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中の人日記・キャシャーン編その2

 いい加減、劇場版のTV放送の記憶も薄れかかったような頃にようやく続きです(^_^;)
 書いてみたら、キャシャーンそのものの話というより、何か「同じものをネタにした、違う物語の構造比較」みたいになってしまった。
 ついでに、各シリーズの多大なネタバレを含んでいますのでご注意下さい。
(さらについでですが、イグはOVA版は未見なので、今回はノベライズ版を元に書いてます)

 まず、「キャシャーン」の基本構造は、昭和TV版・平成OVA版(ノベライズ版含)・劇場版と、全部がちょっとずつスライドするように違っていってました。

1.物語の命題
 TV版…非創造物であるアンドロイドが、造物主たる人類に反旗を翻してくる。弱肉強食の論理だけで言えば人類の負けは必定。人類は滅ぶべきなのか、ロボットが敵だとしたら、ロボットの体=力と人の心を併せ持つキャシャーンの存在は何者と定義されるのか。
 OVA版…環境汚染著しい時代、自律思考型アンドロイドが、人類の排除が汚染改善の最良の手段と結論。そうした状況下での人類の存続は本当に正しいのか。新造ボディに宿ったキャシャーンは人間なのかロボットなのか。生身の体を捨てて新造ボディになってまで、人類を守るのは果たして正しい手段なのか?という鉄也の葛藤。
 劇場版…人類こそが悪の元凶。ロボットと思われていたブライ達も、実は虐げられた少数民族から実験で作られた強化人間。アンドロ軍団VS人類軍と思われていた対立の図式も、実は侵略者と反乱者という人間同士の争い→結局人類が争いを終える日は来ないっぽい?

2.鉄也がキャシャーンになる理由
 TV版…アンドロ軍団に対抗する手段が他になかった&ブライを製造しちゃった父・東博士の対する世間の非難を息子の自分が晴らしたかったので新造ボディに自己転写。
 OVA版…アンドロ軍団の攻撃で瀕死→ともかくその場を生き延びるために、そこにあった新造ボディに自己転写(ノベライズ版ではこのシーンは、TV版と同じ「自ら志願」になっている)。
 劇場版…戦死した鉄也を父・東博士が新造細胞の実験に使って復活させた(らしい)。アンドロイドではなく、死者の再生で偶然(?)超人化。しかし新造細胞に対応してないはずの鉄也の復活はイレギュラー、かつ不完全(制御スーツを着てないと体がクラッシュして死ぬ)。

3.アンドロ軍団&ブライキングボスの誕生理由
 TV版…落雷で自我意識を持った新型ロボット・ブライが、新しい優良人種(ロボット)が下等生物である人間を支配・撲滅するべきと判断→脱走→アンドロ軍団結成。
 OVA版…東博士が「環境汚染の改善のために有効な手段は」という命題でブライの人工知能を教育。何度やっても結論は「汚染源である人類の撲滅」。業を煮やした博士が自分の記憶(意志)をブライに転写。その結果、人類に対する加害行為を制御するプログラム(ロボット三原則?)を、落雷で意図的に吹っ飛ばすという知恵をつけちゃって、計画実行→ブライ脱走(以下同じ)。
 劇場版…実はブライ(と他三名)はアンドロイドでなく、特殊な少数民族の死体を培養プールで再生復活させたもの。ブライには妻子共々虐殺された末期の記憶がかすかに残っていて、そのため占領軍=人類を憎んでいる→人類撲滅を目指し蜂起。

4.物語的帰結
 TV版…普通にキャシャーンがアンドロ軍団撲滅。アンドロイドは元通り、人類の忠実なしもべに戻る。もう戦う必要の無くなった世界で、しかしキャシャーンは二度と生身の体には戻れないのだった、というちょっと可哀想なラスト。
 OVA版…人類を守るべきかどうかキャシャーンが葛藤しつつも、東博士の記憶を持ったブライと相打ち。二人の電気信号が光となって人工衛星へ→ブライの指令コードで、衛星からアンドロ軍団機能停止命令が出され、停戦。後日、大破したキャシャーンのボディから読み出した遺伝子コードで、ルナが鉄也と同じ遺伝子を持った子供をクローン培養。(戦いは終わったものの、今後どう転ぶか分からない人類の可能性としての象徴っぽい描写だった)
 劇場版…ブライの死によってアンドロ軍団は停止(対抗していた占領軍も内輪揉めで機能停止っぽい)。しかしどさくさにまぎれて東博士がルナを射殺。逆上したキャシャーンが東博士を殺す。新造細胞を含んだブライの血に触れてルナ蘇生するも、ブライの意志も一緒に取り込んでしまったらしく、意に反してキャシャーンの制御スーツを壊す→キャシャーン死亡。ルナの蘇生も一時的なものらしくその後死亡(らしい。この二人死亡シーンはTV版ではカットされて、ルナ蘇生までで終わってた)。

 ‥‥三作品のまとめだけでえらい行数食ってしまいましたが(汗)
 ともあれ、順番に並べてみると、相当違う話になってます。
 しかしこうして見ると「これぜんぜんキャシャーン(TV版)と違うだろ!」「意味わかんねー!」と言われた劇場版は、実は結構OVA版の流れを拡大したもののような気もします。劇場版ラストの「空に昇っていく光」というのも、OVA版で既に登場してたし。
 テレビ版では「アンドロ軍団は絶対悪。だからキャシャーンが倒す!」だったのが、OVAでは「‥‥実は人間が悪いからこうなったんじゃ?」になり、劇場版では「結局悪いのは全部人間だったんじゃん!」までエスカレートしていっちゃったというか。バージョンが進むにつれて、残される希望の可能性がどんどん減少していってます。
 しかも、TVでは人類の守護者だった正義の使者キャシャーンは、劇場版に至っては人類でも新造人間でもない、何やら謎のモノリスにあれこれ動かされてるらしい無自覚の審判者っぽくなっており、逆に絶対悪だったブライは、人類の狂気に対抗する正当な復讐者になってたり。

 同じモチーフなのにこうまで色々と変わってしまったのは一体何が原因なんだろう‥‥TV版→OVA版の変遷はともかく、劇場版に関してだけは、「時代の流れ」で済む話じゃないような気が。
 二次創作同人をやる身としては、TV版と、多分OVA版も見ただろう監督が、どっからあの劇場版をひねり出したのかが非常に気になってしょうがないんですわ。あれは何というか、原作の小説/マンガが、アニメや劇場映画になったら全然違う話になってた、というのとは、根本的に違う何かがあるような気がする。
 劇場版は、TV版とOVA版から全く別の話に変えてしまったもの、というよりは、むしろ極端すぎる拡大解釈の行き着いた先があれだったと思える訳で。間違いなく根幹はつながってるのではないかと。それだけに、変更された主要モチーフが「どのように」「どんな理由で」変成されたのか、が気になってしょうがないんだよなあ‥‥

 劇場版公開時には分厚い解説書があったらしいんだけど、今見る機会はなさそうだしなあ。
 勿論、解説見ないと意味が解らないって辺り、映画としては間違いなく失敗だとは思いますが(^_^;)
 でも何というか、これをちゃんと作った場合どんなもんが出来上がるのか、という興味が‥‥ネタを贅沢に盛り込みすぎて生かし切れず、ものすごく勿体ない状態になってる残念さが!
 うう、気になるなあ。興味津々中の人。