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        そうして…… 
        長次の目が心配そうに伊作の顔色に向けられることもなくなり、仙蔵がその黒々とした瞳で文次郎を見つめることもなくなり、小平太が「らしくないよ」と伊作の言動を案じることもなくなり。 
        彼らは、闊達で自由な友人関係を取り戻したかにみえて。 
        
         
         
        それでも。 
        「あー凍えた〜」 
        雪の日、忍たま長屋に駆け込んで来た伊作が、 
        「あったまってこよう!」 
        と湯殿の用意を手にし、小平太が、 
        「あ。今、もんじ入ってるかも」 
        わざわざ教えてやったりなぞということもあって。 
        だが、 
        「あ、そう」 
        伊作は意に介さぬとばかり、平然と出て行ってしまったりなぞして。 
        直後。 
        湯殿から出てきた文次郎が、雪の中へと飛び込んで突っ伏してしまったとか、そんなこともあって。 
        「なんかねえ」 
        小平太がしみじみと仙蔵にもらしたりするのだ。 
        「最近、俺、いさっくんの頭に角が見える。オニだよ、あれ」 
        答えて仙蔵が、にっこり笑ったりするのだ。 
        「ああいうのを蛇の生殺しというんだ。高等テクニックだ、覚えておくといい」 
        などと。 
        そんなこんながありながら。 
        
         
         
        やっぱり文次郎は壁際に伊作を追い詰めたりしている。 
        「台風ん中、おまえ、俺のこと心配して走ってきたんだろ。それって、少しはおまえ、俺に気があるってことじゃねえか。だったら…」 
        「よくわかってるじゃないか」 
        伊作はもう、怯えない。文次郎を笑って見返す。 
        「少しは、ね。少し、なんだよ。悪かったね」 
        そうして壁につかれた文次郎の腕を跳ね上げ、伊作は平然と文次郎を置き去りにする。 
        
         
         
        そんなこんなの…伊作、文次郎の、新しい季節なのだった。 
         
        
         
         
         
        
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