(イオソが手乗り魂状態、神双が本体使用中です)
いつもの如く天野家に、影サタン様がやってきた。
「――やあ、今日はいいものを持ってきたよ」
「また来たのか‥‥」
「あ、いらっしゃい。カルピスでいい?」
「だからもてなすな!!」
「まあまあソード‥‥ところでいいものとは何ですか?」
「ふふ、ちょっと珍しいものだよ。ソードのような下級悪魔では、恐らく見たこともないような――」
「わざわざそれを自慢しに来やがったのかテメーは!」
「ま、まあ落ち着いて下さいよ‥‥」
イオスがソードを宥めているうちに、サタン様は懐から取り出した包みを、用意された皿にザラリとあけた。
神無と双魔がまずのぞき込み、
「これは‥‥ナッツなのか?」
「ぽいけど、それにしてはでっかいね‥‥何の実なのかな」
恐る恐る双魔が摘まみ上げたそれは、金柑ほどの大きさがあった。
が、堅い手触りと煎ったような香ばしい香りは、明らかにナッツ類のそれである。
「どうだい悪魔ソード、君はこれを見たことがあるかな?」
「ねーよ!!」
全力で怒鳴って噛みつくソードと、それをまあまあと押さえ込むイオスに、サタン様は満足げに頷いた。
「そうだろう、これは幻の実だからね」
「へえー。貴重品なんだ?」
「分け入るのが難しい幻樹海の森で、百年に一度しか実らない代物だよ。僕はしばしば口にする機会があるが、下級悪魔は存在すら知らないと聞いたものでね」
「やっぱり自慢しに来ただけじゃねーか!!」
「食べてみたくないのかい? なら無理にとは言わないが」
「食べていいの? じゃあ頂きまーす!」
「あ、コラ! 双魔!!」
「そういうことならひとつもらおうか‥‥」
「神無もかよ!‥‥テメーはどうなんだ!」
ギョロリと目を剥いてソードが振り向く。
「え、わ、私ですか?!」
「―――ほら、お前の分割ったぞ」
矛先を向けられて動揺したイオスに、しかし神無が小さく割ったナッツをひとかけら手渡した。
「あ、ありがとうございます」
「食うのかよ!」
「いいじゃん、食べてみようよソードさんも」
「うー~~~‥‥!!」
やはり双魔にかけらを渡され、ソードはしばしの葛藤の後、興味半分抵抗半分の複雑な顔で受け取った。
そして。
「(カリカリカリ)‥‥うわ、うっっめえーー!」
「味が濃いな‥‥(コリコリ)」
「確かにこれは美味しいですねえ‥‥(ポリポリ)」
「うん、美味しいー!(カリコリカリコリ)」
「ふふ、どうだい、美味しいだろう」
影サタン様が得意気に言う中、しかし、双魔がふいと首を傾げた。
「‥‥あれ? でも何だっけ、これって‥‥」
「? 何だい」
不思議そうな顔のサタン様を横目に、次にはイオスが眉根を寄せた。
「そういえば‥‥何故かチョコレートを思い出す味ですね‥‥?」
「あー‥‥そういやそうだな‥‥」
最後にソードが考え始めた時、神無がぼそりと呟いた。
「‥‥アーモンドだな」
「 そ れ だ ! 」
と叫んだソードを筆頭に、イオスと双魔も「ああ!」膝を打った。
「でも人間界のより百倍美味しいのは確かだね(カリカリ)確かに幻の美味しさかも(コリコリ)」
「それに人間界のものとは大きさが全然違いますね‥‥本当に同じものなんでしょうか?」
「どうなんだろうな‥‥元々魔界の植物が人間界で増えたのか、その逆か‥‥」
「どっちにしろ、魔界の土の方が合ってるんだろうね。実るのに百年かかる分、美味しさも百倍濃縮なんじゃないかなあ」
「魔界はこっちとは時間の流れが違うからな‥‥向こうの百年は、こっちだと何年に当たるんだ?‥‥」
「‥‥ん? そういやさっきから静かだな。何だよ、大して珍しいもんじゃなくてガッカリしてんのか?」
すっかり存在を忘れられていたサタン様はしかし、ソードの挑発に応じる風もなく、遠くを見ながら茫然と言った。
「人間界のアーモンドは何度も食べたことがあったのに、それが幻の実だとは気付かなかったよ‥‥!」
‥‥なにゆえか、ショックを受けたようなサタン様の様子に、四人は顔を見合わせた。
「‥‥なあ、もしかして勝ったのか? これ」
「や、勝ち負けの問題じゃないんじゃないかなー‥‥」
「魔王サタンにも知らないことがあるものなんですねえ‥‥」
「土産に人間界のアーモンド一袋でも持たせてやれば、勝ったことになるかもな‥‥」
(日本の野菜をアメリカに持ってって栽培するとモンスターサイズになる、というあの現象が、魔界と人間界にもあったりして。‥‥という話)
御礼‥‥デビページからの来たよ印に感謝! せっかく来て頂いたのに、更新も日記も止まり気味で申し訳ありませぬ‥‥忙しさが緩和する目途は立たないままですが、せめてもうちょっと体調が回復したら、あれこれペースを上げたいものです。