前編
「うわー。栄子さん、しらしんけん舐めよんねー。そげえ佐藤さんのチンポが気にいったんかえ?」 「んー……えへへ、そうやねー。うちん旦那より大きいけん、しゃぶりでがあるよお」 「へえ、そりゃええね。まあ、栄子さんが宴会でん一番気に入られちょったけん、最初んフェラは譲っちゃんけど、でもそんあと、一番初めんオメコは婦人会で決まったわしん順番でー」 「もー、わかっちょんて!まだいっぱい舐めてえけん、ええやろ?……んじゃ佐藤さん、また佐藤さんのチンポ舐めるで。べろしんけん使うけん、気持ちよくなったら出してんいいよ……ん、んふっ、んちゅっ」 強い酒を勧められるまま何杯も呑まされ、身体はまだ力がこもらない。目はかろうじて開けていられるが、闇にうっすらと浮かぶ天井が見えるだけ。だからこそ余計に、今自分が置かれている状況が全く掴めない。 女3人の声は、郁夫が意識を取り戻した時から続いていた。内容はやはり、密やかな嬌声と低く連続する濡れ音。普通ならば、アルコールの酔いのために見た淫夢であると思ったに違いない。 「わ、また大きくなってきちょん!栄子さんのしゃぶりかたが上手いけんかしらんけど、ほんと佐藤さんのチンポはおっきいわあ」 「……ちょっとー美知恵さん!しゃっちみち栄子さん褒めち、いかんよー。ほんとに佐藤さんが口に出したらどげえすんのね!」 しかし、夢でない証拠がある。身体は動かないが、確かに誰かに股間のモノを舐められている。フェラチオ、されている。 それだけではない。たまに乳首やへその辺りも何者かの舌が這う。聞き慣れない女たちの言葉と、淫らな戯れ。郁夫はこの奇妙で淫猥極まりない空間の真実を掴もうと、回らぬ頭で必死に思いを巡らせた。 「いやいや、こげん田舎にあんたらみたいな若え人が来ちくるんちゃあ、村んとっちいいこっちゃ……さあ、もっと飲まんし」 目の前の白髪の男は、34になる郁夫を『若い人』と称しながら地酒を注いで来る。白髪の男のその後ろには、同じように一升瓶を抱えて郁夫へ酒を注ごうと待つ数人の男達がいる。 「いや、あの……もう結構なんで」 「なに言うちょんな、最初ん一杯目ん飲みかた見たらまだまだいけるに決まっちょん!心配せんじ、酔いつぶれてんここはあんたん家やし、わしらがちゃんと世話しちゃんけん」 なるほど。 実際に田舎で暮らすにはこういう苦労もあるのか、と郁夫は酔いが回り始めた思考の中で苦笑する。事実、誰を招待したわけでもないのに郁夫が購入したこの元農家の広い居間には、近隣の住民が当たり前のように集まっていた。 まるで村祭りの打ち上げのような騒がしさは、単に『今日都会から若い夫婦が引っ越して来た』のをただ歓迎するためだけに行われているのだ。 生まれてからずっと東京に住んでいた郁夫は、大学で民俗学を学んでから田舎暮らしに対する憧憬を深めて行った。在学中から思うままに地方をフィールドワークし、就職後も出版社勤務の傍ら田舎に関する雑記を自社の旅雑誌などに投稿していた。それが上司の目に留まり、勧められて田舎旅ライターとして独立する事になる。素直に古き良き物に憧れる郁夫の文章は読者の心を掴み、今ではある程度は稼げる身分にまでなった。 「田舎に住みたい」と告げた時、妻 麻利は一瞬戸惑った顔をしたが、 すぐに微笑みを返した。「言い出したら聞かないものね」と。 大学時代、3年後輩で同じように民俗学を学んだからこそ、抵抗がなかったのだと郁夫は思っている。 「九州の弥ヶ江村って所がいいよ」と詳しく調べてくれたのも麻利だった。 「あ……」 そういえば、麻利の姿が見えない。あまりの喧騒に、すっかり妻の存在を忘れていた。 「ん?主役がよそ向いち、どげえしたんね」 「あ、いや……妻の姿が見えないなぁ、と思って」 小さな呟きを聞いた周囲の老人達から、どっと笑いが起こる。 「なんね、嫁ごがそげえおじいんかえ!」 「あんなめんこい奥さんやに、ほんとは尻に敷かれちょったんかあ」 「ならうちとおんなじや……どこでんいっしょやな!」 