目を瞑り、耳を塞いで、口を閉じ

 

 

 

まわされてくる腕に、抵抗などしない。
胸元に忍び込んでくる手を、拒んだりなどしない。


それでも、躯は正直で。
強張る。


「……いやか、やっぱり」


答えない。
答えて、会話を成立させるさえ、不愉快だから。
だから、答えない。


答えないのは、だからだ。
いやなのか、いやじゃないのか、答えられないからじゃない。
会話と言う交流さえ、持つのが不愉快だから、だから答えないのだ。


「すまん…伊作」


詫びにも応えは返さない。
どうせ…なにを言ったところで、肌をまさぐる手が止まるわけではないだろう。
卑劣な強姦者。
嫌らしい凌辱者。
友人さえ、その性欲の犠牲にする、見下げ果てたヤツ。


自分はその犠牲者だ。ヤツはどこまでも加害者だ。
無理を通されて躯は交わるが、それ以外、どこに接点を持つ必要がある?
詫びに意味などない。意味のないことに、どうして応える必要がある?


震える声。常の勢いなどどこにもなく、胸の奥から絞りだされてくるような、詫びる声。
「すまん、伊作」
……応えないのは、応える必要がないから。だから。
応えられないからじゃ、ない。


勝手にしろ。


伊作は身を投げ出す 。
文次郎の獣欲の前に。


目を瞑り、耳を塞ぎ、口を閉じ。
躯を開く。
なにも見ず、なにも聞かず、なにも言わず。
文次郎の瞳に浮かぶ熱も、切なさも、震える言葉も乱れる息も、熱い肌も……なにも見ず、なにも感じず。
ただ、躯を開く。
勝手にしろ、と。


「伊作…」


もの言いたげに途切れる言葉。
その先をうながしてやる必要がどこにある?
伊作はかたくなに視線を横に投げる。


コイツはいやらしいから。
だから。


触れて柔らかい白い肌も、目で愛でるだけでうれしい曲線も、手の平を押し返す丸くふくよかな乳房も、開く愉しさを与えてくれる陰部もない。
修行に鍛えた堅い筋肉、かさついた肌、同じ男のものがぶらさがる腰。


コイツはいやらしいから。
だから。
そう思い込もうとして、しかし、伊作はそこに潜む嘘に一度ずつ、引っかかる。


男が…性欲だけで、ここまで執着できる躯か、これが?


伊作は目を瞑る。
気がつかないフリをする。


文次郎は…いやらしいだけ……


愛撫の熱さにも、こぼれる言葉の切なさにも、自分の中の嘘にも。
伊作は今夜も、目を瞑る。


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