が女陰。ウスラを本格的に辱めようとする体勢だった。

「く、ふぐうっ……う、ぐ、んんっ!」

 吊られ、裸に剥かれ、多人数に弄ばれる。あの夜の下忍たちも、ウスラに対してそうしようとした。しかし、今ウスラを取り囲んでいる女官たちの手管は、ただ性欲を満たそうとしていた下忍たちとは大きく違っている。女官たちの目的は、ウスラを際限なく辱めることなのだ。
 若殿が抱く前に、調査を称して女を淫欲の淵へ堕とす。万が一自分たちの責めに耐え若殿に抱かれる事があっても、多情な若殿に飽きられる頃には、町での正常な生活は営めない肉体になっているのだ。

「ああ、憎らしい乳首……っ、このままねじ切ってしまおうかしら」
「クククっ、かわいい顔して。あんたみたいな小娘でも、尻の穴はわれらと変わらないんだね……弄るたびにヒクヒク蠢いてる」
「嫌だ嫌だと言いながら、ココは淫汁でべちょべちょだよ……この淫乱娘、口とま○こじゃ言うことが違うんだ……」

 さらにウスラは、女官たちの怒りの対象として最適の女だった。この年端もいかぬ小娘は、自分たちにはない若々しく溌剌とした色気で、若殿直々の指名によりここに連れて来られたのだ。女官たち誰もが、この『さち』という小娘をよがり殺してやろうと思っているのだ。

「ほらっ、この分不相応な乳を揉んでやるんだ、盛大によがるんだよっ!」
「ぐ、ぎ、うううっ!」
「お前の汚らしい穴を舐めてやるんだ、ありがたく思いなっ!」
「ひぐっ、うぐ、うんっ!」
「ふん、こんなに私の顔を濡らせて……ただでは済まさないよ。お前が狂ってしまうまで、舐めるのを止めやしないからねっ!」
「あ、ぐっ、んっ……くう、うぐっ!」

 強烈だった。四人同時の責め。いくらジンライへの愛に縋るウスラでも、この攻撃は凄まじすぎた。頭の中で火花が何度も閃き、そのたびに大事な物が一つ一つ霞んでいく。躰の芯が燃えるように熱くなり、全身に暗い疼きが駆け巡る。

「……はっ、大した淫乱娘だよ。もう頭がいかれちまって、私の指をべろべろと舐めまわしてるよ」

 口を蹂躙していた指の束が女の声とともに離れたとき初めて、女のいう通りに自分の舌が猥褻に混乱している事に気づいた。
 なぜ……?ウスラは大きな戸惑いの中にいた。苦しく、その上激しい敵意を持った女官の指先を、自分の舌はまるで誘い、悦びに震えるがごとく舐めつづけていた。混乱する思考は、思い出したくもないことを思い出させる。
 今と同じように暗い部屋で裸で吊られ、下忍たちに犯されそうになっていたあの夜。
 今と同じように口に肉の塊を押し込まれ、恐怖と恥辱に支配されそうになったあの時。
 口に侵入させた怒張を強引に突き動かしながら、男は、すぐに喉奥に汚液を発射した。
 ウスラは、なにも意識してはいなかった。なのに男は、情けなく果てた。
 淫らなことを、ウスラは心から憎んでいる。心から感動できる交歓をジンライと交わしてから、尚更にそう思っていた。なのに自分の舌は、その淫らな事象に過剰に反応し、この上なく淫らに振舞う。女官たちが自分に対してぶつけてくる蔑みの言葉、『淫乱』。もしかしたら自分がその『淫乱』なのではないかと、ウスラは霞みゆく頭の中で思い始めていた。

「さて、お口が開いたんだから、もっともっと大きく喘ぐがいい。胸も、尻も、ホトも休む暇なく責め立ててあげるよ……そう、お前が狂ってしまうまでね」

 股間に張りつく女が、一度だけ顔を上げ、ウスラに向かって囁いた。その顔は、ウスラの汁で濡れていた。

「あ、あうう……うっ!」

 間断なく続く恐ろしいまでの責め。くのいち候補たちに盛られた、強力な媚薬以上に躰を熱くさせる。ウスラは、喘ぎを止められなくなっていた。

「ほらほうらっ、こんなに揉んであげてるんだ。感謝して気をやりなっ!」
「フンっ、臭くてたまらないよ、この田舎娘。ヒクヒクさせやがって、いまいましいっ!」
「おさねをこんなに膨らませて、そんなにきつく舐めて欲しいのかい?……それならこのびしょびしょの割れ目と一緒に、舐めてやろうじゃないか。気持ちよすぎて、頭がおかしくなっても知らないからね」
「ひい……い、いいんっ!」

 肉体を駆け巡る電流が、中心で一つに束ねられていく。それが頭に届いた時、ウスラは全てを忘れてしまいそうだった。技術も、任務も、そして愛する男のことも……。

「あ、ひ、いい……っ、ん、あっ、い、ひっ……!」

 陰豆をすすり上げる股間の女官が、指先も繰り出してきた。巧みに舌先で舐め続け、中指人差し指を熱く滾った淫裂に滑り込ませる。

「ひあっ……あく、うっ、あ、あいっ、いい、ん……っ!」

 侵入して来た指先は内部で鉤型に曲げられ、ウスラの幼い粘膜を遠慮なく攻撃する。

「あひ、い……っ、い、いんっ、あんっ、あ、ああんっ!」

 それは決定的だった。激しく揉まれる乳房、恥辱の中で舐められる尻、そしてなにより的確な秘部への責めは、ウスラのかすかに残った自我さえ奪い去ろうとしていた。
 ジンライさま、助けて……っ、ウスラ、このままじゃ……ダ、ダメになるっ……ああっ、堕ちるのはいや……助けて、ジンライさまっ!
 愛する男の面影を、ウスラは必死で追っていた。ウスラには、縋るものはそれしかない。すべてを浚われてしまいそうな、快感。

「……?」

 ウスラの躰に取り付いていない女官の一人が、あらぬほうへ顔を向けた。何か、音がする。普段のウスラなら、その音に気づいたことだろう。しかしウスラは今、性の悦びに狂う一歩手前にいた。そのだんだんこちらに近づいて来る音、幾人もの人間の足音にも、まるで気づかなかった。気づくことすら、できなかった。

ひとこと感想フォーム

戻る     第七話へ