妻の不在を口にしただけで、ここまで囃し立てられる。郁夫の苦笑いは続く。 「気づかんかったかえ?さっき田中さんとこと飯干さんとこと池上さんとこの奥さんらと、台所にご馳走作りにいったやんかえー」 「あ、そういえば……」 皆が賑やかに集まり始めた時、お土産にと美味しそうな野菜を持って来てくれた奥さん達と、楽しそうに地元料理の話を始めていた麻利の姿を見ていた。 「そうや佐藤さん。もうちょい待っちみらんし。こん村んうめえもんがようけ出てくんけん」 そう言ってずいっ、と横から一升瓶を差し出したのは、田中さんという人だった。40代後半のがっしりとした男で、村の青年会の会長だという。郁夫と麻利がこの古農家を購入し、生活を営もうとする際に色々と世話してくれた人物だ。 「はい、ありがとうございます」 「まあこれからいろいろしちくじい事があるやろうけど、佐藤さん夫婦やったらすぐこん村に慣れるわ。困ったらなんでんわしらに言っちょくれ。な?」 本当にありがたい言葉だった。実際まだ不安はある。仕事はパソコンやFAX入稿で充分対応できるが、日常生活は分からないことだらけだからだ。 「……はい、ありがとうございます」 同じ返事をして、郁夫は注がれた酒を一気に飲み干す。その瞬間に周囲から歓声が上がった。無理して呑んだ1杯だったが、なぜか少しだけ村のコミュニティに近づけたような気がした。 そして。そして。 「おっ」 「よーっ」 居間のあちこちで、突然先程までとは違った声が上がる。郁夫は、何事かと酔った瞳で声のほうを振り向いた。 「はー、べっぴんさんがようけ来たでー」 「もう今日ん夜は酒ん肴はいらんね」 「わはは、はようワシんとこ来て酒を注がんかえ!」 障子が開いたそこには、4人の女が立っていた。料理が盛られた皿を盆に載せ、にこやかに部屋へと入って来る。見知った顔と、ついさっき紹介されたばかりの顔。先頭は田中さんの妻 美知恵。続いて酒屋を営む飯干さんの妻 栄子。さらに大農家の池上さんの妻 葉子。麻利と共に台所に消えた近所の奥さん達が、料理を各卓に運んでいくつもりらしい。 そしてその最後尾に、麻利がいる。郁夫は、唖然とした。 4人は白い和服を着ている。浴衣のような、しかも無地で薄い生地、目をよく凝らせば躰の曲線さえ見えそうだった。 こんな衆目の中で、裸を想像させるような物を着ている美知恵、栄子、葉子そして、麻利も。 「なあ、よかろ?あん格好は新しく来たしを迎えるん時の、昔からん特別な衣装や」 隣の田中が説明を始めるまで、郁夫はあっけに取られて4人の女たちをずっと見ていた。 「で、でも……あれって」 中は裸ですよね?自分の妻に戸惑いの視線が定まり始めた時、後ろから肩をぽんぽんっ、と叩かれる。 「さとーさん」 振り返ると、そこには白い着物があった。薄桃色の帯、近くで見ると浴衣どころか、高級な絹で仕立てたような生地だった。そして……やはり透けていた。 「呑んじょりますかー?ここらの地酒は美味しいけん、どんどん呑んじくださいね?」 すっ、と目の前にお銚子が差し出される。薄い生地の向こうに透ける部分をはからずも凝視していた郁夫は、やっとその人物が栄子だと悟った。 「あ、はい」 気まずくなって、目を逸らしながら杯を差し出す。恥ずかしさに顔が紅潮するのが自分でも分かる。 「あらー、照れちょって。同い歳ぐらいやに、かーわい」 ニコニコ笑いながら、栄子はゆっくりと酒を注ぐ。 「まあ、そげんええ躰見せられちゃしょわねえな。何より栄子さんは若えし、肌もきれいやけん……っち、そげん事いうちょったらうちんかかに怒らるんかな?」 田中の言葉を聞いていた周囲の人々は笑う。 「なんちいよんのな!」 老人達に酌をしていた美知恵は、笑いながら怒っている。郁夫も、つられて笑う。 「ま、こげんカッコでも気にせんじいいよ?娘ん時からの決まりごとやけんもう慣れたし、どっちかいうと……今夜はカッコイイ佐藤さんによう見てもらいてえし。