◇ 影サタン様の弁明編 ◇



「僕のペットを紹介するよ」の続き)

「もしかして今『窓から入ろうとするのは行儀が悪い』とでも思ったかい? 魔界のことを知る由もない人間には無理からぬことだろうが、勘違いだよ。 魔界ではこれはごく当たり前のことなんだ。確か君達は二人とも、魔界で表に出たことがあったはずだよ。そういう報告を受けている。 だとしたら、魔界のあちこちに点在する砦や城塞を見ただろう? 覚えていない? よく思い出してみたまえ。 蟻塚のように細く高くそびえる、穴だらけの塔があっただろう。―――ほら、そちらの天使イオスが憑いている兄の方。 天使イオスが捕らわれたのは、その形式の砦だったはずだよ。君は中から見ていただろう?  砦がどうしてあんな形状なのか、考えてみたことはあるかい? まあ、ないだろうね。だから説明してあげよう。 あれは飛行能力のある魔族のための形状なんだよ。人間とは違って、魔族は空を飛べる種族が数多いる。 そういう種族の兵士達を、地上の出入り口一点のみを使って出入りさせるのは効率が悪いだろう。 それと戦闘の際にも、飛べるということが重要な意味を持つんだよ。 地面に沿ってどれだけ分厚い城郭を築こうが、空から攻められては意味が無いからね。 攻守共に、地上のみならず空中からの出入りというのが、魔界ではとても重要で、同時に当たり前のことなんだよ。 だから人間には窓に見えるものも、魔界ではれっきとした出入り口なんだ。 ―――勿論、王城のような格式のある建物は、さすがに儀礼や防御の都合上、出入りは正門からと決められているのだけどね。 でも、それほどの格式でもない城や建物で、主とそこそこ親しい仲ならば、上階の開口部からの出入りも許されているんだよ。 人間界でいうところの『勝手口』のようなものだね。だから―――」

そこまで聞いて、しかし神無は淡々と言った。
「いいから玄関から入れ。ここは人間界だ」
「‥‥クールだね君は」
「あと、ドラゴンはしまえ。どっからどう見てもうちには入らねえ」
「ええー! じゃあ戻す前にちょっとだけでいいから側で見せて! いま窓から出るから―――」
と、未練がましく身を乗り出した双魔を、神無は今度こそ張り倒した。
「い、痛ひ‥‥」
「そんなに窓から出入りしたいなら人間やめて悪魔になれ!」
「‥‥‥‥(不良だと聞いていたのに細かい男だな‥‥)」


◇ 余談 ◇

「‥‥全くもって、兄とは暴虐な存在だと思わないかい?」
「解る! 解るよサタン様!」
「ペットの話をする約束じゃなかったのか、お前ら‥‥」
と、意気投合する双子の弟達(影様と双魔)と、その隣でゆえ無き糾弾に疲れる兄(神無)。
(2013/11/12日記)

(※この連作3本はのちに2017年冬コミ発行の「Love Is Zoophilia 2」の一部と判明して本になりました)