要するに、誰かに自慢したくてたまらない。

生まれてから長い間、こういった喜びは初めて。
好きな娘ができても、結局告白もできないまま終わるばかり。
それは幼稚園から中学校、いやついこの間まで続いていた。

明らかにダメな奴ではないけれど、それほど目立たない俺。
運動神経も微妙。勉強は中の下。ルックスは中の中。
多分特に盛り上がりもないまま、このまま学生生活が終わる。
そんなものだろうとあきらめかけていた、ある日。

【結衣奈】その役目、私と夏目くんでやります!

その瞬間だって。
俺は文化祭の出し物なんて興味がないまま窓の外をぼんやり見てた。
どうやら自分の苗字が呼ばれたっぽい、そんな感じで。
ゆっくりと視線を向けた先には。

【結衣奈】夏目くんは古い建物とかに詳しいし。私も同じくらい興味あるし。うん。

こちらを見るでもなく、ただ進行係に向かい。
俺が小さい頃からお寺や神社の写真を撮ってたこと。
近所では飽き足らず親に頼んで古い温泉街や宿場町まで出かけたこと。
そんな俺の様子を小さい頃からよく知ってる人物が、そう発言している。
しかし、しかしだ。
お前がそんな俺の趣味に興味がある?いやいや、初耳もいいとこ。
お前はあの頃遊びの輪に入らない俺を、遠巻きで見てる一団の中にいただけだろ?

困惑する俺をよそに、結局そいつは俺を一度も見ないまま発言を終えて。
特進クラス優先で、劇や飲食店をやる余地もなくダレ切ってたわがクラス。
年老いた先生がじゃあと提案した、
「わがまちのこれまで・これから」なんていうどーしようもない出し物。
その「これまで」のほうを、どうやら俺とそいつでやることになった、らしい。
反対意見も出ず承認されて、着席する時ようやく俺のほうを見た、そいつ。

松田結衣奈。
幼なじみ?違う違う。
ただ近所に住んでただけ。ただそれだけ。

なのに。
突然。
俺、夏目遼と松田結衣奈は……距離を縮めていくことになる。

要するに、誰かに自慢したくてたまらない。
 

松田結衣奈
主人公の幼なじみ。
幼い頃からつかず離れずの関係を保っていたが、学校の文化祭の準備を機に主人公との距離を近づけようと努力する。
義兄である和馬に家計的に依存しているが、彼の赤裸々な性生活から嫌悪している。
閉鎖的な「家」から、主人公に好意を向ける事で逃げ出そうとするが、次第に明らかになっていく幼少の記憶をきっかけに、義兄の罠に嵌り堕ちていってしまう……。
 
松田和馬
結衣奈の異父兄。
建築関連の職人で、家族2人だけの「家」を養っている。自分を嫌悪している結衣奈に、いつも冷笑を浮かべて対応している。
性に対して奔放で、義妹がいる時でも女を自宅に引っ張り込んでセックスに励んでいる。
主人公と恋人関係になり「家」を離れようとする義妹結衣奈に、歪んだ愛情をもって「しきたり」や「おしおき」などと称し迫っていく。結衣奈を自分色に変えていく悦びに目覚める、男。

夏目遼/主人公
子供の頃は活発だったが、成長するごとにどこにでもいる普通の学生になってしまった。
趣味は「1人で調べる寺社巡り」。地味な趣味を持ってはいるが、けして根暗ではない。
暑い夏が到来する、やる気もなくぼんやりとした時期に、結衣奈の提案によって秋の文化祭の下調べをすることになってしまう。
強引に距離を縮めようとする結衣奈に少々戸惑っているが、好意を抱かれること自体はまんざらでもない。

恋をして。愛し合って。
結衣奈が一番大切な人だと気づく頃。
その一番大切な人の、一番見たくない姿を見ることになる。

 


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