うふふっ」 栄子は、そういって郁夫の隣に座る。思いもよらぬくらい、近くに。 「なんかね……やっぱ都会から来たしは違う。こげえ飲んじょるに、落ち着いちょって」 頬がくっつきそうなくらい顔を近づけながら、栄子は郁夫の空けた杯に酒を足す。そのたびに肩口、そして胸のあたりが腕に接触し、郁夫は酒のせいではない動悸を感じて始めていた。 「はー、なんかえらい栄子さんに気にいられたんやな。うらやましー」 誰かが少し大きめな声で囃す。郁夫はドキッとして、慌てて自分の妻の姿を探した。 いた。 美知恵と葉子に付き添われて、上座のほうで歳の行った人たちから順に挨拶しながら酌をしている。 そして、ふと気づく。麻利も、目の前の栄子のように、裸の透ける姿で皆の所を回るのだろうか? 「……あ、奥さんがやっぱ気になるんね?」 栄子が、小さく笑う。その笑い声の息が顔にかかるくらい、すぐ隣に顔がある。 「さすがにそげえまでしちょらんよ?麻利さんは、しゃんとブラもパンツもはいてもらっちょん。『キレイですね』とか『可愛い』とかいうけん、ちっと着ちもらっただけ……だから、気にせんで私と呑もうえ。な……?」 郁夫の疑問に答えながら、またずいっ、と躰を寄せる栄子。明らかに柔らかい乳房だと分かる感触が腕にあり、郁夫はそれを意識して腕を動かせなくなってしまう。 「……赤くなっちょんのは、お酒のせいかえ?それか……私んせい?うふふふっ」 熱い吐息。相槌を打つべきか迷ってる間に、頬にちゅっ、とキスされた。 「ん、ちゅ、んはっ……すげえね……佐藤さんのチンポ、しゃぶっちょったら口が疲れちくんわぁ」 「ホント……あー、はよ私も舐めちみてえ」 「んふふっ。舐めちみてえんじゃなくて、入れちみてえんじゃねえんかえ……?」 「うん、そうかもしれんね……うふふっ」 3人の女の声全てが、股間の付近から聞こえて来る。そして、すぐにペニスや体中に舌の這う感触がある。 夢ではない、と郁夫はさらに思う。明らかに、道徳的に問題がある行為。だが、体はまるで動かない。動かないが、ペニスだけがいやに充実している。そこを舐められているという理由だけでは、ない。 「あ、ああ……っ」 小さく、唸る。郁夫が自分から進んで行動した結果が、この小さな声だけだった。 「あら……佐藤さん、イキそうなんかえ?」 「みたい、やね。どげえするの?栄子さん」 尋ねられたであろう、栄子という女は返答しなかった。その代わりにペニスを舐める運動が、ひどくきつくなる。 「ええの?美知恵さん。栄子さん、呑んじまう気まんまんみたいやけど」 「……ええよー。お酒にゴマジ入れて飲ませちょんけん、あとでちょっとあたったりしゃぶったりしちゃら、またすぐでくんようになるって」 「ああ、そうやね」 ゴマジ? お酒に、ゴマジ? まだ郁夫は、自分の体に施された全てを知る事はできないでいた。 「あっ……く、ううう」 放出感が、高まる。舌や唇はさらに巧みに動きを増す。 「……んっ、ああああ……っ!」 弾けた。夢か現かまだはっきりしないこの場所で、郁夫のペニスは誰かの口内に向けて、熱い精液を大量に放ち上げた。何度も、何度も。 「んーっ、んっ、んっ、んっ……」 股間から聞こえる、何かを連続して呑み下していく音。それは間違いなく、自分の精液であるはずだ。 嫌に、多い。 緩く重い思考の中でも、その精液の噴出が妻との交歓時以上に熱く大量な事を悟る。 「……は、あああ、熱いっ。佐藤さんの、おいしい……」 艶やかな悦びを含んだ声。 郁夫はやっとその声の主が、宴で最初に自分に身をすり寄せて来た飯干栄子だと確認した。 「ほらあ、もっと飲んじ……?佐藤さん」 栄子さんの接触は、ますます強くなっていた。言葉を出すごとに首筋や頬に唇が触れる。他の衆と会話している時も、躰を郁夫にぴったりと沿わせている。気を紛らわすために目の前の杯に集中するが、そうすればさらに栄子さんに続けて酌をさせる口実を与えてしまう。 「はい、ぐーっ、ち。ぐーっ、ち……あーええねーその飲みっぷり!」 