「いい体になったな、キッス君」
私は足を開いて座り、彼に中心をドッグスタイルで舐めさせていた。
腕を伸ばして彼の方も探ってやる。こうすると舌使いが激しくなるので、最近はずっとこうしている。
「いや……いやらしい体になったな、かな?」
彼の後ろは雌のように濡れていた。私はそれを掬うと、卵の白身のようなそれをにちゃにちゃと指で擦り合わせた。どういう原理でこんな風に変化したのか、見当もつかない。
私は後ろの下の、何もない部分につうっと指を走らせた。
「どうせなら、この辺りにももうひとつ、穴が欲しいところだな……空いているスペースがもったいないとは思わんかね? 胸は、まあ……どっちでも構わんが。あったらあったで、楽しいかもしれんな。この、一箇所だけポツッと固い感触も悪くはないが」
「………」
彼は無言で舌を使っている。私のものを頬張っているから、返事のしようがないのかもしれない。
髪を掴んで、頭を上げさせる。水色の瞳が潤んでいた。
上気した顔にぞくりとする。拾った当初は、よく見れば美形、程度だったのが、今では初見の魔人にも、はっきり美少年だとわかるまでになっている。シャギーがそう言っていた。
初期はほったらかしていたベンチュラ君も、今は彼の護衛を買って出る程で、彼と普通に仲のいい友人同士だという事を知らなければ、今頃はベンチュラ君を半殺しにしていた所だ。友人以上の関係になる事はないだろうが、用心するに如くはない。
姿形はそれほど変わっていないように思う。変わったのは、影の濃さ、ゆらぎ、危うさ……そういった目に見えないもので、何処がどう、と説明するのは難しい。もっとも、感度の方は明らかに変わった。劇的と言っていい程だ。慣れ、だけではないだろう。
私は初手から彼の体を知り尽くしたが、反応する箇所が、当時と今では全く違う。
当時左程ではなくとも、私が好んで歯を立て、爪を立てた部分は、今ではそっと指で触れただけで震え、思わず、といった風な声を漏らす。私に合わせて、再生虫が体を作り変えたのだろう、とシャギーは言った。
私は彼を膝立ちにさせて、私をまたがせた。手のひらを上に向けて真下から手を入れ、とろとろと、溢れ出てくる粘液を受け止める。
「待ち切れないようだな……ここをこんなにして、浅ましいとは思わないのかねキッス君!?」
「い、言わないで、くだ、さい……!」
身の置き所もなさげに彼は小声で言って、手で顔を覆った。
「恥ずかしがる事はない。下手にとりすましているより、欲に忠実な方が好ましい」
私は両手で彼の双丘を割り開き、腰は、自分で落とすよう言った。彼は、かなり時間をかけてではあったが、私の言う通りにした。先端がそこに触れ、潜り込み、完全に埋没するまで、私は待った。私は意地悪く言った。
「それから?」
彼は絶望したような目を私に向けると、自分から腰を揺らし始めた。
前後に、上下に、苦しげな吐息を漏らしながら腰を使う。まだ、後ろだけで自分を導く事は出来ない様で、哀れに思って私は前を握ってやった。
「………や、やめて……!」
「何が?」
構わず私は扱き上げた。
「お、願い……! 手を、手を、離して、閣下……!!」
ちいさく悲鳴を上げて、彼は私にもたれかかった。手に、べっとりと彼の放ったものが付いている。
べろりとそれを舐め上げ、私はそのまま彼の体を後ろへ倒した。私はまだ達していない。彼の膝を掴んで押し広げる。体勢を整え、今度こそ、自分の快楽の為に腰を使う。肉を打ち付ける高い音が響く。
「もし、君が、本当に私の好みに合わせて変化しているとしたら……」
途中、私は蟻の門渡りに当たる部分を指で、く、と押した。
「いつか、ここに穴が出来るかもしれない。そうしたら、先日使った張型を入れて遊ぼう。私が前でも後ろでもいい。楽しいぞ、きっと」
「………っ!!」
彼の中が一気に収縮した。引き摺られそうになったが、何とかこらえた。
張型とは、先日シャギーから買った小物のひとつだ。一応使ってみたが、彼の反応がダイレクトに伝わる分だけ、やはり指の方がいい。乳首を挟むクリップなども使ってみたが、やり過ぎると乳首が肥大するとの事で、一度でやめてしまった。私は今の大きさが気に入っているのだ。
他にも幾つか買ったが、未だ試してはいない。実際に使うより、脅しに見せる方が良さそうだ。嫌がって怯える彼は充分に愛らしかったが、泣かせ過ぎるのは本意ではない。まあ、せっかくだから、いずれ一度は使うだろうが。
息も絶え絶えの彼に口づける。
やはり唾液を流し込み、飲ませると、次は逆に私が彼を吸った。
彼と繋がり、唇を合わせていると、奇妙な一体感に包まれる。私という本体に、自律して動く彼という端末があり、それが、体を繋ぐ事によってひとつの生き物に戻る、というような。
実際、彼は私の命を受けて動いているのだから、あながち間違ってはいないのかもしれない。
私は再生虫を飼ってはいないが、彼を抱く事によって、私の体も変化してきたのかもしれない。
「く……、う……っ!」
彼が、耐え切れないように声を上げ、二度目の頂点に達した。
私も、彼に合わせて、大量の精を注ぎ入れた。
しばらく無言で睦み合う。私達の匂いは混ざり合って、いつか同じ匂いになるだろう。
私の下で彼は意識を手放した。私は体をよけ、隣に横たわった。
優しく抱き締めながら目を閉じる。このまま朝まで眠ってくれればいいが。
……だが、やはり、彼は夜中に目を覚まし、ベッドから出て行こうとした。その手を私は掴んだ。
「待ちたまえ」
「……閣下……」
僅かに彼は驚いたようだったが、手を振りほどこうとはせず、身を起こしたままそこにとどまった。
私は彼を見上げて問うた。
「私を憎んでいるかね? キッス君」
「……いいえ。閣下」
即答ではなかったが、そう、彼は言った。
「では、好きかね?」
困ったように彼は眉根を寄せた。目を伏せ、途切れがちになりながらも、答える。
「わかりません……ですが閣下は、放置しておけば死んでいただろう僕を拾って、助け、居場所まで与えてくださった。その事については、感謝しています」
掴んだ手が、握りこぶしをつくる。
「恩はあります。情もあります。でも、この感情が何なのかは、まだ……」
本当に?
それが死んでいた方がマシだったと思えるような環境でも、本当に?
彼を引き倒して、口づけを与える。どこまでも従順に、彼はそれを受けた。
私は焦ってはいない。それが君の答えなら、今は待とう。
「退がってよし」
「はい」
するりとベッドから抜け出て、彼は私が見ている前でしっかりと服を身に着けると、マントまできちんと羽織って出て行った。むろん、退出の挨拶も忘れなかった。
与えるキスが特別な意味を持つものだと、いつ、彼に伝えよう?
特別な名前を持つ彼に、私は特別な感情を持ち、同じ想いをいだいてくれるように、私は祈った。
< 終 >
>>>2011/1/31up