◇ Like a Starlight ◇


「以前、人間を再製造するから材料を集めてくれ、というクエストを受けたことがあったんだが――つまりは今後、そうした役割の神々をも殺し尽くす、そのためにこちらにも女神が必要だ、ということでいいのかな」
 フリンの物騒な確認に、ハレルヤが「え?!」と視線を泳がす中、
「小僧を敵に回さぬなら、その限りでは無いがな」
 言いながら、ダグザは目の前のグラスに触れ、中の液体を瞬時に消し去った。‥‥飲んだのか、これで。なるほど確かに一瞬だ、と一人秘かに感心する。
「どのみち、どこの神々も自らを崇める人間をそれぞれに生み出しているものだ。小僧も新たな神となった今、自らの民を産み増せばよかろう」
「いやあの、ちょっと訊くけどよ――それってさ、阿修羅会の仕事の合間に出来るもんなのか?‥‥」
 恐る恐る、割って入ったハレルヤが訊いた。‥‥二代目稼業との両立が最大の懸念なのか。というか「女神なんて出来ねえよ無理だろそんなの」的なことを言わないのは何故なんだ。順応早すぎだろ。
 いや――思えばそれ以前の問題かも知れない。ダグザはあの時「魂に性別はない」と言っていたが、今のハレルヤは生身のままだ。
 が、
「問題ない」
 予想外、ダグザはあっさりと断言した。
「そもそもこの場合の女神とは、命と魂の生産を司る管理者の総称だ。必要な力を循環させる仕組みを、オマエとの間に組み上げてしまえば、あとは女神として存在しているだけで、生命創造の機構は回ってゆく。直接交合する必要もない。――オマエが案じているのは、そういうことだろう」
 まあ、そうなんだが。‥‥話が早くて恐れ入るよ、全く。
「別にその方法でも構わんがな」
 おいやめろ。と思わず突っ込んだら、笑われた。‥‥ダグザの冗談は解りにくい上に笑えない。
「冗談なものか。事実、方法などいくらでもある。フリンが材料集めをしたと言っただろう」
 言われてみればそうだった。ていうかクエストで集められる人間の材料って何なんだ? ナマモノ系か、工業製品か。あまり想像したくはないから、フリンに訊くのはやめておくことにした。
「オマエが勝ち得たオマエの世界だ。どんな手段だろうが、女神を何人増やそうが構わん。オマエの好きなようにするがいい。‥‥オレはオマエの意思も自由も、何ひとつ縛ることはせぬ」
 いや、縛れよそこは。あんただけでいいと散々言ってるのに、何でハーレム推奨なんだ。‥‥ダグザこそ、一体誰のために俺がここまでやってきたと思ってるんだ、くそ。
 ダグザと俺のそんなやりとりを、ハレルヤが何だか複雑な顔で見ていたが、ひとまず気付かないふりをした。俺の記憶とシンクロしたからには、そこら辺の事情ももう知っているはずだ。その上で色々と突っ込みたいこともあるのだろうが、フリンとは逆に、こっちはあまりにも説明するのが面倒そうな気がしたからだった。
 そこらでまたふと思いつく。女神と始終ベタベタしていなくても構わないというのなら、つまりはハレルヤを遠出に連れて行かなくても大丈夫だ、ということじゃないか?