栄子のはしゃいだ声。また挨拶代わりのキスか、と苦笑する郁夫に。 「……っ!」 栄子の顔が被さった。可愛げのあるキスではない、それは突然舌を挿し入れて来た生々しい口づけだった。 戸惑う郁夫に、更なる衝撃が走る。栄子はそのまま郁夫の首に腕を回し、躰全体を押しつけてきたのだ。女らしい全ての肉が、郁夫を強く圧して来る。 「……こーりゃ!そげえムリに迫っち、佐藤さんが嫌がったらどげえすんのかえ?」 押し倒される勢いだった郁夫に、今度は別の女の声が声をかけた。 「……ごめんなー栄子さん。あんまり佐藤さんがむげねえんで、ジャマさせちもらったで?」 「……もう、好かんわー!」 栄子の顔がゆっくりと離れ、郁夫はやっと助け舟の主を辿れた。 他の女性達と同じあの透ける和服。その中に栄子よりもスマートな裸身を隠している少し年上の女性 葉子だった。そのまま、やはり手にお銚子を持って、少しふくれっ面の栄子とは逆側に腰を下ろす。 通常の着物姿であったら、その似合い加減に見惚れてしまいそうなほど、葉子は楚々としている。しかしやはり、この薄く透ける和服では戸惑いや興奮が先に立ってしまう。栄子の直接的な接触が止みありがたいと思ったが、左右に半裸同然の美女が寄り添っている状況では、事態はあまり好転したとはいえなかった。 「栄子さんは嬉しいんよ。同い年ん若え男んしが村に来たけん。抑えられんっちいうか……もっと悪ういやあ、サカっちょんのよ」 葉子さんは笑って酌しながら、フォローとも皮肉ともつかない言葉を吐く。 「ははは……いやあ、ちょっとびっくりしましたけど。悪い気分じゃないですよ?栄子さんはその……おキレイですし」 1対1の場から逃れる事ができ、郁夫は久々に相槌以外の会話ができた。葉子なら年上の余裕で、酔い潰れそうな状況を救ってくれそうだと踏んだのだ。 「ほら見てえん!佐藤さんも嫌がっちょったわけやねえんで!」 だが。郁夫の言葉に栄子は過剰に反応し。 「なー佐藤さん?ホントはまだ私とちゅっちゅしたいんでなー?」 再び躰を押し付けながら、頬や限りなく唇に近い場所にキスの雨を降らせ始めた。形や弾力さえはっきりと感じられる乳房は、落ち着きかけていた郁夫の血流を再び乱す。 「ま、まあ、その……」 「ほらぁ、佐藤さんが困っちょんて!」 葉子が郁夫の後ろに回り、栄子の躰を優しく叩く。 「うー……そげん葉子さんでん、佐藤さんが村に来ちくれて嬉しいくせにー」 「……そりゃそうじゃえー。若え男んしがいみりゃいみるほど、『楽しみ』はずっとずっと増えるんやけえ」 過剰な栄子の攻撃を抑えるため、葉子が悪ノリついでに同意したのだと郁夫は思っていた。ところが、それはどうやら違っていた。 「……栄子さんが羨ましかったけん、私も他んじいちゃんどーを放っちょって、佐藤さんのそばに来たんやけんな」 葉子の声のトーンが、変わる。 「栄子さんに迫られちココを立たせちょんのやないかって、佐藤さんが気になっち気になっちしかたなかったんで……?」 郁夫は、驚く。背後から腕の間を抜けて来た指先が、自分の股間に突然這ったのだ。 「あ、あの……ちょっ、と」 「んー?なんか言い訳するんかえ……?ダメでー、こんないいもん持っちょって、隠したりしたらぁ……」 指先の主は、葉子だった。郁夫の当惑をよそに、その指先はズボンの上からさわさわと中身を撫でさすり、栄子もまたそれに乗じて再び唇や首筋に舌を這わせ始める。 これは、まずい。 郁夫はまた妻の姿を探した。やっと見つけた妻は、まだ上座のほうで老人達と楽しげに会話している。 気づかれては、いない。 赤ら顔の老人達が、大きな身振り手振りで麻利を囃している。 自分と同じように周囲の皆から酒を勧められている。 麻利は酒はいけるほうだが、もし自分が飲んでいるのと同じくらい強いアルコールなら、あまり笑ってはいられないはずだ。 「こーら、どこ見ちょんのねー?脇にこげんいい女が2人もおんのに、なぁ」 妻の姿を目で追えたのは、ほんの数秒となってしまった。