※これは「甘い経験」の巻末おまけに後日談として掲載していたものです。
なので出来れば「甘い経験」の後にお読み下さい。
なので出来れば「甘い経験」の後にお読み下さい。
◇ 見して 見して ◇
玄関に飛び込むなり叫びながら、ソードは階段を駆け上がった。
先に帰宅していたイオスが、制服のブレザーをハンガーに掛けながら振り返る。
「ああ、お帰りなさいソード。遅かったですね」
「あれから今まで近所中駆けずり回って、やっと見つけたぜコウモリネコをよ!」
ずいと右手を差し出すと、そこには例のトラジマの猫が襟首を掴まれてぶら下がっている。イオスはネクタイを解きながら言った。
「駄目ですよ、猫はそんな掴み方をしては。親猫が運べる程度の小猫じゃないと、体重がかかって首を痛めることが――」
「そんなこたぁどーでもいい!」
ソードは猫を掴んだまま、噛みつくように怒鳴り返した。
「コイツさえ居れば機動力アップ! おまけに口から魔力! テメーとの102回目の決着をつけるのには十分だぜ!」
イオスは呆れて溜息をついた。
「何だ、結局またその話だったんですか」
「またとは何だまたとは! テメーすっかり性格変わりやがって!」
「しょうがないですねえ‥‥判りましたよ、付き合ってあげますから」
「――ちょっと待て!」
「何です?」
「『何です』じゃねー! 何でいきなり抱き上げてんだ! ‥‥なにベッドに持ち込んでんだ、おい!!」
よいしょ、と云う気合いとともに、抱え上げたソード(猫付き)をベッドに下ろす。
「だって勝負でしょう?」
「そりゃーそーだがそっちじゃなくてだ!」
「『そっち』ってどっちですか?‥‥全く、それより靴くらいちゃんと脱いでから上がったらどうなんです。ああ、それとも先にシャワー使いますか?――まあ、そのままでも結構そそるから構いませんけど」
「人の話を聞けぇー!!」
手早くソードのスニーカーを脱がし、ポイポイと放り投げながら、今度は制服に手をかける。
「勝手に脱がすんじゃねー!」
「じゃあ自分で脱ぎますか?」
「何でそんなことしなきゃならねーんだ! 大体だなぁ――こらァ! なに勝手に触ってんだよ、おい!」
「少しは静かにして下さいよ。やる気無くなるじゃないですか」
「だからそーゆー問題じゃねーって!‥‥あッ!」
「うんうん、やっとノッてきましたね」
「馬っ‥鹿ヤロ‥急にそんなトコ触んなよッ‥‥!」
「勝負ですからねえ。遅れを取った方の負けですよ」
段々脱力してきながらもドタバタと暴れるソードの横で、退屈そうに耳をかいていた猫が、かふっと大欠伸をして『ナ~』と鳴く。
「変な声出さないで下さいよ」
「馬鹿か! そりゃあオレじゃねー!‥‥っん!」
「判ってますよ、ささやかな冗談じゃないですか」
「大体、遅れって何だよ遅れって?! テメー、本当は神無じゃねーのかぁ?! ‥‥あッ、んっ!」
「なに訳の判らないこと言ってるんですか。あなたと勝負する理由があるのは私でしょうに」
「‥‥あ、あァッ!」
「はいはい、いい加減大人しくして下さいね」
気付かれないようにこっそりと、ほんのちょっとだけの天使の力をソードに注ぎ込んでおいてから、イオスはにっこりと微笑んだ。
ソードがその事実に気付く日が来るかどうかは定かではない‥‥
―― 「見して 見して」 END ――
(発行・1998/08/15 再録・2005/04/06)