若者の可能性

 

 

 

訪れるたび、たくましさを増していく青年。
「なんだか来るたびに大人っぽくなりますねえ、利吉君は」
「いやいや、まだまだ子供で‥‥」
そんな会話を山田と交わしたりもしていたけれど。


ドクタケの出城だった。
盗まれた硝石の用途を探りながら捕らわれた子供たちも救出せねばならない山田と土井
は、心強い味方に出会った。
ドクタケ忍者に変装した利吉である。
敵城へ潜入しての隠密行動が、また若者を鍛えたものか。
パートのおばさんに城内を案内するふりをしながら、城の奥へと土井を導く利吉の背を
土井は感心して見る。‥‥そう、この時点では純粋に感心して。
それが、え、と慄きに似たものに変わったのは‥‥。
「‥‥人が来る」
もうかなり、城の奥深くに入り込んだ時だった。
前方から来る人の気配に、土井はぴり、と神経を張り詰めた。
「まずいな」
こんな城の奥に、パートで雇われただけの女性がドクタケの忍びと共にいるなどとは、
不審を買わずにはおかないだろう。
が、土井が身を隠す場所を目で探すより早く。
振り向いた利吉が土井を抱き締めていた。
「失礼します。定番の手ですが」
あ。と土井も瞬時に納得する。男姿と女姿の忍びが、敵をやりすごすに適した方法と言
えば‥‥逢瀬を装い、濡れごとを真似るが一番である。
仕方ないか、と土井が体の力を抜いた時だ。
す、と利吉の手が土井の裾をまくり上げた。
「り、利吉君!?」
「シ。人が来ますよ」
平然と‥‥冷静に土井を制する利吉に、土井はタラ、と脂汗を流す。
「しかし、これは、ちょっと、利吉君、や、やりすぎ‥‥」
「先生はしゃべりすぎです」
土井の抗議を利吉はあっさり却下する。
「声を出すと男だとばれてしまいます」
言うことはもっともだ、もっともなのだが、やっていることが過激すぎる。
土井の素足を露わにさせ、手は土井の双丘の狭間を割って侵入しようとしている。
ぎゅ、とそこに力を入れて手の動きを阻めば、噛み付くような勢いで口を奪われた。
「‥‥あ‥‥」
息継ぐ間に思わず声がもれるほど、舌の動きも激しい濃厚な口づけだった。


「おーおー、お盛んだなー」
冷やかしの声を投げて、誰かが傍らを通って行く。
「‥‥り、利吉君‥‥」
はあ、と息を上ずらせながら土井は小声で懸命に言う。
「も、もういいだろう‥‥」
口づけの間に‥‥土井の小菊は利吉の指を呑み込まされている。
「‥‥も、もう‥‥離れなさい‥‥」
「足音がします」
対する利吉は土井の中で指を蠢かせながら、あくまで冷静で。
「すぐにまた誰かが来ます。‥‥失礼します」
くるりと利吉は土井を後ろ向かせた。
「え、え、利吉君‥‥!?」
「だから、半子さんはしゃべりすぎなんですよ」
口を手でおおわれたのと、小菊に利吉の熱い肉棒が押し入ってきたのが、同時だった。


まるで悪夢のようだった。会話が聞こえる。
ヒュウと口笛の音。
「見せつけてくれるねえ」
「こんなところで仕事サボってしっぽりかあ、おい」
「ようやく口説き落としたんですよ、大変だったんすから」
「いいねえ、若いのは」
「ちょっと見逃しといて下さいよ」
「後で俺にも紹介してくれよ」
下卑た笑い声が遠ざかって行く‥‥。
もういいだろう、と言おうと思って。その気になれば利吉の手をほどくぐらいは簡単だと
自分でも思いながら‥‥土井はそれができずにいた。
「急ぎますから、もう少し我慢して下さい」
なにを急ぐと言うんだ! と怒鳴りつけてやりたいと思いながら。
ぎしぎしと、利吉に揺すられて、土井は喉の奥で呻いた‥‥。


手早く身繕いを済ませて土井と利吉は再び城の奥を目指す。
並んで走りながら、利吉が言った。
「先生。無事に生徒達を救い出せたら、御褒美を下さい」
「褒美ならもう上げたろう」
冷たく言い返す土井に利吉はめげない。
「つきあってくれませんか、わたしと」
けつまづきそうになった土井である。
「な、なにを言ってる、君は‥‥!」
怒鳴りつけようとした土井は、利吉の顔に浮かんだ微笑に言葉を飲む。
‥‥確かに、綺麗な子ではある。
「考えといて下さいね」
「‥‥はいはい」
「やった」
勝ち誇ったように笑う利吉の顔はとたんに幼い。でも。
山田先生。あなたの息子はもう十分に、大人、です。
奥に疼きの残る腰を押さえて、走り続ける土井であった。

                         了

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