ぐいっ、と強い力で顔を挟まれ、また唇が奪われる。 「ん、んちゅ、ん、んふう……あはっ、お酒んいい匂いがするでぇ」 栄子だ。舌を熱く侵入させる口づけのあとに、濡れた瞳で郁夫を間近で見上げてくる。それに抗う間もなく、葉子の背後からの指先がズボンの上から股間を愛撫し、ますます抵抗を弱めさせられる。 「あぁ……いい感じになっちょんで、ココが。ああん、はよ見せちもらいてえなぁ……」 その股間は、酔いのせいで歯止めが利かずますます窮屈さを増していた。葉子のタッチは巧妙で、まるで内部の感じる場所がどこにあるか知っているかのようにピンポイントで愛撫してくる。 「見せちもらいてえ、なんち……私でんそげんこと言っちょらんで?やっぱ葉子さんも佐藤さんを狙っちょったんやな?」 「んふふっ、あたりまえやん……私でんおなごやけん、いい男と仲良くなりてーし。んで、いいチンポ、ともなー」 「うわー、はっきり言よんに!」 場の雰囲気は明らかに、猥褻な空気を纏い始めていた。 若々しく張りのある若い女。スレンダーで濃い色気を持った少し年上の女。 2人の美女に囲まれて嬉しくないわけではないのだが、ここは自分の家で、同じ部屋には妻もいるのだ。素直に猥談や色っぽい愛撫遊びに盛り上がっているわけにもいかない。 「あの……そろそろ、他の方にも挨拶しようと、思うんですが」 郁夫はなんとかその言葉を搾り出した。 「……挨拶っち、誰にー?」 「た、例えば、田中さんとか、奥さんとか」 「……あれ?私んこと呼んじくれたぁ?」 すぐそばで、声がした。先ほど田中さんの冗談に明るく応えた女性の声だった。 「ああんっ、もう辛抱でけん……っ!」 放出の鈍い快感が不思議なほど長く続く。そんな中で郁夫は、誰かがそばで呟きながら立ち上がる気配を感じた。 「なあ佐藤さん……舐めち。私んオメコ、舐めちぃ……」 その気配が顔のすぐそばに。この異様な状況にいる自分を意識してから初めて、郁夫は重いまぶたをゆっくりと開けることができた。 真っ暗な空間。完全な闇ではないが、かすかに見える物から、ここがどこなのかを悟るほど情報は多くなかった。 「う、あ……っ」 そんな視界に、突然何かが降りてきた。部屋に満たされた暗さを纏ってはいるが、それは確かに、白い肌の、肉。 「最近、毛の手入れしちょらんけど、ええよね?……さ、オメコ、舐めち」 その白い肉が、その言葉通り黒い茂りを揺らめかせて、郁夫の眼前に迫って来る。 すぐに柔く重い圧力と、荒い呼吸への更なる弊害を感じる。それは、むせ返るような牝臭と共に。 「ほら、はよ舐めちぃ……佐藤さんのチンポが初めに入るんやけん、しゃんと舐めちくれんと、な……」 郁夫が口を開けなくても、もちろん舌を出さなくても。その下半身の持ち主は下半身を、いやらしい部分を揺り動かし始める。 「う、う、ぐう……っ」 息苦しさに、口を開けるしかなかった。肉裂の濡れた感触や繊毛、女の匂いがますます強く感じられる。 「ああん……もう、そげえ辛抱でけんことなっち。あんげにお尻振っちょんよー」 「うん、エロいなぁ……やっぱ若え男が久々やけん、燃えちょるんよ。うふふっ」 自分の下半身から聞こえる、2人の女の声。栄子の声はもはや間違いなく、もう1人もどうやら池上葉子のようだ。 ペニスを舐め、精を呑み下した栄子。その間ずっと郁夫の裸体を弄り続けた葉子。 記憶の中でフラッシュバックするあの宴で、自分に擦り寄ってきた2人の美人妻がどうやら自分を猥褻に愛撫しているようだと気づく。 ならば、この顔面騎乗する、女は。 「ああっ!オメコイイ……っ、佐藤さんも、もっと強く舐めちっ!イカしてくれてもいいけん、私のオメコもっと舐めちぃ!」 ぐいぐいとロデオのごとく腰を振り、むせ返る匂いの性器を郁夫の唇に擦りつける、女は。 「ほらぁ。しゃっち挨拶に行かんでん、田中さんの奥さんから来ちくれたでぇ……?」 葉子が酔いの進んだゆったりとした声で、郁夫の耳元に囁きかける。