ある日、猫姿のコウモリネコが、何かを咥えて帰ってきた。
「ナナちゃん、何持ってきたの?」
飼い主に獲物を自慢する的な、猫の習性なのかも知れない。
だとしたら小鳥かなネズミかな、ドカケとかだったらちょっと嫌だなあ―――と思いつつのぞき込んだ双魔はしかし、
「‥‥うわ?!」
思わず叫んで後ずさった。
猫の鼻先に囚われて、ギィギィ耳障りな声を上げつつジタバタともがいている「それ」―――
大きさ自体はネズミ並みだが、明らかに爬虫類や昆虫とは違う、何とも禍々しい造形は、紛う方なき低級悪魔だったのだ。
「ナ、ナナちゃん、駄目だよ、返してきて!」
「ナッ?」
「家庭内は悪魔持ち込み禁止だから!」
小首を傾げたコウモリネコに、咄嗟に思いついた新ルールを突きつけると、
「そうなのニャ? 残念ニャ~」
ネコは素直に頷いた。‥‥が、喋ると同時に口が開き、低級悪魔がポロリと落ちた。
「あ!」
ボトリと床に落ちた低級悪魔―――トカゲとネズミを足して二で割って、昆虫を溶接したような奇怪な生き物―――は、不可思議な節足をワサワサと動かし、そのまま床を這って逃走を始めた。
「うわ、それ捕まえて! ていうか外に捨てて! 隙間とかに逃げ込んで住み着かれたら困るから!」
「ナッ!」
心得た!とばかりに身構えたネコが、ダッシュで飛びついて魔物を追う。が、そもそもどうやって捕まえたのかと思うほど魔物の動きは速く、ネコが次々と床を叩くも、魔物はその都度ネコの手をすり抜け、天野家の居間を逃亡し続けた。
「―――しょうがねーな、ちょっと代われ」
見かねたソードが中から言い、不意に表層に浮上した。双魔と入れ替わって肉体を制御すると、魔物の軌道を目で追うことに集中する。
「ど、どうするの? 魔闘術とかはダメだよ、家が壊れちゃったらまずいし‥‥」
「解ってるよ! ちょっと黙ってろ!」
肩口で不安を訴える双魔(の魂)を、ぐしゃりと掌で潰して黙らせ、再びしばし集中する。
と―――
「ニャッ?!」
ネコが追っていた視線の先で、魔物がバチン!と音を立てて弾けた。うっすらと煙を上げながら、しばし力なくもがいた後、力尽きたように動きを止める。
「‥‥よし、穫ったぜ!」
「え? ‥‥い、今の何??」
「―――おいネコ、それどっか外に捨ててこい!」
「は、はいニャ!」
双魔の疑問はさておいて、ソードはひとまず主犯のネコに魔物の処理を言いつけた。
それから、肩の辺りでパタパタ飛びながら「アレ何? なんの魔物だったの? どうやって止めたの?」と質問攻めの双魔の魂にうんざり顔で向き直った。
「何の魔物かは解らねーよ。魔界だって広いし、人間界にしか住んでねえヤツもいるしな」
「へえー‥‥じゃあアレどうやって止めたの? 魔法?」
「ああ。あの程度の小さい電撃ならすぐ使えるからな」
「アレ? でも確かずっと前、イオスさんに魔法ぶつけようとした時には、なんか長ーい呪文唱えてなかった?」
そんで頭の血管切って倒れてたよね、と過去の醜態を回想した双魔を、ソードは再び握り潰した。
「うきゃ」
「そんなこと思い出してるんじゃねーよ!‥‥まあ、あん時はまだお前の身体に入ったばっかりで、魔法を使う回路がちゃんと働かない状態だったんだよなぁ」
「回路。‥‥って何?」
「あー‥‥何つったらいいんだろうな」
ソードはしばし沈黙し、どうにか双魔にも解る例えをひねり出そうと考えた。
「人間界には九九ってのがあるだろ」
「クク。‥‥って、算数で習う九九?」
「それな。‥‥あれ、最初は何が何だか解らなかったんだが、意味が解って丸暗記出来ると便利だよな」
「うん、そうだね」
「で、慣れないうちは二の段からずっと数えてかないと思い出せないだろ。でも慣れると途中からでもパッと出てくるようになるし、そのうち5×6みたいな文字見ただけで答えが頭ん中に出てくるようになって驚いたもんだ」
「あー‥‥」
どうやら地味に授業を受けるうち、暗算教育の過程を理解し、すっかり身に着けてしまったらしい。
悪魔にも教育って有効なんだなあ、などと双魔があさってなことを考えていると、
「魔法の呪文もそれに似てるんだよな。初めのうちは呪文を地道に唱えないと使えないが、慣れると意識するだけで魔法が出せるようになるんだ。‥‥でも、お前の身体に入ってすぐの頃は、身についてたはずの魔法回路が吹っ飛んでてよ」
「あー‥‥それで一から呪文を唱えないと魔法が使えない状態だった、ってこと?」
「そういうこった」
「そうなんだ‥‥」
どうにか「双魔にも解る説明」を終えて得意気なソードとは裏腹に、双魔は何とも微妙な顔で言った。
「解ったけど‥‥魔法って九九と同列なんだ?‥‥」
「‥‥何の文句があるんだオレ様の説明に!」
何だろうこのがっかり感‥‥と遠い目をして呟いた双魔を、ソードは三度握り潰した。
(原稿モードに入ってるせいか、何か無駄に長くなった‥‥)
御礼‥‥パチパチありがとうございます(^_^)/
更新確認!もしくは原稿ファイト!的なパチに感謝! じわじわと電波の受信に邁進しとります。勢い余ってデビサバのネタまで出てきたりしましたが、これは何に使ったらいいものか‥‥(書いても本にしにくい状況+デビと何も変わらないノリの話なので書く意味あんの?という疑問)とりあえずは文章のリハビリ頑張るですよ。