強情

 

感じているなら、啼いて下さい。
感じているなら・・・・乱れて下さい。
・・・・感じて、いるのなら・・・・。

 

「君も強情だな!」
「あなたに言われたかありませんよ」
「わたしはそれほど、我を張るほうじゃない」
「悪かったですね、強情で意地っ張りで。でも、あなただってずいぶん素直じゃない」
「わたしが?いつ、どこで」
「‥‥自覚がないだけ、あなたのほうがたちが悪いんですよ」

 

馴染んでくれば、わかるのに。
こそばゆかったり、むずがゆかったりするだけだった愛撫に、肌が敏感に反応して快感を生じるようになっていることも。躯の裂ける痛みと苦痛でしかなかった受け入れる行為そのものが、内奥から震えるような快感を呼んでいることも。
馴染みあった肌を重ねていれば、わかるのに。
声を殺し、反応を見せまいとする、その態度だけが変わらない。
‥‥のしかかれば、躯は柔らかく受け入れてすらくれるのに。

 

利吉の唇が、半助の躯の上をすべっていく‥‥。
ほどけた長い髪が、半助の脇腹をくすぐる。
しびれに似た快感が背を走り、半助は奥歯を噛み締める。
‥‥声を、もらしたくない‥‥。
それでも、快感の電流はその肌をひくりと震わせ、利吉にそれを知らせてしまう。
「‥‥ここですか」
脇腹を軽く利吉があま噛みする。半助はきつく眉根を寄せて耐えた。
「声を出したらどうですか」
上目遣いに半助の表情を見守りながら、利吉はその手を半助の太股へ、さらにその内側へと滑らせる。
半助が唇を噛んだ。
声を殺し続ける恋人の、頭を持ち上げ始めているそれを利吉は手のひらで包みこんだ。
半助の下腹にさまよわせていた唇をためらいもなく、その頂(いただき)に押し当てると、ゆっくりと吸い込むように口の中におさめていく‥‥。
半助は荒い息をつく。
肌をしっとりと汗でしとらせ、息を乱し、その頬すら紅潮させながら、それでも、声をもらすまい、あられもなく身をくねらせまいと、半助は天井の一点を見つめる。
 「‥‥感じませんか?」
「え‥‥」
思わぬところで声を掛けられて、半助は思わず、利吉を見た。
そそり立つ己が身と、それを舐める赤い舌‥‥
上目遣いに自分を見る利吉と目が合い、半助は顔から火を噴いた。
羞恥と狼狽、そして、それを上回る、熱い衝動‥‥。
ひくりと、それが震えた。
「や、やめろ、利吉‥‥もういい‥‥」
「もういい、じゃないでしょう?‥‥ほんとに、こっちの先生は素直なのに」
再び熱い口中にすっぽりと飲み込まれて半助はのたうった。
「‥‥う、あ‥‥」
「‥‥声を出して‥‥こらえないで」
口の端から光るものをぺろりと嘗め取り、利吉は体を起こす。
上向いたあご、荒ぐ胸、引き歪む表情、ほんのり染まった肌‥‥。
「感じて、いるんでしょう‥‥?」
利吉は胸を合わせて半助を抱き締めた。
「‥‥あなたも、ほしく、なってるんでしょう‥‥?」
猛ったものを、半助のそこに押し当てる。
小さな震えが半助の全身を走っていく。
それでも、半助は唇を噛む。声をもらすまい、乱れるまい、と。
「あまり、強情を張ると‥‥いじめますよ?」
言下に、利吉はねじこむように腰を使う。
「あっ‥‥!」
低い叫びが、初めてもれた。

 

「‥‥素直じゃないというのは‥‥そういうことか」
半助の胸の上に顔を伏せていた利吉がけだるく、頭だけ上げた。
「ようやく、自覚できましたか」
「うん、まあ、しかし」
半助の手が、利吉の髪をゆっくりと撫でる。
「君ももう少し自覚したほうがいいな」
「‥‥強情で意地っ張りで?」
「うん。その上、意地悪だ」
利吉が声を立てて笑った。

 

「もっと素直に啼いてみせてくれたら、意地悪はやめますけど?」
「そうだね。それなら、もっと素直に泣きを入れる子を相手にしたら」
「‥‥本気ですか、それ」
「人間には得手不得手があるんだよ」
利吉が小さく頬をふくらませた。
「絶対、わたしより先生のほうが意地悪だ」
半助が、声を立てて笑った。

 

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