気配で、わかる。中にいるのは、一人じゃない。
わかっていながら。
「ちゃんとつっかい棒、かっとけよ」
命じられるまま、半助は戸口を立て切った。
正面の、木箱の上に腰掛けているのは、彼だ。
そして。
影がわくように、隠れていた仲間たちが姿を現す。
一人、二人‥‥彼を入れて、六人。六年生ばかり、彼の仲間たち。
「悪いなあ、土井。こいつらが俺だけ楽しむのは許せねえって言うんだよ。どうだ、
俺と同じに、こいつらも楽しませてやってくれないか」
当惑して半助は彼らを見回す。
楽しませる‥‥?それはつまり‥‥彼を受け入れているように、彼らを受け入れろ
ということなのか‥‥?六人も‥‥?
半助は小刻みに、首を横に振る。
「いやかぁ、そうかぁ、そうだよなあ。じゃあなあ、土井」
彼の声は優しげだ。
「おまえができることだけでいいよ」
優しげな彼の声に、邪悪ななにかが混ざり始める。
「いつもやってることなら、出来るだろう?なあ、土井」
そして、彼はゆっくりと木箱から降りて来る。
「いつもやってるみたいにさ‥‥土井、脱げよ。ほら」
首を横に振りながら、半助は後ずさった。いやだ、イヤダ‥‥。
「困ったよなあ、土井。それまでいやがられちゃ、こっちもちょっと手荒になっちゃう
ぜ?」
彼の言葉に仲間が動く。
多勢に無勢とはこのことか。揉み合ううちに押さえ付けられ、半助は素っ裸で冷たい
地べたに転がされた。
「立たせろ」
彼の声が冷たく響く。
激しい抵抗に息を荒がせた半助の両腕を彼らは後ろ手に縛り上げ、脇を支えて引きず
り上げる。
彼の足が半助のふくらはぎを蹴り、その両足を大きく開かせた。
「出し惜しみすんなよ、ちゃんと見せてやれ」
彼は嘗めるように半助の肢体を見回す。
「どうだ、おまえら。きれいだろう、こいつ」
一本の手が横から伸びて、半助の柔らかな脇腹をすっと撫でた。
半助はびくりと身を震わせる。
誰かがごくりと生唾を飲み込む音が大きく響く。
‥‥素裸で、腕を縛られ、足を大きく広げさせられて彼らの前に立たされているその
屈辱に、半助は唇を噛んで前に立つ彼を睨みつけた。
彼は薄く笑う。
「いつもみたく素直になってくれりゃ、こんなマネはしないんだぜ。‥‥いいか、おま
えら。こいつに傷ひとつでも付けたら許さねえぞ。丁寧に扱え。いいか、これは‥‥
今は俺のものなんだからな」
その言葉に。隠しようもなく、彼らのまえにさらされている半助のものが、どくんと
脈打った。彼が満足そうにうなずいたのを見て、半助は唇を噛み切りたくなった。
「楽しめ。‥‥おまえもな」
彼は半助の唇に小さくキスを落とすと、仲間の手に半助を委ねて木箱の上に戻った。
二本の腕が背後から伸びて来て、半助の桜色した乳首をつまんだ。どこか遠慮がちな
その手は乳暈からつんと前に突き出た乳首までを優しく引っ張り上げる。伸びた乳首を
ぷん、と離された瞬間、半助の口からあえかな声が漏れた。
別の手が、重く垂れた袋と、まだ項垂れたままの半助自身を両手で包みこんだ。前に
かがんだ彼の顔は見えないけれど、両手に包まれたそこに押し当てられたものは、かが
んだ彼の唇だろう。持ち上げられたそこに熱い息をあてられて、半助は喉の奥で呻いた。
また、別の手が、両の尻の膨らみを撫で回している。指が、狭間を探ってゆく‥‥。
「なあ、ここ、見たくない?前に倒していいかな」
半助は肩と頬を湿った固い地面に押し付けて、両膝をつき、背をそらして、彼らの前
に、無防備にその後門をさらした姿勢をとらされた。
装束を剥ぎ取られた時以上に激しく抵抗し、大声を出したために、今では猿轡をはめ
られ、両手だけではなく両足首も縛られ、半助はくやし涙に目を潤ませた。
唾液を吸った布が、舌を圧迫する。
喉の奥から抗議の呻きを上げるしかない半助の背後で、彼らは半助の秘孔を嬲る。
「なあなあ、なんかすんげえ、おちょぼぐちって感じ?」
「薄茶じゃん、こいつ」
腹の下に手を入れていた一人が、前をひっぱった。
「こっちなんて、まだピンク色だぜ」
半助は真っ赤になりながら、口の中の布を噛み締める。