 時折こぼしているように、阿修羅会の書類仕事は想像以上の激務らしい。フリン言うところの「世界一周神殺しの旅」には、到底連れては行けないだろう。
「世界だと?」
 そう言うと、ダグザは意表を突かれたかのように、きょとんとした目の色で俺を見た。
「ここしか知らぬオマエ達にしてみれば、致し方ないことなのかも知れん。‥‥が、天蓋の上と下を世界と称するには、流石に狭すぎると思うがな」
 え。と思わず俺とフリンは声を揃えて言ってしまった。出掛ける範囲ってその程度なのか?‥‥
「てっきりミカド国の外――というか、天蓋の外の世界に行くのかと思っていたんだが」
「え、何だよそれ、楽しそうじゃねえか」
 子細を知らないハレルヤだけが、妙に目を輝かせて身を乗り出す中、ダグザは困惑した風に目を眇めた。
「そもそもこの狭い天蓋の上と下に、これほどの数の神と悪魔がひしめいているのは何故だと思っている。‥‥外にはもう、ろくに人間が残っておらんからだ」
 俺とフリンとハレルヤは、三人して顔を見合わせた。それはつまり、二十五年前の御業戦争で、外の世界は滅びてしまっている、ということなのか。
「完全に死に絶えたという訳ではない。‥‥だが、神や悪魔が寄り憑くには、到底足りる量ではないな」
「足りねえ、‥‥って、何が?」
「神も魔も、人間の信仰や魂なくしては、等しく無力な存在だ。五人十人程度が其処此処にまばらに残っていようとも、糧とするにはあまりに乏しい」
 要するに、まだしも東京とミカド国の方が、まとまった数の人間が生き残っている、ということらしい。‥‥この程度ですら、外よりはまだましなのかと思うと、なるほどそれでは滅びたも同然だ。
「フリン、オマエはその目で見ただろう。カロンの渡しが滞っていることを」
「? ああ」
「あれは小僧が言った御業戦争とやらで、一度に死者が溢れ返ったからだ。外の世界では千年以上経っているのにも関わらず、未だに渡し切れん死者が列を成している。‥‥それほどに、外では数多の人間が死んだのだ」
 実感がなさそうなハレルヤとは裏腹に、フリンは硬い表情で絶句した。そしてふと、携えた剣の柄に触れた。何かに思いを馳せるように。
 ああ――俺がたびたび見た、あの夢だ。
〈アキラ〉と俺を呼ぶ声の、フリンによく似たあの少年の夢。
 彼がマサカド公を召喚し、天蓋を作ってこの地を護った。
 フリンに彼の記憶があるのかないのか、それは俺には解らない。
 だが、マサカドの刀を受け継いだ彼には、さすがに思うところがあるのだろう。‥‥なんて軽く考えていたのだが、
「‥‥それにまつわるクエストを、受けたこともあるんだよ。前の世界で」
 呟きから始まったフリンの述懐は、俺の想像を遥かに越えるものだった。
「以前にも話したことがあっただろう? いくつかの、時間を遡る奇妙なクエストのことを」
 ああ、と頷くと、フリンはどこか夢見るように、刀を見詰めたままぽつぽつと語った。
「あれはスティーヴンの――あの車椅子の男からの依頼だった。召喚されたマサカド公が制御不能で暴走しているから、時間切れになる前に公を鎮めて東京を護れ、という内容でね」
「それって――」
「あの時は正直、こちらで唯一神と戦った時より、よほど苦労したよ。公が強いというだけでなく、時間制限が厳しくてね。‥‥ともあれ、それでマサカド公は正気を取り戻して、東京を覆う天蓋になったんだ――」
 今度は俺とダグザとハレルヤが、目を見開いて顔を見合わせ、それから、鳥肌が立つ思いでまたフリンを見た。
 彼がこなしたクエストと、それにまつわる繰り返しの話を、俺は以前にも聞く機会があった。それは世界を、東京の命運を、大きく左右するものばかりだった。
 大天使を解放し、また封印し、ある時はノゾミがダヌーの力を宿し、妖精の女王になるのを見届けた。
 ルシファーについてはミカド国を滅ぼし、メルカバーについては東京を滅ぼし。またある時は両者を倒し、あるいは世界を無に帰して――
 だが、それらの全ての始まりである、天蓋東京の成り立ち自体に、前世のみならず今のフリンまでが関わっていたというのは、初めて知った話だった。
 しかも、俺が夢で見たあの少年が召喚しただけでは駄目だった。フリンが公を鎮めなければ、あの天蓋は間に合わなかったのだと――彼が語ったのは、そういうことだ。
 そうして奇跡のように護られた、〈ここ〉以外の世界は既に‥‥なんて、誰が想像出来ただろう。恐らくは当のフリンでさえも――