その指先は郁夫の股間を緩く『撫でて』などいない。ズボンの下の勃起をはっきりと『弄って』いる。 「なーんね。佐藤さんが私を待っちくれてたんかえ?そりゃ嬉しいなえ」 栄子と葉子、2人の女に密着された状態の郁夫をまるで気にしないように、青年会会長の妻 美知恵は膳を挟んで前に座り、お銚子を差し出して来る。 「美知恵さんは村の婦人会ん会長さんやけん、お酒断ったらしちくじいことになるよぉ?……うふふっ」 今度は栄子さんが、葉子さんとは逆側の耳元で囁く。 囁き始める前には郁夫の首筋を舐め、囁き終わった後には唇を吸う。 「そげんこと言わんの!……なあ佐藤さん?この村んしはみーんなあんたら夫婦を歓迎しちょん。男んしも、女んしも……やけん、これからもみんなで仲良ういこうな……な……?」 美知恵さんの酒を持った手が近づく。 郁夫は気づく。そして惑う。 あの薄い着物、その大きく開いた胸元から、美知恵さんの熟れた乳房が丸見えだということに。 「あ、あの……っ」 「さあ、呑んじ……」 郁夫は、自分の声があまりに小さかったことにも気づいた。考える間もなく、杯にはあの強い酒が注がれていく。 「佐藤さん……ほら、勧められたら、早う呑まんと……」 栄子の声。 「ん……もう、手に力入らんの?でも、美知恵さんの酒、呑まんと……呑んじくれんと……」 葉子の声。 また、気がつく。葉子の言う通り手に、いや全身に力がこもらない。続けて股間から、ジッパーの開く音がする。なにが行われているか悟っても、それを止める力が入らなかった。 「もう、手じゃ呑めんみたいやね。どげえしょ……じゃあ、口移しで、呑むかえ……?」 返事も聞かず、美知恵さんは銚子から直接あの酒を呷った。10歳近く年上の、しかしやはり艶やかな美人である美知恵さんの顔が、自分に近づいて来る。 しかしそんな目前の視界さえ、まるで霧がかかるように霞み始めていた。 「ん……っ、ん、ふ、んっ……うんっ、うんっ……」 美知恵が、柔く触れる。 唇から唇へ、あの酒が流れ込んで来る。頭に淀んでいた痛みが、急激に増していく。 その瞬間、体のどこかで空気を感じた。 下半身。股間。それは葉子の指先に支えられ、いや支えられなくてもしっかりと勃起していた。 「うわあ……」 「いやぁ……」 2人の女の感嘆が一致した。共に、郁夫のモノに向けられた声。 「……ん、はっ。やぁ、ほんまにすげえチンポやね……んふふ、ますます夜が楽しみんなっちきたわぁ」 郁夫の顔のすぐ前で、唇から直接酒を呑ませた美知恵さんが満足げに呟く。 郁夫の股間に向かい、そしてはっきりと『チンポ』と囁いた。 「ほいじ……あははっ、こげえするとまだまだいみるんで……?」 「あ、ああ……やめて、く、れっ」 村人が大勢いるはずの、そして妻 麻利がいるはずのこの部屋で、葉子は当たり前のように郁夫のペニスを掴み、しごき立て始めた。さすがに強い口調で拒否しようとしたが、やはり言葉に力がこもらない。もう、しゃべれない。 「んふふ、そげん事言われてもやめんよねー葉子さん。佐藤さんのチンポ、ほんとすげえけん、ずっと触っちょきたいに決まっちょんやんなぁ?」 栄子の軽い口調。相変わらず舌先で郁夫の顔中を弄びながら。 「でも、これもゴマジんせいやったりせん?」 「ううん、ゴマジん効き目だけじゃこげえ勃起せんよー。やっぱ佐藤さんのチンポがおっきいんよ。カリも高えし、長さも長えし……ああんっ、早う食っちみてえわぁ!」 美知恵の言葉は、明らかに性行為を表していた。そして、かすむ視界に伸びてくる手……。 「あ、ああ……っ」 男性器を激しくしごき立てる葉子。 顔や首筋に舌の跡を刻みつける栄子。 そして美知恵はだらんとした郁夫の手を取り、自分の豊かな乳房に導く。 郁夫の全身は3人の美しい人妻によって、僅かな隙もなく支配されていた。 「佐藤、さん……?」 「あ、あ……?」 目の前の、誰かの影。もはやそれが美知恵かどうかも、郁夫には確認できなくなっていた。 