「こんなでさあ、入るのか?ほんとに」
尋ねられた彼が答えるのが、頭の上から聞こえた。
「前をたっぷり可愛がってやんな。勝手に後ろも潤んでくるぜ」
半助の体はくるりと表返された。
彼らが群がってくる。
両の乳首に、陰茎に袋に、そして、膝を思い切り立てて開いた、その間に。
「ううう‥‥ぐぅっ‥‥」
右の乳首をやわやわと吸われ、舌先で転がされ、左の乳首を二本の指で潰されて、
半助は首を振って喉を反らす。
袋をすっぽりと口中に収められ、その暖かさと濡れた口腔の柔らかさに気の遠くなる
ほどの気持ち良さを覚えながら、陰茎を激しく擦られる、その快感はいかばかりだった
か。その上に、菊門に捩りこまれた指に、体の中の粘膜をかき回され‥‥。
「うう、あ、ううっ‥‥ぐう‥‥お‥‥」
半助は猿轡をはまされた口から、言葉にならぬ呻きと喘ぎを漏らし、全身をのたうた
せた。どうやって耐えろというのか。乳首も、股間も、指で犯されているそこも、それ
ぞれが耐え難いばかりの快感を訴えてくるというのに。
彼らの舌先で、指先で、乳首はこれ以上ないほどに堅くとがり、陰茎はぱんぱんに充
血して、亀頭を広げて勃っている。全身の肌は桜色に上気し、そして‥‥そして。
「‥‥うお、すげ‥‥。指が吸い込まれてくぜ‥‥」
半助の菊門に深くその中指を埋没させた一人が上ずった声を出した。
くちゅ‥‥じゅ‥‥。
抜き差しする指が立てる音が、最前の彼の言葉の正しさを裏付ける‥‥。
「すげ‥‥ほんとに濡れてきやがった」
「こっちもだ‥‥」
押さえ切れぬ興奮を滲ませて呟いたのは、半助の陰茎に、愛撫を加えていた一人だ。
言葉の通り、半助の先端はじわりと透明な液を滲ませ始めている。
彼らの息が荒ぐ。
剥き出しになった半助の太ももに、男の勃えたったものが擦り付けられた。
「ほどいてやれ」
命じたのは、彼だ。
「もう逆らわない。大丈夫だ」
半助は首を振った。いやだ、いやだ‥‥自分は嫌なのだ、この状況を、与えられる
快感を、楽しんでなどいない‥‥これは戒められ、強制されている仕方のないことで、
自分は嫌がっているのだから‥‥だから、手足を自由になどしないでほしい‥‥抗議が
できないのは口の自由すら奪われているせいなのだから‥‥だから、猿轡をほどいたり
しないでほしい‥‥。
彼らの優しい手が、戒めをほどく。
とたんにあがる自らのよがり声を、半助は身を裂かれる思いで聞いた。
両の足首が頭の上にある。
大きく足を広げられ、深く身を折られたその態勢で、貫かれた。
狭く熱い肉路を、蹂躙される。
ずぶ、じゅぶ‥‥音さえ立つ。
仰向き、足を高く支えられたその姿勢は、股間と狭間を天に向けてさらけ出させ、
凌辱者の赤黒く怒張したそれが抜き差しされるそのさままで、半助自身の目に映る。
「たまんね‥‥熱い‥‥」
じゅく‥‥じゅ‥‥。
衆人の目に、無体に拡げられ、男を咥えこまされたそこが、どう映っているのか。
「替われよ、早く」
せかす声が、答えなのか。
突きが激しくなった。男が小刻みに震えた。熱いものが、あふれた。
「‥‥ふう」
大きく息をついた男が、ずるり、自身を引き抜く。内臓をせぐり出されるような、そ
の感覚に、半助はひくひくと内股を震わせる。その、余韻すら消えぬうち。
ず、ずん。
新しい男が、半助を貫いた。
かすむ目の向こうに、彼がいる。
木箱の上に腰をかけ、その股間を立たせた彼が。
四つん這いで後ろから突かれ突かれて、喘いでいた半助に、彼の声が届いた。
「ここまで来い」
後ろから半助を貫いていた男も、瞬間、動きを止めた。
「ここまで連れて来い。そのままで、だ」
合点した男が、ひときわ深く、半助を突いた。
「あ‥‥!」
その突きに押されるように、半助の手が前に出る。
「そうだ。そのまま、ここへ来い」
彼が命ずる。
後ろの男が、突き上げる。
半助の目に、涙がにじんだ。
この、この屈辱の中で、なお、這って彼の元へ来いと言うのか。ここへ、と。
半助は抗議の呻きを上げた。
彼の下腹部のものが、腹さえ打つほどの強ばりを見せている。それこそは‥‥半助が