 ‥‥ダグザのいない世界に耐えられず、何度も「やり直し」を続けたのは俺のエゴだ。
 けど結果的に、フリンが奔走して護った東京を、この閉ざされた小さな世界を、何も知らぬまま消し去らずに済んだ――それは今にして振り返ってみれば、僥倖以外の何物でもなかった。
 美貌の白皙をなお白くして、震える指先で刀に触れて黙したままのフリンを前に、俺もまた、何も言うことも出来ず黙り込むしかなかった。



「えーと‥‥結局、どっか行くのか? 行かねえのか?」
 しばしの重たい沈黙の後、おずおずと口を開いたのはハレルヤだった。
 こちら側の事情をほとんど知らないのだから、仕方がないと言えばそうなのかも知れない。だが、何とはなしの雰囲気の重さはいくら何でも解るだろう。空気読めよ、と思わず突っ込んでしまった。慮れよ、平仮名でいいから。
「何だよひらがなって‥‥」
「まあ、魔法の言語はともかく」
 苦笑いと泣き笑いが混ざった表情で、取りなすようにフリンが言った。
「どうやらさほど遠くへ行く訳でもなさそうだ。‥‥彼が同行するのに支障はない、ということかな」
 魔法の言語って何だ? と思ったが、ともあれ、確かに戦闘のパートナーは必要だった。いくら俺自身が神になったからと言って、隙も弱みもない訳じゃない。ましてやハレルヤの持つスキルは、仲魔の魔法では換えが利かない唯一無二の代物だ。
 まだ今ひとつ話が解っていないらしく、視線を泳がせるばかりのハレルヤをよそに、うむ、とダグザが頷いた。
「小僧に必要な駒は、これで全て揃ったな」

 ‥‥それをしおに、俺達は一旦商会を出ることにした。いつもは納品物を渡して食事をがっつき、情報を仕入れたら即出て行くのが常で、こんなに長居したのは久し振りだった。
 ハレルヤは例の屋上に忘れ物をしてきたというので(慌てすぎだ)、ターミナルではなく外の交差点まで、彼を送りがてら少し歩いた。
 その間も、ダグザは何でか姿を現したままだった。妖精の森以外の街中を、こうしてダグザと並んで歩くことなど普段はおよそ有り得ない。何だか新鮮な気分だった。
「――まあ阿修羅会としても、君がナナシにつくのはいい選択だったんじゃないか」
 俺達の一歩前を歩いているフリンは、何でかハレルヤとそんな話をしていた。
「? 何でだよ」
「タヤマがいた頃の阿修羅会は、大天使マンセマットが後ろ盾だっただろう?」
「え? 何だよそれ?!」
 知らなかったのか、とフリンは呟き、チラリと俺を振り向いた。だが、その話は俺も初耳だった。小さく首を横に振ると、フリンはそうか、と再びハレルヤに向き直った。
「赤玉の生産ライン――というか、必殺の霊的国防兵器やマンセマットを僕が倒した後、阿修羅会はいつの間にか、ルシファーの傘下として乗っ取られていた。‥‥神から悪魔に鞍替えした訳だ」
「――‥‥」
 ハレルヤは絶句していた。勢いで二代目を継いだはいいが、どうやら未だ知らされていない情報が山積みあるようだ。
 あるいは阿修羅会はタヤマのワンマン組織で、大概の構成員はろくに内実を知らなかったのかも知れない。だとしたらシェムハザがアベに化けて入り込むまでの間に、壊滅同然に衰退したのも頷ける。
「その点ナナシはYHVHもルシファーも共に倒した中庸の神だ。‥‥組織を護りたい君の後ろ盾としては、頼もしい限りなんじゃないか?」
「まあ‥‥そう言やそうかも知れねえけどよ‥‥」
 ハレルヤは混乱した思考を纏めようとするかのように、ガリガリと頭をかき回して口ごもった。
「でも、そういうのって、やっぱ自分が何とかしねえと、って思うぜ。‥‥それでもどうしてもオレじゃ力不足だ、ってなったら、相談くらいはするかも知れねえけど」
 ハレルヤの答えに、フリンはほんのりと口元を緩め、ポンとスカジャンの背中を叩いた。
「僕もちょっと気になってはいたんだ。‥‥市ヶ谷で異世界に飛ばされて、戻ってきたらタヤマが行方不明になっていたものだから」
「え?!」
 どうしてか、ハレルヤが素っ頓狂な声を上げた。
「タヤマさんはアンタが殺ったんじゃねえのかよ?!」
「え?」
 今度はフリンがきょとんとして、二人して路上で足を止めた。‥‥何だか話がきな臭くなってきたが、大丈夫だろうか。
 傍らのダグザを見上げると、相も変わらす腕組みのまま、傍観を貫いて沈黙を保っている。‥‥大丈夫だってことか?
