◇ 十三日の日曜日 ◇



「チョコと双魔とスプラッタ」の続きに当たります。
 そして日曜。
 結局、借りてきたDVDは「十三日の金曜日(一作目)」だった。
(今日が13日だから連想しただけだな‥‥)
 げんなりとそう思いながら、アーモンドチョコを噛み砕く。
 神無の選んだ映画とは別に、双魔が自腹でレンタルしたものだ。
 選択権の意味はどこにあるんだ、とは聞くだけ無駄なので黙っていたが。
 画面は湖畔のキャンプ場。閉ざされた暗い森の中、始終誰かの悲鳴が響き、派手に血糊が飛び散っている。
「この人もすぐ死んじゃうんだよね‥‥」
「‥‥バラすなよ」
「神無どうせ見てないじゃん」
「お前、見てる時に限って嘘バレかますだろうが」
 元々好みの映画でもないので、筋を追う気は毛頭ないが、思わずぐったりと溜息をつく。
 チョコをコーヒーで流し込みながら、漫然と音だけを聞き流す中も、真贋判じがたい双魔の蘊蓄は続く。
「そういえば『13日の金曜日』って、殺人犯はジェイソンじゃないんだよね。この時点では」
「だからバラすなと――‥‥? ジェイソンじゃないのか」
「うん。犯人はむかし湖で事故死したジェイソンのお母さんで、武器もチェーンソーじゃないんだよ。ほら」
 と言ったそばから、逃げ回る若者の頭に斧が振り下ろされ、バシャリと画面に血糊が飛ぶ。
「‥‥本当だな」
「『ジェイソンでチェーンソー』って、後のシリーズの追加設定とか、他の映画のネタがごちゃまぜになっちゃった都市伝説的なものなんだって」
「へえ‥‥」
 思わず感心してしまったが、しかし双魔の言うことである。どこまで本当か解らない。
 と、相変わらず響き渡る悲鳴の中、チョコと不信感を噛み締めていると、
「あ、これ一応バレンタインのチョコってことで」
 画面を直視したままの双魔にさらりと言われ、神無は思わずコーヒーにむせた。
「大丈夫? なんか変な音したけど」
「‥‥バレンタインは明日だろうが」
「だって明日はどうせソードさんとイオスさんにお任せだし」
「というかバレンタイン用なら、台所に転がってた買い置きの徳用アーモンドチョコで済ませるってのはどうなんだ」
「じゃあ聞くけど、いくらこういう仲だからって、わざわざバレンタイン用のチョコ用意して渡す双子の弟(男子高校生)ってどうなのさ」
「‥‥そう言われると気色悪いな」
「でしょ? そもそも僕ら、告白とかいう段階じゃないし」
「それ以前にチョコを『渡す』のは女子の風習だ‥‥」
「最近は友チョコとかあるし。でも僕ら『友』じゃないから――二月の元気なご挨拶?」
「知るか」
 神無が何度目かの溜息をつく。
 その横顔をチラリと見て、双魔はほんのりと口元を緩めた。
 自分からのチョコの可能性など微塵も考えていなかったらしい、神無の健全さが妙に嬉しい。
 何気ない風に身を寄せると、いつものようにごく自然に、神無がその肩を抱き留める。
 湧き上がる笑みを押し殺して、双魔は再び画面に向き直った。

「――あ、この人は助かるんだよね」
「だからバラすなと‥‥」
(2012/02/22日記)

ちなみに双魔の嘘バレは、
上映中↓
「でもこの子最後には死んじゃうんだよね‥‥」
「バラすなよ(ぺしっ)」
ラストシーン後↓
「死ななかったじゃねえか(パキャッ)」
「あんなのただの慣用句だよ! 個人の感想であり、実際の効果・効能・ストーリーを保証するものでは~」
「黙れ」
という感じに展開されます。