初めて知った男のもの。半助が初めて知った、性の快感をもたらしたもの‥‥。
それをさらして、彼が命じる。
来い、と。
これ以上の恥辱があるのか‥‥。半助の頬を幾筋も涙が伝った。
しかし、その膝は前へと進んだ、手も、また、膝も‥‥。
男に突かれながら、その尻を打たれながら、半助は進んだ。男をその後ろに咥えたま
ま。犬のように、四つん這いのままに‥‥。
「ようし」
目を細めて、満足げに彼は半助を仰向かせる。
「わかってるな。どうすればいいか」
彼のものが目の前にある。
奉仕を促されるままに、半助はそれを深く口中に含みこんだ。
横咥えに、舐め上げ、舐め下ろし、先端から深く飲み込む。
舌先で、割れた先端をくじり、唇で亀頭の張った部分を丹念に弾いた。
‥‥彼が教えてくれたように。彼が、してくれたように。
頭の中がまっしろに、熱い。
穿たれ続け、今も男でいっぱいにされた菊門はじりじりと焼け付くようで。
頭を押さえられ喉の奥まで突き込まれた彼のものは、それよりも熱くて。
口の中から鼻孔に、彼の匂いが伝わるようだった。
彼の白濁した生暖かい精を飲み込んだ半助は、再び男たちに輪姦(まわ)された。
仰向いて、口の中に男をねじ込まれ、無防備な下半身は嬲りものになった。
どれほどの精を、注ぎ込まれたのか‥‥誰をどこで迎えたのか‥‥半助にはわからな
かった。同じように。どれほど、自分が気をやったのか、それも半助にはわからない。
顔を、局所を、清める手ぬぐいの濡れた冷たい感触に、半助は気づいた。
見回すと、薄暗いその小屋の中にいるのは彼と自分だけだった。
ほっとした自分の心を半助は恥じた。彼こそが事の張本人だと言うのに。
「‥‥立てるか」
聞かれて半助は体を動かしてみようとした。
だるい。とにかく、だるい。それでも、なんとか動くことはできそうだった。
「‥‥俺たちはもう、今夜には学園を出る」
半助は驚いて彼を見た。
確かに、卒業式は今日だった。でも、そんなに急に‥‥。
「だから許せ、とは言わない。俺たちは‥‥俺は、おまえが好きだったんだ」
半助は黙って彼を見返した。好き‥‥その言葉は知っているが、その意味は知らない。
「‥‥俺はおまえと近しくなりたかったんだよ。だから、ああいう真似をした」
それはこの数カ月、この小屋で繰り広げられた、二人の性行為を指すのだろう。
「‥‥それが、言い訳ですか」
かすれた声で半助はたずねた。
「いや。言い訳じゃない。外れた目論みってやつだ。‥‥なあ、俺はほんとにおまえが
好きだったんだ。おまえになんとか、俺って奴を見てもらいたかった。俺はおまえに、
俺を見てもらいたかったんだよ」
半助は心中、首をひねる。見ているじゃないか。
「ああいう真似をすれば、嫌でもおまえは俺を見る。その上で好くなり嫌うなりされる
なら、それでいい。俺はそう思ってた。‥‥でもな。おまえは最後まで俺を見なかった。
おまえはすぐに‥‥俺にされることに、俺に抱かれることに、それだけに馴れて‥‥」
彼の声が途切れた。
‥‥何故だろう。半助は考える。彼はつらそうに見える。‥‥では、やはり違うのだ。
好き、ということと、あの、体を繋ぎ、精を放つ熱さとは。
「あばよ、だ。半助。元気でな」
彼は立ち上がった。半助は黙って彼を見上げる。
「‥‥よい忍びになれよ。‥‥おまえなら言われずともなれるだろうが」
好き、ということがわかれば。
相手を認めて、好きになる、ということがわかれば。
彼の気持ちを理解できるのだろうか。
よってたかって相手を凌辱せずにはいられなかった、彼の気持ちが。
それはどれほど暗い情熱なのだろう。
‥‥いや、それより。
半助は冷えた肌をぶるりと震わせた。
‥‥楽しんで、いた。自分は。あの、あの状況を。
半助は激しく首を振った。
‥‥忘れろ。忘れろ。
いじられる乳首の、弄ばれる陰茎の、穿たれる後門の、もたらす快感を。
凌辱に応えて燃える、そんな自分のことなど。
‥‥忘れる。
半助は固く、目を閉じた。
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