「とりあえず、僕じゃない。‥‥無限発電炉ヤマトのスイッチを入れた時、タヤマが後ろにいたのは確かなんだが、それで飛ばされた先の世界では会わなかったし、戻ってきても姿を見なかったし」
 ハレルヤは何だかオロオロと、救いを求めるように俺の方を見た。だが俺も、さすがにタヤマとは面識がないし、何の情報も――いや、待てよ。そう言えば確か混乱した悪魔が「魔界のタヤマからメールが来た」とか何とか口走っていなかったか?
 そう言うと、フリンとハレルヤは顔を見合わせた。
「てことは‥‥何かの拍子に戻ってきたりすんのか? タヤマさん‥‥そん時ゃまた抗争かなあ‥‥」
「さすがにしぶといな。天使と悪魔、両方を手玉に取っていただけのことはある」
 それぞれの観点から呟く二人に、俺はさらに別の方向から妙な感心を覚えていた。
 ハレルヤは以前、フリンに協力するのは阿修羅会としては微妙、というようなことを言っていた。だが、フリンはタヤマを殺していない――その情報は、阿修羅会側の遺恨を払拭する一大転機になるんじゃないだろうか。
 そもそも目の前のハレルヤは、そんな遺恨などすっかり忘れてフリンと話し込んでいる。フリンが同行したYHVHの宇宙でも、何とはなしにハレルヤだけは距離を置いている感じがあったのに、今やその距離もどこへやらだ。意外とこの二人は、俺抜きでも馬が合うのかも知れない。
 まあ、俺の神殺しと女神(しかも人形ではない)だと思えば、反りが合わないのは困りものだから、これはこれでいいことなんだろう――そんなことを考えながら、ふと思った。
 ‥‥何度やり直しても上手く行かなかった世界が、今はやたらと順風満帆なのは、一体どうした訳だろう。
 これまでは、何度世界をやり直しても、俺の欲しいものが手に入ることはなかった。
 でも今は、全てが俺の元にある。
 最初の理解者にして共犯者の、人形ではないフリンがいる。
 ようやく全てを理解してくれた、唯一の仲間であるハレルヤがいる。
 そして何より、ダグザがいる――俺を置き去りに消えてしまうことは、二度と決して無いであろうダグザが。
 ‥‥新宇宙の空に融け消えるダグザを、玉座で何度も見送った。
 卵では何度もダグザを殺した。
 だがもう二度と、あんな思いをしなくてもいい。俺のダグザが、今はここにいる――
 ‥‥何だか涙が出そうになって、ごまかすように見上げた穴の向こうは、既に暮れかけて白い星が光っていた。
「どうした、小僧」
 不意にそう訊いてきたダグザに、何でもない、とかぶりを振った。あんたがいて、幸せすぎて泣きそうだ――とは、こっ恥ずかしくて言える訳がない。代わりに星なんて初めて見た、とごまかすように言っておく。
 それだってまあ嘘じゃない。ミカド国でも銀座でも、星が見える時間に外に出たことは、今まで一度も無かったのだ。
 でもどうせ、ダグザは俺のことなんか、みんな解っているに違いなかった。
「――フリン」
 話し込んでいたフリンを不意に呼び、ダグザは妙なことを言い出した。
「オマエは確か、天津神の道具を持っていたはずだな」
「天津神の? 色々あるが、どれのことかな」
「小僧は東京生まれだからな。星が珍しいようだ」
「星?‥‥ああ」
 フリンは空を振り仰ぎ、得心したように頷いた。物入れを探って何かの道具を取り出し、
「鳥船の比礼でいいのかな」
「それだ」
 ダグザが頷き、少し待つうちに、何かが空中から近付いてきた。妖鳥か何かかと一瞬身構えたが、やがて路上に降り立った〈それ〉は、どこか古めかしい模様に彩られた、船のような形をした代物だった。いや、実際に船なのかも知れない。結構な大きさだ。
「天井に穴が空いたから、あの上まで行けるかな。‥‥降りられる場所は無いかも知れないが」
