神無と双魔は夕食後、見るともなく居間でテレビを見ていた。
画面の中は何かのバラエティ番組で、ギャル曽根がひたすら料理を食い続けている。
ホテルのバイキングコーナーにさしかかると、彼女はデザートコーナーのチョコレートファウンテンに気付き、
『あー、あのチョコ飲みたいなあ、美味しそうー!』
と言うなり、液状のチョコをグラスに取り始めた。
八分目までなみなみと注ぐと、それをその場で一気飲みする。
スタジオの観覧者から上がる声は、感嘆と驚愕と「有り得なーい!」といういささかの嫌悪の三種類だ。
神無は勿論三番目の人種だった。見ているだけで胸焼けがする。
隣の双魔に了解を取ることもなく、神無はチャンネルを変えようとした。
そこへ双魔が不思議そうに言った。
「スプラッタは平気なのにチョコは駄目なんだ?」
「スプラッタで胸焼けするのかお前は」
「鼻血が出た時に吐ききれなくて飲み込んじゃった時の胸焼けとか思い出さない?」
「‥‥胸焼けするほど鼻血飲んだことねえよ」
「喧嘩強いもんね、神無は」
「そもそもスプラッタは血塗れになってるだけで、その血をいちいち飲み込んでる訳じゃないだろ」
「あ、そっかあ。じゃあ吸血鬼映画とか『チャーリーとチョコレート工場』とかは?」
「それ同列かよ。‥‥ていうかどれもフィクションだろうが。いちいち現実とくっつけて考えてねえよ」
ふうん、と双魔は納得したようだった。
が、しばし再び沈黙が満ちた後、
「‥‥ねー」
「何だ」
「今度スプラッタか吸血鬼もののDVD借りて来るから一緒に見ようよ。チョコ食べながら」
「‥‥何故そこに行き着く」
「ゾンビ映画で焼き肉の方がいい?」
「だから何がしたいんだお前は!」
「えー‥‥甘々な自宅デート的なものをしてみたいなーって‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
兄弟で自宅デート。それは日常生活と何が一体どう違うんだ。というか何故胸焼けネタにこだわる。しかもゾンビと焼き肉関係あんのか。お前はまず一般的なデートの内容を学習することから始めろ!
と一喝したいのはやまやまだったが、
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥DVDの選択権は俺によこせ」
神無は堪えてそれだけを言った。
いいよ、と双魔は嬉しそうに笑った。
ぺたりと神無にもたれると、再びテレビに視線を戻す。
「それにしてもギャル曽根の食べっぷりってオカルトだよね」
「‥‥そうだな」
お前の脳内の方がよっぽどオカルトだ、と言いたいのを堪える神無であった。
―――
ギャル曽根がチョコ飲んでたのは結構前の話なんだけど、それ見てた時の神双のやり取りをふと思い出したので。
ちなみにソードがチョコレートファウンテンを見た場合は、
「無限に溢れ出るチョコの泉なのか?!」
と違う意味で目を輝かせ、
「いえ、一定量を循環させてるだけですから有限ですよ」
「何だ無限じゃねーのか‥‥」
「‥‥何をがっかりしてるんですか」
とイオスに呆れられます。‥‥なんか普通だ。
続けてみても、
「気になるんなら今度行ってみますか?」
「無限じゃねえんなら要らねえ」
「‥‥(何故「無限」を気にしているのだろう‥‥)」
やっぱり割と普通。
でも影サタン様だともっと普通かも。
チョコレートファウンテンの機械を魔界に持ち帰った場合の維持管理とか、電力の供給システムについてとか、材料の補充方法とかに一通り思考を巡らせるも、「ちょっと面倒そうだなあ、やっぱり置いてある場所に出掛けていくのが一番簡単かな」という結論に達して、「今度あれを食べに人間界に行こうよ」とシバ(新)をデートに誘います。
(普通というより正常か、発想と帰結が)
これが神無とソードだと、神無が例の如く嘘八百を並べてソードを騙くらかします。
「カカオの産地に住む動物は、普段からカカオの実を食ってるよな」
「そうなのか?」
「ああ。だからそういう動物の内臓はチョコの味がするんだぜ」
「へー」
「で、それを活きのいいうちに絞ってペーストにすると、固まらない液状のチョコが―――」
言いながら画面内のチョコレートファウンテンを見る神無。
「‥‥‥‥‥~~~~~~~」<何か恐ろしい想像をしたらしい。
「―――出来ないけどな。嘘だから」
「てめえ~~~~~!!!!!」
‥‥何だか一番普通の兄弟っぽい。不思議。
御礼‥‥パチパチありがとうございます(^_^)/
シンケンはなんかこう、色んなところが惜しかったです‥‥姫の扱いそのものもそうだったし、ラストで姫が帰る時に「‥‥徒歩かよ!」と突っ込んだのは私だけではないはずだ‥‥せめて駕籠!乗り物!みたいな細かいところとかが。
これは脚本じゃなくて演出の責任だとは思うんだけども、逆に脚本にそれだけのイメージ喚起力がなかったということではないのかとも思ったり。難しいですなあ。