「もう、眠いやろ……?私らと一緒に、寝よ……?」 女の声が、催眠術のように重く脳内に響く。郁夫はもう、間抜けな呻き以外全く出せなくなっていた。 「いいんよ、遠慮なく私らと寝てん……ほら、心配やったら見てみ?」 くいっ、と重い頭を動かされた。もう何も捉えられなかったはずの視界に僅かに見えたのは、同じように力ない躰を、あの白く透けた着物を纏った躰を、男衆達によって弄られている妻 麻利の姿だった。 「ああ、んんーっ!」 郁夫の顔の上で激しく腰を振っていた美知恵が、ひときわ高い声を上げた。 「はあ、んっ……こうしちょんだけで、イキそうになったわぁ……でも、な」 熟女の性臭が鼻先から離れる。しかし、体中を弄られている状況は変わらない。 「チンポで……佐藤さんのおっきい生チンポで、イキたいけん……ああん、佐藤さんっ」 美知恵は、郁夫から離れたわけではなかった。そのまま郁夫の体の上で豊満な肉体を揺らめかせながら、下半身に重心を移しただけだった。 そして、そこには、当然。 「ほら、もう栄子さんも葉子さんもいいんで!いつまで私のチンポさわっちょんのなぁ!」 笑いながらも強い口調で、ペニスに群がっていた栄子と葉子を叱る。郁夫のモノを『私の』だと表現しながら。 「さあ、佐藤さん……」 ぐっ。 女の指が、熱くてたまらない肉柱に触れた。 「こんチンポで、私の……私のオメコ、いっぱいいっぱい気持ちよくさせちなぁ……」 肉柱は、すぐにぐちょぐちょの場所に触れた。 「あ、あううう……っ」 どうしようもなく濡れた、ヴァギナ。郁夫の唾液も僅かには混ざっているだろう、濡れそぼったヴァギナ。 「ああ、んんっ!入っち、くるぅ……笠も固えし、熱いし、太いし……ええよ、ええよぉ!」 腰に、美知恵の尻の重さが感じられる。それ以上に、ペニスを包む熱い膣壁の感触も。 「う、あ、ああっ」 ままならない体。唯一存在感を湛えているペニスは、女の粘膜によって完全に支配され呑み込まれている。 酔っていて、体の自由が利かず、さらにこんな異常な状況にいるのに、ペニスが受ける快感はいつも以上だった。そう、妻 麻利とのセックス以上に。 「うああっ……ま、まりぃ……っ!」 だから郁夫は、どこにいるか分からない妻の名を小さく呼ぶ。 「……ああんっ!せっかく私とオメコしよんのに、奥さんの名前呼んだりしち……ほら、気持ちいいんやろ?遠慮せんじ、麻利さんの事も忘れち、私とのオメコ楽しもうえ……」 言葉と同時に始まる、激しい女のグラインド。突然高まる性感に、思わず体をのけぞらせる郁夫。 「ほら、ほらぁ……オメコ、いいやろ?栄子さんとか葉子さんとか、もちろん麻利さんとかに締まりじゃ負けるかも知れんけど……ああんっ……腰ん使い方とか柔らかさとかじゃ負けんでぇ……これも、いっつも旦那と研究しちょんけんな……ああ、いいっ!」 脳裏に、美知恵と夫の田中が裸でくねりあい、挑発的に笑う姿が浮かぶ。 「やめ、てくれ……ああっ、ま、麻利……う、ああ、やめ、ろおっ」 必死に喉奥から搾り出す声。しかし郁夫の腰の上で、若く猛々しいモノの上で大きくくねる美しい裸の熟女は、まるで意に介そうとはしない。 それどころかさらに肉の動きを早め、郁夫を味わい尽くそうとしていく。 「そげんこと言うち、ホントはチンポが気持ちいいんやろ……?だけん奥さんの名前しゃっち呼んじ……あ、はぁっ……やけど、いいんかえ?私に上に乗られち、栄子さんと葉子さんにナメナメされち気持ちよくなっちょん所を、麻利さんに見られていいんかえ……?ああんっ、固いーっ!」 美知恵は自分の発言にさらに高揚し、郁夫は美知恵の発言に慄いた。 暗い部屋で、裸の人妻達に弄ばれている自分。確かに、妻に見られてしまえばとんでもない事になる、はず。 だが。その感慨は郁夫の思考に微妙な変化をもたらした。 自分は、このような状況で女達の玩具にされている。 ならば、麻利は? 同じように宴で酒を飲まされ、男達に群がられていた、妻の麻利は……? 