 よく解らないことを呟きながら、フリンはひょいと船に飛び乗り、上から俺達を手招きした。ハレルヤと二人して後に続こうとしたが、フリンとはそもそ身の丈が違いすぎる。軽く飛び乗るのはさすがに無理で、懸垂の途中みたいになっていたら、ダグザが不意に俺を抱え、軽々と船の中に放り込まれた。それで中からハレルヤに手を貸し、よいしょと彼を引っ張り上げた後、振り返るとダグザはもう船の上にいた。なるほどダグザの身長ならば、この高さくらいはひと跨ぎに違いない。‥‥それは解るが何だか腹立つ。
 などと思っているうちに、ふわりと船体が宙に浮いた。
「うわ?!」
 ハレルヤが頓狂な声を上げる中、船は振動も揺れもなく、そのまま静かに上昇していった。街並みがどんどんと遠くなり、以前スカイから見たのと同じ風景が眼下に広がっていく。
「なあ、これってこのままビルの屋上まで行けたりすんのか?」
「‥‥悪いけど、降りられる場所はある程度決まっているんだ」
「えぇー? 何でだよ‥‥」
 星がどうこう言ってしまった俺が悪いのだが、ハレルヤが忘れ物を取りに行くのは、どうやら後回しになりそうだった。
 けど、上にも下にも無数の光がある、見たこともない光景に、皆が何となく浮き立っていた。
 ハレルヤは早々に忘れ物のことを忘れ、「スゲースゲー!」と身を乗り出していたし、まだしもこの船には慣れているはずのフリンも、星と街明かりの両方がある状態で飛ぶのはこれが初めてだとかで、感慨深げに周囲を見渡していた。
 俺は俺で、まるで自分が浮いているみたいな感覚に、上下の区別が曖昧になっていた。それで目眩でも起こしたかのようにふらついてゆらゆらしていたら、ぐいと背中から抱き支えられた。
「――小僧、見るがいい。YHVHの旧世界も新宇宙も、全て捨てて選んだ、オマエの世界だ」
 え、と振り向こうとするより早く、ダグザがそんなことを言ってきた。
「だが、未だこの宇宙には馬鹿げた神々が蔓延り、柵と誤謬で満ち溢れている。‥‥新宇宙を創世せず、この世界を作り直すのは骨が折れるぞ?」
 ああ――そうだな。多分ダグザの言う通りだ。
 けど、何度も繰り返した〈ダグザのいない世界〉――それに比べたら、どんな世界だってよっぽどましだ。
 この世界だって、これからどうにでも作り替えてやるさ。そのために、俺は神になったんだから――
 ダグザは少しの沈黙の後、フッと笑って、
「そうか」
 とだけ言った。

 相変わらず、舳先ではハレルヤがはしゃいでいて、フリンは船を操りながらもスカジャンの裾をこっそり掴んで、彼が落っこちないよう気を配っている。
 胸の辺りを支えたダグザの腕に、何となく手を重ねてみると、手の甲の紋章が淡く明滅した。まるでちょっとだけ驚いた時のように。‥‥そう言えばダグザは、俺の力と彼の力は共存し、連動する、と言っていなかったか。
 もしかして、と次には両手でダグザの腕に抱きついてみると、今度は紋章の光は揺れず、抱き留める腕に力が籠もった。‥‥フリンに散々けしかけられたせいか、それとも。
 いや、どっちでも構わない。ダグザは俺に星を見せてやりたいと思った。それが答えじゃないか? だからこそ、俺にこの世界をどうするか訊いたんだろう? なあ――

 ダグザに抱き留められながら、俺は近付いてくる星空を見上げた。
 天井に空いた大穴の向こうの丸く小さな星空は、だだっ広いだけだったYHVHの宇宙やダグザの消えた新宇宙よりも、遙かに眩く輝いて見えた。
――― 「Like a Starlight」 END ―――

(2016/06/26)
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