◇ チョコと双魔とスプラッタ ◇



 神無と双魔は夕食後、見るともなく居間でテレビを見ていた。
 放送中のバラエティ番組では、大食い系の女性タレントがひたすら料理を食べ続けている。
 ホテルのバイキングコーナーにさしかかると、彼女はデザートコーナーのチョコレートファウンテンに気付き、
『あー、あのチョコ飲みたいなあ、美味しそうー!』
 と言うなり、液状のチョコをグラスに取り始めた。
 八分目までなみなみと注ぐと、それをその場で一気飲みする。
 スタジオの観覧者から上がる声は、感嘆と驚愕と「有り得なーい!」といういささかの嫌悪の三種類だ。
 神無は勿論三番目の人種だった。見ているだけで胸焼けがする。
 隣の双魔に了解を取ることもなく、神無はチャンネルを変えようとした。
 そこへ双魔が不思議そうに言った。
「スプラッタは平気なのにチョコは駄目なんだ?」
「スプラッタで胸焼けするのかお前は」
「鼻血が出た時に吐ききれなくて飲み込んじゃった時の胸焼けとか思い出さない?」
「胸焼けするほど鼻血飲んだことねえ」
「喧嘩強いもんね、神無は」
「そもそもスプラッタは血塗れになってるだけで、その血をいちいち飲み込んでる訳じゃないだろ」
「あ、そっかあ。じゃあ吸血鬼映画とか『チャーリーとチョコレート工場』とかは?」
「それ同列かよ。‥‥ていうかどれもフィクションだろうが。いちいち現実とくっつけて考えてねえよ」
 ふうん、と双魔は納得したようだった。
 が、しばし再び沈黙が満ちた後、
「‥‥ねー」
「何だ」
「今度スプラッタか吸血鬼もののDVD借りて来るから一緒に見ようよ。チョコ食べながら」
「‥‥何故そこに行き着く」
「ゾンビ映画で焼き肉の方がいい?」
「だから何がしたいんだお前は!」
「えー‥‥甘々な自宅デート的なものをしてみたいなーって‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
 兄弟で自宅デート。それは日常生活と何が一体どう違うんだ。というか何故胸焼けネタにこだわる。しかもゾンビと焼き肉関係あんのか。お前はまず一般的なデートの内容を学習することから始めろ!
 と一喝したいのはやまやまだったが、
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥DVDの選択権は俺によこせ」
 神無は堪えてそれだけを言った。
 いいよ、と双魔は嬉しそうに笑った。
 ぺたりと神無にもたれると、再びテレビに視線を戻す。
「それにしてもギャル曽根の食べっぷりってオカルトだよね」
「‥‥そうだな」
 お前の脳内の方がよっぽどオカルトだ。
 という言葉を飲み込んで、神無は小さく溜息をつくと、もたれた双魔を抱き留めた。


※続き「十三日の日曜日編」へ。
(2010/02/10日記)

(ギャル曽根のチョコレートファウンテンの件は実話ですよ)