「い、いいっ!もうダメ、イクっ……あひ、あひいっ!佐藤、さんのチンポで……イクぅ!」 振り乱される黒髪。すさまじく上下する乳房。ねっとりと絡む膣粘膜。踏ん張る両脚。妻の現在を察する余裕が僅かに湧いた郁夫も、絶頂を待望する年上女の攻撃に、もう。 「佐藤さんも、出しちくれるんやな……あひ、いいっ……私のオメコに、佐藤さんの熱い汁っ、出しちいいいっ!」 暗い部屋に響き渡る、美知恵の淫声。女の内部のわななきと同時に、先ほどの口内発射とは比べ物にならない程、大量なスペルマの放出。 「は、ひい……っ、佐藤さんのチンポ汁、いっぱ、いっ……ああん、はあああっ!」 「……うわあ。美知恵さん、すごくイッちょんみたいやね。顔がもうエロエロ」 「ふふん。佐藤さんが一緒にイッたけん、いつもよりよかったんやわえー。あぁ、はよう私も佐藤さんとしてぇわあ!」 すごそばで聞こえる、しかしまだ現実感のない女2人の声。 「ああ……来ちょる、入って、来ちょるよぉ……佐藤さんのチンポ汁……ゴマジだけの効果やないかもしれん……はあああっ、よすぎやわぁ」 くいくいっ、と美知恵が郁夫の上の躰を未練がましく揺らめかせ始める。もっともっとと、噴出し続けるあれほど多量の精を胎内に一滴残らず呑み込んでいく。 「……んなら、満足ついでにそろそろ代わっちくれるんかえ?美知恵さん」 まだ体に残る激しい射精の余勢。自分の抑えられない息遣いが聞こえる耳に、その声は場違いに届いた。 「あんんっ、もうちょい余韻を味わしちくれてんいいにぃ……」 じゅ、じゅるっ。 熱く柔らかい肉がゆっくりと抜けていく。その行程でも、ペニスはまだ鈍い快感を纏っている。放出直後だからこそ、その快感は切なく、つらい。 「はあ、ああ……っ、佐藤さんの、チンポっ」 じゅる、じゅ、じゅるんっ。 美知恵の余裕ある肉襞が、猥褻極まりない濡れ音を発して郁夫から抜け、離れる。 「……はあっ。間近で見ちょんと、エロエロなチンポやわぁ。美知恵さんの汁と出した汁でてっかてか。見てるだけで、イキそうやし」 声は葉子だった。股間のあたりで聞こえ、その声は緩い風となって濡れたモノを撫でる。 「……舐める、で?」 もちろん郁夫は返事ができない。しかし、葉子の舌は返答を待つ気もなく、ペニスに粘く這った。 「あ、ぐううっ」 舌先で触れられただけで、全身にビリビリと電流のようなものが走る。 射精直後は敏感だが、ここまで鋭い感覚ではないからこそ、郁夫はさらに戸惑う。 「んっ、まだ気持ちいいんやろうね……佐藤さん、ほんと可愛いわぁ」 葉子の艶かしい声が、また敏感な皮膚を撫でる。そしてまたすぐに、熱い舌先が表面をぬめる。 「う、ああっ、はあっ!」 呻く郁夫に構わず、葉子の舌は表面をチロチロと這い回る。栄子のフェラチオのように深く呑み込んだりしない分、敏感な部分をどうしようもなく悶えさせられる。 そしてまた、短い間に何度も射精させられたモノは、郁夫の意思とは関係なくエレクトを始めた。 「う、ぐうっ……ま、ま、麻利ぃ……っ」 呻きと、妻の名。今の郁夫の唇に紡げるのは、それだけだった。 自分はこの淫猥極まりない空間で、女3人に弄ばれている。果たして妻 麻利は、この微かな呼び声が届く場所にいてくれているのだろうか、と。 「ああ、ん……美味いわぁ。こげんチンポ久しぶり……ん、ちゅ、んんっ」 葉子の少し鼻にかかった高めの声が、舌と交互にぬめったペニスを刺激する。 すでに何度も放出したはずなのに、まだ鋭利な感覚で次の爆発を待つような自分の物。女たちが何度も囁き合っている『ゴマジ』のせいなのか。 酒に入れた、と言っていた『ゴマジ』……愛想のいい無邪気な村人達を装って、卑怯な自分を淫らな罠に堕とした者達。 策に嵌った身を悔やむと共に、郁夫はこの麻薬のような物に愛する妻も陥れられている光景を妄想した。 愛する妻に起こってるかもしれない猥褻な罠を、夫として悔やむ心。その一点が、郁夫を『ゴマジ』の効力に落とし切れていない原因だった。 |